316 魂に結び付いた力 1
ローディン叔父様とリンクさんは従軍していた時の話をあまりしない。
たぶん私やローズ母様を怖がらせないようにとあえて言わなかったのだと思う。
それに二人は戦争の総司令官であるクリスフィア公爵やクリスティア公爵の側近だったので、機密保持もあって深く聞いたこともなかったのだ。
……命の危険に晒された、と陛下は言った。
その時に、ローディン叔父様とリンクさんに光の魔力が発現したという。それが私の祝福の力だというのなら、私は二人に起きたことを知らなければならない。
「……おじしゃま、あぶないめにあったの?」
私の問いに、ローディン叔父様が静かに頷く。
「闇の魔術師が放った命を屠る術で、命を狩られそうになったんだ」
「!」
アンベール国に闇の魔術師がいたことは、ディークひいお祖父様から聞いて知っていた。
ウルド国も闇の魔術師の強大な力を欲して『闇の魔術師を作った』ということも王妃様に聞いていた。そしてその魔術師はクリスフィア公爵に斬られたということも。
でもまさか、闇の魔術師の攻撃にローディン叔父様が巻き込まれていたなんて思ってもいなかったのだ。
アンベール国に闇の魔術師がいたことは、アースクリス国の上層部も知っている事実だ。
ウルド国とアンベール国は元は同じ民族であり、同盟国でもある。
ウルド王が王城を守るためにアンベール国から闇の魔術師が作った魔導具を手に入れ、罠を仕掛けている可能性もあると思っていたクリスフィア公爵は、ウルド王城に攻め込むその日、兵たちを護るため、前もって光の結界の下準備を施していたという。
そしてその懸念は別の意味で的中した。
ウルド国はアンベール国から闇の魔術師が作った魔導具を手に入れたのではなく、強い魔力を持っていた子供を闇の魔術師に作り変えていたのだ。
闇の魔術師となった少年は、ウルド王城攻めのその日、アースクリス国軍に対する兵器として姿を現した。そして早速アースクリス国軍の兵士の命を刈り取ろうとその魔手を伸ばしたのだ。
それを払いのけたのは、光の魔力を持つクリスフィア公爵が振るった一太刀だった。
斬られた所からどんどん光の力に焼かれ、広がっていく傷に慄いた闇の魔術師は、周りの命を一気に刈り取って光の魔力に抗おうと魔術陣を展開したという。
闇の魔術陣は、昼間だというのにあたりを一瞬にして夜のように染めた。
刹那、クリスフィア公爵は事前に準備していた光の結界を発動させ、闇の力を弾き返し、兵たちを護った。――けれど、ローディン叔父様がいた場所はその結界の範囲外だったのだ。
ローディン叔父様はすぐさま防御結界を張ったが、闇の魔法は四大魔法を吸収してしまうのだ。結界が侵食され、闇の力が叔父様の命に手をかけようとした瞬間、金色とプラチナ色の光が現れてその闇を切り裂いたのだと、クリスフィア公爵が言った。
闇の魔術師が展開した魔術陣は一瞬にして、辺り一帯に広がった。その力を弾き返した光の魔力に、己以外の光の魔力を感じたクリスフィア公爵はその方向へと視線を向けた。
そこには、金とプラチナの光をまとう金色の大きな翼が、ローディン叔父様を護るように包みこんでいたのだという。
「ローディンの命の危機に、御守りの鶴が反応したのだろう」
そうクリスフィア公爵が言う。
「つる……」
私の作る折り鶴には光の力が宿る。
そのことは以前久遠国神社の宮司であるサヤ様から教えてもらっていた。
鶴は久遠国の神様の使いとされていて、久遠国の神様と深い縁を持つ私が折り鶴を作ると、神使である『鶴の形』に光の力が宿るのだ。
そのことを知ったのはついこの間のことだけど、折り鶴に入っていた光の力はウルド国でローディン叔父様を襲った闇をしっかりと退けたということなのだろう。
次いでリンクさんが話を聞かせてくれた。
「俺は猛毒が撒かれた川の中に、巨大な蛇に引きずり込まれて死にかけたんだ」
前ジェンド国王は戦争の終盤、主要な川に猛毒を撒きジェンド国中に混乱をもたらした。
前王は反乱軍の指揮を執っているマーレン公爵領の川にも猛毒を撒いた。リンクさんはそれに巻き込まれたという。
リンクさんは一人川に入り、川に投げ込まれた猛毒の入った瓶を回収し、起爆装置を解除していた。
そんな中で一つの毒の瓶が爆発し、中から巨大な蛇が出てきてリンクさんをとらえ、猛毒の撒き散らされた川底へと引きずり込んだという。
防御壁を切り裂かれたリンクさんは猛毒が撒き散らされた川の水を飲み込んでしまった。
毒は一瞬でリンクさんの喉や胸を焼いた。毒がまわり、水中で息のできない苦しさで意識が途絶えそうになったその瞬間、御守りの中の金色の折り鶴が光を放った。
その光は敵の魔術師が放った巨大な蛇を貫き、リンクさんが飲み込んでしまった猛毒をも浄化してくれたのだという。
光の魔力は闇を祓い、傷をも癒すのだ。
私が作った折り鶴に入っていた光の魔力は、ローディン叔父様を襲った闇を祓い、リンクさんの身体を蝕んだ毒を消し去ったということなのだろう。
◇◇◇
二人の話の後、王妃様が口を開いた。
「アーシェラ、まずは改めて光の魔力を持つ者の条件を教えるわね。私とアーシェラの魂の色はオパールのようにいろいろな色が混じっている。それは魂が何千回何万回という輪廻を繰り返し、魂の経験値を重ねている……つまり魂の年齢が高いことを示しているの。それを一つの基準として考えてね。邪神の種討伐の使命を持つ者は、神々によって魂の年齢が高い者から選ばれ、その魂に光の力を与えられるの。だから魂の年齢が高い私とアーシェラは光の力を持っている」
「あい」
オパールのような魂を持つ者は、必ずこの世界で邪神の種討伐のお役目を担うということだね。
そして神々は、めぐる数多の魂の中から魂の年齢が高い者を選んで、その魂に光の力を与えてこの世界に誕生させているのだそうだ。
「『光の魔力は魂に結び付けられている』。だから優秀な魔術師が光の魔力を得ようとどんなに努力を重ねても決して発現することはないの。後天的に光の力を得る者は神官長だけ。レント前神官長やカレン神官長は『神官長』として女神様に選定され、女神様の水晶を与えられると同時に光の力を魂に結び付けられるのよ」
王妃様の言葉の後を国王陛下が続ける。
「かといって魂の格が高くなくては、光の力は扱えぬ。レント前神官長とカレン神官長もまた、光の魔力を扱える魂の格の持ち主だということだ」
国王陛下が言う魂の格とは、魂の年齢のことを示すのだそうだ。
カレン神官長とレント前神官長はもともとの魂の格が高かったから、後天的でも光の魔力を得られたってことなんだね。
理解して頷くと、陛下は私を真っ直ぐに見た。
「アーシェラ、ここでそなたに告げておこう。二人に命の危機が迫った時、アーシェラが作り願いを込めた鶴の御守りが媒介となり、その日二人の魂に光の魔力が刻まれたのだ。アーシェラが女神様から与えられた祝福の力の一つは、『必要な者へ光の力を分け与えること』なのだ」
国王陛下はそうはっきりと言った。
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