286 人々を惹きつけるもの
今年最後の更新です。
よいお年をお迎えください。(*^-^*)
近頃、バーティア伯爵領は魔法道具店のオープンをきっかけに商人や貴族の方たちが頻繁に訪れるようになった。
街にいいお宿が出来たことも、人を呼び寄せることになったみたい。
これまでバーティア伯爵領はこれといった特産品がなかったこともあって、商人たちはバーティア領の宿屋を利用せず、素通りが多かったと聞いていた。
けれど、昨年バーティア伯爵領に生活必需品の魔道具を扱う、魔法道具店が出来た。しかも魔術師なら知らない人がいないと言われる、ディーク・バーティア元子爵が代表を務める店である。それゆえ、オープン前から注目を集めていた。
魔法道具店がバーティア領にオープンすると同時に、地方では珍しい高級宿も新たに開業。
そしてその高級宿の周辺には、王都でも数量限定でしか販売されていないバター餅をはじめとして、ドーナツやアメリカンドッグ、フライドポテトなどの店が立ち並んでいる。
そう、王都支店で売られている品物はバーティア領でももれなく販売されているのだ。
今や人気商品となったお豆腐や油揚げの工房は最初王都にしかなかったけれど、バーティア伯爵領にもできたので、その商品の買い付けに商人が訪れる。そしてその商人さんたちは新しくできたレストランで食事を楽しんでいくというルーティーンができたらしい。
人が集まる王都では、私やローズ母様の安全を考慮して、テイクアウト店までの出店に控えているけれど、バーティア伯爵領では警備体制を整えた上でレストランを経営している。
ということは、王都では出していないメニューが目白押しなのである。
人気なのは、ナイフを入れたら赤いケチャップライスに黄色の卵のドレスがかかる、とろとろオムライス。そして豚カツなどの揚げ物の定食である。最近アースクリス国では菊の葉の天ぷらが広まっていることもあり、野菜やサツマイモ、魚介をふんだんに使った天丼も人気だ。
さらに、この前クリスフィア公爵の依頼のおかげで、豆板醤やコチュジャンが出来たので、麻婆豆腐とかも増えていたっけ。
商人さんたちは商売に貪欲なので、レストランで食べたお気に入りのメニューに使われている豆腐などの食材や調味料を仕入れていくという流れが出来た。
こっそりと様子を見に行った時、オムライスを食べたお客さんが「そうそう、この味。オムライスにはこのトマトケチャップじゃないと!」と言っていた。
確かに、トマトケチャップは製造元によって微妙に味が違う。
トマトの品種は何種類もあるし、スパイスの種類や量によっても大分違うもんね。
そして、どうやら、『いつでも同じ味』であることが商人さんたちの支持を受けているらしい。
んん? 販売する以上、初めに出した商品の味をいつでも変わらず味わえるように保つことは、販売者として当然のことではないの? と思ったけど巷ではそうではないところもあったみたい。
バーティア商会では、おはぎやバター餅は元菓子職人のハリーさんやファイランさんが責任者となっていつでも同じ味になるようにしている。トマトケチャップもトマス料理長が季節ごとにトマトの品種をチェックして、いつ購入しても同じ味になるように製造し、販売ルートに乗せているのだ。
バーティア商会のスタンスは味にうるさく舌の肥えた商人さんたちの信頼を得たらしい。
商会にトマトケチャップを買い付けに来た商人さんが、「いや~、味が薄いトマトケチャップにあたった時は最悪でしたよ」「バーティア商会さんはどれをとっても品質が一定で良いですね」としみじみと言っていたので、品質を一定に保つのは本当に大事なことなのだと思ったものだ。
以前は素通りだった商人さんたちだけど、今ではバーティア伯爵領の宿に泊まっていくようになった。そして、近隣からちょっと足を延ばして、食を楽しむためだけに訪れるお客様もいる。
新しいお店のオープン記念で、特別に期間限定&個数限定でイチゴ大福を販売した時、イチゴ大福目当てにお客様が開店時間前から行列をつくっていたのを見て、どこからこんなに人が? とびっくりしたものだ。
どうやら『王都で販売していないイチゴ大福がバーティア伯爵領の新店舗のオープン記念で販売される』という話を聞きつけて、わざわざそれを目当てにバーティア伯爵領まできたらしい。
なるほど。美味しいものって、人を惹きつけるってことだよね!
人が頻繁に訪れるようになったおかげで、高級宿以外にも宿屋が新たに出来た。そこはお手頃な価格で泊まれる宿屋だけれど、しっかりと警備体制が整っているため、安全な宿屋として旅人の人気を得ているらしい。もちろんこれまでにあった宿屋にも警備体制を整えてある。
実はとあるところで、宿屋と盗賊がグルになって旅人を襲うという事件も発生しているらしい。……なんて嘆かわしいことだろう。
バーティア伯爵領の宿屋はしっかりした警備体制がとられている。そのことが利用したお客様から人づてに広がり、安心できる宿屋として、いつしか常宿として利用されるようになった。その結果旅人が多く訪れることに繋がったのだ。
そうして、たくさんのお客様がバーティア領を訪れてくれたおかげで、街のレストランや宿屋の収益は、魔法道具店の収益を大きく上回る結果となったらしい。
やっぱり安全と安心って、大事だよね。
◇◇◇
「炭酸水が入った入れ物の蓋に保存魔法を付与したものを作るか。そうすれば従業員の魔術師が常駐しなくてもいけるはずだ」
「ああ。数日炭酸が抜けない程度ならそれでいけるだろうな」
ローディン叔父様とリンクさんは採水が容易にできる仕組みを考えている。
クリスティア公爵のように炭酸水を求めるお客様用にも、炭酸が抜けないようにしっかりと保存魔法を施したものを用意することに決まっていった。
「クリームソーダを家でやるのが楽しみだな。それと、氷専用の冷凍庫も頼めるか?」
「もちろんです。ご用意させていただきます」
クリスティア公爵様、どうやら製氷専用の冷凍庫もお買い上げのようである。
「ただな、うちの妻がエールが苦手でな。刺激が強すぎるらしい」
ああ、炭酸が苦手だという人もいるよね。
「ジンジャーソーダは美味いし、アイスクリームを載せたクリームソーダを食べさせてみたいのだがそれは無理だろうな」と少し残念そうに言う。
クリスティア公爵の奥様は、毎日クリスティア公爵の長い髪を三つ編みにするのがお好きだという。とっても夫婦仲が良いのだ。
それなら自分が美味しいと思ったものを食べさせたいという気持ちは十分わかる。
んーと。それなら。
「おれんじじゅーすにあいすとか、こうちゃにあいすのっけるのもおいちい」
炭酸水ではないけれど、さっぱりしたオレンジジュースにアイスをのっけるオレンジフロートも、前世でよく作ったものだ。
炭酸の爽やかさとは違うけれど、オレンジジュースのフレッシュで濃厚な果実の甘さと旨味、そして程よい酸味は、とても美味しいのだ!
「ほう! それならいけるかもしれないな!」
さっそくオレンジを絞ったジュースやアイスティーが用意され、しっかりと氷でアイスを載せる土台を作った後、ミルクアイスを載せた。こだわりはアイスクリームを丸くして載せることである。こっちにもアイスクリームを円形にすくうアイスクリームディッシャーがあるので、綺麗な円形のアイスクリームが載せられた。
「うむ、シュワシュワ感はないが、このオレンジの酸味とアイスの相性がいいな。ソーダでなくても十分いける!」
どうやら合格のようである。
「あ、本当だ。炭酸水じゃないけど、これも美味い!」
「ああ。オレンジのスッキリした甘さと合うな」
「紅茶のも美味しいわ。飲み物が一気にデザートになるのね」
「「美味しくて、面白い食べ方ですね!」」
そうでしょう! ティーフロートやコーヒーフロートも、飲み物の苦みとアイスのまろやかさがベストマッチで大好きだった。どっちかというとコーヒーフロートの方が好きだったけど、この世界でまだコーヒーには出会っていない。
でも次々と前世と同じような食材が見つかっているので、いつかは手に入るんじゃないかなと思っている。
よし! いつかコーヒー豆に出会ったら必ずコーヒーフロートを作ろう!
お読みいただきありがとうございます!
来年もよろしくお願いします!




