302 まずはあれをやっちゅけよう!
お話の切りが良いところと思ったら、今回ちょっと短めになりました。
では、改めてテラス席のテーブル席に着く。
レイチェルお祖母様が意識体のアーシュお父様の姿を見るためには、アーネストお祖父様に触れている必要があるので二人並んで座り、アーシュお父様は二人の向かい側に立つ。そして私はレイチェルお祖母様のお膝の上だ。私用の椅子もあるのだけど、レイチェルお祖母様がそうしたいみたいなので、まあいいか。
「籠城を始めた頃は強固だった結界ですが、今は魔力の供給が十分ではなく、結界が途切れる頻度が多くなっているようです」
「予想していたことではあるが、その分アンベール城内では悲惨なことが繰り返されていたようだな……」
アンベール城を覆う死の結界。
触れた者の命を奪う強力な結界の動力源は、人の命だ。アンベール王はそれを使うことで結界を維持していたけれど、その数は有限である。
アースクリス国軍は、王城に死の結界が張られたことを知った時から、いずれ結界の維持は難しくなると予測していたという。
「かつて北の森にいた闇の魔術師は、邪神の種をその身に宿していました。それゆえに強大な力を手にしていた。魔力の有無に関係なく狩られた命は、彼の手によって、結界を維持する力に『変換』されていた。けれど、アンベール城内に配置された魔導具には、その変換する力が十分に備わっていなかったらしいのです。あの結界を発動させた後、想定していたよりも遥かに多くの贄が必要だった。それはアンベール王にとって大きな誤算だったのです。そして結界を維持するために効率的だったのは、魔力持ちの命……。――ゆえに、魔力持ちを輸入することにしたとのことです」
「早急にサディル国からの供給路を途絶えさせなければならないな」
「ええ、それをアースクリス国軍で動いて欲しいのです」
反乱軍の中にアンベール王と繋がっている者がいる、とアーシュお父様が言う。
ガイル・メルドという反乱軍の指揮を執っている人物が赴く先々での襲撃、支援物資輸送部隊の襲撃など、正確な日時や物資の輸送経路など上層部しか知りえない情報を知った上での犯行だ。
反乱軍側でサディル国の運搬船の捜索を始めたら、必ずや情報の攪乱や妨害行為をしてくるだろう、とのことだ。
「分かった。デイン辺境伯とのホットラインを使って、こちらから指示を出しておく」
「お願いします。供給路を断ったら、アンベール城を叩きます」
「死の結界は不安定ではあるが未だ健在だ。大丈夫か?」
「アンベール城の結界は四つの結界が重なり合ってこそ強固な結界になるので、まずは四方の中の一角を潰し、闇の魔導具を壊します。その上でアンベール城を光魔法を載せた浄化の結界で覆えば、他の三方の闇の結界を一気に破れるはずです。結界が揺らいだ今が好機です」
「……だが、アンベール城を覆うだけの浄化となると、だいぶ大掛かりになるな」
「六方にマスタークラスの魔術師を配置します。父上のおっしゃる通り簡単な作戦ではない。危険を伴うのは承知の上ですが、一番大事なのは死の結界を消すことですから」
闇の魔術師が作った死の結界の魔導具。それを完全に無効化するために、光の魔力が必要となる。
アーシュお父様とクリスウィン公爵とで、六方陣の核に光の魔力を載せ、死の結界を外側から一気に消し去る作戦なんだって。
六方陣の浄化の結界って、この前私が関わったバーティア領の山でのアレだよね?
あの時は確か、あらかじめ浄化の力を入れた杖を準備し、それを六方に配置し、クリスティア公爵が発動させていた。
でも、あの小さな山の限定的な範囲に比べれば、アンベール城はものすごく広いはず。それに、敵もこちらの術の行使を止めるべく全力で阻止すべく動くはずだ。もし魔術師が万が一敵に倒されてしまったら、その浄化の結界自体が出来なくなってしまう危険性がある。
それに、浄化の魔導具を壊されたり奪われる可能性だってあるんだし……。
うーん……。
――あ! それなら、浄化に使う魔導具自体を、簡単に壊されないものにしちゃえばいいんじゃないかな?
おっきくて、丈夫な、かつて『たいていの魔法を撥ね返す』と教えてもらったモノが私の脳裏に浮かんだ。その時のモノと形や材質は同じものではないけれど、『性質』は同じであることを私は知っている。
アレなら、わざわざ浄化の力を注入しなくても。それ自体が元々持っている。
そして単なる浄化魔法ではなく、闇を切り裂く力をも内包しているモノである。今回の事態を打破することができる、私が思いつく限りの、最適で最強な『魔導具』だ!
そして、実は、同じものがアンベール国にはあるのだ。
それさえそこに配置できれば、なんとかできるかも!
私が思いついたものは、ものすっごく大きくて重くて運ぶのが大変だけど、バーティア領の山で魔術師さんたちは巨大な木材を軽々と魔法で運んでいたので大丈夫だと思う。
それに、それは強力な浄化の核にもなるし、何しろ『誰にも壊すことができないもの』だしね!
どうかな?
「おとうしゃま、おじいしゃま。あーちぇ、おもいちゅいたことがありゅの」
「ん?」
「ああ、アーシェラ、言ってごらん」
アーネストお祖父様に促され、私は、浄化の核になるであろうと思われるモノの提案をした。それは、アンベール国のあちこちにあるはずのものだ、と。
聞いているうちに、アーネストお祖父様とレイチェルお祖母様、そしてアーシュお父様の目が大きく見開かれていった。
「! 確かに。それならアンベール王城の近くにもある」
とアーシュお父様が言う。そうなんだ! そしたら運ぶ距離も短くてすむよね!
「誰にも壊すことのできない、絶対的な浄化の要となるもの……。確かに、その通りだわ」
「今までそういう視点で見たことがなかったな。……うん、確かに浄化の核としてこれ以上はないものだな」
私の提案は無事採用されることになった。
ただ、私の予想よりもかなり重いものらしく、運ぶのが相当大変らしいけれど、アーネストお祖父様が「クリスウィン公爵に任せるといい」と提案していた。
クリスウィン公爵はかなりの重量でも運べる力持ちさんらしい。
ほっ、よかった。何とかなりそう。
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