318 魂に結び付いた力 3
二人の気持ちを聞いたことで、やっと心が落ち着いた私である。
実のところ、私は人が傷つくのも、自分が痛い思いをするのも嫌だ。
前世では魔獣や魔物、ましてや闇の魔術師なんてものもいなかったから、そんなのと闘うのは本当は怖い。
それでも、それに立ち向かわなければ、大好きな家族がいるこの世界がなくなってしまうかもしれないのだ。
そんなのは絶対に嫌だ!
だから、できる限りのことをしようと決めた。
私は今後、アーシュお父様の外交についていくことになる。外交は妻同伴で行くことも多い。つまり、ローズ母様も一緒なのである。
アーシュお父様は魔力はもちろんのこと、剣術や体術など、武術に関してもかなりの実力者らしい。
それはやはり、邪神の種討伐のために必要なことだったから、だそうだ。
確かにフクロウの神獣様も言っていた。
魔獣や魔物、闇の魔術師など、邪神の種討伐の際には荒事がつきものなのだと。
しかも仕留めるには光の魔力が必要、となると必然的にお役目を担う公爵様たち自身が戦うことになる。だから四公爵は魔力だけでなく、武術にも秀でていなければならなかったのだ。
アーシュお父様は、デイン辺境伯家のホークさんと仲が良かった。
その縁でデイン辺境伯家の精鋭たちが武術の先生となり、幼い頃から剣術や体術などをきっちりと仕込まれたのだそうだ。
魔力が強いうえに武術に関しても長けてるって、アーシュお父様、すごいよね!
そしてローズ母様も、幼い頃からディークひいお祖父様に魔術の英才教育を施されてきている。
『実はローズもかなりの使い手なのよ』と王妃様から聞いたことがある。これまで執拗に送られてくる暗殺者を退け続けられてきたのは、ローズ母様の実力もあったからなのだと。
二属性を持ち、さらに治癒まで使えるのは高位魔術師の証なんだって。
だから、ローズ母様が外交についていっても足手まといにはならないはず、ということだった。
おおう、母様も何気にすごいスキル持ちだったんだね。
母様に光の魔力はないけど、もし闇の力に遭遇した時は絶対に私が母様を護るんだ!
それにローディン叔父様とリンクさんも一緒なのだ。それなら、絶対に大丈夫だよね!
「本来、この魔道具の鞄はもう少しアーシェラが大きくなって、アーシュと共に討伐に行けるようになってから二人に下賜する予定だった。実際、アーシュの従者に渡したのも彼が十三歳の時だったからな」
そう陛下が言う。
アーシュお父様が初めて実戦に出たのは十三歳の時。彼の従者のフィールさんが魔道具の鞄を下賜されたのは、アーシュお父様の初陣に合わせてのことだったらしい。
私の初陣はもう少し私が成長してからになる。それに合わせるなら、まだまだローディン叔父様とリンクさんが鞄を下賜されるのはもっと後の予定だったのだけど、リーフ・シュタットが残したこの反射魔法の魔導具を隠し持つためにも、早急に渡すべきだとみなされたらしいのだ。
まあ、実際のところ反射魔法の魔導具は私たちの身体に同化してしまったので、隠し持つ必要はなくなったんだけどね。
「それでも、近々鞄は渡そうと思っていた。何しろ、アーシュは帰ってきたら妻子を置いて外交に行きたがらなくなるだろうと予想がつくからな」
「そうですね。これまで家族と一緒にいられなかったので、置いていくとなると絶対に渋るでしょうね。今から目に見えるようです」
陛下の言葉にアーネストお祖父様が苦笑いしながら頷く。
アーシュお父様のお仕事は外交官。
アンベール国から無事に帰ってきた後は、労いの意味も兼ねてしばらくは休養期間を設けるらしい。けれど、世界には邪神の種がいつどこでどんな風に芽吹くか分からない、という危険性をはらんでいる。
「大きすぎる災厄が取り除かれたゆえ、そのうちまた邪神の種の討伐のための助力依頼がきそうですしね」
とクリスフィア公爵が言う。
実は、アンベール国にいた闇の魔術師は、稀に見るほどの強い力を得た存在だったらしい。
これまでの傾向では、邪神の種による大きすぎる災厄が一つあると、その他の邪神の種のレベルは弱くなり、そして数も少なくなるらしい。とはいっても、決して慢心していられるわけではないのだが。
アンベール国にいた強力な闇の魔導師は、一年半ほど前に女神様により粛清された。
その大きな災厄が取り除かれた。そのため、もう少ししたら、また邪神の種は増えてくるだろうとの見解なのだ。
今は四公爵家ゆかりの外交官たちが諸外国をまわっているけれど、邪神の種による被害を最小限に抑えるためには、やはり、災厄をより敏感に感じ取ることのできるアーシュお父様が必要となるのだそうだ。
おおう、アーシュお父様がもらえるお休みはそう長くはないみたい。
「ゆえにアーシュにはまた外交官として諸外国を回ってもらうことになる。今度は一人ではなく妻子と一緒に、とすればアーシュも納得しよう」
国王陛下の言葉に「そうですね」と、アーネストお祖父様が頷く。
「とはいえ、アーシェラは女神様の愛し子。今は幼子ゆえ実際に邪神の種討伐に関わるのはまだ先のことだが、我らとしても信用できる護衛が必要だ。それゆえに、改めてバーティア伯爵とフラウリン伯爵にアーシェラの護衛を命ずる」
「「承知いたしました」」とローディン叔父様とリンクさんが頭を下げた。
ということは、私の邪神の種討伐のお役目がまだ先のことでも、外交官のアーシュお父様にくっついて外国をまわる時は、いつでもローディン叔父様とリンクさんが側にいるってことだよね!
それはものすごく嬉しい!
「おそらくアーシェラは他の光の魔力保持者よりも早く邪神の種と対峙することになろう」
「「心得ております」」
まあ、そうなるかもしれないよね。
アーシュお父様についていくということは、邪神の種に近づくということと同義なのだから。
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