284 もったいないおばけ、ふたたび
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クリームソーダといえば、真っ先にメロンクリームソーダが思い浮かぶよね! なので、メロンクリームソーダを作ることにした。
もちろん、ここは本物のメロンを使って!
まずはメロンをジューサーにかけてメロンジュースを作ってもらう。ここでのポイントはメロンの種が包まれているワタを捨てずに、その部分に残っている果汁をザルで濾して使うことだ。実は普段捨てがちなワタの部分はとても甘味が強いので捨てるのはもったいないのだ。
「このひと手間でメロンジュースが美味しくなるのよね」とローズ母様との言葉に、そうそう、とローディン叔父様とリンクさんが笑った。
「そうだね。まさかワタの部分がこんなに甘かったとは知らなかったよね」
「ああ、いつものように種とワタを捨てようとしたらアーシェが『捨てちゃだめ!』って言った時には驚いたもんな」
「「『もったいないおばけが出る』ってな!」」
二人は声を合わせて、ぷはっと吹き出した。
あう。だって! あそこはとっても甘くて美味しいジュースを搾れるのに、捨てようとしたんだもの!
実はアースクリス国に流通しているメロンは、甘さや美味しさは前世に比べたらイマイチなものが多い。
だからクリスフィア公爵がハウス栽培したメロンを分けてくれた時、これまでにない甘さのメロンに歓喜したのだ。
『これって、前世の北の大地で栽培されている高級メロンの味だ!』と。
クリスフィア公爵は数年前に外国で食べたメロンがあまりにも美味しくて、苗を購入して自分の領地で栽培していたらしい。
初めてその美味しいメロンを食べたのは、王都のテイクアウト店に併設している温室の管理人さんが、傷がついた規格外のメロンで作ったメロンジュースをくれた時のことである。いわゆる、メロン一〇〇%の生絞りジュース!
今まで味の薄いメロンしか食べたことがなかったので、その味を想像していた分、その美味しさにびっくり! もちろんカット済みのメロンを貰って食べたらとっても甘くて、その美味しさに感動しまくったのだ。
その時大きくて立派なメロンをもらったので、バーティア家の王都別邸でいただくことになった。
この美味しいメロンは外国から苗を購入して育てた、クリスフィア公爵家にしかないもので他には流通していないものだと聞いたので、それなら、貴重な美味しいメロンを余すところなく最後まできちんといただきたい! と思ったのだ。
なので、メロンにナイフを入れたリンクさんがいつも通りに種とワタを捨てようとした時、とっさに「しょこすてたら、もったいないおばけがでりゅ!」という一言が出てしまった。
そしたら、みんなに「もったいないおばけ、ふたたび!」と爆笑されたのだ。
あう。だって、とっさに出ちゃったんだもの。
「でも、ザルでワタの部分を濾してみたら、その果汁が本当に美味しかったのよね」
「確かに。実の部分だけでジュースを作るより美味しかったですね」
ローズ母様の言葉に、トマス料理長がくすくすと笑みながら相槌を打つ。
そう、あれはバーティア伯爵家厨房での出来事だったのでローズ母様たちだけでなく、料理人さんたちにも爆笑されたのだった。ううう。
けれど、そのメロンの味に魅了されたのは私だけではない。
ローディン叔父様とリンクさんもその美味しさに感動し、クリスフィア公爵から苗を分けてもらい、バーティア伯爵領やフラウリン伯爵領でも栽培することになった。ふふふ。収穫するのが今から楽しみだ!
クリスフィア公爵は趣味で外国の果樹や野菜を栽培しているので、基本的に家門で消費している。ということは、市場に出回っていないのである。
何故市場に出さないのかな? と思ったら、『珍しいものを栽培するのは趣味だから』という理由と、もう一つ別の理由も絡んでいた。
実は、前世のドリアンという果実にそっくりなリアンの実をことのほか気に入った先代のクリスフィア公爵様が、外国から苗木を取り寄せて育て、実ったリアンの実を先代の国王陛下や公爵たちに贈ったところ、『絶対にこれを国内に流通させるな』と国王陛下から厳命されたらしい。
リアンの実はアルコールと相性が悪く、食べ合わせを間違えると身体に悪影響を及ぼす。樹皮や枝にも注意が必要だったこともあって、リアンはクリスフィア公爵の管理下でしか栽培できないことになった、ということだ。
「まあ、あれはリアンの特性が一番の理由だったのだが、あの果実の臭いはな……。あれを嬉々として食べるとは……」と、クリステーア公爵のアーネストお祖父様が、過去にあった出来事を苦笑いしつつ教えてくれた。
……うん。リアンの実は何と言うか残飯が腐った臭いがするんだよね……。私もあれはどうしても食べられない……。クリスフィア公爵一家はあの臭いが気にならないらしい。不思議だ。
まあ、その他にもちょっと問題なものがいくつかあったせいで、クリスフィア公爵が外国から苗を購入してきたものは、基本的にクリスフィア公爵領でしか栽培されていないのが実情である。
そしてリアンの件の際に国王陛下から強く注意されたこともあって、それから自領で育てた外国生まれの作物の献上を控えていたことが、美味しいメロンがこれまで普及しなかった理由なのだそうだ。……先代公爵様、リアンの実の時にものすごく怒られたらしい。
……うん。だって、リアンの実はちょっとね……。
そんな経緯もあって、クリスフィア公爵家が栽培しているメロンをバーティア伯爵領を始めとした他の領地でも栽培するためには、国王陛下や王妃様の許可が必要だとクリスフィア公爵から聞いたので、お伺いを立てるべくメロンを王妃様に持って行ったら、「こんなに美味しいメロンは初めてよ!」と大絶賛!
すぐに許可が出たので、これから先はいろんなところで栽培され、美味しいメロンがいっぱい食べられるようになっていくだろう。今からその時がものすごく楽しみだ。
というわけで、美味しいメロンが手に入るようになったのだが、いかんせんこの美味しいメロンは今のところクリスフィア公爵領にしかないものであるため、まだまだ貴重なのである。
でもクリスフィア公爵は私の護衛機関の長でもあるので、メロンの融通をしてくれる。そのおかげで美味しいメロンをいただけることになったのだ。すごく嬉しい!
――どうやら、もったいないおばけのエピソードはクリスティア公爵のツボにはまったらしい。「もったいないおばけ、可愛いな!」と言いつつ笑いが止まらず、私を見ては何度も吹き出していた。……クリスティア公爵って、笑い上戸みたい。むー。
……まあ、気を取り直して、メロンクリームソーダ作りに戻ろう。
ジューサーにかけたメロンジュースに炭酸水を足して、蜂蜜を入れる。
そして、アイスクリームをのせ、メロンのカットにもうひと手間。六等分したものを斜め半分にし、実と皮の間に切り込みを入れたメロンをグラスのふちに飾りつけすると、
「めろんくりーむそーだ! かんしぇい!」なのである!
「まあ! 綺麗に出来たわね!」
メロンの飾り切りをしていたローズ母様が仕上げにベリーを載せて満足そうに言った。うん、仕上がりも完璧だ! さくらんぼがないけど、ベリーの赤や紫で十分綺麗! 美味しそう!
ワクワクしつつ、メロンソーダを一口。
「おいち~い!」
これぞ正しく、本物のメロンソーダだ! 当然だがメロンの味がしっかりする!
前世のメロンソーダは緑色の食品色素にクエン酸とかを足したものだった。なのでメロンソーダと言いながらもメロンの味は一切しない。それでもあの鮮やかな緑色は見ると飲みたくなったものだ。
それに比べるとこのメロンソーダは薄緑色だけど、しっかりとメロンの味がする。これこそ本物のメロンソーダだよね!
これは青肉メロンで作ったメロンソーダだけど、赤肉メロンもあるのだ!
今度はそっちでもメロンソーダを作ってみたい!!
お読みいただきありがとうございます。




