313 そういう風になっている
私とローディン叔父様とリンクさんは、陛下から邪神の種のことを改めて告げられた。
お役目のことはフクロウの神獣様に聞いてはいたけれど、国王陛下が直々に話すことが重要であり、邪神の種討伐に携わる者の意思をきちんと確認する意味もあるのだという。
邪神の種は、世界に滅びをもたらす神がめぐる魂に蒔いた種のこと。策を講じずにいれば、確実に世界は滅びへと向かっていく。
私は、私が生まれた……大好きな母様や叔父様たちがいるこの世界が大好きだ。
――だから、大切な人がいるこの世界を守ることに躊躇いはない。
戦いに挑むということは危険に立ち向かうということだ。
だからローズ母様はものすごく私を心配している。
だけど、怯えて誰かが助けに来てくれるのを待っているだけでは、大事な人を護ることなどできない。
私は赤ちゃんだった頃から暗殺者のターゲットにされてきた。
だからローズ母様やローディン叔父様とリンクさん、セルトさんや商会の魔術師さんたち、それにたくさんの護衛の人たちに守られてきた。
本当にずっと守られてばっかりだったから、いつしか『私も守る側の人になりたい』と思うようになった。
今はまだ守られる側だけれど、いつかは私自身が己を守れるようになりたい。そしてこれまで私を守ってくれた人たちを守ってあげられるようになりたい、と。
だから、陛下から「どうだ?」と問いかけられた時、
「あい! あーちぇ、わりゅいたね、やっちゅけましゅ!」
と元気よく手を上げてそう宣言した。
「もちろんです」
「陛下や公爵様たちのお手伝いをさせてください」
そうローディン叔父様とリンクさんが答えると、陛下が目を細めて相好を崩した。
「そなたたちには、これから先アーシェラと共に様々な地へと赴いてもらうことになる。それにふさわしい役職についてもらうことにもなるゆえ、心づもりをしておけ」
と国王陛下がローディン叔父様とリンクさんに向かって話す。
様々な地に行く、ということは、外交に携わる役職ということなのだろう。
「「承知いたしました」」
光魔法を持つ者は邪神の種の討伐をするというお役目がある。
そのため、任務を遂行しやすいよう、役目を担う者たちには『魔法鞄』が与えられるのだそうだ。
だから公爵様たちも魔法鞄を持っているという。そうなんだ。じゃあアーネストお祖父様もアーシュお父様も持っているんだね。
そして彼らを直接サポートする人たちには、魔法鞄のように中に入った物の時間を止めることはできないものの、たくさん物を入れることのできる魔道具の鞄が与えられることになっているのだ。
「アーシェラはアーシュの外交についていくことになる。それには外国語が必須となるゆえ、早めに外国語の勉強を始めなさい」
「あい!」
次いで陛下はリンクさんとローディン叔父様に問いかけた。
「デイン辺境伯家の者は貿易も手掛けているため多少は言語に心得があろう」
「はい。主要な数か国語は日常会話くらいならば」
「バーティア伯爵はどうだ?」
「幼い頃はデイン辺境伯家の従兄弟たちと共に教育を受けたため、少しですが心得がございます。お役目には深く外国語を知る必要がありますので、これから精進してまいりたいと思います」
将来私が外国をまわることになるということは、言語が違う地にも行くということ。意思疎通の手段に言語は必要不可欠である。
前世では英語の文法とか苦手だったなあ。普段使わないから、テストのために丸暗記して、テストが終わると同時にまるっと忘れてしまったっけ。
おかげで海外旅行で迷子になった時、カタコトの英語が通じなくてものすごく苦労したんだよね。
こっちの世界に前世の翻訳アプリとか便利なものはないから、自分で話せるようにならないとね。それに幼児の頃から言語教育受けると身に付きやすいっていうし。
よし、頑張ろう!
それに陛下が言うには、光魔法を持っている人は、魔法の習得と同じく言語も習得しやすいらしい。
おお! すごい! そしたら何か国語話せるようになるかな?
楽しみだ!
◇◇◇
「これが二人に与えられる魔道具の鞄だ。アーシェラに渡した魔法鞄と同じくチャームに収納することができる」
クリステーア公爵のアーネストお祖父様がそう言って鞄とチャームをローディン叔父様とリンクさんに渡した。
実はフクロウの神獣様に出会ったことで、アーネストお祖父様、そして王妃様からも邪神の種のことを教えてもらっていた。
そして王妃様も結婚前にお父様のクリスウィン公爵やお兄様のリュードベリー侯爵に同行したりして、邪神の種討伐に行っていたと教えてもらった。
そういえば、女性がお役目を担う時、荒事を引き受ける男性が側に付くのが慣例だと聞いていた。
私の場合はローディン叔父様とリンクさん。
では王妃様は? と聞いたら、いつも一緒に行動するのは王妃様のお兄様であるリュードベリー侯爵と当時王太子殿下だった国王陛下だったんだって。
「私は小さい頃からお兄様が大好きで、どこにでもついていったの。そこに陛下が私を心配してついてきたって感じかしら」
リュードベリー侯爵が邪神の種討伐に赴いたのは、外交先で邪神の種を見つけたアーネストお祖父様の要請によるものだった。クリスウィン公爵から邪神の種討伐を任されたリュードベリー侯爵に、当時公爵令嬢だった王妃様がくっついて行き、婚約者を護るために王太子殿下も……という流れだったらしい。
そして王妃様が率先して討伐に向かう時も、リュードベリー侯爵と国王陛下が必ずセットでついていったという。
まったく意図したわけではなく、自然とそういう形になっていたんだって。
「まあそういう風になっているのだ」とアーネストお祖父様が言う。
?? そうなの?
どうやら、『あなたが彼女を護る人になりなさい』という指名とかではなく、自然と守る人が側に付くという風になるのが常らしい。
それが王妃様の場合、リュードベリー侯爵と国王陛下だったということだ。
国王陛下は即位前、頻繁に討伐に赴いていたらしい。即位して間もなく戦争が勃発し、様々なことがあって国を離れられないけど、必要な案件の場合は陛下も討伐に向かう心づもりでいるそうだ。
うん、自分で動く気持ちでいる陛下はすごいと思う。
どこぞやの他力本願で玉座を横取りしようとしている卑怯者とは、人としての格が違うよね!
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