304 またね!
コメントありがとうございます。
なかなかお返事できませんが、楽しく読ませていただいています!
どうかこれからもよろしくお願いします(≧▽≦)
ただ折り鶴に光の力が内包されていたことは伏せられることになった。そこから私の加護を感づかれる可能性があったからである。
どこにでも自分の利益のためだけに人を犠牲にしても構わないと思う人間がいる。
希少な力を持ったリーフ・シュタット少年を命を失うまで追い詰めた、セレン子爵のように。
あの事件は私にとっても他人事ではない。
稀な力は、それを己のために利用しようとする危険な考えを持つ人たちを引き寄せてしまうからだ。
だからこそ、折り鶴の効能の件は秘密とされることに決まったのだった。
「なるほど……。では、折り鶴を部隊長たちに持たせれば、一気に反射魔法や厄介な闇の武器を打ち破ることが可能だということですね」
アーシュお父様は一連の話を聞き、驚きつつも納得していた。そして私の作った折り鶴を、
「先陣を切って突入する人たちの武器に付与して渡すことにします」と話している。
武器に付与? あの折り鶴をどうやって武器に付与するんだろう? と首を傾げたら、
「以前、アーシェラの魔法鞄のチャームを身体に同化させたことがあったでしょう。それと同じなのよ」
とレイチェルお祖母様が教えてくれた。
魔法鞄は私が四歳の誕生日プレゼントで貰ったものだ。その魔法鞄と連動しているチャームは、少し前に私の身体に同化させていた。
何故魔法鞄のチャームを身体に同化させたかというと、私と同じく魔法鞄を持っているカレン神官長が、魔法鞄のチャームを何度も行方不明にさせたからである。
私に魔法鞄を作ってくれたレイチェルお祖母様は、女神様の加護を持つ私がいずれ危険な目にあうかもしれない。だから身を守るための魔導具を隠し持つために魔法鞄を作ったのだと教えてくれた。
そうなんだ。そういう思いで私に魔法鞄を作ってくれたんだね。
けれど、カレン神官長が魔法鞄と連動しているチャームをよく行方不明にさせるので、その時に考えさせられた、と言った。
もし私が万が一誘拐されてしまったら、犯人は真っ先に私が身につけている物をすべて取り上げてしまうだろう。チャームには魔法鞄が収納されている。それを取り上げられてしまったら、魔法鞄をあげた意味がなくなってしまう。だから決してそれを奪われることがないように、チャームを私の身体に同化させようということになったのだ。
そして魔法鞄のチャームは無事私の身体に同化され、なくす心配はなくなった。魔法鞄には私の大事なものをたくさん入れているので、うっかり置き忘れたり、なくす心配も、そして奪われる心配もなくなったのだ。
この安心感を得られたのも、うっかりと何度もやらかしたカレン神官長のおかげだよね!
今回の折り鶴も、私にしたのと同じで、剣や弓の本体に折り鶴を同化させるんだって。折り鶴の形は見えなくなるけれど、その力は剣や弓に溶け込み、闇の力を断ち切ることができる武器になるということだ。なるほど。それで反射魔法や闇魔法が無効化されるならそれでいい。
そして、アンベール王城に残された反射魔法の魔導具を確実になくしてほしい。
それが、リーフ・シュタット少年が切実に願っていたことだったのだから。
◇◇◇
「えーと、えーと、しょれとね」
私はもう一つ、思いついたものを、現地で作ってほしいとお願いした。
緩衝材としてキャンディの箱に入れていた折り鶴は、何十人にもわたるほど数があるわけではない。ということは、厄介な反射魔法や危険な闇の魔導具に対抗するには圧倒的に数が足りないからだ。
私が感じた通りなら、あれも十分に効力があると思うから。
今なら材料は現地でも手に入る。それに加工も難しくないはずだ。
「「「!!」」」
その私の提案は、思いっきり予想外だったらしい。
アーネストお祖父様たちだけでなく、側で聞いていたルイドさんとフィールさんも驚いて口を開けていた。
「……確かにな」
「アーシェラがそう言うのなら、そうなのでしょう」
まずは作ってみます、とアーシュお父様が大きく頷く。
「できるだけたくさん必要ですわね」
うん、いっぱい作ってほしい。
「戻って早急に準備します!」
アーシュお父様がそう言うと、アーネストお祖父様も、
「ああ、サディル国の船の件も早急に対応する」と答える。
「今まで膠着状態だったものが、一気に動きそうですわね」
レイチェルお祖母様も大きく頷く。
「アーシュ、くれぐれも気を付けて。絶対に無事でいてちょうだい」
「そうだ。お前には今、妻と娘もいるのだからな。必ず生きて帰ってこい。――そして、レイチェルのためにもな」
アーネストお祖父様の言葉に、アーシュお父様がハッと何かに気づいたようにレイチェルお祖母様を見た。
「母上……。まさか、あれからも……ずっと、なのですか?」
と問いかけると、レイチェルお祖母様はその視線を受けて微笑み、
「当然でしょう」と深く頷いた。
? 何のことかな?
アーネストお祖父様とレイチェルお祖母様、アーシュお父様だけに通じる何かがあるみたい。
驚きの表情のアーシュお父様の頬に、レイチェルお祖母様が手をやる。
もちろん意識体のアーシュお父様に触れることはできないけれど。
それでも、その思いは温もりを伝えているように感じる……。
レイチェルお祖母様が息子であるアーシュお父様をどんなに案じているのか、ものすごく分かる。
「母上……」
アーシュお父様も触れることはできなくても、レイチェルお祖母様のその手に自らのそれを重ねた。
「そうですね、私の命は私一人のものではないのですから……。絶対に、無事に戻ってきます」
彼の瞳に強い意志が宿るのを感じた。
「アーシェラ、会えて嬉しかったよ」
彼は私の頬を両手で包み、やさしく微笑んだ。薄く見える緑色の瞳が私を真っ直ぐに見る。
「あい。おとうしゃま」
「ローズと一緒に待っていてくれ。絶対に迎えに行くから」
「あい!」
これまでアーシュさんのことを『ローズ母様の旦那様』だと思っていたけれど、この僅かな邂逅で、いつのまにか『私のアーシュお父様』だと感じるようになっていた。
すごく不思議な感覚だ。
「かあしゃまといっちょに、おとうしゃまのしゅきなおりょうり、ちゅくってまってましゅ!」
そう言うとアーシュお父様はとっても嬉しそうに破顔した。
「嬉しいなあ。そうだ。戻ったら、私の手料理もご馳走しよう。北の森でメルドに鍛えられたからね」
そうだった。アーシュお父様は、五年近くもの間、死の結界の中で生き物を狩り、食料を自給しながら生き抜いてきたのだった。
「あい!」
「じゃあ、またね」
そう言うと、アーシュお父様はすうっと光の粒子と共に溶けていった。
……私はこれまで、クリステーア公爵家に行った後、ローディン叔父様とリンクさんから離れるという未来しか描けなかった。
けれど。今は、アーシュお父様やアーネストお祖父様とレイチェルお祖母様と一緒に、そして大好きなローディン叔父様とリンクさん、ローズ母様と一緒にいる未来を描くことができる。
アーシュお父様に出会ったことで、そう思えるようになった。
みんなで楽しく料理をして、食卓を囲める。――そんな未来を。
アーシュお父様は、優しい笑顔を残してアンベール国に戻っていった。
うん。アーシュお父様、また元気で会おうね!
お読みいただきありがとうございます!




