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295 千倍返しのあいて

感想ありがとうございます。

なかなか返事はできませんが、楽しく読ませていただいています。

これからもよろしくお願いします(*^-^*)


「さくら~~! きれ~い!!」

 アーネストお祖父様とレイチェルお祖母様に案内されたクリステーア公爵家の庭には、大きく枝葉を広げた立派な桜の木があった。

 ほとんどの蕾が花開いた満開の桜は優しいピンク色であたりを染めている。

 そして今日はいいお天気!

 見上げると、桜の花のピンクと真っ青な空とのコントラストがものすごく綺麗だ。

 ああ、懐かしい。日本の春を思い出す。

 ものすごく美しくて、そして懐かしい……心に染みる光景だ。

「ここ数日暖かかったから、一気に咲いたのよ。ちょうど良かったわ」とレイチェルお祖母様が言う。

 こっちの世界の桜は、前世のソメイヨシノにものすごく似ている。本当に桜だ。

「しゅごくきれい」

「本当ね。久しぶりに見たけれど、とっても綺麗だわ」

 ローズ母様は幼い頃からアーシュさんに誘われて何度もクリステーア公爵家の桜を見ていたらしい。

「ええ、本当に綺麗ね。昔お父様がクリステーア公爵家から桜の苗木を分けてもらったことがあるのだけど、根付かなかったのよね」

 王妃様がとても残念そうに言う。

 そうなんだ。やっぱり桜の木はそうそう根付かないみたいだね。

 そこに「「遅くなりました」」と言う声が響いた。

 振り向くと、ローディン叔父様とリンクさんがアーネストお祖父様の側近であるルイドさんに案内されて庭に入ってきたところだった。

「おじしゃま! りんくおじしゃま!」

 そう、今日のお花見は二人も一緒なのだ!

 秘密の通路は限られた人しか通れないので、二人は誰もが知る道でクリステーア公爵家のお部屋まで来た。

「お招きありがとうございます」と二人がアーネストお祖父様とレイチェルお祖母様に挨拶している。

「こちらへどうぞ」

 ルイドさんは、桜が良く見えるテラス席にみんなを案内した。

 本当は前世のお花見の時のように桜の木の下でお花見をしたかったけれど、女性陣がドレス姿であることと、お花見弁当を食べるにはやはりテーブル席の方が都合が良いので、テーブル席にしたのだ。

 前世では桜の木の下で寝転んで、空を見上げたものだ。

 やっぱりそれも外せないため、お弁当を食べ終えたら桜の木の下に敷物を敷いてもらって真っ青な空と白い雲、そして桜のピンクのコラボレーションを思う存分堪能するつもりである。ふふふ。 


 ここは王宮内にあるクリステーア公爵家の区域であるため、普段は王宮の人間ではなくルイドさんが一人で管理をしている。前述したように、高位貴族は何かと命を狙われるため公爵家の部屋は厳しく入室制限をかけている。そのため、身の回りの世話をする人も最小限となる。

 今日はお花見のために王妃様をはじめとして来客者が複数名いる。いつもより人手が必要ということで、以前ローランドおじい様のところで会った、クリステーア公爵家門のフィールさんがお手伝いにきてお花見のセッティングをしてくれたようだ。

 金髪碧眼のフィールさんは王宮で文官をしていて、今現在はリヒャルト関連の事件の担当をしている。初めて会った時、私の瞳を見て何故か固まった一人だ。

 このお部屋はアーネストお祖父様が認めた人しか入れないと聞いていたから、入室できる時点でフィールさんがアーネストお祖父様に信頼されている人だということが分かる。

 フィールさんはローズ母様に「お久しぶりでございます、奥様」と挨拶し、私にも笑顔で丁寧な挨拶をしてくれた。柔らかな雰囲気ですごく親しみやすい人だ。

 実はフィールさんはバーティア商会にいたセルトさんと同じく、アーシュさんのお付きをしていた人だったんだって。

 以前、アーネストお祖父様からセルトさんが魔法学院生時代に幼いアーシュさんを助けたことがあるという話を教えてもらっていた。

 まだアーシュさんがよちよち歩きの幼児だった頃、クリステーア公爵家の王都別邸のメイドに連れ出されたことがあった。その日セルトさんは、バイト先である王都の川の船着き場近くにあるデイン商会に向かう途中で、若い女性に手を引かれた、よちよち歩きのアーシュさんを見かけた。

 セルトさんは人の言葉の真偽を見抜ける能力者である。

『アーシュ様。あちらにお母さまがお待ちですよ』と誘導する女性の言葉を瞬時に『嘘だ』と見抜いた。

 その女についていったら男の子の命が危ない、と。

 実際そのメイドは、幼いアーシュさんに眠り薬を盛っていて、深い眠りに落ちた彼を躊躇なく王都の川へ放り込んだという。

 けれど川に沈められたアーシュさんは無傷で保護された。

 偶然その場に居合わせた、当時デイン辺境伯であったローランドおじい様がセルトさんから話を聞き、川に落とされる前からアーシュさんを護る防護結界を施しておいたおかげである。

 救出されたアーシュさんは防護結界の球体の中ですやすやと眠っていたそうだ。幼いアーシュさんに川に落とされた怖い記憶が残らなかったことは本当に良かった。

 その時の縁でセルトさんは魔法学院卒業後にクリステーア公爵家に勤めることになり、アーシュさんの身の回りのお世話と護衛をしていた。

 アーシュさんが魔法学院に入学した頃からは、クリステーア公爵家の内政や事業の管理などを任されていたと聞いている。おお、それってすごく信用されているポストだよね。

 だが、アーシュさんがアンベール国で行方不明になり、リヒャルトが仮の後継者になったとたん、セルトさんは不正の濡れ衣を着せられ解雇されてしまい、公爵家を去ることになってしまった。

 ほんっとうに、人を無実の罪で陥れるリヒャルトが腹立たしくてしょうがない!

 前にセルトさんが『やられたことを千倍返ししたい』と言った相手は、絶対にリヒャルトだと確信した私である。

 今アンベール国で従軍しているセルトさんは、アーシュさんの側にいる。

 アーネストお祖父様が時折意識を飛ばしてアーシュさんと会っているので、セルトさんが無事であることも確認して私たちに教えてくれる。

 セルトさんは私がよちよち歩きの頃からずっと側にいてくれた人なので、私にとっても大事な人だ。無事を確認することができて良かった。

 そしてもう一人のアーシュさんのお付きの人であるフィールさんは、クリステーア公爵家門の子爵家のご子息。

 アーシュさんと一緒に魔法学院に通い、お仕事で外国に行く時も一緒にいたらしい。セルトさんは公爵家の内側でアーシュさんを支える側近であり、フィールさんは行動を共にする側近ということなんだね。

 ならば、フィールさんもアーシュさんが外国をまわるもう一つのお役目のことを知っている人ということである。

 実際に会うのはまだ二回目なのだけど、フィールさんは誠実な人だと感じた。私は前世で世間の荒波に揉まれた経験もあるので、相手の表情や雰囲気からどのような人であるかを、ある程度判断することができる。

 さらに今の人生では加護のおかげもあるので、この手の直感が外れることはほとんどないのだ。


「お嬢様、さきほど作ったイチゴジュースです。どうぞお召し上がりください」

 席に着くと、大好きなイチゴジュースが配膳された。

 なんと! フィールさんの手作りですと?

「いちごじゅーす! しゅき! ありがとごじゃいましゅ!」

「クリスフィア公爵からメロンをいただきましたので、メロンジュースも作っておきました」

 おお! なんと心躍るラインナップなのでしょうか!

 王宮内にあるクリステーア公爵家のお部屋はとっても広くキッチンも完備されている。

 去年の初めに王宮内で魔力切れを起こして倒れた時、私はアーネストお祖父様に魔力を分けてもらって魔力と体力を回復させるために、数日クリステーア公爵家の部屋に泊まったのだった。

 その時、アーネストお祖父様のお部屋の他にも、いくつもの部屋があり、リビングに応接室、バスルーム、そして立派なキッチンもあったことに驚いたものだ。

 多忙な公爵は何日も王宮内で過ごすことも多いため、家と同じように過ごせるよう配慮されているんだって。

 そのお部屋の管理は従者がする。つまりは、アーネストお祖父様の従者のルイドさん、アーシュさんの従者のフィールさんがするのである。

 食事に関しては、四公爵家の当主や後継者は王位継承権を持つ王族でもあるので、王宮の料理人がいつでも用意するようにスタンバイしているのであまりキッチンを使うことはないらしい。

 でも、今回は私がお花見の弁当を用意したので、フィールさん自ら飲み物を用意してくれたみたい。でも、お茶を淹れるとかならともかく、ジュースを手作りするなんて、びっくりした。

 貴族は基本料理をしない。ローディン叔父様とリンクさんみたいに必要に迫られたのならともかく、自ら調理をする貴族は初めて見た。

 聞いたら、フィールさんだけでなく、ルイドさんも同様に軽い食事くらいなら作れるとのこと。

「従者になったころ、魚を捌いたり、獣を捌いて焼くくらいの簡単な調理を仕込まれました。本格的に料理を勉強するようになったのは、出先で何度も『食べられない経験』をしてからですね」

 というルイドさんにフィールさんが頷いている。

『出先』というのは、『邪神の種』に対峙するために出かけた時のことを言っているのだと分かった。

 先日、私とローディン叔父様とリンクさんがクリスウィン公爵領にあるセーリア神殿で、フクロウの神獣様に会って邪神の種の話を聞いたことは、王室や四公爵家と情報共有されている。もちろん、フクロウの神獣様が転移門を『場所』ではなく『人』に固定してくれるということも。

 ここにいる人たちはそのことを知る限られた人ばかりである。

「旦那様に食事を用意するのは私たちの役目ですからね」

 邪神の種を宿した魔獣や魔物は人里離れたところにいることが多い。となると、簡単に食事を手に入れることができない場所に行くということになる。

 討伐が長期戦となることもあり、そのうち手持ちの食料が乏しくなり、鳥や獣を狩るなどして自ら食材を調達することもあったんだって。



お読みいただきありがとうございます!

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1日も早くアーシュさんもアーシェラちゃんと逢えて家族で幸せな時間を過ごして欲しい ローズさんにしても幸せを取り戻して欲しい アーシュさん、アーシェラちゃんの優しいご飯、美味しいし、アーシェラちゃん、本…
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