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28 もうひとりのおかあさま



 ――――その言葉に私も母様も固まった。

 帰さないってなに!?


 イヤだ!!

 母様や叔父様たちから離れたくない!


 母様が私を離すまいと抱きしめたのを見て、王妃様が『大丈夫よ』と言いながら手を振って否定した。


「レント前神官長が反対したのだけど、それを重臣たちが押し切って決まりかけた時にね―――女神様の水晶が怖いくらいに真っ黒な光というか闇を放ったの」


「「え……」」

 私と母様の声が重なった。


「それも、今の神官長の水晶と、レント前神官長の水晶、ふたつ同時に」

 王妃様はその時のことを思い出して少し顔を強張らせていた。


 レント司祭様は言っていた。

 肯定は、光輝き。

 否定は、黒くなると。



「女神様の否定ってすごいわね! 誰ひとり、もう何も言えなかったのよ」

 否定は『怒り』につながるという。

 女神様の明確な『怒り』を向けられて、その話はなくなったそうだ。

 ――――ああ、よかった。

 女神様ありがとう!


「だから、今まで通り暮らしていていいのよ。そのかわり、ひそかに護衛が付くわ。それ位は許してね」


「あい!!」

 母様と叔父様達との暮らしを壊される位なら護衛がつくくらい大丈夫だ。


「ああ……よかった……」

 母様が私を抱きしめながら、安堵の涙を落とした。

「かあしゃま」

 母様と離れなくていいと分かったら安心して私もえぐえぐと泣いてしまった。

「かあしゃまと、ずっといっしょにいたい」

「ええ。ええ。ずっと一緒よ。私のアーシェ」


 母様と私が少し落ち着くと。

「ごめんなさいね。びっくりさせて。でも護衛が付くのを納得してもらうには、話さずにはいられなかったのよ」


「ごえい。どうちて?」


「嫌な話だけど、加護を持つ者を利用しようとする者は多少なりといるのよ。……加護があるから結果的には大丈夫だったけれど、その時に向けられた悪意には……とても傷ついたのよ。攫われる恐怖は二度と味わいたくないわ」


 王妃様も女神様の加護を持っていると教えてもらった。

 瞳の奥に見えたのは、女神様の加護の印なのだそうだ。


 公爵家の中で守られていても、出かけた先で隙をつかれて攫われたことがあるそうだ。


「私の場合は、実家が公爵家で、生まれた時から陛下の婚約者だったことから、血筋を狙う者と、魔力的なものを狙う者の二通りだったわね」


「血筋はしかたないわ。高位貴族の家に生まれた女性には付いて回る危険よね。ただ、それに加護を貰っているということがどこからか漏れて、危険性が上がったのよ」

 それは私にもわかる。

 貴族は結婚相手の身分で立身出世をはかることができる。

 これ以上はない血筋と加護を持った者を妻にすれば、出世は思いのまま―――と思い描く自分勝手な者たちに狙われたということだ。


「だから、全寮制の魔法学院に行くのも遅くなってしまったのよ。同年代の子たちにチビって馬鹿にされるのが嫌で時期をずらしたと言われていたけれど、……まあ、それもあったけど。大きな理由は自分で身を護れる魔力をしっかりとつけてからってことだったのよね」


「え……。それって、入学する前に魔力の使い方をマスターしていたってことよね?」


 魔法を学ぶために入学する魔法学院に、魔法をマスターしてから入学するなんて。と母様が驚いている。


「ええ。魔力を扱ったり、その力を高めるために勉強しに行くところなのにね。でも、陛下に輿入れする前に、絶対に魔法学院の卒業資格を取らなければいけなかったのよ。この国のステータスである魔法学院の卒業資格がない王妃だなんて、貴族たちにも示しがつかないでしょう?」

 王妃様は魔法学院の卒業と同時に現在のアースクリス国王に嫁ぐことが決まっていたそうだ。


「だから、魔法学院在学中は、私にとって復習になるから真剣に勉強はしなくてもよかったわ。強い魔力のおかげで、魔法を使って私をどうこうしようという人たちにも対処できたし。それに、ローズとも友達になれて、とってもとっても楽しかったのよ!!」

 

 ローズ母様と目を合わせて、王妃様が声を弾ませて笑った。


 けれど、次の瞬間、王妃様が声を落とした。


「だけどね厄介なのが何人かいたのよ―――血筋とか関係なく、ただただ自分たちの魔術の研究の為に私を使おうとしたやつよ。……親切そうに私に近づいてきて、急に髪を何本か抜かれたし、少しだけでもいいから血をくれとも言われたわ」


 母様が『そんなことが』と目を見開いて驚愕した。

 もちろん私もだ。

 血なんて痛い思いをしなければ出るものじゃない。

 それを『くれ』だなんて。

 アタマがおかしい。


 辛そうに話す王妃様は、次いでギラリと強い怒りを宿した目をした。


「そんなやつらはどんどん増長(エスカレート)する。人を助けるための万能薬を作るためだとか、お為ごかしに! ―――ふざけないで!!」


「『禁書』とやらに、そんなものが書かれているというわ。禁術なのに、いつの時代でもそんなものに傾倒する者たちがいるのよ」

 ふう。と王妃様がため息をついた。

 これまでに王妃フィーネ様に近づいた者たちは、陛下主導のもとで処分されているとのことだった。

 護衛は、魔術に長けた者が主体でつき、片っ端から潰していくのだそうだ。

 片っ端からって。そんなに危ない人がたくさんいるの?




「だからね、アーシェラ。加護を持っていると、一部の暗黒面に晒されるのも事実」


 つまり。

 加護を持った王妃フィーネ様が辿った道は、同じく加護を持った私にもふりかかるということなのだ。


 ひいおじい様やデイン前伯爵様があんなに心配していたのは、王妃フィーネ様のことを知っていたからなのだ、とやっとわかった。


「こわい。かご、いりゃない……」

 怖くなって母様にしがみついた。

 そんな闇の秘密結社みたいなのに攫われたら何をされるの?

 血を抜かれてしまうの?

 もしかしたら、もっともっとおぞましいことをされるかもしれない。


 母様も私を抱きしめながらふるえている。


「怖がらせてしまってごめんなさいね。私たちもアーシェラを全力で護るわ!! ただ、ごく一部のあぶない馬鹿な者たちがいるということを頭の片隅から離さずに、気をつけてほしいの。―――だから、その為に今この話をしたのよ」


 王妃様が膝をついて私の手をとって撫でた。

「アーシェラの前に体験した私が言うのよ。絶対に大丈夫。ちゃんと信頼できる護衛が付くし。それに。加護をもらっちゃったものはしかたないわ」


「ちかたにゃい?」


「そうよ。創世の女神はきまぐれで加護を与えるわけじゃないということよ」


「―――『創世の女神は必然を与える』」

 母様がポツリと言った。


 私に加護があるのは必要だったから?

 ならこれは必然なのか。


「私はこの時代に女神様に加護を貰った。それも国を支える立場で。だから私の力はその為にあるのだと思っているわ。―――あなたは今別の場所でみんなに影響を与えているわ。たぶんそれも必然よね」



「えらばれちゃったんだから、仕方ないわよね! 私たち」

 王妃様がふふ。と笑う。


「あなたは一人じゃないのよ。アーシェラ。――――それに、私も嬉しいわ! 一人じゃないってわかって!」

 え?! じゃあ。


「今この国で加護があるのは、あなたと私だけなのよ。…そしたら、私たちって、女神様つながりよね! 女神様の子で、姉妹みたいよね!!」

「フィーネ。姉妹にするには年が離れすぎてはいない?」

 うむ。年の差は23歳だ。

 王妃様の素顔だとギリギリ年の離れた姉妹といってもいいのか?


「では、私の娘ってことでどう?」

「アーシェラは私の子よ」

 母様が少しすねた。

 なんだかかわいい。


「私たちの娘ってことにしたらいいじゃない。私、女の子も欲しかったの」

 力の強い者が王家に嫁ぐと、大抵ひとりしか生まれないという。


「今はまだ、ははうえ~って絡みついてくれるけど。お兄様の家族を見ていて思ったの。男の子って自分の世界を作って、早くから母親から離れちゃうのよ。私はお母様のことが大好きで今でもよく会っているから。それを考えたら娘も欲しかったな~って」

 王宮では気の許せる相手があまりいないから、と少し寂しそうに笑った。


「だから、王宮でのお母様にしてくれるとうれしいわ」

 そしていっぱいお話してね。と私の手を撫でる姿はやっぱりちょっと寂しそうだった。

 そんな王妃様をみて母様が折れた。


「しかたないわね、フィーネは。……いいわよ。アーシェラを守ってくれるなら」

「ありがとう! ローズ!! 当然よ!! アーシェラは絶対に守るわ!!」


「よろしくね! アーシェラ! 私があなたのもう一人のお母様よ!!」


 ぎゅうっと、王妃様が私を抱きしめた。



 ―――あれ?


 なんとなく、腕の感触におぼえがあるような気がする。

 王妃様の香りもどっかで……。

 どこだっけ??





お読みいただきありがとうございます。

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