285 無駄な行動力の持ち主……
メリークリスマス!
このお話を書いていて、ものすごく炭酸水が飲みたくなりました!
あのシュワシュワ感がたまらないです~(*^-^*)
「このメロンの果汁で作ったクリームソーダ、美味いな!」
「ああ、メロン自体が美味いからかもしれないな」
「この喉を通るシュワシュワ感がたまらない」
そう言いつつ、クリスティア公爵はもう何杯目か分からないクリームソーダを堪能している。
「美味しいですね!」
「絶品です!」と料理人さんたちにも好評だ。
そうでしょう! 生絞りジュースで作ったメロンソーダは美味しいよね!
メロンクリームソーダを堪能しつつ、グラスのふちに飾ったメロンを一口。うん、甘くて美味しい。こんなに美味しいメロンをジュースにするのは贅沢の極みだよね。
「しゅごい、おいちい!」
「本当ね。レモンソーダやジンジャーソーダも美味しいけれど、このメロンソーダは格別の美味しさだわ」
ふふ、そうだよね!
「よし。クリスティア公爵領でもメロンを育てることにしよう。このメロンは本当に美味い」とクリスティア公爵がメロン栽培に意欲を示した。
そういえば、クリステーア公爵であるアーネストお祖父様も、王妃様のところでメロンを一緒に試食した時に同じことを言っていた。もちろん、リュードベリー侯爵も急いで温室を作るのだと意気込んでいた。
クリスフィア公爵家の管理人さんたちから聞いたところによると、このメロンの原産地は雨が少なく温暖な気候なのだそうだ。
なので、アースクリス国で同じ条件を揃えるためには、温室栽培が最適。
試しに露地栽培もしてみたら雨で割れてしまったり、出来たとしても美味しくなかったらしい。
前世では畑の畝にビニールトンネルを被せるという手もあったけれど、前世にあったビニールのようなものはこっちの世界ではまだ出会っていない。
だから温室を所有することができる貴族や富裕層しかメロンを栽培できないみたいだ。
それでいくと、この美味しいメロンは高級品扱いになり、一般に出回ることは少ないんじゃないかな。
クリスフィア公爵家の温室の管理人さんたちは、外国生まれの作物がアースクリス国の土地でも育つように日々試行錯誤しているというから、いつかは露地栽培できるようになるかもしれない。その時が早くくるといいな。
「メロンクリームソーダは絶品だが、手軽にレストランで出せる物ではないな」
と言うローディン叔父様にリンクさんが頷く。
「ああ、それは仕方がないことだな。レモンソーダやジンジャーソーダをベースにしたものが無難だな」
うん、それはそうだよね。メロンソーダをメニューに載せることができたとしても、提供価格はとっても高くなるだろう。そもそも今は簡単には手に入らないのでお店でのメロンソーダの提供は現実には無理だ。
それは仕方ないですね、と料理人さんたちも納得している。
「ですが、ソーダという飲み物は絶対に流行ります! このシュワシュワ感にみんな驚くと思います!」
「それに、ブルーベリーやバタフライピーのソーダもいけますよ!」
「ええ! 色が変わるのは誰でも驚くでしょうし、何しろ楽しいですからね!」
と料理人さんたちは色が変わるソーダ水を激推ししている。
うん、色が変わる体験は誰でも楽しいもんね。
彼らは従業員でありながら、お店のお客様(消費者)の一人でもある。お客様視点から述べた意見は貴重な情報だ。そんな彼らに対して、ローディン叔父様たちは「もちろん」と頷いた。
「炭酸水を使ったソーダやクリームソーダは、『バーティア伯爵領限定』で出すことにする」
「それが現実的だな。炭酸水は珍しいものだが、王都まで輸送するとなると、時間とコストがかかりすぎる」
二人の言うとおり、炭酸水に溶け込んでいるシュワシュワの素である二酸化炭素は抜けやすいので、しっかりと保存魔法をかける必要がある。
バーティア伯爵領はアースクリス国のほぼ真ん中あたりに位置しているので、馬車で何日もかかる王都までの輸送コストを上乗せしたら、提供する価格はすっごく高くなると思う。
クリスティア公爵は「ここの炭酸水は他より炭酸が強くて好みの喉越しだ。高くても気にしないから是非我が家に融通してほしい」と言っている。
なるほど。炭酸泉によって炭酸の強弱が違うらしい。そしてバーティア伯爵領の炭酸水は炭酸が強いのだそうだ。
実はクリスティア公爵の領地の山にも炭酸泉があるらしい。
例によって、採りにいくのが大変なことと、さらに保存魔法を付与しなければ炭酸が抜けてしまう。さらに水が入った瓶は重い。前世のようにアスファルト舗装された道ならともかく、お世辞にも快適とはいえないガタゴトの山道を往復するのは大変である。
そして冬になると山は雪に閉ざされるため、クリスティア公爵家でも炭酸水は暖かい時期限定の飲み物となっているらしい。
確かに冬山は危険だよね。
それを聞いただけでも、炭酸水は取りに行くのが大変だということが分かる。そして、どこの炭酸泉でも冬期間は手に入らないってことだよね。
私が炭酸泉のことを知ったのは今日だけど、ローディン叔父様は自分の生まれ育った地のことなので、当然のことながら昔から知っていた。
炭酸水は珍しい。それゆえに商売に繋げることもできたはずだけど、これまでローディン叔父様があえて伏せていた理由は、一年半ほど前までバーティア家の決定権を握っていたのが父親のダリウス前子爵だったからだ。
ダリウス元子爵は昔から一切努力をすることをせず、楽な方へと流されていく性質の人物である。さらに、年中遊び歩き、働きもせず、自分の領地の管理もすべてディークひいお祖父様やローディン叔父様に丸投げで、領地経営にも一切携わってこなかった、根っからの怠け者なのだ。
彼は、元々遊ぶところが多い王都別邸にいることが多かった。バーティア子爵領の本邸にいることは滅多になく、田舎の別荘地に行くことはさらに少なかった。だから、自領の別荘地にある泉が炭酸泉であることも知らなかったらしい。
ひいお祖父様も、ダリウスにはあえて泉のことを伏せておいていたという。
バーティア家はアースクリス国でも数少ない炭酸水で事業を興すことができる可能性があった。とはいえ、ダリウス前子爵は事業に必要なことを一切するつもりがなく、深く物事を考えない傾向がある。
また、目先の欲につられて行動してしまうことが多い。これまでもそういった性質に付け込まれてさんざん詐欺のカモにされてきたのだ。この炭酸泉に関しても、一時的に手に入る大金に目がくらみ、炭酸泉のある別荘地を売り払ってしまう可能性が非常に高かった。
そして、『決定権を持つダリウス子爵』が決めたら、ローディン叔父様が反対したとしてもそれは覆すことができない。
「あの人は、そういったことには無駄に行動力があるからな。知られないのが一番だ」
とはローディン叔父様の言だ。変な行動力があって突っ走ったあげく、詐欺に引っ掛けられて借金を作ってくるという。本当に迷惑なお人である。
ダリウスに炭酸泉のことを知られたら、大事な資源を手放すはめになるだろうことは目に見えていた。
だからローディン叔父様はひいお祖父様同様に、爵位を継ぐまで父であるダリウスに知られないようにしてきたとのことだ。
うん、その判断は大正解だと思う。
ローディン叔父様は、炭酸泉が平地にあるという利点を活かして、近いうちに瓶に詰めたものを販売するつもりでいたらしい。
確かに、バーティア領なら、冬の間でも雪に邪魔されることなく安定的に供給できるからね。
「炭酸水はデイン辺境伯領でしか味わえない海鮮料理があるのと同様に、バーティア伯爵領に来なければ手軽に味わえないものとすればいい」
あ、それってバーティア伯爵領の特産品ってことだよね!
バーティア伯爵領なら採水に人件費があまりかからないので、他より炭酸水を安価で提供できるということである。
つまり、貴族でも滅多に手に入らない炭酸水を、バーティア伯爵領にくれば庶民の人たちでも気軽にレモンソーダやジンジャーソーダも楽しめるくらいの価格になるのである。
それって産地の特権だよね! すごくいいと思う。
それに、旅の途中とかでバーティア伯爵領に立ち寄った人たちも気軽に飲めるようになるだろうしね!
お読みいただきありがとうございます!




