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32 クリステーアの瞳

誤字脱字報告ありがとうございます。(≧▽≦)


やっとアーシェラの出生の秘密が明かされます。


アーシェラの祖父、クリステーア公爵視点です。


時系列は、教会の後。アーシェラが王宮に入る前日の夜のお話です。



 私はアーネスト・クリステーア。

 アースクリス国のクリステーア公爵家の当主だ。


 今日昼過ぎに四公爵家の当主が緊急だと国王に呼び出された。

 その後怒涛の時間を過ごした後、深夜になってしまったが、総まとめとして国王の執務室に重臣たちが集まった。

 ここにいるのは、国王夫妻と四公爵家の当主、レント前神官長と昨年神官長になった、女性のカレン神官長だけだ。


 話し合いの為、皆同じテーブルを囲んだ。


 上座には銀髪碧眼の国王陛下と、金髪に琥珀の瞳の王妃様が席に着いた。


 その向かい側には、茶髪青目のレント前神官長と、金髪青目のカレン神官長。


 テーブルの左右にはそれぞれ四公爵家の当主が二人ずつ。


 アースクリス国の四公爵家は瞳の色が特徴的だ。


 クリスウィン公爵は金髪に琥珀色。

 クリスフィア公爵は銀髪に紫色。

 クリスティア公爵は銀髪に青色。

 そして、我がクリステーアは金髪に緑色だ。


 瞳の色にはそれぞれに濃淡があり、他の貴族とは違う色である。

 完全一致するのは直系のみだ。

 家名につく『クリス』はアースクリス国建国時に国王を支えた者に与えられたものだ。

 それぞれの家の特性を冠した家名はとてもよく似ていて間違えやすいのは今更のことだ。仕方がない。


 その四公爵家の当主が捜査で判明した横領事件の報告をそれぞれに話した後、レント前神官長がリヒャルトの横領事件発覚となったその前の経緯を話しだした。


 元は王家の所有であった土地に建てられた教会での出来事を。


 キクの花のこと。

 その花が食用のみならず薬にもなりうること。

 アースクリス国王はその花が神気のある場所にしか咲かない花であることは知っていたようだが、採取をして食用や薬用にすることは思いもしなかったとのことだ。


 ―――そして、創世の女神様たちがその花を広く使うことを『アーシェラの願いにこたえて』許したこと。

 その時の、教会での出来事が報告された。


「―――なんだと?」

 前神官長であるレント司祭の最後に報告された言葉に思わず声が出た。


「ご報告の通りです。クリステーア公爵。バーティア子爵令息ローディン様が、姉君のローズ様と育てていらっしゃるアーシェラ様に女神様の加護があることを確認いたしました」


 ざわり、と部屋の中が騒然となった。

 レント司祭の言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡って、言葉が出ない。


「ローズ殿は、クリステーア公爵家の……」

 同年のクリスティア公爵がその青い目で私に問いかけてきた。


「―――ああ。アーシュの妻だ」


「アーシェラ様というのは……」

 カレン神官長が問いかけてきた。

 カレン神官長は金髪に青い瞳の30代半ばで昨年神官長になったばかりの女性だ。

 貴族出身で物腰がやわらかく、芯の強さをもった神官長だ。

 魔力の強い女性は成長が遅いため、カレン神官長はまだ20代前半に見える。


 カレン神官長は貴族出身で、社交界にも知り合いがいるため、ローズのことも知っていた。


 だから、ローズが死産したというのは、知らないはずはない。

 社交界で知らない者はいないはずだ。

 弟リヒャルトやその妻が、公式の場で言い続けてきたからだ。

 だが、それはこちらにとって好都合でもあった。


「ローズが、自分の子として育てている拾い子―――としている」


「している? とは」

 再びクリスティア公爵が首を傾げた。

 長い銀髪の三つ編みが揺れた。


 アースクリス国王を見ると、陛下が頷かれた。

 話していい、との許可だ。


「―――正式には公表はしていないが。あの子(アーシェラ)は『クリステーアの瞳』を受け継いでいる」

 ここは同じ役目をもつ者たちだけだ。

 もう秘密にしておかなくてもいい。

 アーシェラはクリステーア公爵家の子であり正当な継承者だ。


「やはり、そうでしたか。今日初めてアーシェラ様に会った時に驚いたのです。―――クリステーア公爵、あなたと同じ瞳だったので」

 レント前神官長が納得して頷いた。


「だからこそ隠さねばならなかった。うちにはリヒャルトとその妻がいるからな」

 あのまま公爵家に置いていては確実にアーシェラの命は無くなっていただろう。


「獅子身中の虫は厄介だねえ」

 公爵の中で一番年若いクリスフィア公爵が揶揄する。

 クリスフィア公爵は銀髪の短髪でがっしりとした体格をしている。

 以前は魔法学院の教師をしていたせいなのか、少々口が悪い。


 獅子身中の虫か―――まったくだ。

 年が離れた弟は国を支える柱である公爵家に生まれながら、公爵家の権力を笠に悪事を働いている。


 リヒャルトが成人し、国政に関わるようになってすぐのあたりから不自然な金の流れが生まれた。

 すぐに調査をはじめたが、リヒャルトはずる賢く、用意周到なためになかなか尻尾を掴ませない。

 常に何かを隠れ蓑にして、決定的なダメージから逃れ続けてきた。


 今回はレント前神官長が持ってきた証拠でようやくリヒャルトの悪事を暴くことができたが、おそらくはまだまだ後ろ暗いものを抱えているだろう。


 そのリヒャルトの罪を暴くきっかけがアーシェラだったとは。


「リヒャルトは今貴族牢に入れていますが、―――どうでしょう、陛下。このままリヒャルトを国政から切り離すよい機会です。戦地に送りたいと思うのですが」

 貴族牢とは、地下牢と違い身分の高い者を軟禁しておく場所だ。

 何もない地下牢とは違って、十分な衣食住を与えながら、魔力を使えないように封じ込め、脱走を防ぎ、外部からの接触を完全に断った状態にしておいている。

 地下牢に比べてリヒャルトが動きにくいのが貴族牢だ。

 魔法により完全監視されているためリヒャルトは貴族牢にいる間は他の仲間に指示を出すことができない。


 この深夜に重臣たちが集まったのは、リヒャルトをどうするかを話し合うためだ。

 このまま国の中央に置いては、リヒャルトは何度も同じことを繰り返す。


 リヒャルトに対しては、すでに家族としての情は無くしていた。

 それほどのことをリヒャルトはしてきたのだ。

 横領だけではなく、あちこちで自分にとって邪魔な人間を何人も消してきているのをこの数年で知った。

 アーシュがいなくなったことをきっかけに、リヒャルトの傲慢さはエスカレートした。


 ―――それ(人殺し)を知った時にリヒャルトのことをあきらめた。

 アースクリス国を支えるクリステーア公爵として、己が我欲の為に軽々しく殺人まで犯した弟を断罪すると決めた。


 ローズやアーシェラに刺客を送り続けていることも。

 刺客を雇う高額な金が横領金から出されていることも腹立たしい。

 

 王都から切り離して、リヒャルトの巣を徹底的に調べつくす時間が必要だ。


「そうだな。いいだろう。リヒャルトには監視付きで一年間のアンベール国境での兵役を科すことにする。貴族位は剥奪するゆえ、一兵卒として扱うように」


 国王から貴族位剥奪の宣言が出た。

 これでリヒャルトは今後平民となる。

 これを知ったら凶悪な牙をむくのは必至だ。


「リヒャルトのことだから、貴族位を剥奪されたら陛下に牙をむくのでは」

 王妃様の父親であるクリスウィン公爵が私の想いを代弁するように言う。

 他の公爵たちも頷く。

「牙をむきたければ好きにすればいい。私も簡単にはやられはしない」

 決定事項だ。と陛下が力強くきっぱりと言った。


「これだけの金額の横領をしていて平民に落ちるだけで、死罪にならずにすむのですから公爵家の血と陛下に感謝するのでは?」

 カレン神官長が人のいいことを言うと、クリスティア公爵が首を振って否定した。

 長い銀髪の三つ編みが揺れている。

「そんな殊勝な人間があれだけの犯罪に手を出すまい。カレン神官長。横領だけではないのだぞ、リヒャルトの罪は」

「―――すみません。リヒャルト殿には直接お会いしたことがなかったものですから」

「カレン神官長なら、一度会えば分かる。―――だからこそ、あいつはここ何年も神殿に行かないんだ」

 クリスフィア公爵がそう言うと、王妃様の父親であるクリスウィン公爵が頷いた。

「―――そうだな。感覚の鋭い神官なら、あいつに殺された人数の多さに驚いて失神するだろう」

 その言葉にカレン神官長が驚愕した。

 神殿には創世の女神様に仕える者たちが数多くいる。

『視る』力を持った者もいるのだ。

 クリスフィア公爵がそう言ったのも、慈善事業とうたって小神殿に訪れたリヒャルトを見た神官が、親戚筋のクリスフィア公爵に震えて訴えたからだという。

 どこからかその神官の話をもれ聞いて、リヒャルトが一切神殿に赴かなくなったのも、リヒャルトがその神官を殺そうとして失敗したこともこの場で改めて報告された。

 その神官はクリスフィア公爵家で匿っているとのことだ。


 その神官が言ったことは真実であると分かっている。

 四公爵家の当主は、力の強い神官が『視る』ものも見えるのだ。

 だからこそ、私もリヒャルトが越えてはならない一線を越えたのが分かった。


「それは―――」

「ああ。あいつは元から『クリステーアの瞳』を持つ資格がないんだよ」

 クリスフィア公爵が吐き捨てるように言う。



 これまで、公爵家に正当な継承者が生まれなくても、その血筋のうちから次代の継承者が生まれ落ちるのが常だった。


 リヒャルトは自分の瞳が緑色ではないことを悔やんではいたが、自分の次代の子にその色が出ると信じていた。

 兄である私にはアーシュしかいないし、ローズも死産した。

 となれば唯一これから生まれる自分の子が必ず後継者の瞳を持って生まれるはずだと。


 だが、リヒャルトの血筋には後継者の瞳は現れない。


 すでにアーシュという主筋にアーシェラという後継者がいるからだ。


 もし。アーシェラをリヒャルトが亡き者としたとしても。

 リヒャルトの血筋に『クリステーアの瞳』は生まれない。

 簡単に人を殺める人物につながる者を創世の女神が選ぶわけはないのだ。




「あの。申し訳ございません。私は昨年神官長になったばかりで、こういうことを申し上げるのはどうかと思うのですが……」

「どうした?」

 陛下が促すと、カレン神官長が言いづらそうに声を小さくした。


「リヒャルトは本当に公爵様のお血筋なのでしょうか」


 これまでの悪行を聞いていたらそう思うのは自然な流れだ。

「ああ……。リヒャルトの母は私の母が亡くなったずいぶん後に輿入れした後妻だ。その2年後にリヒャルトが生まれた。クリステーアの瞳は兄弟共に出ることは稀だからあいつには受け継がれなかった」

 ずっとそう思ってきた。


「……その理由で誤魔化すことも出来るわね」

 今まで黙っていた王妃様がカレン神官長の言葉に乗った。


「カレン神官長はこう言いたいのでしょう。女神様の流れをくむこのアースクリス国の公爵家に相応しくない者が、本当に公爵家の人間なのかと」


「―――リヒャルトの所業を見ていて疑ったこともあったが……。今ではリヒャルトの母も亡くなっていて調べる術もない」


「もし、先代公爵の子ではなかったとしても、立証する手立てがないのだ」

 陛下も難しい顔をしている。



 ―――やはり陛下も疑ってはいたのだ。





お読みいただきありがとうございます。

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