288 クリスティア公爵の底なしは……
お久しぶりです!
『最愛の家族』7巻の校正作業が終わりましたので、更新を再開します!
7巻は4月1日発売です。
どうぞよろしくお願いします(*^-^*)
翌日の夕方、お酒のケーキが出来上がったと聞いて、厨房にやってきた。
昨日から引き続きクリスティア公爵も一緒である。
昨日と同じように厨房隣にある従業員用のテーブルにつくと、さっそく久遠国のお酒で作った酒ケーキが手際よく配膳されていく。
なぜ応接室ではなく厨房に来たかというと、実は昨日の時点でブランデーケーキの商品化が決まっていたので、改善点にすぐ対応できるここが試食会場になったのだった。
商品化については、ローディン叔父様やリンクさんよりもクリスティア公爵が乗り気で『レシピを早急に登録しよう! そして是非レシピを使わせてくれ!』とものすごくテンションが高かった。
ブランデーは主に白ワインを蒸留して作られているので、ワイナリーを持つクリスティア公爵領にはブランデーもある。どうやらブランデーの新たな可能性を見つけて心躍っているみたい。
そういえば、ローディン叔父様の新しい領地であるルクス領にはサトウキビを原料としたラム酒がある。『ラムレーズンをパウンドケーキに入れて焼き、さらにラム酒を塗ったら美味しいと思う』というようなことを言ったら、ローディン叔父様も「そうか! ラム酒でもいけそうだな!」と瞳を輝かせていた。
国内のみならず各国のお酒をも収集していたクリスティア公爵が言うには、どうやらお酒を使ったスイーツはこれまでなかったみたい。
そもそもお酒は造るのが大変なので、『飲む』以外のことはしてこなかったらしい。私は料理によく活用していたけどね。
でも、ブランデーケーキって、ブランデーシロップを作ってバウンドケーキにたっぷり染み込ませるだけだから、登録しなくてもいいんじゃないかな? と思ったけれど、登録をしておかないと後々面倒なことに巻き込まれることになるのを経験済みなので、面倒ごとを避けるため登録することにした。
これまでもバーティア商会で新商品を出してしばらくすると、バーティア商会の商品を真似て商売にする人たちがいた。代表的な商品はアメリカンドッグやフライドポテトで、今ではあちこちの店で販売されているのだ。
とは言っても、アメリカンドッグのマストアイテムであるトマトケチャップは店ごとに味が違うし、フライドポテトはジャガイモの品種が違ったりして、店ごとに特徴があって、お客様はそれぞれに自分の好みに合った店を選んでいる。味の好みって人それぞれだからいいと思う。
けれど、バーティア商会の真似をするお店の中にはちょっと困った店もあった。
トマトケチャップとかアメリカンドッグなどはもともと他の国にもあったものである。すでに特許の期間が過ぎているので誰が作って販売してもいいのだけど、これまでも『自分の店の方が先だった』とかいいがかりをつけてきた輩がいたのだ。それらはもれなくローディン叔父様とリンクさんによって返り討ちにあっていたけどね。
……どの世界にも悪い考えを持つ者はいるものだと、しみじみ。
だから、どの商品やレシピも必ず登録機関に問い合わせをして、ラスクやバター餅などの今までなかったレシピは登録をし、その他は問い合わせの事実の履歴を残すことにしている。
そういったことを地道にしていたおかげで、これまで大きなトラブルを回避することができていたので、同様にブランデーケーキとお酒を使ったケーキもレシピ登録することが決まった。
そのため、元有名菓子店の菓子職人だった本邸料理人のハリーさんが急遽別荘に呼ばれたのだ。
ハリーさんは王都別邸のファイランさんと一緒に、商会菓子部門の責任者を務めているので、新しい菓子と聞いて喜び勇んで駆け付けてきた。
かつて菓子職人をしていただけあって菓子作りが好きなハリーさんは、昨夜別荘に到着したにもかかわらず、嬉々として夜遅くまで酒ケーキの仕込みをしていたらしい。
「大陸のお酒のシロップをたっぷりと塗りました。どうぞお召し上がりください」とハリーさんが勧め、みんなで一緒に酒ケーキを口に運ぶ。
すると、ふわりとお酒の風味が口いっぱいに広がった。パウンドケーキのパサパサ感がお酒のシロップでしっとり。私に配膳されたものは、もちろんきっちりとアルコールを飛ばしたものを使用しているけれど、喉を通った時のあの熱くなるような感じと、芳醇な味と香りは前世と同じだった! ものすごく美味しい!
「おいち~い!」
思った通り、久遠国の酒で仕込んだ酒ケーキは、絶品だった!
「「うん、美味い!」」
「ブランデーケーキとは風味が違うが、久遠国の酒のケーキも、これまた絶品だな!」
おや、クリスティア公爵もちゃんと『久遠国』と正確に発音できているね。
『久遠国』という言葉はアースクリス国の人たちの発音では難しく『ク・ワァン』とか『ク・ウォォン』とか言う人が多い。そのため『大陸』とか『東の大陸』とか呼ばれるのが常である。
近頃ローディン叔父様やリンクさん、ローズ母様は、久遠国の人たちと会う機会が多いので、失礼のないように発音の練習をしていた。そのかいあって、今は『久遠国』ときちんと発音できるようになっている。私もきちんと発音できる。私にとって久遠語は日本語と同じなので、最初から通訳なしでも久遠語は理解できているし、内緒にしているけれど久遠語で話すことも問題なくできるのだ。
「酒の種類が違うとこんなに違うものなんだな」
と感心しつつ、すでに二切れ目を堪能しているクリスティア公爵。
ブランデーは主に白ブドウのワインから蒸留して作られているし、久遠国の酒は米を醸造して作られている。同じ酒とはいえ、原料も製造方法もまったく別なのである。
なので風味も味も違う。それゆえに二つの味を楽しむことができるのだ。
「美味い。ブランデーケーキも、酒のケーキも超絶美味い~~!」
「酒飲めないけど、このケーキはいける!」と料理人さんも絶賛している。
うんうん、お酒飲めなくてもこのケーキは美味しいよね!
「昨日食べたブランデーケーキより久遠国のお酒で作った方がしっとりしているような気がするわ」
と言うローズ母様に、ハリーさんが「それは寝かせておいた時間の違いかと思います」と答え、すぐに一晩寝かせておいたブランデーケーキが供された。
「まあ、本当ね。昨日のブランデーケーキよりしっとりしていて、こちらの方が好きだわ」
ローズ母様がそう言うと、クリスティア公爵がうんうんと頷く。
「ああ! 昨日とはまた違うな! さらにブランデーが馴染んでいて美味い!」
そう、熟成時間を長くとった分、パウンドケーキにお酒のシロップが馴染んでさらに一体化して美味しくなるのだ。うん、やっぱり昨日食べた時より美味しい!
「アーシェが言っていた通り、馴染ませる時間を長くするとより美味しくなるんだな」
「ああ、昨日食べた時も美味いと思ったが、こっちの方が俺は好みだな」
とローディン叔父様とリンクさんも一晩熟成した方を支持している。
そうでしょう。前世でも日を追うごとに熟成が進んで美味しかったのだ。こちらの世界は前世より熟成が早く進むので、一晩熟成したものは最高の仕上がりとなっていた。
料理人さんたちも一晩熟成した方を支持していて、商品化するのは熟成したものと決まった。
うん、いいと思う。
この中で酒ケーキを一番食べていたのはクリスティア公爵だった。ハリーさんが試作したラム酒バージョンやワインバージョンの酒ケーキを次々と食しては幸せそうな笑顔を浮かべていた。
ワインケーキも白ワインと赤ワイン、ドライフルーツやクルミなどのナッツを入れたものなど、ハリーさんが腕を振るったたくさんの種類のお酒のケーキを嬉々として頬張っていた。
本当にお酒が好きみたい。
あ、そういえば。あれもたぶん好きだろうな、と目の前にあるクッキーを見て思ったけど、今はまだ必要な材料を見つけられていないので、見つけたときは絶対に作ろう。クリスティア公爵なら絶対に好きな味だろうしね。
そしてその後の夕食では、酒ケーキでご機嫌だったクリスティア公爵はお酒スイッチが入ったらしく、ワインやブランデーなど色んなお酒を美味しそうに、しかも結構な量を飲んでいた。
どうやらいくら飲んでも酔わない体質らしく、二日酔いもせずケロッとしていた。
おお、クリスウィン公爵は大食漢で胃袋は底なしだけど、クリスティア公爵はどこまでも飲める酒豪らしい。酒好きが高じてワイナリーを持つに至ったということも聞いた。
クリスティア公爵はお酒好き。それをしみじみと認識した出来事だった。
――その後、ブランデーケーキをはじめとしたお酒を使ったケーキは『大人のスイーツ』としてクリスティア公爵家門のお店で大々的に広められ、人気を博していくことになるのだった。
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