330 いおんの贈り物
……あれ? 瓦礫の時は気がつかなかったけど、砂になったら金や銀の光が光ってるように見えるよ?
「すな、きらきらしてりゅ」
「ああ、光っているのは神気だ。我らが出入りしていたゆえ、建造物も我らの神気を浴びていたのだ」
それって、神獣様はルクス領の神殿にも来ていたってことだよね。
「柱一つ一つに神気が染み込んでいるゆえ、この砂を御守りに持つと良い。邪気払いになるぞ」
「あい! ありがとうごじゃいましゅ!」
おお! 神獣様お墨付きの御守りってすごいよね!
「だが砂は御守りとしては持ちにくいだろう。どれ」
イオンがそう言って前足を軽く振り上げると、ざあああ、と風が巻き起こり、瓦礫の砂が巻きあがった。
「わあぁ……」
渦を巻いた大量の砂は急激にその形を変えていった。
大量の微粒子の砂が集まり、いくつもの塊となり、さらに凝縮されていく……。
神殿の柱や床だったものは、最終的にたくさんの透明な丸い玉になった。
「しゅごい! すなが、まあるいたまになった!」
透明な玉の中には金色や銀色の泡や針状のものが内包されている。そして大きさは1・5センチから2・5センチくらいの大小の玉で、ルチルクオーツの水晶玉といったところだ。
あの瓦礫からこんな透明感のある玉が出来るって、不思議だよね!
イオンは自らが作り上げた神気の入った玉を、白銀の雪のように輝く綺麗な巾着袋に入れてくれた。受け取った袋は私の両手に載るくらいの小さくて軽いもの。けれど、中をあけて見ると外見から考えられないくらいのたくさんの玉が入っている。
「そなたを二度も放置した詫びに、この収納袋もやろう。そなたの持っている鞄と同じようなものだ」
「え? しょれって、まじっくばっぐとおんにゃじ?」
「ああ。人間の作る魔法鞄は容量に限界がある。そなた、今の魔法鞄すでに半分近く使っているであろう」
え? イオンってそんなことまで分かるんだ。レイチェルお祖母様が私に作ってくれた魔法鞄の容量はだいたい八畳くらい。確かに邪神の種討伐の話を聞いてから、いろんなものをたくさん詰め込んでいる自覚はある。
でも、今のところまだ余裕はあるし、不便はしていないけど? というようなことを言ったら、
「まあ受け取っておけ。いずれ必要になる時がくるだろう」とのこと。
うーん、そうなの? イオンがそう言うなら、ありがたくいただいておこう。
「ありがとうごじゃいましゅ!」
透明な御守りを一つ手に取ってみる。うん、見た目と質感は水晶玉だ。
だがそれを握ってみると、清冽な気が身体に入ってくるのを感じた。
――これが神気というものなのか。
次いでイオンはローディン叔父様とリンクさんにも玉の入った袋を渡した。私のより大き目な巾着袋だ。
「これは先日の詫びだ。そなたら二人にもやろう」
御守りはてっきり私だけに渡されるだろうと思っていた二人が驚きながらも、「ありがとうございます」と深く頭を下げた。
こちらの袋は私のもらったものとは違って、ただの巾着袋なんだって。
「神気が入った玉だ。それは邪神の種の力をも無力化する。そなたらも持っておくとよい。――そして、そなたにも」
そう言うと、イオンはアーネストお祖父様にも神気入りの玉が入った袋を渡した。
「――ありがとうございます。ですが、私がいただいてもよろしいのでしょうか?」
驚きつつもアーネストお祖父様がそう尋ねると、イオンが頷く。
「過日女神様の御手により粛清された闇の魔術師は、厄介な魔導具を相当数作り、この大陸以外にもばら撒いた。これから先、そなたらはそれに遭遇するであろうからな」
ああ、そういえば、アンベール国にいた闇の魔術師は邪神の種をその魂に宿していたのだった。
闇の魔術師は、このアースクリス大陸で数多の命を屠り、その命を使って闇の魔導具をたくさん作っていたと聞いていた。その魔導具は、他の闇の魔術師が作ったものよりも凶悪で強大な力を持つのだという。
そしてそれはサディル国という、危険な国へ流れていったのだ。
どこの国でも危険な思想の持ち主がいる。そして危険な魔導具を手に入れて己の欲を満たそうとする者もいるのだ。そういった者たちに闇の魔導具が渡っていくのだという。
また、強い魔力を持つ者も闇の魔導具に惹きつけられるという。闇の魔導具を使うことで、己の魔力では決してなしえないことをいとも簡単になしてしまう。一度それを手にした者は、その魅力に取りつかれてしまうのだそうだ。
もっと、もっとと、更に強い力がほしいと思うようになり、最終的には自らを闇に堕とす……つまり闇の魔術師となってしまうことを選択してしまうのだという。
人を惑わし、危険な魔術師を生みだすであろう厄介な魔導具がいくつも世に放たれてしまった。
闇の魔術師を駆逐することができるのは光の魔力を持つ者、もしくは光の力を宿したモノだけである。
だから、将来的に各国を回ることになる私たちが必然的に対峙することになるのだとイオンは言う。
むー。闇の魔術師は面倒なものをいっぱい遺していったってことだよね。
「確かに。邪神の種を得た魔術師が作った魔導具の数の分、厄介な敵が増えてくると思われます。神獣様、ご助力に感謝申し上げます」
とアーネストお祖父様が感謝の言葉と共に深く頭を下げた。ローディン叔父様とリンクさんも再び感謝の言葉を述べると、イオンが鷹揚に頷いた。
「光の魔力持ちなら、これの使い方は本能的に分かるであろう」
そしてこの玉は光の魔力を持つものにしか正しく扱えないのだとイオンが言う。
うん。力ある道具を使うにはそれを扱えるだけの力が必要だ。だから光の魔力が必要不可欠なのだろう。
前にフクロウの神獣様も言っていた。
すでに世界は神の手を離れ、人間に委ねられている。ゆえに神獣もあまり干渉はしない。けれど、世界を滅ぼそうとする邪神の種がもたらす災厄から世界を守るための助力は許されているのだと。
だからイオンがくれたこの玉は『邪神の種と戦う者への助力』ってことなんだろう。
アーネストお祖父様はこの貴重な玉を他の公爵や陛下に分けて良いかイオンにたずね、了承を得ていた。
うん、王家も公爵家も一緒に戦う仲間だもんね。
闇も切り裂くし、御守りにもなる。良いと思う。
あ、それなら。
「……いおん、おまもり、いっこかあしゃまのおまもりにしたいけど、いい?」
私は近い将来、外交官であるアーシュお父様と共に諸国をまわり、邪神の種討伐に立ち向かうことが決まっている。ローディン叔父様とリンクさん、そして大好きなローズ母様も一緒に。……でも母様には光の力がないのだ。
王妃様からローズ母様は魔術師として強いとは聞いていたけれど、邪神の種は四大魔法が通用しない相手なのである。
私は危険な戦いにローズ母様を巻き込むつもりはない。もし討伐に向かう時は安全なところにいてもらうつもりでいる。だけど、敵は私たちの弱点であるローズ母様を狙う。それが容易に予測できる。
――私の大好きな大好きなローズ母様が危険に晒されるのだ。
神気の入ったこのルチルクオーツは邪神の種の力をも無効化する。なら、これ以上はない御守りになるはず!
母様の安全を完璧にしておかなければ、安心して討伐になんていけない。だから、これを使って御守りを作ろう、と思ったのだ。
作り方は、分かる。
この神気の入った玉を持って、『ローズ母様を護る御守りを作りたい』と思ったら、イオンの言ったように、どうすればいいのかが脳裏に浮かんできたから。
「それはすでにそなたのものだ。好きに使うとよい」
「ありがとうごじゃいます!」
よし、善は急げだ! 身につけやすいように加工しよう!
まずは、母様がいつも身につけているペンダントを外してもらった。以前母様に贈った折り鶴入りのティアドロップ形のペンダントだ。
それを左手に持ち、さっきもらった金銀の泡が入ったルチルクオーツを重ね持ち、一つのペンダントになるようにと念じる。
光の魔力を持つ者は、一度触れた魔術が自然と使えるようになるとクリスティア公爵から教えてもらった。
だから、以前ディークひいお祖父様と一緒にペンダントを作った時のことを思い出して……。
すると、ふわりと手のひらを中心に光が立ち上がって――魔術陣が起動した。
光魔法を使える人の特性ってすごい!
次いでペンダントとルチルクオーツが浮かび上がる。
――魔法は完成形のイメージが大事だ。
小さめのルチルクオーツをペンダントトップにくっつける? ううん、光の力が織り込まれた折り鶴と一緒にすれば、もっと強力な御守りになって母様を護ってくれるはず!
そうイメージをすると、1・5センチほどの大きさのルチルクオーツはぎゅーっと小さくなって、折り鶴の入ったペンダントトップの中にすっと入っていった。
今までティアドロップ形の御守りの中には、金色の聖布で作った折り鶴とバラの形のアメジストが入っていたのだけど、その中に5ミリほどに小さくなったルチルクオーツが入った。
これまでもバーティアの結晶石には強い護りの力があったけれど、更に強い力が入ったのを感じる。
うん、これでローズ母様を襲おうとする闇の力を無効化できるようになったはずだ。
◇◇◇
「すごい! いつのまにか瓦礫の山が消えたぞ!」
私たちが白い空間から戻ると、護衛さんたちが目の前の瓦礫が一瞬でかき消えたことに驚いていた。
前述したとおり、あの空間にいる間、こちらでは時間が経過していないのだ。
「これが神獣様の御力なのですね!」
と、彼らは瓦礫が忽然と消えたと驚愕しているけれど、その瓦礫だったものはすべて私たちが御守りとしてもらったんだよ。言えないけどね。
ふといくつもの視線と気配を感じて周りを見ると、神殿の周りにはたくさんの動物たちが集まっていた。
「どうぶつ、いっぱい」
「本当だ、いつの間に」
うさぎや鹿、木にはリスやいろんな鳥が、そしてどこかの家で飼われているのであろう、首にリボンが巻かれた猫までがぐるりと周りを囲んでいた。
「我が姿を現したゆえ、ひかれてきたのだ」
と言うイオンは元の大きさに戻っている。うん、威厳があってカッコいい。
どの動物もイオンに向かって頭を垂れていた。
やはり『神獣』という存在は特別なんだろうね。
けれどイオンはいつものことだと気にしていないようだ。
「サルナシはそこの目印をつけておいたところに植えるのだぞ」
「あい。あ、さるなしはねこしゃんもだいしゅきよ?」
「知っている。ならば、一つと言わずいくつでも植えると良い。サルナシはいくらあってもよいからな!」
イオンは猫さんたちにも分けてあげるみたい。優しいね。
サルナシが実ったらこの神殿の周りには猫さんがたくさん集まることだろう。
セーリア神殿は敵国でもある三国の民が崇める神殿として、これまでアースクリスの人たちは訪れることは少なかった。
けれど、セーリア神の二柱の神様は、アースクリスの女神様方の弟神様なのである。
これから先、正しい信仰が広まっていけば、女神様の弟神様が祀られている神殿として訪れる人たちも増えていくことだろう。
――その後、再建されたセーリア神殿を訪れた人たちは、神殿のまわりにたくさんの猫がいるのを見かけることになる。
ここが猫にも猫好きさんたちにも、パラダイスとなったことは言うまでもない。
お読みいただきありがとうございます!




