306 まだまだそのままの姿で(アーシュ視点)
お久しぶりです!
二か月以上お待たせしてしまい申し訳ありません。
8巻の作業が終わり、頭を切り替えるのに時間がかかりました……。
8巻は10月1日に発売です!
どうぞよろしくお願いいたします(≧▽≦)
今回は区切り上、短いです。
「……アーシェラ?」
私はメルドたちとの話し合いの後、父アーネストとの繋がりを使って意識を飛ばしてきた。
降り立った場所は、アースクリス王宮内にあるクリステーア公爵家の区画の庭である。
大きく枝葉を広げ、美しいピンク色の花を咲かせる桜の木の下に父アーネストが座っていた。
隣には私の母レイチェルと私の娘のアーシェラも。アーシェラはどうやら私の母の膝を枕にして眠っているようだった。
「ああ、アーシュ、久しぶりだな」
「まあ、アーシュ。元気そうね」
両親がアーシェラを起こさぬようにと小声で話す。
そして、何故アーシェラがここにいるのか問うと、満開の桜を愛でにアーシェラとローズ、王妃様、ローディンとリンクがここに集って花見をし、アーシェラが桜の木の下で寝入ってしまったので、花見はお開きになり、アーシェラ以外は帰ったと聞いた。
ああ、もう少し早く来たら妻のローズの姿を見れたはずなのに。残念だ。
だが、可愛い愛娘の寝顔を見れただけでもいいことにしよう。
「旦那様、毛布を持ってきました」
小声で近くにきたのは私の側近のフィールだ。ついさっきアーシェラは寝入ったばかりらしい。
フィールは、身体が冷えないようにとアーシェラに毛布を掛けると、
「お嬢様は三歳になったばかりの私の甥っ子と同じくらいの背丈ですね。これって旦那様が言う、魔力の強い女子は成長が遅いということなのですね」
と話す。
フィールの姉にはアーシェラと同じ年の娘と三歳の息子がいる。
私の側近の一人であるフィールは数か月前に仕事場でアーシェラに初めて会った。その時アーシェラが『クリステーアの瞳』を受け継いでいることに気づいたという。
それを機に父はフィールにアーシェラを秘かに育てていたことを告げた。
そして同い年の姪っ子と比べるとあまりにアーシェラが小さいことで驚き、身体に何か問題があるのかと心配したらしい。そこで父は上位貴族のみに秘かに伝えられる『魔力の強い女子は成長が遅い』ことをフィールに教えたという。
確かにアーシェラは数か月前に五歳になったが、見た目の身体年齢はようやっと三歳に足をかけたくらいだ。フィールが驚くのも無理はない。
一年半ほど前に初めて見た三歳のアーシェラと、今の姿はほとんど変わっていない。
アーシェラもその理由を知っているが、それでも『早く大きくなりたい』と言っているらしい。
だが私としては、これまで娘の成長を見ることができなかった分、まだまだ幼い子供の姿を見守りたいというのが本音だ。
「旦那様からお嬢様が女神様のご加護を授かっていらっしゃることをお聞きしましたが……」
フィールの表情には戸惑いの色が見える。
私はアンベール国の北の森で、アーシェラの力によってあの強力で凶悪な死の結界から救い出された。
私たちが手も足も出なかった、強力な結界を切り裂いたあの圧倒的な力を目の当たりにしたことで、私はアーシェラが女神様の愛し子であることをすんなりと受け入れることができたのだ。
だがフィールは『女神様の愛し子』という、その稀な存在にどのように接すればよいか戸惑っていたとのことだ。
「ですが今日お会いしてみたら、お嬢様は私の知っている普通の子供と何ら変わりはないように見受けられました」
今日お花見に来たアーシェラはお弁当を美味しそうに頬張り、桜の周りをはしゃいで駆け回り、疲れたのか、桜の木の下で眠りに落ちてしまったらしい。
「そして『虫が嫌い』というのはアーシュ様と同じでしたね、ふふ」
とアーシェラとの会話を思い出しながらフィールが笑う。
……それは以前の話だろう。今は北の森での生活で苦手な虫にも大分慣れた。……それでも得意というわけではないのだが。
そんなフィールに父は言った。
「アーシェラは嬉しい時は笑い、悲しい時は泣く、普通の子供だ。女神様の愛し子は生まれ変わりの回数が多く魂の年齢が高いということだけで我々と全く変わらぬのだ」
そう言いつつ父はアーシェラの頭をゆっくりと愛おしそうに撫でる。
「お前も知っているように王妃様も加護を授かっている。クリスウィン公爵家では普通の娘として育てられていたぞ」
「ええ、クリスウィン公爵様も公爵夫人も『たとえ娘が女神様の愛し子であっても、自分たちの大事な娘であることに変わりはない』と仰っておられたわ」
そうだったのか。私は同い年のフィーネ様が女神様の加護を授かっていることは知っていた。
だが、彼女の力がどれほどすごいものだったのかを知ったのは、北の森を脱出してからのことだった。




