317 魂に結び付いた力 2
今話317話目にして、タイトル回収のお話となりますよ♪(^-^)
そうなの? いや陛下がそう言うのだからそうなんだろうけど、でも、いつどうやってそんなことができたのか全然わからない。そう言うと、
「毎晩お祈りしながら、パタッと気を失うように眠ってしまっていたと聞いている。それは祝福の力を使ったための魔力切れなのだ」
と私の疑問に陛下がそう答えた。
そういえばそうだった。お祈りしていたらいつも急に気が遠くなってバタンキューだった気がする。
あれが魔力切れということだったのか。
「た、確かに毎晩そうでしたわ。でもまさか魔力切れだったなんて……」
ローズ母様がそう言うと、王妃様が頷く。
「そうよね。普通はもっと大きくなってからでないと魔力は使えないはずだもの。ローズがそう思っても仕方ないわ。でも大好きな叔父様たちを護るために、アーシェラは光の魔力を知らず知らずのうちに開花させていたの。芽生えたばかりのその力を二人に分けたことで毎晩力尽きてしまったということでしょう」
周りを見ると、私とローズ母様以外はみんな知っていたようで、深く頷いていた。
「アーシェラ、先ほども言った通り、光の魔力は魂の格が高い者にしか扱えぬものだ。神々は魂の中から世界を守る担い手を選び、光の魔力と使命を与えている。生まれつき光の魔力がなくても、二人の魂に光の魔力が刻まれたということは、彼らの魂が最初から光の魔力を扱える条件を満たしていたということなのだ」
私が光の魔力の一部を分けても、魂の格が合わないと、その力は時がくると自然と消え去ってしまうらしい。
それが消えずに魂に刻まれたということ、そして未だにそれを使えるということが魂の格が高いということを指し示しているのだという。
前者はリーフ・シュタットのことで、後者はローディン叔父様とリンクさんのことだと国王陛下が教えてくれた。リーフ・シュタットは私が分けたという光の魔力が消え去る前に、反射魔法の魔導具にその力を込め、光の魔力が入った反射魔法の魔導具を作りあげたのだそうだ。
「そしてね、二人はアーシェラから光の魔力を貰った。つまりアーシェラの力を分け与えられているの。以前転移門の鍵の話をしたことがあったでしょう? 転移門の鍵は『アーシェラの光の魔力』なのよ」
そういえば、転移門を作ってくれるという話があった時、王妃様はローディン叔父様に言っていた。
『あなたにはアーシェラから貰ったものがあるでしょう? それがあなたたちだけの共通の鍵よ』――と。
あれは『私の光の魔力が共通の鍵』ということだったんだ。
――でも、生まれた時に光の魔力を持っていなかった二人にそれを与えてしまったのは……私だ。
ということは、本来、今生では邪神の種討伐をしなくてもよかったはずの二人に、二人の命を護るためとはいえ、光の力を分けてしまったことで、私がその役目を押し付けてしまった……。どうしてもそんな気がしてしまう。
……そんな私の心の揺れを感じとったのだろう。
「「ああ」」とローディン叔父様とリンクさんが手を伸ばして、私の頬や頭をなでた。
「アーシェ、私の命を闇の魔術師から守ってくれたのはアーシェの力だよ。あのままじゃ絶対に帰ってくるって約束を守れなかったと思う」
「それは俺も同じだ。ジェンド王が川に流した猛毒で死んでただろう。アーシェの力が俺が飲み込んでしまった毒を消して大蛇を引き裂いてくれたからこそ、俺は今もこうして生きていられてるんだ」
「女神様は必然を与えると言われている。だから私やリンクが光の力を持ったことも必然なんだよ」
「フクロウの神獣様も言っていただろう? ローディンも俺も、最初っからこういう役目を担うことが決まってたんだ。だからアーシェが『自分が光の魔力をあげたせいで』って、自分を責める必要はこれっぽっちもないんだ」
「リンクの言う通り、それは決してアーシェのせいじゃないんだ。それにバーティア家もデイン家も、これまでも邪神の種の討伐に関わってきているんだよ。それに深く関わることになった。それだけなんだよ」
ローディン叔父様とリンクさんがそう言って私を安心させようとしてくれている。
二人の言葉でフクロウの神獣様が教えてくれたことを思い出した。
女性が邪神の種討伐に向かう時、側には必ず荒事を引き受ける役割の者がつくようになっている。
そして私の場合は、それがローディン叔父様とリンクさんであるのだと。
さらには、光の魔力を持つ者が邪神の種の討伐に向かう時、バーティア家やデイン家がサポートをしているのだということも教えてもらっていた。
そうだった。
実際に何をしているのかはまだ教えてもらっていないけれど、二つの家はこれまでもこのお役目に関わってきていたんだった。
だから、ディークひいお祖父様とローランドお祖父様も、二人が私のお役目のサポート役になったことを聞いてもさほど驚かずにすぐに納得していたんだっけ。
「アーシェラ、神々はね、過去世において縁のあった魂に『どうしても巡り合いたい』と互いに思い合う魂同士を引き合わせてくれるの。私がそうだったように、あなたもそうだと思うわ」
そう言いながら、王妃様は国王陛下を見、陛下もその視線を受けて深く頷く。
王妃様が邪神の種討伐に赴く時に、当然のように荒事を引き受けていたのが、お兄様のリュードベリー侯爵であり国王陛下だった。
自然とそうなった、ということだったけれど、それは彼らと過去世からの繋がりがあったからなのだと王妃様はそう語る。
「確かにな。私も最初から『フィーネを護る役目は誰にも譲らない』と思っていたな。それはリュディガーもそうだった」
と陛下が言う。それは王妃様が彼にとって婚約者だっただけではなく、それが当然だと無意識にそう思っていたという。王妃様のお兄様であるリュードベリー侯爵のリュディガー様もそうだったらしい。
公爵令嬢だった王妃様は少女の頃、邪神の種討伐に赴くリュードベリー侯爵について行くことが多かった。
いずれ彼女も邪神の種討伐に単独で赴くことがあるかもしれない。その時のために『彼女専属の護衛が別に必要ではないか』との話が出たことがあったという。
確かに、王族は多忙だ。それはリュードベリー侯爵も同様である。光の魔力を持つ以上、彼女が単独で討伐に出ることも可能性として十分にあった。
けれど国王陛下は、討伐のための新しい護衛を付けることが正しい判断であると理解できるのに、どうしてもそれが了承できなかった。
婚約者だから、とかそういうわけではなく、ただただ『彼女を護るのは自分の役目なのだ』と、そう思っていたのだそうだ。
「前にレント前神官長が教えてくれたの。神々は輪廻を繰り返す数多の魂が『生まれ変わっても側にいたい』と、互いに強く願う魂のもとへ導いてくださっている。その人生で家族や友人、伴侶など身近な存在として必ず出会うように、と。そして出会ったならば離れがたいと思うそうよ」
王妃様の言葉に「そうだな」と国王陛下が頷く。
陛下も王妃様にそれを強く感じたのだという。
「理屈ではないのだ。それはそなたたちも同じであろう」
私とローディン叔父様、リンクさんは過去世からの縁があり、それゆえに出会うべくして出会ったのだと王妃様と陛下はそう告げた。
「私がそうだったように、アーシェラとそなたたちにも同じ繋がりがあると私はそう思っているが、そなたたちはどう思う?」
と、陛下はローディン叔父様とリンクさんにそう問いかける。
「はい。……正直に言うと過去世からの繋がりというのは分かりません。ですが、離れがたいというのはとてもよく分かります。ずっと側にいて護りたい。そう思っています」
「私も同じです。誰が何と言おうとこの役目は譲りません」
魂が惹かれ合った、というのは正直分からない。
でも、私を護る役目は誰にも譲らないのだと、自分の意志でそう決めたのだと、二人は陛下にはっきりと告げた。
二人の言う通り、過去世で縁があったとしても、記憶がない以上本当のことは私にも分からない。
ただ、大好きなローディン叔父様とリンクさんから離れたくないのだ。心の底からそう思っている。
そして二人は当然のように私を護ってくれると言った。それが過去世からの繋がりだというなら、そうなのだろう。
女神様は過去世で繋がりのあったローディン叔父様とリンクさんと私をめぐり合わせてくださったのだろう。
でも、『離れがたい』というのなら、それはローズ母様も同じだ。
あの小神殿の森でローズ母様に抱き上げられ、母様の瞳を見たあの時、私は『ああ、やっと会えた』と思ったのだ。
何故そう思ったのか分からない。陛下の言うように理屈ではないのだ。
今はもう、ローズ母様から、そしてローディン叔父様とリンクさんから離れることなんて考えられない。
――だから。
私があの森でローズ母様に拾われたこと。
ローディン叔父様とリンクさんに出会ったこと。
あのバーティア商会の小さな家で育ったことも、全部。
そうなるようになっていた、ということなのだろう。
「アーシェ、私もリンクも自分の意志でアーシェを護ろうと決めたんだ」
「だから、気にしないこと。お役目はみんなで一緒に、の方が心強いだろう?」
二人の言葉が、私の頭や頬を撫でる大きな手が温かくて、すごくすごく心が温かく、そして軽くなった。
「あい!」
――うん、私はこの手が大好きなのだ。
おそらくは、記憶にない過去世でもそうだったのだろう。
そう、思った。
お読みいただきありがとうございます!




