282 いろがかわるのです
12月2日に『転生したら最愛の家族にもう一度出会えました』の第6巻が発売になります!
今回も初回限定、書店限定、電子書籍限定SSを合計6本書かせてもらいました。
どれも本編にいれたいくらい心を込めて書きましたので、ぜひ書き下ろしをゲットしてみてくださいね!
書き下ろしSSの情報は活動報告に入れますね。
よろしくお願い致します!
「ぶるーべりーありゅ?」
「はい、ございますよ。ブルーベリーをどうしますか?」
トマス料理長にブルーベリーとお砂糖でシロップを作ってもらい、濾したシロップをグラスに三分の一ほど入れてもらう。氷を入れてそこに炭酸水を入れて混ぜたら、準備OKだ。
「まあ、ブルーベリーのソーダね。これも美味しそうだわ」
「ここにれもんをいれる」
トマス料理長にレモンの搾り汁を落としてもらい、スプーンでかき混ぜる。――すると、次の瞬間、グラスの中のソーダがブルーベリーの紫色から色鮮やかなルビー色に変化した。
ふふ、私は色の変わるこの瞬間が好きなのだ!
「まあ、色が変わったわ!」
「面白い!」
「これって、アレですね。ジャムを作る時にレモンを入れると色鮮やかになるのと同じ原理ですよね!」
おう、料理人さん、その通りである。ブルーベリーのアントシアニン色素はアルカリ性であり、それにレモンの酸性が反応して赤色に変化するのだ。
「あい。いちご、ぶるーべりーのじゃむつくるときに、れもんいれりゅと、きれいなじゃむになりゅ」
「そういえばそうだったわ」とジャムづくりをしたことのある母様が頷き、
「「なるほどな」」とローディン叔父様とリンクさんが納得している。
「透き通った綺麗なルビー色だな。うちの孫も色が変わる瞬間を見たら驚くし、喜ぶだろう」
うん。大人でもこの色の変化に驚くし、何度でもこの不思議な現象をやってみたくなるのだ。ほら、ここにいる料理人さんやローディン叔父様とリンクさんのように。好奇心旺盛な子供は絶対やってみたくなるはずだ!
「いろがかわるの、たのしい!」
「うんうん。今度やって見せよう」とクリスティア公爵が顔を綻ばせた。
うん、それならもうひとつ。同じようなものだけど、変わり種があってもいいかもしれない。
トマス料理長にハーブティーを入れてもらう。
「まあ、それって最近よくローディンやリンクが飲んでいるお茶よね」
「ああ、眼精疲労に効くってドレンさんに教えてもらったものだよ」
「癖がなくて飲みやすいぞ」
「青い花を乾燥させたハーブティーで、お茶の色も鮮やかな青なんだよね」
うん、カフェインが入っていないので私もよく飲んでいるものである。鮮やかな青い花で、前世にもあったバタフライピーという花である。
この花はドレンさんが男爵として新しく賜った領地に自生していたものだ。
その地はリンクさんの新しい領地であるスフィア領と同じく、代官が管理していた国の所領だった。かつて男爵位を賜った王宮の薬師が引退後に余生を過ごしたというその地には、たくさんの貴重な薬草が残されていたため、国から任命された代官は、人を雇って薬草園の管理をしていた。
そこに薬草の買い付けに来ては、自ら薬草畑の整備を買って出て作業をしていくドレンさんを見ていた代官から、彼こそこの地を任せるに相応しいと国への推薦があり、薬草園があるエルヴァス領はドレンさんに下賜されたのだ。
うん、薬師のドレンさんに相応しい領地だよね。
男爵となったドレンさんが新しい領地を見に行った時、領地の外れの野原にこのバタフライピーの鮮やかな青い花が群生していたのだそうだ。
バタフライピーは薬草園を作った先代領主である王宮の薬師が、外国から取り寄せた種を植えて育てたものなので、これまでアースクリス国にない薬草である。外国の薬草をよく知らない雇われの薬師は青い花を咲かせるこの植物が薬草だとは思わなかったらしい。
けれど、鑑定能力を持つドレンさんはそれが色々な薬効を持つ薬草であると見抜いた。
バタフライピーの薬効は、アントシアニンが眼精疲労改善を促進し、その他にもエイジングケアや美白効果、抗酸化作用、抗炎症作用もある。優れた薬草なのである。
バタフライピーは薬やハーブティーに加工され、それがローディン叔父様とリンクさんに贈られてきた。ただそれはつい最近のことで、まだアースクリス国ではあまり知られていない状況である。
それに、人は新しいものを手に取るには少なからず躊躇する。薬となれば特にね。
なので今は色鮮やかな青いハーブティーとして売り出しているようだ。
その方がとっつきやすいよね。いいと思う。
私も、前世で南国に旅行に行った時に、初めてバタフライピーをハーブティーとして飲んだ。薬効とか考えずにその鮮やかな青色のお茶の色に、不思議だなあと思いつつ美味しくいただいたものだ。
そして。私が何よりもこのバタフライピーが好きな理由は、味の美味しさはもちろんのこと、これもブルーベリー同様に、レモンを絞ると色が変わるのである!
まずはみんなでそのままストレートで飲んでみる。
「まったく癖がないですね」
「ほんのりと豆の香りがしますね」
料理人さんたちは初めて飲むバタフライピーに興味津々だ。
「この青色が自然の色とは、面白いです」
というのは、トマス料理長だ。彼も先日初めてバタフライピーをお茶として飲んだ時、その色に驚いていた。
では、次に行くとしよう。
氷の入ったグラスに、濃い目に淹れたバタフライピーのお茶、そして先ほどと同様に蜂蜜と炭酸水を注ぎ入れる。
「まあ、鮮やかな青色で綺麗だわ」
「ここにレモンをしぼりゅ」
トマス料理長にレモンの搾り汁を落としてもらうと、レモンが触れたところから、ゆっくりとグラスの中の青色のソーダがピンク色に変わっていった。
「まあ、ピンク色になっていったわ!」
「これもブルーベリー同様に色が変わるんだな」
「へえ、面白い」
別のグラスにレモン汁を多めに入れると、こちらは紫色になった。
「うん、味はレモンソーダだな。透明なレモンソーダもいいが、この青がピンクに変わるのが何とも不思議で面白いものだな」
一番先に試飲したクリスティア公爵が満足そうに笑んだ。そしてもれなく「孫と一緒に試してみるのが楽しみだ」と言う。本当に孫ラブなんだね。以前行ったクリスウィン公爵家でも家族仲が良かったし、クリスフィア公爵も子供たちを溺愛している。
公爵家の家族仲はとても良好なんだな、と思う。
「なんと。これは面白いですね!」
「味はレモンソーダですが、色が違うと何となく不思議ですね!」
料理人さんたちは試飲しつつ、感心しきりである。
バタフライピーはもともと癖がなく飲みやすいお茶なので、鮮やかな青色を楽しみつつストレートのお茶として飲むのがお気に入りだった。マメ科の植物なので、ほんのり豆の風味があって美味しい。レモンを入れるとさっぱりとしてこれもまた好きな飲み方だった。そして炭酸水を入れると、さらにすっきりと美味しく飲めるのだ!
一度やって見せると、料理人さんが次にやるのはいつも通り実践である。テーブルのあちこちでリトマス試験紙のような実験が繰り広げられ、皆の「おお~!」という声がこだましていた。
ふふ、やっぱり楽しいよね!
さて、皆、実証実験は一通り終わったね?
では、私が炭酸水を見つけた時から、絶対に食べたいと思ったものを作ることにしよう!
お読みいただきありがとうございます。
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