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3 アースクリス国と周辺国 ・・・え? そんな理由ですか?

アーシェラが生まれたアースクリス国と周辺国の現状です。


 ここで私アーシェラが転生した世界の国の現状を説明をしようと思う。


 大きな大陸の中央を南北にかけて存在する王国。

 アースクリス。

 私が生を受けた国だ。



 私が3歳の頃。

 つまり私がお米を育てて母様達を驚かせた翌年。


 私が生まれる半年ほど前にはじまった戦争は丸4年経ち5年目に入っていた。

 とはいっても年中戦っているわけではなく、雪に閉ざされる間は自然と休戦となる。


 一年に一・二度武力衝突があるそうだ。


 休戦中でも王家に対して度々暗殺者が放たれているという。

 しかもその数が三国分なのだ。

 全く気が休まらない状態であると聞いている。


 開戦直後の一・二年は息つく暇もなく、姑息な三国と一進一退を繰り返していたが、開戦の経緯が経緯なだけに、国は一枚岩となった。


 また、各国の食糧の問題もある。

 戦争というのは、人が戦うのだ。

 食糧がなくては人は生きていけない。

 

 短期間でこの国をおとすつもりだった三国は、このアースクリス国の予想以上の武力に圧倒され、苦戦を強いられた。

 せいぜい数ヶ月持てばいいだろう、と侮っていたのがすでに三年。

 アースクリス国より食糧となる作物の供給量が少ない各国は、段々と勢いを落としていた。

 さらに開戦と時を同じくして天候不順となり穀物の収穫量が半減した。


 食糧の不足は、そのまま戦意の減退につながった。


 敵国三国は手を取りあっていたというのに、アースクリス軍は次々と敵陣を打ち負かし、徐々に敵国の一部を支配下に置いていった。


 また、たった一国のアースクリスに三方の国から同時に仕掛られたこともあった。

 しかし。アースクリスとの国境となる広大な河を渡河する際に、突然の激流によりあわや全滅。

 一方では巨大な竜巻きに襲われ、壊滅に近い状態となった。

 そして残った一国は、他の二国が攻めることができていないなど知らず、慢心していたところを一気に殲滅された。



 それが一度ではない。

 戦略を変えても、かの国に侵入しようとする度に壊滅の危機にさらされる。

 初戦では三国同時に壊滅的に叩きのめされ、二度、三度と侵攻を仕掛けても同じようなことが起こる。


 ―――さらに四度、五度と続けば、その事実に戦慄が走った。


 三国は(おのの)いた。


 ―――アースクリス国は、創世の女神達に護られている。


 そう思わずにはいられないほどに。


 そして唖然とした。

 

 敵にまわした国の、鮮やかともいえる戦略に。

 

 敵にまわした国が、智略に長けていたことに。


 敵にまわした国が、今まで爪を隠していたことに。


 刃を向けてはいけない相手に、向けてしまったことに戦慄したのだった。


 それでも敵国の上層部は、何とかこの国を落としたいという執念があった。


 潤沢な水源。

 肥沃な大地。

 ―――何よりも。天災のない祝福の地。

 開戦以降、数年に渡って各国が天候不順によって食糧難になりつつあったのに、アースクリスは全く影響を受けず、豊作だったのだ。


 ―――海に囲まれたこの大陸は、現在四つの国が存在している。

 大陸はカットされたダイヤモンドを横から見た形に似た形をしている。

 ダイヤモンドの上にあたる北側は急峻な山と崖になっている。

 急峻過ぎて、登山などできない山だ。

 その山を背に、大陸の中央を北から南に縦断して存在しているこの国―――名をアースクリス。

 水晶で王冠を作るほど結晶石が豊富に産出されている。


 その西側に同じく山を背に、西側が海に面した国はウルド。

 ウルド出身者は大柄な人が多い。

 内陸は牧畜が多く、西側に面した海では魚介類が豊富だ。

 この国アースクリスのすぐ東側大河を挟んだ隣国は、ジェンド。

 国の東北に位置する山を背にし、川も湖もあり、また東南側が海だ。

 水の豊かさはこの国が一番だろう。

 そしてもっとも東側に位置する国は、アンベール。

 北側の山を背に東側が海に面していて漁業と他の大陸との交易で発展した国だ。


 そう。この大陸の国はほぼ条件が等しいのだ。


 山も川も海も、三国にはあった。


 潤沢な水源もあった。

 海の恵みも、川の恵みもあった。

 あえて挙兵し、幾千の命を失わせてまでアースクリスを奪い取ろうとするなど愚挙としか言えないだろう。


 アースクリス国側としては、十数年も前から言いがかりをつけられて来たとはいえ、ここまでのことをされる理由がわからなかった。


 その疑問への答えは、意外にもアンベールからアースクリスへ亡命してきた戦争反対派の大臣から得ることが出来た。

 

 ―――アンベールの王は、アースクリスの王が大嫌いなのだ。と。


 その一言にアースクリス国は唖然とした。

 まさかの個人的な私怨。

 いや、国としての事情も絡んでいるはずだが、突き詰めるとそれに尽きるという。


 ―――十数年前。アンベールの王は王太子であった頃に、海を隔てた大陸の学術に優れた国に留学した。

 学ぶためだったはずだが、国から解放されたとたん、遊びに夢中になった。

 授業はほとんど出なかった。

 どうせ国で学んだものと同じはずだからだ。

 アンベールには他に継承権を持った王族がおらず、たった一人の王太子という身分。

 寝ていても王座が転がりこんでくるのだ。

 煩い目付け役がいないことをいいことに、サボることを決めた。



 時を同じくしてアースクリスの現在の王も留学していたのだが、宿舎で時折見かけてお互い挨拶するくらいで一緒に遊びに行ったことは一度もない。

 いつも白地に銀の刺繍が入った学院の制服をきっちり着ていた。

 

 男だが、悔しいくらい美しい顔立ちをしていた。長い銀髪を緩く結んで肩にかけ、真青な瞳は冷たさを感じる鋭い光を放っていた。



 同時期に留学していたウルドの王弟は、ウルド人らしく無骨で体格がよかった。しかも脳筋で扱いやすく、考え方も同じ。

 すぐに意気投合して一緒に遊び歩いた。

 王族ということで、どこに行っても褒めちぎられて、心地よかった。

 アンベール特有の紫色の髪と瞳が素敵だとモテまくった。

 ウルド特有の赤みがかった茶色も素敵だが、紫色の方が神秘的だと言われて有頂天になっていた。

 ウルドの王弟と共に二年間の豪遊ともいえる留学を終える頃に、ふと、帰ってくるまでの課題とされていたものを思い出した。

 そうして父王からの交易に関する仕事のためにと王宮内の役所を訪れた際のことだ。

 そこには三人の役人がいて、一人は経済学の講師として学院で見たことがあった。


「こちらはお約束出来ませんな」

「交易にはいろいろ条件というものがありまして。学院でも詳細はお教えしたはずですよ」

「まあ、仕方ありませんな。御父上個人が提示された分はご用意いたしましょう」

 つまり、王太子の自分の要請分は用意しないとのことだ。

「アンベールの王太子殿下。これは、御父上があなた様にご用意された試験だったのですよ。我々はあなた様が来られるのを、入学した時からお待ちしておりました」


 唖然とした。

 言外に、失格だ。と言われたのだ。

 この二年間遊び呆け、遊び以外何もして来なかったことが露呈した。

 言い訳など出来はしない。実際に何もして来なかったのだ。

 今までは自国の役人の後ろでただ話を聞いて、時折頷くだけで用は足りた。

 父王はここで学び、その成果として自らの手腕で交易して見せろということだったのだ。


 結局その課題を成す事が出来ず、留学先からアンベール国に戻ると、呆れ果てた父王と臣下達が冷たい目で王太子を見ていた。


 それから十数年が経ち、アンベールの王になっても、その大陸との交易は発展しなかった。

 そんな中、アースクリスには交易船が行き来し、アンベールより繁栄していく。

 東の海を、アンベールの横を交易船が通り過ぎてアースクリスに向かうのを歯ぎしりしながら睨みつけていたのだ。

 さらに別の大陸との交易でも、アースクリスが優先されていた。


 アースクリスの王太子は、留学をきちんと国のために使い、国益につなげていたのだ。


 同時期の王太子の留学。

 ゆえに父であるアンベール王に叱責される際には、常にアースクリスの王太子と比較された。

 留学の際の顛末は、上級貴族に広まり、陰で嘲笑されているのがアンベール王太子の耳にも聞こえてきていた。


 それもこれもアースクリスの王太子のせいだ!! と彼は吠えた。


 いや、それは違います―――と諭してくれる人は彼にはいなかった。

 一言でも物申せば自分の命などすぐに刈り取られてしまうだろうからだ。

 アンベール王は事ある毎に癇癪を起こし、いかに自分が被害者か喚き散らしていたのだ。

 完璧な責任転嫁である。

 プライドだけは山脈のように高いアンベール王による、くだらない嫉妬と逆恨み。


 そう。紛れもない逆恨みなのだ。


 少しでも国力を削いでやりたい。

 アンベールの王は王太子の時分から、そう思いアースクリス王へと執拗に暗殺者を放つようになった。


 また、ウルドの王弟を使ってウルドの王を唆した。


 身分におもねる貴族。

 戦争需要に期待する武器商人。

 

 妬みで曇った思考をさらに煽り立てる者達。


 そして、婚姻により姻戚となったジェンドを巻き込み、三国が結託したのだった。

 そんなアンベール王にアースクリス国侵攻を思い留まる様に進言した臣下も沢山いたが、嫉妬に駆られたアンベール王や主君におもねる者達によって、殺害されたり陥れられたりと、阻まれてしまっていた。


 この話をアースクリス国にもたらしたアンベール国の老臣も戦争反対を声高に表明したことで屋敷を襲撃されて、(すんで)のところでアースクリス国の間諜によって助け出された方だった。



 アースクリスの王をはじめ、それを聞いた者たちは盛大に呆れた。

 アースクリス王個人としては、アンベール王が誰になろうと、どんな性格であろうとどうでもよかった。

 大事なのは、前アンベール王の時と同様に良き隣国関係を保つ努力をし、結果的にアースクリス国の民を護る、ということだ。

 アースクリス王は国主としての信念のもとに行動していただけなのだから。


 だからこそ、残念で仕方なかった。


 アンベール王よ。

 それは為政者として失格だ。と。

 個人の私怨(それも逆恨み)で人を暗殺しようとするなど、人としても失格だと。

 ましてや、そのために幾千幾万の民の生命を危機に晒すなど、赦すことなど出来はしない。


 いつかアンベール王家に攻め入ることがあった場合、温情を与えるかどうかを考えてはいたが、それは無理だと悟った。



 ―――それから三年経って。

 アンベール国をはじめ、ジェンド国、ウルド国は疲弊していた。

 幾千の民の命を失わせた。

 自給する食糧も覚束ない。終わりが見えない泥沼状態に陥っていた。


 ジェンド国やウルド国は、明らかに勢いが落ちた。


 幾度となく侵攻しても、その度に完膚なきまでに叩き潰されたのだ。

   

 だが、今さら振り上げた拳をおさめることも出来ずに、民から強制的に兵糧のための食糧を絞り上げ続けた。


 こちらから戦をふっかけ、幾度となく攻めたのだ。

 こちらから降伏したとしても、王族は絶やされるだろう。

 ――――国のために民を守るために命をかけるのが王族。

 それなのに。

 ジェンドやウルドは王族の保身のみを考えた。

 王族(じぶんたち)が生き残るためにアースクリスを討ち取らなければならないのだ、と。


 国内の状態はアンベール国も同様だったが。

 ジェンドやウルドと、アンベールがただひとつ違うのは、アンベール国王だけは謂れもない復讐心に囚われていて諦めることなどしそうにないのだ、ということだった。

 侵攻を企てたのはアンベール王だというのに、アースクリス国が諸悪の根源であると声高に言い続けた。

 もはや狂気の沙汰である。

 そしてその身勝手の代償は三国の民に降り掛かったのだ。


 ―――その行為は民たちを絶望に陥れた。

 兵役に男達を取られ、作物の管理も行き届かないのに。

 過重労働の上、数年続いた不作のせいで日々食べるものさえ満足にないというのに。

 突然兵たちに家に侵入され、なけなしの備蓄すべてを持ち去られていく。―――国のためだと言って。

 民たちは勝手で横暴な国に対して憎悪をつのらせていった。


 夫が。弟が。息子が。父が。そして祖父までが。

 次々と戦場に駆り出されてゆく。

 生きて帰る保証もなく。

 そして、すべての食糧を民から奪っていく――


『この国のため』だと?

 国のあちこちで、民の怒りに火が付いた。

 巫山戯るな。

 これが国家のすることか!!

 ただの略奪。泥棒だ!!

 大切な子らに民に飢え死にしろという国などいらない!!

 父を夫を息子を、死地においやる国家などいらない!!


 失策に次ぐ失策。

 民の暮らしを営みをないがしろにし続けた結果―――積もりに積もった数多の怒りが集結し、ついに民が反旗を翻した。


 民や民と志を同じくする者たちと、王国側との間で激しく火花を散らしている。


 どこにそんな力があったのか、と不思議に思うほど民たちの勢いは凄まじかった。


 そしてそれは連鎖を引き起こし、あちらこちらで反旗が翻された。


 今や周辺三国は内部崩壊寸前なのだ。


 開戦して5年目に入った今年は冬が過ぎて春がきても、敵国は攻めて来なかった。

 自国の中が戦状態なのだ。自国を治められない者に他国を攻めることなど出来ようもない。

 事態が終息するまで、アースクリス国に攻め入ることは出来まい。



 このまま戦争など終結してしまえばいいのに。

 誰しもがそう思っている。

 アースクリスとて無傷ではない。

 なくした命も数多あるのだ。


 けれど、いずれ決着はつけなければならない。



 ―――戦争に引き分けなどない、のだから。



 停戦に持ち込めば、いずれ必ず周辺国はこりもせず同じ愚を繰り返す。

 自国の民を顧みず。

 それは、この数年で明らかになった。


 ―――ゆえに。

 アースクリス国がさんざん考え抜いた末、挙兵した時には決めていたこと。

 この大陸―――我がアースクリスを含んだ四つの国を『必ずひとつにまとめる』―――と。



 ゆえに、今は穏やかだけれど。

 この大陸をひとつにまとめるべく、動く時が近いうちにくる。


 だからこそ。今は時期を待つのだ―――と。



 アースクリスの民たちは、女神の加護に感謝し、作物を育てる。

 今現在も国境近くで従軍している人達の為にも。

 残る家族の為にも。

 そして、いずれ自分達が従軍することになった時の為にも。



 そして皆今日も祈るのだ。

 失っていい命などない。



 早く、早く、平和が訪れますように、と。





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