293 どこでも〇ア
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振り向くといつの間にかローディン叔父様とリンクさんが私のすぐ後ろに立っていて「なるほど」と深く頷いている。
びっくりして固まっていたら、
「転移門を作るのに説明が必要だったから、さくっとここにご招待したのよ」と何でもないことのようにフクロウの神獣様が言った。
どうやら私とローディン叔父様とリンクさんのところに転移門(扉)を作ってくれるという提案をした時に、この白い空間に二人を誘ったらしい。
「説明は一回で済ませた方が楽じゃない?」って……そりゃそうだけど、フクロウの神獣様はなかなか大雑把な性格をしていらっしゃるようだ。
「いつの間にか白い空間にいたから驚いた」と二人が言う。それはそうだよね。
私もイオンに初めて白い空間に誘われた時はびっくりしたもの。でも二人は、去年私が神獣のイオンに白い空間に誘われたことを王妃様から聞いて知っていたので、驚きつつも自分たちに何が起こったのかをすぐに理解できたみたい。
ローディン叔父様とリンクさんは神獣様の前で膝を折り、深く頭を下げた。
二人ともここがセーリア神殿であることから、目の前にいる銀髪銀眼の女性が自分たちをこの空間に呼び寄せた存在であると本能的に感じ取ったらしい。そして私との会話を聞いて目の前の女性がフクロウの神獣様だと確信したみたい。
「私たちにはアーシェラを護って戦うという役割があるということなのですね」
「邪神の種、ですか……」
という二人に神獣様は頷いた。
「ええ。それを知る者は少ないが、そなたたちの家は代々それに関わってきている」
え!? そうだったの? じゃあ、ディークひいお祖父様やローランドおじい様も知っているってことだよね?
――世界を滅ぼすべく蒔かれる邪神の種。
光の魔力を持つ者がそれに立ち向かう。
そしてそんな彼らをサポートする人たちが必ずいるのだという。
それはどの国でも、そしてアースクリス国でも同じこと。
そして、邪神の種との戦いに赴く公爵たちを支えるその人たちの中に、バーティア家やデイン家の人たちがいるのだと神獣様は言う。
具体的に何をしているのか私には分からないが、ローディン叔父様とリンクさんはそれが何なのか薄々分かっているみたい。
「「たぶんあれのことだろう」」と言っているから、思い当たる節があるのだろう。
そしてそれを知っているのは、バーティア家ではディークひいお祖父様、デイン家ではローランドおじい様とロザリオ・デイン辺境伯なのだと神獣様が言う。
デイン家は代々の男子にその役目が回ってくるのだが、バーティア家ではこれまで数代に一人という間隔らしい。だからディークひいお祖父様の次に担うのがローディン叔父様ということみたい。
そうなんだね。まあ怠惰で定評のあるダリウス前子爵様にそのお役目ができるとは、私も到底思えないし。
うーん、なるほど? じゃあフクロウの神獣様の話を総合すると、
「じゃあ、あーちぇがわりゅいたねをやっちゅけるときは、おじしゃまたちといっしょ?」
ということなのかな?
「その通りよ」
邪神の種に対峙するためには転移門を人に固定した方が素早く行動できる。だからそのために力を貸してくれるとのことだ。
神獣様は簡単に言うけど、おそらくそれができる人間はいない。神獣様だからこそできることなはずだ。
そしてそれはローディン叔父様とリンクさんも思ったらしく、神獣様の言葉に「よろしいのでしょうか?」と問うていた。
「気にすることはない。セーリアにおいても過去に同様のことをしている。先ほども言ったように、女性がその任を担う時に護る者が必要となるゆえな」
他の国にも光の魔力を持つ女性がいて、邪神の種に立ち向かう人がいる。
女性は体格や体力的に戦いに不利なこともあるので、危険な魔獣や魔物と戦うために男性が側に付くのが常なのだという。
「近くにいなければ護れぬ。私は『必要なこと』に手を貸すだけよ」
という神獣様の言葉に納得したローディン叔父様とリンクさんは、
「ありがとうございます」と再び深々と頭を下げた。
「私たちにできることはささいなことだけなのよ」と神獣様が言う。
すでに世界は創造した神の手を離れ、人に委ねられている。それゆえに神々は過剰な関与はしない。
だが世界を破壊の神から守るために加護を与えた者へ助力をしているらしい。
これまでも同様のことをしていると聞いて、ローディン叔父様とリンクさんと同じく私も納得した。
私も、神獣様が作ってくれるという、ローディン叔父様とリンクさんがどこにいても会いに行ける転移門がものすごく嬉しい!
そしてそれは、扉の形をしているらしい。だから神獣様は、転移門ではなく扉って言ったんだね。
でもそれって、某長寿アニメの『どこでも〇ア』みたいだよね!
「しんじゅうしゃま、ありがとうごじゃいましゅ! ものしゅごくうれちいでしゅ!」
「けれど、転移門を起動させるには魔力は必要だから頑張りなさい」
あくまで、転移門を動かすのは私たちの魔力となる。魔力ゼロで動く便利な『どこでも〇ア』ではないということだ。
でも神獣様が言うには、本来成人近くにならないと意識を飛ばすことができないはずなのに、私はそれが四歳でできた。どうやら私の魔力量は相当多いとのこと。
だから頑張れば、転移門はそう遠くないうちに動かすことができるんだって。
それなら頑張るしかない! できればバーティアの商会の家を離れる前に動かすことができるようになっていればなおいいよね!
魔力さえあれば『いつでもどこにいても会いに行ける』ことを確約してもらったことで、一気に不安が取り払われたような気がする! よし、魔法がいっぱい使えるように頑張ろう!
「あい、がんばりましゅ!」
一緒に暮らせなくても、いつでも会える。そのことがものすごく嬉しい!
「んふふふ~~」
さっきまで静かに寝息を立てていた神獣のイオンがゴロンと寝返りをうちながら、ご機嫌な声を上げた。どうやらまだ夢の中のようである。
ローディン叔父様とリンクさんは、その時初めて足元で寝転がり、スピスピと寝息を立てている存在がここにいることに気づいて驚いていた。
この空間に誘われた時、私とフクロウの神獣様の姿を見て、その話の内容に心を持っていかれた。
さらにフクロウの神獣様のドレスの裾で見えなかったというのもあって、今まで成猫サイズのイオンが足元に転がっていたことに気づかなかったみたい。
「小さいけど、獅子の神獣様、だよね?」
「あい。そうでしゅ」
「え? 猫じゃなくて神獣様?」
あ、リンクさん。イオンのことを猫って言ったよ。まあ確かに今は威厳も何もない、サルナシで酔っ払ってふにゃふにゃしてるお猫様そのものだしね。
「でもなんで寝てる……あれ? ――これって、サルナシか?」
「あい。ねこはさるなしがだいしゅきだから、ぷれじぇんとしたの」
そう。イオンは眠りながらもサルナシのツルを抱きしめて離さなかったのである。
「そうそう、そこの獅子はサルナシで酔っ払って『ごろにゃああん』って言ってたわよ。すっかり猫みたいになっているわ」
その言葉にリンクさんが頷く。以前サルナシを鑑定していたので、猫が好むことは知っていたみたい。でも酔っ払うことまでは鑑定には出ていなかったみたい。そうなのか、と頷いている。
「そうなのですね。猫だけじゃなく、獅子の神獣様もサルナシがお好きだということですね」
「だから、アーシェがサルナシを持ってきたのか。……それなら、ルクス領にセーリア神殿を再建する時はサルナシを周りに植えることにしよう」
と、恍惚の笑みを浮かべるイオンを見て、ローディン叔父様がポツリと言った。
うん。それはイオンが絶対に喜ぶと思うよ!
……ローディン叔父様の言った通り、実はルクス領には、かつてセーリア神殿があった。
そのセーリア神殿は、リヒャルトが亡き前クリステーア公爵様からルクス伯爵領を受け継いだ後、真っ先に排除されたと聞いた。
彼は選民意識が強く、他国のものを受け入れない。そして排除することに一切躊躇しないのだ。
ルクス領にあった久遠国の桜を焼き払ったことは聞いていたけど、まさか三国の民が信仰するセーリア神殿までも破壊していたなんて。それを聞いた時は、リヒャルトって本当に心の狭い人間なんだと改めて思ったものだ。
……そして、やはり神殿が破壊されたことはフクロウの神獣様も心を痛めていたのだろう。
ローディン叔父様の「セーリア神殿を再建する」という言葉を聞いて嬉しそうに微笑んで、
「ならば、神殿を再建した暁には、私が壁画と聖典を与えよう」と言った。
おお! それは願ってもないことだよね!
ルクス領の前当主だったリヒャルトが未だ捕まっていないし、再建の約束が果たされるのはまだ先だけど、フクロウの神獣様は、その神殿が出来たら私たちの転移門を作ってくれると約束してくれた。
そして、「神殿に来た時は、さっきの歌を歌ってほしいわ」と私に言った。
フクロウの神獣様は音楽が好き。そしてさっきの『ふるさと』はとても気に入ったとのことだ。
「あい! いちゅでもうたいましゅ!」
あの曲は、とても好きな歌だった。
懐かしいふるさとの情景だけでなく、人との繋がりをも思い出させてくれるあの曲は、童謡のふるさとよりも好きでよく口ずさんだものだった。
「「歌?」」と、ローディン叔父様とリンクさんが首を傾げた。
そうだった。さっきの私が歌ったふるさとの歌を二人は聞いていなかったのだった。
フクロウの神獣様は音楽がお好き。
そのことを神獣様本人から告げられた二人は、「じゃあアーシェラと一緒に歌います」と答えていた。
おお、まさかの合唱ですか。
でもそれも絶対に楽しいよね!
――そして、私の前世の『ふるさと』の歌は、神獣様のお気に入りの曲としてセーリア神殿に広まり……いつしかアースクリス国中に広まっていくことになったのだった。
お読みいただきありがとうございます。




