334 闇を切り裂くもの(アーシュ視点) 1
お久しぶりです!
一か月空いてしまいました~すみません(__)
書きためていましたので、これからは数話あまり間を置かず更新したいと思います。
どうぞよろしくお願いします(≧▽≦)
私とクリスウィン公爵、そして魔術師のクロムの三人は、アンベール王城近くの廃墟にいた。
「ふああ……。何度も来ていますが、相変わらずここって空気が違いますね」
転移陣を出たクロムはそこに漂う凛とした空気にほう、とため息をつく。
「ここは紛れもなく神域だからな」
クリスウィン公爵がそう答える。
ここはアンベール王城にほど近い、アンベール国の人々から忘れられた創世の女神様の神殿。
なぜ私たちがここに来たかというと、クリスウィン公爵がアースクリス国から菊の花を持ってきたことから始まる。
このアンベール国は長きにわたり闇の魔術師と通じていた。
闇の魔術師はあちこちの戦場に赴いては大地に闇の魔術陣を刻み込んで闇の魔術を発動させ、命の狩りをしていた。闇の魔術陣を刻まれた大地は、その土地の力をも奪われてしまい、結果的にそこは植物が育たない不毛の地となってしまっていたのだ。
ウルド国やジェンド国にはそういった闇の傷跡がない分復興は順調に進んでいるが、アンベール国はそうはいかない。まずは闇の刻印を見つけ出して消し、浄化をしなければ、その先の復興を望めないのだ。
闇魔法には四大魔法が通用しない。ゆえに闇の刻印を打ち消すのは光の魔力を持つ者しかできないのである。
そのため、光の魔力を持つ私とクリスウィン公爵はこの半年間アンベール国中をまわり、大地に残った闇の刻印を消し、浄化をしてきた。
だが十数年にわたって好き放題してきた闇の魔術師による荒廃は、ほぼアンベール国全域にわたっている。二人でそのすべてを消し去るまでには相当な時間がかかるだろうと予測していた。
そんなある日、私たちは不思議な現象を見た。
ある時、クルド男爵領の隣の領地に刻まれていた闇の刻印がいつの間にか消えていたのだ。
闇の刻印は四大魔法で消すことはできない。だからこそ、光の魔力を持つ私たちが駆け回っていたのだが……その闇の魔術陣が消えていた。
私たちが何もしなくても消えたのか? と驚き、闇の刻印があったとおぼしき場所に手をついてその土地の地下深くに意識を沈めていったところ……地脈に覚えのある『光』を感じた。
それは女神様の花である、菊の花の中に宿っていた光だった。
アースクリス国からクルド男爵領の神殿に移植された菊の花は、翌朝には根を張り大輪の花をいくつも咲かせて私たちを驚かせたものだ。
その時に感じた菊の花の清冽で力強い力が、クルド男爵領から離れた地脈の中に存在していたのだ。
その事実から、菊の花が大地の地脈を通してこの疲弊したアンベールの大地を癒しているということを、私たちは確信した。
菊の花は女神様の花。
彼の花は人々を飢えや病から救うだけではない。
大地に根を張り、地脈を通し、遠く離れた大地をも浄化しているのだ。
そのことを知った私たちはアンベールの大地を癒すために菊の花をできるだけ増やそうと試みた。
けれど、メルド侯爵領では蕾のまま何か月も花開く気配がなく、カリマー公爵の領地は王家が占拠していたため菊の花を植えて試してみることもできない。他の候補地を探して植えてみたものの、菊の花は根付かず忽然と消えてしまうのである。なかなか思うようにはいかなかった。
そうやっていろいろと試してみたものの、結局菊の花が群生を作ったのはクルド男爵領一か所だけだったのである。
おそらくは、クルド男爵領に根を張ったのはアンベール国で唯一女神様の神殿が残っていたこと。
そして『神気がある地』という菊の花が咲く場所の条件を満たしていたからなのだろう。
教会は人の営みの都合により、いろいろなところに建てられる。それゆえに神気がある教会はほとんどないのが実情だ。ましてやこの国にアースクリスの女神様を信仰している教会はクルド男爵領以外にない。
それもまた菊の花がアンベールに根付かない理由でもあったのだろう。
――女神様の神気が強く残る場所。
実のところ私は、クルド男爵領以外にその条件を満たしている場所を知っていた。
そこはアンベール王城にほど近い場所にある女神様の神殿である。
数百年前、三国の民はセーリア神の怒りを買い、セーリア大陸から放逐された。
アースクリス大陸に流れ着いた彼らは当時のアースクリス王に建国を許され、アンベールの民は、大陸の東側の土地を選んだ。
そしてこの女神様の神殿近くにアンベール王城を建てたのである。
彼らアンベールの民はアースクリス大陸に受け入れてもらった際、アースクリスの女神様を崇めはじめたのだが、やがて本来の自分本位の本質が頭をもたげ、あっさりと信仰を放棄した。
三国は選民思考が強く、己が認めないものを徹底的に排除する気質なのだが、『この大陸を創った女神様に仇なすことをするべからず』というアースクリス国との誓約があったため、神殿は破壊されずにそのまま放置された。
そうして捨て置かれた神殿には誰も訪れることなく……数百年の月日の流れとともに、いつしかその場所に神殿があったことさえもアンベールの民に忘れ去られてしまったのだ。
今ではもう数多の神殿のほとんどは原形をとどめていない。
それどころか神殿へと至る道も植物や木々に覆われてしまい、たどり着くことも不可能となりはてていた。
この神殿もその一つだ。
放置されて数百年。すでに道は自然の障害物が複雑に絡み合っているせいで、外からは辿り着くこともできない。
ただ、私はこの王城近くの神殿に何度も来ていた。
外交官見習いの時、父アーネストと訪れたのが最初だった。
それからはアンベールに仕事で滞在するたびに、転移陣を使ってこの神殿に転移してはアンベール側に知られぬよう手入れをしていたのだ。
だからこそ、ここは他のところと比べると軽微な損傷で済んでいた。
ここは紛れもなく神域。
ましてやこの世界を創造した女神様の神殿である。
そんな場所を荒廃させておくわけにはいかないと、代々のクリステーア公爵家の者の手によってこの王城近くにある神殿は秘かに維持されてきていたのだ。できれば他の女神様の神殿も整備をしたかったのだが、この国は何百年も前からアースクリス国に戦争を仕掛けてきた敵国である。滞在している間も常に監視されていて迂闊に動くこともできなかったこともあり、結果ここしか手が回らなかったのである。
しかしながら、私自身も北の森に五年近くも封じ込められていたため、数年ぶりにここを訪れた時はかなり荒れていた。
それでも『女神様への信仰を正す』と決めたメルドやカリマー公爵、クロムたちと共に度々この神殿に訪れ、秘かに整備してきていた。
ここは紛れもなく女神様の神気が色濃く残る神殿で、菊の花を育てるには最適の場所。
そしてアンベールの民は誰も知らない場所である。
何よりもこの神殿は自然の障壁に周りを囲われているため、ここでどんなことをしても外から妨害される心配がないのだ。
菊の花はアンベールに持ち込まれた当初、食すことと薬にするという目的で人々が暮らす地を優先に植えられた。まあ結果的にはクルド男爵領にしか花畑は形成されなかったのだが。
そういう目的だったこともあり、こちらの神殿には菊の花を植えていなかったのだが、菊の花が根付くことで地脈に結び付き、大地を浄化する力があることを知った今、ここにこそ植えるべきだと思ったのだ。
アンベールの王城は、私たちがこれまで浄化してきた場所のどこよりも深い深い闇に呑み込まれている。
あの王城の大地には、闇の魔術――禁術による命の傷跡が深く刻まれている。
禁術には代償がつきものだ。闇の魔術師は、禁術に手を染めた瞬間から輪廻転生の輪に入ることもできなくなる。
奴らは他人の命を奪い、その命の力を使って大きな力を手にする。その代償としてその瞬間から人間の形をした人ならぬ存在となるのだ。
生き物の命を糧にする人ならざる存在は、その罪により魂までも失うのである。
北の森にいた闇の魔術師は強力な力を手にしたことで、己の寿命までも思うままにできると豪語していたが、最後はあっさりと女神様に成敗された。
そして最後の瞬間、私の父アーネストに魂の消滅を告げられ衝撃を受けていた。
あれだけの罪を重ねておいて輪廻が許されるとでも思っていたのか。あまりにも甘すぎる考えだろう。
闇の魔術師は自ら犯した罪に、己の魂の消滅という代償を支払った。
そしてアンベールの王城は現在進行形で人の命を捧げて死の結界を維持している。闇の魔導具を起動させた以上、その禁術が刻まれた大地が無傷であるわけはないのだ。
これまでのどこよりも、アンベール王城に刻まれた闇の傷跡は大きい。
そして闇の魔法は同じ属性のモノを活性化させてしまう。つまりは闇の魔導具である武器の力をも増幅させてしまうのだ。だからそれを叩き潰すため、外から闇の結界を破り、地下深くの地脈を通して内側から浄化を仕掛ける必要がある。
そのために私は、今さっき菊の花をこの神殿に一株植えた。
すると次の瞬間、ここに咲くことが当然であるかのように、一株だけだった菊の花が一気に根を伸ばして次々と芽を出し、あっという間に菊の花畑を形成したのである。
蕾が花開く瞬間に見せた黄金色の輝きは、神殿の大地に満ちた。
そしてその力強い光は、まるで己がするべきことを分かっているかのように、地に吸い込まれ――いずこかへと駆けていったのだった。
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