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47 だいしゅうかくです



 ◇◇◇



 さっきクリスフィア公爵は穀物は大丈夫だと言った。

 問題は野菜の補給だと。


 野菜の補給か……そうだ。冬は基本的に秋までの収穫物を消費する季節なのだ。

 ウルド国に行く後続部隊では、新鮮な野菜の補給は望めないかもしれない。

 新鮮野菜を年中流通できた前世の農家さんはすごいと思う。


「今年は特に行軍を予定していたから野菜の作付けも少し多めにしていたんだ。そしたら、収穫量がすごくて。……ありがたいがな」


 他の三国の状況を鑑みれば申し訳ない位の豊作だ。

 アースクリス国は建国来、自然災害がほとんどないのだ。

 だからこそ、アンベール国は今でもあきらめずにアースクリス国を奪い取ろうとしているのだ。


「?」

 たくさん出来たんならいいのでは? 食糧支援にも持っていくのだよね?

 クリスフィア公爵の言葉に首を傾げたら。


「一度に出来たからな。これを冬中もたせられればいいのだが」

 あ! そういうことか。長期保存が必要不可欠だ。


「うちもですよ。作付けを多めにという依頼が各領地にまわったので。今年の収穫したものが全部保管できるかどうかがあやしいですね」

 ローディン叔父様は眉根を寄せていた。

 豊作だとは聞いていたけど、保管場所に困っているというのは今まで聞いていなかった。


 野菜は種類によって保存温度が違うんだよね。


「じゃがいもやカボチャは倉庫に入れておかないと、厳冬期に凍るので、屋内保存ですね」

 ローディン叔父様が言うと、リンクさんが続ける。

「いつもは他の野菜もいれるが、倉庫での全部の保存は無理かもしれないな」


「ああ。キャベツは藁やシートを上手く活用すれば屋外でも越冬できるから大丈夫だろう」


「大根とニンジンはどうする? 今年は倉庫に入りきらないぞ」

「うーん。急遽倉庫建てられるか? ……でも間に合いそうもないな」

 そう、今年は大根が豊作だったのだ。


「……おまえらすごいな」

 ローディン叔父様とリンクさんの野菜談議に、クリスフィア公爵が驚いている。


 クリスフィア公爵は本格的な戦争になって初めて、食材の確保が大事なのだと思い知らされたという。

 最初の一・二年は三国の勢いが凄かったため、長期戦も度々あった。

 戦争というのは戦闘だけで人が死ぬのではない。

 食料がままならなければ自滅してしまう。実はそんな危機も度々あったのだ。


 その経験から、各国に攻め入る準備として、十分な食料を確保すると決めて穀物を貯蔵してきた。

 

 野菜に関して、クリスフィア公爵は領地の収穫量のみの報告だけを受けていただけで、実際の育て方や野菜の特徴、保存方法も知らない。

 貴族の中でも高位の公爵様なのだ。畑の土に触ったことがないのが当たり前だろう。


 今年豊作で倉庫に入らないです、と報告を受けて、対応に苦慮しているらしい。


 同じ貴族のローディン叔父様とリンクさんの会話を聞いて、クリスフィア公爵の目が驚きでどんどん見開いていったのが面白かった。

 貴族でも農作業をする、ローディン叔父様やリンクさんの方が珍しいのだ。


「商会での生活も、もう4年近くになりますから。一通りは分かります」

 ディークひいおじい様からの提案で、ローディン叔父様たちは庶民と同じ生活をしてきたのだ。

 日の出とともに起きて働き、食事作りや掃除洗濯など、身の回りのことを自分で行う。

 貴族ではありえないことをやってきた。


「ここでの生活は最初不便でしたが。何せ、お茶はともかく、スープひとつ作れなかったんです」

「そうだな。見かねた商会のみんなに助けてもらわなかったら、大変だったろうな」

 ローディン叔父様とリンクさんが懐かしそうに言うと、クリスフィア公爵が苦笑いした。

「まあ、貴族とはそういうものだがな」


「ええ。貴族は領民の生活と命を守る。私もそのためにいろいろと勉強してきたつもりでした。国に仕えること、そして領地を守る仕事は重要です。私はそれだけで十分かと思っていました。ここに来るまでは」

 そう言うと、ローディン叔父様はやさしく私の頭を撫でた。

 うん? どうしたの? と見上げたら、ローディン叔父様がにっこりと笑っていた。


「私たち三人だけなら、自ら料理することもなく購入したものだけでずっと暮らしていたでしょう。けれど、私たちにはアーシェラがいました。アーシェラを育てるために自分たちで離乳食を作って食べさせる。離乳食など売っているところはありませんからね。―――その食べ物はどうやって調理するのか、そしてその食材は安全なのか。そしてその野菜はどうやって育っているのか―――そうやって、深く知ろうとしたら、今まで見えなかったものがたくさん視えるようになったんです」

「ああ、その通りだな」

 と、ローディン叔父様もリンクさんも商会での生活で、大事な経験をしたのだと話していた。

 

「おかげで領地のことを深く知ることが出来ました。農作業もいい経験になりました」

「知見が広くなったわけだな。あのリンクが落ち着いたくらいだから、こういう体験もいいのだろうな。平和になったら、うちの一人息子にもいつか同じ体験をさせてみたいものだな」

 クリスフィア公爵の言葉に、リンクさんがむくれた。

「あのリンクってなんだよ……」

「ん~? 一見落ち着いていそうだが、生傷が絶えなくて周りをひやひやさせていた奴が、妙に落ち着いたと思ってな」

「あれはべつにおれのせいじゃない。てかその話はやめてくれ! アーシェの前で!!」

「わかったわかった」

 だいぶ砕けた口調だから、魔法学院にいた頃もそう悪くない間柄だったのだろう。



 けがのくだりを聞いたら、魔法学院時代、今は薬師になったドレンさんと、リンクさんはよくやりあっていたらしい。

 今はドレンさんの奥さんになったテルルさんは、魔法学院入学当時、あまり男の人に興味がなくて、魔法学院に入学するなりテルルさんに一目ぼれしたドレンさんが猛烈アピールしてきても、なんとも思っていなかったらしい。

 だけど、一年を過ぎてもドレンさんが突進してくるので、さすがに困ったテルルさんがきっぱりと断ったらしい。うん、男前だ。


 たまたまリンクさんがその近くを通って、知り合いのテルルさんに事情を知らずに声をかけたことから、ドレンさんに喧嘩をふっかけられたそうだ。

 その後、仲が良くなった後も、腕試しでやりあったとか。

 

 で、ローディン叔父様が二人を治療する、というルーティーンだったらしい。


 結局、魔法学院を卒業してから、ドレンさんの努力が実を結んでテルルさんとめでたく結婚した時、リンクさんが祝福と同時に、その執念に盛大に呆れたという話だった。本当にね。




 また話が横にずれたな。とクリスフィア公爵が笑った。

 そうだ。野菜野菜。


「需要と供給のバランスが大事ですね。ウルド国への供給も考えたら収穫量は過剰ではないのですが、保存できないというのは問題ですね」


「そうなんだよ。せっかく出来たが、保存や加工が間に合わない」

 このまま畑においては傷んでしまうし、収穫してもいずれ傷んでしまうだろう。


 ん? さっき収穫しても保存する場所が無いって言ったのは大根とニンジンって言ったよね?


 収穫した野菜を、冬の間最大6カ月間持たせる方法。それは。


「つちにうめる」


 いわゆる土中保存法。


 そう、大根やニンジンの保存にはこの方法が有効なのだ。





お読みいただきありがとうございます。

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