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325/327

325 まずは神様にご挨拶

区切りの良いところまで書いてから、と思ったら

ずいぶん間があいてしまいましたm(__)m

遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします!


 今日は初めてルクス領に足を踏み入れた。

 といっても、ルクス領の街がある場所ではなく、周りには民家のない自然豊かな場所にあるところだ。

 初夏の光の中に木々の緑が萌え、色とりどりの花が鮮やかに咲いている。そんな美しい道をローズ母様と手を繋いで歩き、開けたところに出ると、突如崩れ落ちた瓦礫の山が見えた。

 目の前には、石造りの柱や壁、屋根が崩れ落ち……よくよく見るとセーリア神の壁画も瓦礫の中に見える。

 そう。ここは、前領主だったリヒャルトがこの地を手に入れた後、すぐに破壊したという、セーリア神殿だ。

「……くじゅれてりゅ」

「……ええ、本当ね」

「セーリア神殿を破壊したまま放置しておくとはな」

「どんなにあいつが狭量なのか、これを見ると一目瞭然だな」

 と苦々しげにローディン叔父様とリンクさんが眉をひそめる。

 目の前には柱や壁が壊され、屋根が落ちたセーリア神殿があった。

 立派な造りだっただろう、石造りの柱や壁、屋根が瓦礫の山となっている。

 こうやって破壊したまま片付けもせず放置しっぱなしということは、リヒャルトが『セーリア神信仰を決して認めない』のだと、みんなに見せつけるためにしているということなんだよね。


 なぜ今日私たちがルクス領に来ているかというと、先日からお隣のリンクさんの領地であるスフィア領に滞在していたところ、クリステーア公爵のアーネストお祖父様から『一緒にルクス領のセーリア神殿に行こう』とお誘いがあったのだ。


 リンクさんとローディン叔父様の新しい領地はお隣同士、そしてクリステーア公爵領は二人の領地とも接しているのだ。というか、ルクス領はその昔、広大なクリステーア公爵領の一部を割譲してできたところ。これまでは公爵家当主を支える役割を持つ親族がルクス領を担ってきたんだって。

「先代公爵だった父が、実子ではないリヒャルトにルクス領を与えたのは、公爵家を支える役割をしていってほしいという思いからだったのだろう。だが、あいつはルクス領を手に入れた途端、クリステーア公爵家の先祖である緋桜様の祖国の桜の木を焼き払い、セーリア神殿を破壊したりと、我が公爵家が代々大事にしてきたものを次々と潰していった。……あいつには最初から公爵家を支えようとする意志はさらさらなかったということだな」

 瓦礫の山と化したセーリア神殿を見ながら、アーネストお祖父様がため息交じりにそう言った。

 先祖に少しでも敬意を払っているならば、桜の木を焼き払ったりはしなかっただろうし、数百年も前からあるセーリア神殿を破壊したりはしなかっただろう。

 リヒャルトの実の父親は、アンベール国人の父親とアースクリス国の母親を持つ二世であると教えてもらった。つまりリヒャルトの祖父はアースクリス人の女性を伴侶に得たためにアンベール国に住むことができなくなり、アースクリス国に移住してきたということだ。一家が身を寄せたのは、リヒャルトの母親の故郷だったという。

 なるほど、リヒャルトの両親がどこで出会ったかが分かった。

 調査の結果、リヒャルトの父親は早くに亡くなっていた。けれど、リヒャルトの父親は女性に手が早かったようで、リヒャルトの母親違いの兄弟はあちこちに複数いるとのこと。

 けれど、その兄弟たちはリヒャルトのような排他的思考を持ってはいないそうだ。

 アンベール国を含む三国は、選民思考が強く、他を排除しようとする傾向がある。

 ――だからこそ、数百年前から今現在にわたるまでの長きにわたり、アースクリス国に理不尽な戦争を仕掛けているのだ。

 とはいえ、その性質はどうやらリヒャルトだけが隔世遺伝かなにかで色濃く受け継いだようだ。

 というか、ローズ母様とローディン叔父様の父親であるダリウス前子爵の生来の怠け癖と同じで、リヒャルトの苛烈な性格は生まれながらのような気がするけどね。

 あんな酷いことを平気で出来るのは、人の辛さや痛みを自分事として受け止めることができないからなのだろう。


 アーネストお祖父様は一旦目を瞑ると、過去を振り切るようにはっきりと言った。

「まあ、それは今さらだな。とにかく今はセーリア神殿の再建が最優先だ。フクロウの神獣様と神殿の再建をお約束したのだろう? それなら、早々に瓦礫の撤去を始めようと思ってな」

 その言葉を受けて、ローディン叔父様も頷いた。

「はい。私も神殿再建はできるだけ早く着手したいと思っていました」

 少し前、私たちはクリスウィン公爵領のセーリア神殿でフクロウの神獣様にお会いした。

 その時、ローディン叔父様はルクス領にセーリア神殿を再建すると約束したのだ。

 けれどローディン叔父様がこのルクス領の実質的な統治を始めるのは、リヒャルトが捕まり、彼に繋がっている者たちを排除してからとなっている。そうしなければ、母様と私は安心してこのルクス領で過ごすことができない。それにローディン叔父様もリヒャルトから『ルクス領を奪った』と恨まれているだろう。ルクス領を統治するためには、まずリヒャルトとその一味の排除が最優先で必須事項なのである。


「まずは再建工事に着手する旨の報告を神様にせねばならぬ。あちらに簡易的な祭壇を用意しておいた」

 アーネストお祖父様が示した方向を見ると、アーネストお祖父様の側近であるルイドさんと公爵家の使用人たちが木造の台を設置し金糸と銀糸で刺繍が施された白地の布をかけ、様々な供物を載せているところだった。

 神様に報告……どうやら前世でいう地鎮祭のようなものを行うらしい。

 前世では建物を建てる前に、その土地の神様に感謝し、工事の安全と、土地や建物の繁栄を願う儀式をするのが習わしだった。こっちでも同じようなことをするんだね。

 ルイドさんたちは祭壇の準備を終えると離れたところに控えた。

 祭壇の前にはアーネストお祖父様、ローディン叔父様とリンクさん、私とローズ母様だけである。


「本来はセーリア神の神官が執り行うべき儀式なのだがな」

「ええ。でも、今日のことは先日急に決まりましたからね。フラウリン領からでは到底間に合わないでしょう」

「フラウリン領からルクス領までは十日はかかりますから」

 アーネストお祖父様の言葉にローディン叔父様とリンクさんがそう答える。

 そう、セーリア神殿には神官がいるものだが、ここルクス領にはいない。

 それはリヒャルトが神殿の破壊と共に神官を追い出したからだ。


 十数年前、ルクス領を手に入れたリヒャルトは真っ先に久遠国から持ち込まれた桜の木を燃やし、三国の民が崇めるセーリア神殿を破壊するという暴挙に出た。

 その所業はルクス領に住まう三国の移民やその血を受け継ぐ混血の領民を震え上がらせ、結果彼らはこのルクス領から去って行かざるをえなくなったのだ。

 ルクス領を出た彼らの多くは、アースクリス国内のセーリア神殿がある地へと移っていったらしい。

 この国にセーリア神殿があるところは限られている。クリスウィン公爵領とフラウリン伯爵領を含めても数えるほどしかないのだ。

 かつてこのルクス領のセーリア神殿にいた神官は親戚を頼ってフラウリン領へとたどり着き、高齢だったフラウリンの神官の後を引き継いでフラウリン領のセーリア神殿の神官をしていたんだって。

 彼はフラウリン領で後任神官への引継ぎを終えたら、家族と共に生まれ故郷であるルクス領に戻ってきてくれるらしい。良かった。

 ……それにしても、リヒャルトの所業って本当に許せないよね!


 気を取り直して、みんなで祭壇の前に立つ。

 まずはアーネストお祖父様が祈りを捧げ、リヒャルトの愚行を深く深く謝罪し、セーリア神殿をクリステーアの名の下に再建すると宣言していた。

 破壊を行ったのはリヒャルトなのだけど、再建はクリステーア一族の長としてのアーネストお祖父様のけじめなのだろう。


 次いでこの地の新たな領主であるローディン叔父様も供物にお酒を供え、祈りを捧げた。

 供物はこの地で造られたワインとラム酒である。

 大地の恵みからワインやお酒を造ることは、前世の日本と同じくこの世界でも神事とされている。

 そのためローディン叔父様はルクス領で造られたワインとラム酒を神様への供物としたのだ。


 そして私は以前獅子の神獣イオンを通して知った、神様のお気に入りを用意してきたのだった。


お読みいただきありがとうございます!

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托卵した母親と血統を守るべき貴族でありながら実子として登録した父親が悪い 公爵家は自分が手に入れて当然のものという考えは実子だからこそ培われたものでしょうし、リヒャルトが大悪党になれたのも公爵家のコネ…
中世ヨーロッパでは侵略戦争で領土拡大することだけが国の発展の方法だったから…侵略しない王様はむしろ無能扱いされたのだ… 選民思想もだいたい最初に吹き込んだのは教会とかだしな…やつら異民族をナチュラル…
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