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48 つちにうめよう



 何度も言うけれど、私は前世農家の娘だった。

 秋冬だいこんを畑に農業機械で堀った穴に埋めて保存すれば、凍ってそこから傷むこともなく、味が落ちることもない。霜が降りる前に収穫して穴に埋めておき、春になるまでの冬の間、需要にそって掘り起こして市場に出荷していたのだ。

 きっぱりと言った私の言葉に、ローディン叔父様が聞いた。

「土に埋める? 何を?」

「だいこんしゃんとにんじんしゃん」


「? 大根って収穫して倉庫に詰めておけばある程度もつぞ。時間が経つと干からびて中が白くなるから、味は落ちるがな」

 

 リンクさんのその言葉にクリスフィア公爵やカレン神官長は首を傾げている。

 時間が経った大根そのものを見たこともなければ、食べたこともないのだろう。

 リンクさんもローディン叔父様もずっと料理をしてきているから、分かることなのだ。


 リンクさんの『ある程度保つ』という言葉に、私は頭をふるふると振った。


「だいこんしゃん。かんしょうによわい。ちめったかみにちゅちゅんで、たててほじょんしゅる。おいちいのながもちしゅる」


 リンクさんが気がついたように、ぽんっと手をたたいた。

「それって。あれか! アーシェが台所の隅に立てて置いてるやつ!」

「そういえば昨日も使いかけを同じようにして立てて冷蔵庫に入れていたな」

 ローディン叔父様も冷蔵庫の中を思い出したらしい。

「前に入れておいた大根も使い切るまで新鮮に近かったような気がするな」


 うむ。立てて保存する。それは基本である。

「「なんで立てるんだ?」」


 えーと。うまく説明できるかな。

「だいこんしゃん。ごぼうしゃん。にんじんしゃん。そだちゅとき、つちのなかでたてにのびる」


「「そうだな」」

 ローディン叔父様とリンクさんが頷く。


「そうなのですか?」

「へえ。そうなのか」

 とカレン神官長とクリスフィア公爵。

 普通の貴族は基本的に畑のことは全く分からない。

 そもそも土に触ったこともないのではないだろうか。


「おやちゃい、しゅうかくちてもいきちてる。ほじょんしゅるときも、そだったときとおなじにしゅると、おやさいさんもらくにいきができて、ながもちしゅる」

「そうかもな」


「しょれに、つちにあったおみじゅがない。かみにおみじゅちめらせてまくとながもちしゅる」

 クリスフィア公爵がうんうんと頷いている。

「おお。わかりやすいな」

 ローディン叔父様もリンクさんも頷いた。

 よし、もう一息だ。長文は疲れるのだ。


「だいこんしゃん。つちにうめるとつちのおみじゅでかんしょうちなくて、いっぱいながもちしゅる。しょれにつちをかぶしぇるとこおらない」

 それに大根を埋めるために50cmほど掘ると、土の温度は外気温に関係なく一定の温度で推移するのだ。

 厳冬期に外気温が氷点下になっても土の中は5度から6度ほどで一定。

 いわば天然の野菜保冷庫である。


「だから、土に埋める、か。新鮮さが長持ちするなら試しにやってみるか。数日中に大根畑の収穫するつもりだから、保存は倉庫じゃなくて、畑に穴を掘って埋めてみよう」

 ローディン叔父様の提案にリンクさんも頷いた。

「ああ。やってみる価値はあるよな。新鮮なまま長く保存できれば、それに越したことはないし」

 どうやら、土中保存法が採用されたようだ。

 ニンジンやゴボウも保存出来ると話したら、同様に埋めてみるとのことだ。

 比較のために少しだけ倉庫に入れてみて、鮮度の違いを比べてみようと話していた。

 うん、それでいい。比べてみた方が説得力があるのだ。

 それにこういう時、ローディン叔父様もリンクさんも私の言葉を疑わない。

 頭ごなしに否定することもなく、意見を取り入れてやってみようと動いてくれるのは、信用されているようでとても嬉しい。


「クリスフィア公爵。うまくいけば補給の際に新鮮な野菜が手に入るかもしれませんよ」

 ローディン叔父様が自信を持ってそう言うと、クリスフィア公爵が驚きながら頷いた。

「お、おう。それは助かるな」


「こういったことは間違いがないことが多いんです。ウルド国に冬の間に新鮮な野菜が届いたらアーシェが言ったことが間違いではなかったと証明になりますね」

 『ウルドで楽しみに待っているよ』とローディン叔父様が微笑んだ。


「あい!!」

 よかった。あ、でも。これだけは伝えないと台無しになる。

「はっぱきらにゃいと、はっぱにすいぶんとられてだいこんがしわしわににゃる」


「ああ。アーシェがやってたように大根と葉のすれすれのとこを切るんだろ」

「あい!!」

 私はまだナイフを使えないので、お願いして切ってもらっているので、すぐに理解してくれた。

「葉っぱも炒めると美味いよな。スープにしてもいいし。葉っぱを乾燥させるのもありか……」

「しょれいい!」

 言おうと思ったらリンクさんが先に気が付いて言ってくれた。


「収穫の時に山ほど出るし。洗って湯がいて乾燥させれば、兵糧にも出来るな」

 ぱちぱちと手をたたいた。大正解だ!!

「はっぱ! えいようたっぷりありゅ!」


「お、おお。そうだな。それはありがたいな」

 クリスフィア公爵が思ってもみなかった食材(大根の葉)に驚いている。

 貴族のみなさんはおそらく大根の葉など食べたことなどないだろう。

 それでも、大根の葉は前世でも緑黄色野菜に分類されるほど栄養がたっぷりなのだ。

 乾燥させたら葉野菜として大量に用意できるだろう。



 クリスフィア公爵は、土中保存法を他の領地にも勧めてみるとのことだった。

 それぞれの領地の判断に任せるということだ。

 うん。それでいい。

 無理強いすることではないからね。


「よかったですわね! 食料問題が少し解決しましたわね!」

 カレン神官長が明るく言った。


「ああ。これからの収穫のところは土中保存を勧めてみよう」


「もう収穫したところもあるのでしたよね?」


「それはウチだ。これ以上収穫を遅らせると駄目になると数日前に収穫したが、置き場所が不足していて畑に積み上げてある。このままでは傷んでしまうがな」


 そうだった。

 柿の収穫からもわかるように、たぶんクリスフィア公爵の領地は収穫が早いところなのだろう。

「畑においてあるものは、先ほどの方法で埋め直してみよう。倉庫のものは流通させて消費だな。それでも大量に余るから乾燥野菜にまわそうと思っているが、手間がかかってな」

 聞くと切り干し大根を主流に、スープに入れられるように小さく切って作っているらしい。

 たしかに、いい方法だ。


 でも、大きい大根を加工するのに、そんな細かな作業では大変だろうし、加工が間に合わなくてせっかく実った大根が傷んでしまうだろう。


 ―――もったいない。


 それに、ローディン叔父様のいる先行部隊と、補給部隊が行く間に何が起きるか分からない。

 不測の事態を見越して、先行部隊に出来るだけたくさんの傷む心配のない保存食を用意して渡したい。


 じつは―――大根なら、あの方法があるのだ。


 どのくらいで出来るか分からないけど、やってみる価値はあるかと思う。

 私がやったことがあるものしか今は用意できないけど。


 廃棄寸前の材料(大根)がいっぱいあるからうまく出来ればたくさん用意出来るかもしれない。


 ―――ただ作るにはまだ季節が早いし、時間がいっぱいかかるのだ。


 どうしよう?

 頭の中がぐるぐるしてきた。



「「どうした? アーシェ?」」

 クリスフィア公爵の話を聞いた後、宙をみつめて固まってしまった私を、ローディン叔父様とリンクさんが心配そうに見ていた。

 向かい側に座っているクリスフィア公爵とカレン神官長も首を傾げていた。

 ふたりとも身の内にすごい魔力を秘めているためか、身体の周りににじみ出るオーラが見えていた。

 

 ―――あ!!


 そうだった!


 ここには何人も魔法使いがいるのだ。

 自然に任せなくても、魔法で作ればいいのだ!!





お読みいただきありがとうございます。

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