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324 あつあつがいいよね! 2

感想ありがとうございます。

いつも励みになっています。

どうぞこれからもよろしくお願いします(≧▽≦)


 さてさて、まずはいつものように試食である。

「いっただきまーしゅ!」

「「いただきます」」

 ナイフとフォークで肉厚のチキンステーキを切って口に頬張る。

「あちゅい! おいち~い!」

 みんなの分が出来上がるのを待っていたけど、魔道具の受け皿のおかげで熱々である!

「うん、いつも通り照り焼きチキンは美味い。熱々だからさらに美味しいな」

「このソースが鉄板でふつふつしてるのが、何だか新鮮で面白いよね」

「ええ、鉄板でソースが焼けると香りがとても良いわ」

 うんうん、熱々の鉄板でソースが焼けると、照り焼きソースの材料である醤油に含まれるたんぱく質と糖分でメイラード反応が起きるんだよね。このメイラード反応は美しい照りを出すだけではなく、食欲をそそる香ばしさと、凝縮した旨味も生み出すのだ。

 前世ではこの照り焼きソースが好きで、チキンステーキを作る時のマストアイテムだった。


「あーちぇ、めのまえでそーすかけりゅのがしゅき!」

「ああ、さっきのあれだな。確かにあれは良い感じにワクワクしたよな」

 とリンクさんも言う。

 前世では飲食店の店員さんが『こちらでソースをお掛けしますね』と言って、目の前で熱々の鉄板料理にソースをまわしかけてから配膳してくれたものだ。

 ジュワジュワ~っという音が耳を打ち、香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。さらに沸々と泡立つソースが視覚的にも美味しさを演出し、もう食べる前から美味しいのが感じられるあのライブ感がものすごく好きだった。

 さっき、照り焼きソースが足りずに追加で作り、鉄板料理がテーブルに配膳された後にソースをまわしかけたのだ。鉄板料理だからこその、ジュワ~っ、ポコポコという音と香りと湯気に、『おお~!』とみんなの視線が釘付けになっていた。

 うんうん、あれって何度見ても楽しいよね!

 

「目の前で仕上げる料理か。まごう事無き出来立てだから、へ……いや、あの方も喜ぶだろうね」

 とローディン叔父様が言う。

 これから先、遠征時における王家や公爵様たちのお弁当を一手に引き受けることは表向きには秘密なので、国王陛下のことは『あの方』と濁したようだ。

「あい! しゅてーきも、しゅきなやきかげんでたべられましゅ!」

「ああ、そうか。俺たちは少し赤みが残った方が好きだが、しっかり火を通した方がいいという人もいるからな。この鉄板で好きな焼き加減に仕上げるというのもいいな」

 そう、しっかりと焼いた方が好きだと言う人もいるのだ。

 好みは人それぞれだから、自分の好きな焼き加減にするのはいいと思う。

 だから、このステーキ皿の受け皿には結晶石を埋め込み、前世の受け皿にはなかった機能を付けた。それは鉄皿の一部分に、自分の好みの焼き加減で食べられるように『焼き』の部分を設けたのだ。前世のレストランやステーキ店のステーキ皿に添えられていた、肉を自分好みの焼き加減に仕上げるペレットと同じ役目である。

 受け皿にあるスイッチを動かすと、鉄皿の一部分の色が変化し『焼き』が楽しめるようになる。さらに鉄皿を温める効果もあるため、最後まで料理を温かく食べられるのだ。

 これまで食卓で自分が料理を完成させる、という食べ方はなかったけど、これって絶対楽しいと思う!


 でも、普通の貴族は料理をしないものだから、ステーキの焼き加減を自分の好みに仕上げるという作業は受け入れられるだろうか? 怒るかも? とちょっと思ったけれど、

「これは楽しいですね! 熱々でふつふつでいつもよりチキンが美味しいです!」

 と貴族であり、スフィア領の代官を務めるメンデルさんがチキンステーキを頬張りながら目をキラキラさせているので大丈夫みたい。

 彼は自分でチキンの皮の部分をさらに焼き、「皮がもっとパリッと焼きあがって美味い~~」としきりに感心している。

「受け皿に仕込んだ魔道具のおかげで好きなように焼くことができるとは、ものすごい革命ですね! 次は是非ともビーフステーキで試してみたいです!」

 と満面の笑みを浮かべている。

 メンデルさんはこの頃厨房横の従業員用食堂で食事することにもすっかり慣れたようだ。

 比較的ラフな格好のリンクさんとローディン叔父様に対し、メンデルさんはピシッとした服装で金髪を撫でつけた仕事仕様の格好をしているので、ちょっと場にそぐわない感はあるけどね。


「見た目びっくりでしたが楽しいです! 何より自分の好みで焼けるのが嬉しいですし、調理するという体験も面白いです!」

「目の前でソースが焼けていくあの香ばしい香りが堪りません~!」

「一度試したら癖になります!」

 おお、メンデルさんは、鉄皿の魅力に取りつかれたらしい。物凄く饒舌である。


 ちなみにメンデルさんはこれまで国から派遣されていた代官だったのだけど、このたび役所を辞め、リンクさんの部下として伯爵家に雇われることになった。

 リンクさんはこれから先、外交に携わる仕事に就くことになる。外国に行くと長く領地をあけることもあるため、信頼できる者に領地の管理を任せる必要がある。フラウリン領の方はマリアおば様の実家でもあるし、デイン家の息のかかった者たちが管理しているので心配する必要はない。

 ただ、新しい領地のスフィア領の方は、適した人材を確保しなければならなかった。

 そしたら、クリスフィア公爵とリュードベリー侯爵が、これまでスフィア領の代官を務めていたメンデルさんをそのまま伯爵邸の家令として雇ってはどうかと薦めてきたのだ。

 家令とは領地管理や財政を担い、家政を取り仕切る、いわば領主の代行者のことである。

 仕事内容は代官として担っていたものとほぼ変わらない。


 メンデルさんはクリスフィア公爵が魔法学院の教師だった時の生徒であったことから、クリスフィア公爵は彼の人となりをよく知っている。また、彼がスフィア領の代官を務めることとなったのも、内政を担うリュードベリー侯爵が彼の誠実な仕事ぶりを評価し、推薦したという経緯があったのだそうだ。

 確かにこれまでスフィア領の代官を務めていたという実績からも、これ以上はない人選である。

 さらに後押しとなったのは、先日会った陛下の一言である。

『メンデルは運動神経の方はいまいちだったが、優秀だった。それに周りに流されず行動できる者だったな』

 意外なつながりに驚いたのは私だけではない。そういえば、魔力持ちは身分に関わらずみんなが魔法学院で学ぶのだ。そう考えてみれば、陛下と年が近いメンデルさんのことを陛下が知っていてもおかしくはない。

 でも。陛下から思いがけない情報をもたらされてびっくりした。

 メンデルさんって運動神経悪いの? と誰もがそう思ったら、教師だったクリスフィア公爵が『あいつは剣も弓も体術もからっきしだったからな~』と苦笑していた。

 おおう、そうなんだね。まあ、人それぞれに得手不得手があるものだからね。誠実に仕事をきちんとしてくれればいいのだ。

『それにアーシェラが彼を怖がらなかったのでしょう? 彼でいいと思うわよ』

 と、王妃様が付け加えた言葉で、リンクさんが納得したのだった。


 そういえばそうだった。

 私の身には久遠国神社のサヤ様からもらった御守りの力が溶け込んでいて、私に害意や悪意を持つ者には私の瞳の色が変化して見える。そしてそういう危ない人が近くにくると私自身にも『本能的に分かる』と、サヤ様から教えてもらっていた。

 実は御守りを貰う前からも私は人の感情に敏感だった。バーティア商会に訪れる人たちの中に(特に貴族)は表面的な笑顔を浮かべてはいるが、考えていることは悪意たっぷりという、腹黒い人が何人もいたのだ。

 私はよちよち歩きの頃から、商会のキッズコーナーで日中を過ごしてきた。

 だから、商会で訪れる人たちの態度や仕草、言葉をたくさん見聞きし続けた。

 そしていつしかお腹の中が真っ黒な人が独特な気を持っていることに気づいたのである。視えたわけではなく、肌で感じたのだ。

 私が人の感情に敏感だということはローディン叔父様とリンクさんも知っている。だから私の反応も一つの判断基準にしている節があるのだ。

 メンデルさんとの初対面の時の、私の反応で第一関門はクリア。

 その後メンデルさんと仕事を通じて、リンクさんも彼の人となりを理解していった。

 そして国王夫妻の後押しが最後の決定打となり、彼を雇うことに決めたのだった。


 つい先日、メンデルさん本人の意思を確認したところ、『ぜひ、お願いします!』と二つ返事で快諾してくれた。

 メンデルさんは、キース・メンデルが本名でメンデル子爵家の三男。代々文官の家系で父も兄も役所に関わる仕事をしているそうだ。文官なのは家族ぐるみで運動音痴だから、らしい。……なるほど。

 三男ともなると、当然継ぐ爵位はない。爵位をいただくには国に認められるだけの相応の功績が必要だが、一介の貴族令息が爵位を得るのは容易ではないのが現実なのだ。

 だから、自ら生計を立てていかなければならないのである。

 メンデルさんは三十代半ばくらいで妻帯者だけど、奥様は今現在王都で暮らしている。

 奥様は薬師で、王都にある薬屋さんで薬づくりをしていた。これまでは戦争需要で薬が大量に必要だったこともあり、奥様は王都、メンデルさんはスフィア領と別れて暮らしていたそうだ。

 戦争はウルド国とジェンド国に関しては終結。もう少ししたらアンベール国とも決着がつくだろう。

 メンデルさんは今まで役所の命令で次々と転勤を余儀なくされてきた。だから、長く家族と住まう地を得たいと思っていたらしい。

 スフィア伯爵邸の家令となるということは、もう転勤しなくてもいいのだ。

『スフィア領で家族と一緒に暮らせる!』とメンデルさんは喜んでいた。

 奥様もこれまで仕事に忙殺されていたので『スフィア領で薬草園を作ってのんびりしたいわ』と快諾してくれたとのこと。

 やった! 屋敷を管理する家令だけでなく、領民の健康を守る薬師さんもゲットである!


 熱々のチキンステーキは「自分好みに焼く体験が楽しい」とみんなに大好評だった。

 うん、やったことのないことを体験できるって楽しいよね。

 じゃあこれからはそういうものをもっと増やしていってみよう!


お読みいただきありがとうございます!

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ステーキ皿のあのワクワク&美味しそう感は大人になっても変わらない安定さ
ミスター味っ子のステーキの話を思い出した年寄りははワイだけでいいわさ
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