323 あつあつがいいよね! 1
「アーシェ、注文したやつが届いたぞ」
「あい!」
ここはリンクさんの領地であるスフィア領である。
王宮で国王陛下に初めて会ってから、半月ほどが経った。
王宮から戻ってきた私は『あるものを作ってほしい』とリンクさんとローディン叔父様にお願いした。そしたらリンクさんが『それならスフィア領の鍛冶工房で作らせよう』と言ったのだ。
別に王都の鍛冶工房で作ってもらってもいいのだけど、二人は『情報が洩れると面倒だからな』と言って、スフィア領にやって来たのだ。
最近バーティア商会の新商品の情報をいち早く手に入れて、真似をしようとする店が多く出てきた。それだけでなく、こちらの技術を盗み出そうとしている輩もいるらしいのだ。どうやらこっちの販売前に自分のところで発売するつもりで動いているらしい。
それって、あのセレン子爵と同じ考えだよね。
やだなあ。まだそんな人たちがいるんだ。
そう言ったら『そういう輩はどこにでもいるんだよ』とのこと。ううむ。
まあそういった理由で、私がお願いしたものはできるだけ外注を避け、自分たちのところで作るスタンスとなった。
これまでは二人の領地が王都から遠かったけれど、新しい領地が王都に比較的近い場所にあるので、スフィア領の鍛冶工房を使うことになったのだ。
「で、この小さいフライパン? 鉄皿だっけ? どうするんだ?」
リンクさんが手に持っているのは、オーバル型の鉄製の皿と、それを受ける木製の皿だ。
そう、これは前世で言うステーキ皿である!
この前お会いした国王陛下が『出来立てを感じられるものが良い』と言っていたことから思い出したもの!
国王陛下と王妃様は、敵国、そして反逆を考える者たちによる毒殺の危険性を回避するため、いつも食事は毒見役による毒見を経てから摂る。だから、出来立てを食べることはないのだそうだ。
温めなおしても食事は美味しく食べられる。けれど、お肉もお魚も一度冷めたものを再度温めるとやはりパサつくのだ。お魚はグリルから出した瞬間が皮もパリッとしていて美味しい。けれど、温めなおすと皮がしっとりして、身がパサつく。だから前世では、焼き魚を一番美味しく食べられるように、他の汁物や副菜などをスタンバイしておき、焼きたてで食卓に出せるようにこだわっていたものだ。
そして、お肉の出来立て熱々といえば!
ステーキやハンバーグが最後まで熱々で食べられる、あの鉄皿がベストアイテムなのである!
ソースをまわしかけた時の、あのジュワジュワ~っとソースが焼けた音と香り、そしてポコポコと泡立ち、湯気が上がる、あのライブ感が最高なのだ!
前世ではあれを家でも再現してみたくて鉄皿を買ったんだよね。皿に載せるとすぐに冷めるステーキが最後まで温かかったことに感動して、ステーキやハンバーグを食べる時にはよく使っていたものだ。
「陛下に出来立てを食べさせたいって言っていたが、これを使うのか?」
「あい! あちゅあちゅでたべりゃれましゅ!」
「熱々か、いいね」
「で、どうやるんだ?」
ということで、これから厨房に行って、調理開始である!
◇◇◇
「アーシェラ様、具材用意できましたよ!」
そう言うのは、この前よりちょっぴり痩せた気がするポルカノ料理長である。
彼はデイン辺境伯本邸の料理長だけど、このスフィア領に定期的に訪れている。今回はたまたま私たちが来た時と日程がかぶったようだ。
彼の側にはこのスフィア領出身であり、この屋敷の料理長である茶髪茶眼のケルンさんがいて「鉄製の皿……」と不思議そうに呟きながらステーキ皿を眺めている。ケルンさんは年の頃も体型もポルカノ料理によく似ているぽっちゃりさんな料理人さんである。
この国で食器と言えば陶磁器、木製食器の木皿やお椀のことである。鉄製のものはこれまで見たことがなかった。
貿易とかで外国に行ったりしていたローランドお祖父様も、鉄製の皿は見たことがないと言っていたからこっちにはなかったのかな? まあでも世界は広いので、見知らぬ国にあるかもしれないけど。
「フライパンと同じく油ならししておきましたよ」
とポルカノ料理長が言う。
「ありがとごじゃいましゅ!」
ありがたい。鉄製の調理器具は使い初めに油ならしをしなくちゃいけないんだよね。焼き面に油の膜を作り焦げ付きを防ぐためのひと手間だ。空焼きして油を塗って焼き面全体になじませ、その後野菜くずを炒めてさらに油をなじませる。……と、ひと手間というか手順が結構あって面倒なのだ。
けれどさすがはプロの料理人。この鉄皿を使って料理をすると言ったら、事前にささっとやってくれていた。これですぐに取り掛かれる。
「ええと、とりにくをふらいぱんでやいて、あちゅあちゅにしたてつざらにのせりゅ」
「はい!」
ポルカノ料理長とデイン家の料理人がサッと動く。やはり付き合いが長い分素早く動いてくれるよね。
隣ではスフィア邸の料理人さんたちが付け合わせを用意しはじめた。いい連携である。
さて、ではソースを用意しよう。
いつものステーキソースでもいいけど、鶏肉を鉄板で焼くなら、私の大好きなソースがある!
「おしょうゆ、おしゃけ、みりん、おしゃとうをいれてにちゅめる」
「あ、あの甘辛いソースだな」
「確かにチキンによく合うよね」
そう言いながらリンクさんが塩コショウしたチキンを焼き、ローディン叔父様が手際よく小鍋に調味料を入れてコンロにかける。
「このソースを絡めながら焼くと表面に光沢が出て、見た目にも美味しそうになるんだよな」
リンクさんの言う通り、このソースを絡めて『焼く』と『照り』が出る。
そう、これは前世でお気に入りでよく使った照り焼きソースである!
醤油やお酒だけでなく、みりんが手に入った時に、このソースを作って焼いたチキンに絡めたのだ。
それまではシンプルに塩胡椒味で作ることが多かった。だから焼き色があるものの、出来上がりの色合いは薄い。
照り焼きソースはタレの糖分が加熱したことでカラメル化し、鶏肉の表面に美しい琥珀色の照りが出るのだ。
ローディン叔父様とリンクさんも好きな味付けである。
「あの照りが食欲をそそるんだよな~」
「そうですよね。この照り焼きソースは醤油があったからこそ出来たソースですよね。甘辛くてご飯が進む味です!」
とポルカノ料理長とデイン家からきた料理人さんたちも頷き、このソースを初めて見るスフィア家の料理人さんたちは興味深げに「そうなのか」と眺めている。
以前このソースを絡めて焼いたチキン料理を私が『照り焼きチキン』と言ったら、『確かに照りが出て美味しそうなチキンですよね』と納得し、このソースは自然と照り焼きソースと呼ばれるようになったのだった。
「ちきんがやけたら、あちゅくしたてつざらにのせて、てりやきそーすかけりゅ!」
「分かった」
リンクさんがフライパンからチキンを取り出してコンロの上で熱した鉄皿に載せると、ジュワ~っとチキンが焼ける音が立つ。
「お、いい音がするな」
「ああ、面白い」
とリンクさんとローディン叔父様が言いながら、次々と下準備しておいた付け合わせのキノコやフライドポテト、ニンジン、インゲンを彩り良く載せ、そこに照り焼きソースをまわしかけると、さらにジュワジュワ~っといい音が耳を打った。
「「おお~~」」
「ソースが焼ける音が面白いな」
「ああ、ソースが沸々して香ばしい香りがするし、見た目も美味そうだ」
「お料理から湯気がでているって、何だか心を躍らせるわね。楽しいわ」
ふふ、そうでしょう!
いつもは料理人さんたちが作ってくれる、味と香りと見た目(彩り)の三拍子が揃った美味しい料理をいただいている。もちろんそれで十分に美味しい。
今日はいつもの照り焼きチキンを、白い磁器のお皿ではなく鉄皿に変えてみただけである。
ただそれだけで、熱々ジュージューなライブ感が加わった。このジュージュー、ポコポコが心をワクワクさせ、テンションを爆上がりさせるのだ!
その熱々の鉄皿を火傷しないように、鉄皿と一緒に作ってもらった専用のトングで木製の受け皿に載せて出来上がりである!
受け皿の方には鉄皿の熱を維持できるように魔術を込めた結晶石が埋め込まれている。なので前世のステーキ皿よりも熱々の時間が長く保てるのだ。これで、最後まで熱々のまま食べられる!
それにサラダとライス、大好きなハニーレモンソーダを付けてもらう。
よし、これで。
「てりやきちきんすてーきのかんしぇい!」
前世のレストランで食べたチキンステーキセットの完成である!
お読みいただきありがとうございます!




