281 しゅわしゅわがおいしい
お久しぶりです!
6巻の改稿作業が無事に終わりました。
6巻は12月2日(月)発売です。よろしくお願いします!
今回のお話は区切り上、少し短めです。
次はお待ちかねの炭酸水!
別荘の敷地内にある泉に湧き出ている炭酸水をたっぷりと汲んできてもらっていた。
帰る時は瓶詰めした炭酸水をたくさん持ち帰るつもりである。
まずは手始めに、炭酸水にレモンの搾り汁と蜂蜜をたっぷり入れたレモンスカッシュを作り、くぴっと一口。
「おいち~い! しゅき!」
ああ~~! 前世ぶりのレモンスカッシュである。甘くて酸っぱくて、何しろしゅわしゅわ感が最高に爽やか!
「へえ、レモンの酸味に蜂蜜の甘味、それに炭酸泉のしゅわしゅわ感がいいな」
「ああ、さっぱりする。ただの水で作った物よりいいね」
リンクさんとローディン叔父様は気に入ったらしく、すぐに自分でおかわりを作りだした。
「これは、スッキリした飲み口でいいわね」
ローズ母様はこの泉の水を初めて飲んだという。
別荘地の外れにある泉の周辺は岩とかが多く足場が悪いということもあって、お散歩で足を向けることもなかったらしい。
また、泉のある場所は領主のお屋敷の敷地内なので、領民は入ることはできない。結果的に泉の存在を知る人は少なかった。
「こっちの、ジンジャーソーダはちょっとした辛さがいいな!」
クリスティア公爵はショウガの搾り汁を使ったジンジャーソーダがお好みのようである。
ジンジャーソーダとは、前世でいうジンジャーエールのことである。これもショウガをスライスし、砂糖とシナモンと一緒に煮て作ったジンジャーシロップを炭酸水で割ったものである。
ジンジャーエールのエールとは発酵ビール、つまりお酒のことなので、アルコールの入っていない炭酸水を鑑定した時にでた『ソーダ』を名に冠している。だからレモンスカッシュもそれに倣ってレモンソーダと呼ぶことにしよう。
「炭酸水はこういう風に使えるのだな。エールのような喉越しが気に入った」
クリスティア公爵はいろいろ試飲して、ショウガの搾り汁多めで、辛めのジンジャーソーダが一番お好みのようである。二杯目三杯目のおかわりもジンジャーソーダ一択だ。
「本当に美味しいです。私たちは鑑定能力がありませんので、泉の周辺の整備に行った時も、喉が渇いても泉の水は飲めずにいたのです」
別荘の管理人たちも、各々イチゴジャムやマーマレードジャムなどを炭酸水に溶かし、様々なソーダを楽しみながら、そう言った。
別荘地の管理人ならこれまでも炭酸水を飲んできていると思ってきたのだが、そうではなかったらしい。
水というのは周りの環境で汚染されやすい。だからしばらく倒木で塞がれていた山の泉を見つけた時にも、リンクさんが鑑定した上で口にした。今回の泉の水も鑑定でOKが出たので採水してきたのだ。
「ん? たしか、鑑定用の魔道具が常備してあったはずだが?」
ローディン叔父様が首を傾げた。
以前ディークひいお祖父様が、泉の水質を定期的にチェックするようにと鑑定用魔道具を別荘に準備していたらしい。
その言葉に、「ええと、以前は確かにあったのですが……」と、別荘の管理人たちが言いよどんだ。
その様子を見て、ローディン叔父様とリンクさんが、ああ、と何かに気づいたようだ。ローズ母様も「なんてこと」と呟いた。
「……あの馬鹿親父か。気づかなくて悪かった。新しいものを用意しておく」
はあ、と息をつき、ローディン叔父様がそう言うと、
「いいえ、大丈夫でございます」「ありがとうございます」と別荘の管理人たちが一様にほっとした表情をした。
「? なあに?」
「鑑定用の魔道具は高額で取引されるんだよ」
「ああ、『水』は命を繋ぐためにとても大事なものだ。だからそれを鑑定できる魔道具は高値で売れるんだ」
というローディン叔父様とリンクさんの呆れたような表情で私にもようやく理解ができた。それって、ダリウス前子爵様が別荘にある鑑定用の魔道具を売り払ったってことなんだよね?
別荘には別の水源から水を引いてあるので「使っていない泉をたまに鑑定するためだけの魔道具は不要だ」と言って持ち去ったのだとか。
ダリウス前子爵はそれを売ったお金で豪遊していたのだろう。自分勝手すぎる。
泉は普段使われなくとも、有事の際には絶対に必要になるというのに。
この別荘は長くバーティア伯爵家に仕えてきた人たちが、別荘地の管理をしつつ余生を送る場所でもあるのだという。もちろん若い人たちもいるけれど、全員が平民である。魔力を持たない者がほとんどなのだ。
なので泉の水が飲用可かどうかを『鑑定』できる人がいない。さらにダリウス前子爵が鑑定用の魔道具を持ち去ったことで、炭酸泉が使われてこなかったのである。
納得である。それなら仕方ない。
ローディン叔父様とリンクさんはこれまでもたまに別荘地に来て周りを見回っていたし、リンクさんは鑑定持ちなのでこの泉が飲用可であることを知っていたけど、管理人さんたちはそのことを知らなかったらしい。
ローディン叔父様はすぐに新しい魔道具を用意すると話し、さらに炭酸水を定期的に伯爵邸に届けるように指示をしている。やった! これからはソーダを頻繁に飲めるようになるよね!
よし! それなら、もう一つ私の大好物を作ろう!
お読みいただきありがとうございます。
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