299 やっぱり楽しい方がいいよね!
先日神保町の書泉グランデさんで異世界フェアがありました!
7階のイベント会場ではサイン本の販売、3階にはサイン色紙が飾られていました。
サイン本を買っていただいた皆様、この場を借りて御礼申し上げます!
サイン色紙は抽選なので今からでもチャンスはあります。
ご興味のある方はチェックしてみてくださいね(*^-^*)
「まあ! この袋は可愛いわね」
ローズ母様が一人一人に久遠国の桜色のちりめん素材の巾着袋に入ったお弁当箱を渡す。
今日のお弁当箱とそれを包む巾着袋は、久遠国大使館のお店で見つけて購入したものだ。
巾着袋は開くとそのままランチョンマットになる仕様になっている優れモノである。
私は前世の時から和小物が大好きだったので、大使館区域のお店に初めて行った時、風呂敷やこの巾着袋を見つけ、いろんな柄やサイズ違いなど、いくつも買ってもらったのだ。
もちろん重箱のお弁当箱もね。
この巾着袋はその時に買った中でも特にお気に入りの一品だった。
今日のお花見のお弁当は重箱に詰める。そしてそれを包むのはこの巾着袋にしようと決めていた。
さっそく王妃様が巾着袋を紐解くと、黒地に桜の花が描かれたオーバル型をした重箱のお弁当箱が顔を出した。
「重箱って美しいわ」
「ええ。久遠国のこの技術は本当に素晴らしいものですわね」
王妃様の言葉にレイチェルお祖母様が大きく頷く。
漆器はこの世界では久遠国でのみ作られているんだって。他の国では漆の木は触れたらかぶれてしまう、やっかいな木として認識されているみたい。
「着物もそうだけど、洗練された美しさと繊細さを感じるのよね。この重箱にも奥深さを感じるわ」
うん、漆塗りにしろ、着物にしろ、あの美しさは簡単にできるものではない。長年培った技術力があってこそのものだ。
王妃様が重箱の美しさに感嘆しつつ、お弁当箱の蓋を開けると、次の瞬間「まああ」と嬉しそうに声を上げた。今日のおかずは王妃様がこれまで何度もリクエストしてきたもの、つまり好物ばかりが詰まっているからね!
お弁当の一段目には、王妃様が大好きな炊き込みご飯のおにぎり、そしていなり寿司。
二段目には、前世でもお馴染みだった定番おかずを詰めてきた。甘い卵焼きに、から揚げ、ウインナーソーセージ。彩にブロッコリーやレタス、トマトを添えて。
「このハートの形の赤いウインナーソーセージが可愛いのよ」と王妃様が声を弾ませる。
ふふ、そうでしょう!
今日のお弁当には、赤いウインナーソーセージを使っていろいろ飾り切りしたものを詰めてきた。
……そう、『赤いウインナー』。前世でも日本でしか売られていなかった、アレである。
前世の我が家のお弁当には、甘い卵焼きと赤いウインナーソーセージがいつも入っていた。
もちろん赤くなくてもウインナーソーセージは美味しい。では何故作ったかというと、単純に私が欲しかったからである。
赤いウインナーが出来たのは、バーティア領で初めてバースデーケーキに立てる数字の蜜蝋キャンドルを作ろうとした時のこと。
キャンドルに使う蜜蝋は誤って食しても身体に害はない。
だから数字のキャンドルが溶けてケーキに付いてしまったとしても大丈夫なのだ。
蜜蝋から作られるキャンドルは自然の色そのままで、黄色やオレンジ色となる。
それだけだと物足りないので、果実の種などから作られる食品色素で赤やピンク、青や緑など、色々な色彩のキャンドルを作ることにしていた。
そしてその時、蜜蝋キャンドルを作っていた工房の人たちは、その食品色素を使って、私にクレヨンを作ってプレゼントしてくれたのだ!
それがとっても嬉しくて、職人さんたちへお礼にお弁当を作ろうと思った時に思い出したのは、前世のお弁当にいつも入っていた赤いウインナーである。食紅が手に入った今ならあの昔懐かしい赤いウインナーが作れる! と、赤いパウダーをソーセージ工房に持ち込んで色を付けてもらったのだ。
ソーセージに色を付けるのは簡単。ウインナーを仕上げるボイルの時に赤い色素を入れて表面に色を付けるだけである。味は普通のものとまったく変わらない。
そして、納品された赤いウインナーを使って、真っ先に作ったのが、ウインナーに飾り切りをした八本足のタコさんウインナーだった。普通のウインナーに切り込みを入れてタコさんにしても良かったのだけど、タコさんウインナーは絶対に『赤』。それは譲れないこだわりだったのである。
「うん、この足の部分が香ばしくて美味いな」
「ええ、一つのウインナーで二つの食感が楽しめるタコさんウインナーは私も好きですわ」
アーネストお祖父様とレイチェルお祖母様はタコさんウインナーがお気に入りだ。
「ハートやクローバーも可愛いし、とっても美味しいわ。いつもと同じウインナーなのに色や形が可愛いと美味しさも倍増するような気がするわね!」
うん、そうだよね。
私が赤いウインナーで飾り切りをするまで、この国の料理人さんたちにウインナーに飾り切りをするという概念はなかったみたい。デザートのフルーツは綺麗にカットするのにね。
飾り切りはちょっとの手間で、料理を可愛くそして美味しそうに彩ってくれる。前世ではおせちに入れる蒲鉾を色々と飾り切りしたものだ。見た目も可愛いし、食べる瞬間まで楽しめる。
初めて茶碗蒸しを作った時、人参を花の形にした時も、みんなで『これはまた可愛いものだな』と良い反応をしていたので、飾り切りしたウインナーも絶対受け入れられると思っていたのだ。
そして予想通り、ハートの形やタコさんの飾り切りは好評で、バーティア家やデイン家の料理人さんたちも数をこなすごとに腕前が上がっている。今ではウサギさんやヒマワリなど、飾り切りのレパートリーが増えているので、今日はどんな形なのかな、と楽しみにもなっているのだ。
ソーセージ工房のセルジュさんも、最初は『私は何を作らされたんだ』と、赤い色のウインナーに腰が引けていたけれど、飾り切りしたタコさんウインナーに『形も面白いし、食感もいい!』と、ハマった。
今では赤いタコさんウインナーは、セルジュさんのソーセージ工房で一番人気のテイクアウト商品となっている。
食べ歩き用の赤いタコさんウインナーはフランクフルトのように大きいので、巨大タコさんウインナーを初めて見た時は私も驚いたけどね。
ある日、赤いウインナーの在庫がなくなってしまい、普通のウインナーでタコさんウインナーを作って出したら、お客様から盛大なブーイングを受けたらしい。色が付いているだけで味も食感も同じなんだけどね。
やっぱり、タコさんウインナーはみんな赤の方が楽しいってことだよね! ふふふ。
そして今回のお弁当には、普通サイズの赤いウインナーソーセージでタコさんウインナーやハート、そして普通のソーセージで四つ葉のクローバーなどを飾り切りして作ってきていた。
ただ切って焼くだけでも美味しいけど、形や彩が可愛いともっともっと美味しく感じるよね!
そして彩といえば。
今回はそぼろ弁当も作ってきた。重箱のお弁当とは別の器に詰めて。ご飯ものが重なるけど、珍しいものが手に入ったし、王妃様ならペロッと食べてくれると思ったからだ。
「まあ、ピンク色のこれはなあに?」
王妃様が誰よりも先に丸いお弁当箱の蓋を開けると、三色のそぼろが顔を出した。黄色の炒り卵、茶色の肉そぼろ、そして桜色の桜でんぶである。
「これは久遠国大使館の料理人から貰った、魚のタラをほぐして乾燥させて甘く仕上げたものなの。食紅で桜色にしているそうよ」とローズ母様が答える。
そう、実は先日久遠国大使館に遊びに行った時に、桜のお花見をすることと、お弁当を作ると言ったら、料理人さんが魚のタラに食紅でほのかなピンク色を付けた桜でんぶを分けてくれたのだ。おお! 桜でんぶは久遠国にもあったんだね!
久遠国では春、桜の季節には海鮮たっぷりのちらし寿司を作り、それに桜でんぶを散らすのが定番なんだって。なるほど。
それを貰った時に、そぼろ弁当を作ることにした。それも前世のお花見弁当の定番だったから。
桜でんぶを使って桜のピンクを表現。炒り卵で黄色を。肉そぼろで茶色を。
そこに、絹さやの緑を足すと、色鮮やかになっていい感じ!
「あら、この桜色したお魚のふりかけってほんのりと甘いのね」と王妃様が言う。
「魚という感じはしないな」
とアーネストお祖父様が言うと、レイチェルお祖母様が頷く。
「ええ、魚独特の匂いもまったくしませんわね」
そうなのだ。白身魚を茹でてから水に晒すため、魚独特の臭みもなくなる。魚の身をほぐして繊維だけになったそこにお砂糖や酒、みりん、お塩などで調味し、食紅を入れて炒っていくとふわふわの桜でんぶが出来る。仕上がった桜でんぶは、ピンク色で可愛い甘いふりかけとなるのだ。
「でも、桜を愛でる食べ物と言う感じでピッタリですわね」
そうでしょう! 桜でんぶはピンクで可愛いよね。
桜でんぶと炒り卵はほんのり甘い。肉そぼろは甘辛く仕上げてある。甘い部分としょっぱい肉そぼろを少しずつ混ぜ合わせて食べるのが私は好きだ。
ああ、卵のふわふわな美味しさと、肉の旨味とが混じり合ったところが美味しい~!
「一つの器でいろんな味が楽しめるのね」
王妃様はそぼろ弁当をスプーンで勢いよく食べている。さっきまでお箸で食べていたけれど、細かいそぼろは、ぽろぽろと具が落ちやすいのでスプーンを用意したらいつもより食べるスピードが速くなった。
おおう、相変わらずすごいスピードだ。美しい所作で、口の中に次々とそぼろご飯が吸い込まれていく。
私たちが半分も食べないうちに、あっという間に王妃様は、王妃様用に特別に用意した、私たちのお弁当より二回りも大きいサイズのお弁当を三個食べきっていた。
「相変わらず、すごいな」
と、王妃様の食べっぷりを久しぶりに見たローディン叔父様とリンクさんがほう、と見ている。
うん、わんこそばの記録を取り切れないほど、底なしの胃袋を持っているからね王妃様は。
嬉しそうに食事をする王妃様の姿は、いつ見ても楽しくて面白い。
お読みいただきありがとうございます!




