279 気持ちが行動にでています
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「こんな果実は見たことないな」と皆が口々に言う。
え? そうだっけ?
前世で、小さな実のサルナシは品種改良がされて大きなキウイフルーツになった。
アースクリス国にもキウイフルーツがある。今の反応をみると、サルナシが品種改良されてキウイフルーツになった感じではないようだ。
まあ、前世とは世界が違うのでキウイフルーツは元からあったのかもしれないよね。
そう思いを巡らせながら、サルナシの枝から次々と実を採って柔らかい実と硬い実を仕分けしていく。
「ん? 硬い実はどうするんだ? ものすごく酸っぱかったぞ?」
「こおりざとういれて、しろっぷにすりゅ!」
硬い実を何日かおいておくと追熟して食べ頃になるのだが、せっかくこんなにたくさんあるんだもの。前世で収穫時期には毎年仕込んでいたものを作りたい!
シロップ漬けにする実は未成熟の硬い実の方を使う。氷砂糖を入れてしばらく熟成すると果実の旨味が染み出したシロップができる。それを水で割ってジュースとして飲むのが好きだった。
それに炭酸水を見つけたので、ソーダにもできる! 楽しみが増えてすっごく嬉しい!
「ああ、シロップ漬けにするんだな。じゃあ摘むか。このまま枝ごと持って帰ってもいいが実がぼろぼろと落ちてしまいそうだしな」
「熟した実は潰れやすいからこっちの入れ物に入れて、硬い実はこっちの袋に入れよう」
ローディン叔父様とリンクさんはシロップ漬けにすると聞いて納得したらしく、手早く摘んで仕分けをし始めた。サルナシは枝にたわわに付いているので一瓶だけではなくもっと作れそうだ。
私たちの会話に「シロップとは?」とクリスティア公爵が首を傾げた。
「ああ、果実を同量ぐらいの氷砂糖と一緒に瓶に詰めておくと、果実から果汁が染み出して美味しいフルーツのシロップになるんですよ。それを飲んだり料理に使ったりします」
「イチゴのシロップはミルクに入れるととても美味しくて、アーシェのお気に入りです」
「ほう、氷砂糖か」
そう、私は商会の家でシロップ作りをしていた。思いがけずフルーツの貰い物が重なって食べきれなかった時に、氷砂糖を入れてシロップ漬けにしたのだ。
ついでにお酢を入れてフルーツビネガーにもしてみた。
フルーツシロップに使う氷砂糖は、結晶の形をした大きい粒の砂糖である。氷砂糖は保存性が良いので昔から軍の携帯食料とされ、そのまま飴のように食されていたらしい。そのことからも、長旅のお供、そして農家さんたちの栄養補給にも使われていた。なので探さなくても見つけることができたものである。
そしてどうやら氷砂糖はそのまま食べるだけで、氷砂糖を使って果実を漬けることはしていなかったようだ。お砂糖を入れてジャムは作るのにね。
基本のフルーツシロップは果実と氷砂糖だけを重ねる。すると氷砂糖の浸透圧のおかげで果実からゆっくりと果汁が引き出されてきてシロップになるのだ。
水を一滴も入れていないのに、イチゴと氷砂糖だけで鮮やかなイチゴ色のシロップが出来たことに、ローズ母様たちはとっても驚いていた。
「シロップも美味いけど、ブランデーバージョンの方が大人の味で好きだな」
「ブランデー⁉」
サルナシの実を摘みながらリンクさんが何気なく言った言葉に、急にクリスティア公爵が食いついた。そういえば彼は無類のお酒好きなのだった。
「ええ、ブランデー以外の酒でも試してみたらなかなかいけました」
「イチゴやオレンジ、レモンでも同様に出来ます。フルーツの旨味と爽やかさが酒に入って美味しいですよ」
初めてブランデーバージョンにした時は「酒にフルーツを入れるのか⁉」と驚かれたものだ。
もともとワインやブランデー、ラム酒などのお酒は、お酒そのものを楽しむという感じで、フルーツをお酒に漬け込むという発想はなかったらしい。
けれど、出来上がったフルーツ酒を飲んだローディン叔父様とリンクさんが、フルーツの果汁がお酒に融和したその美味しさにハマって、いろいろと自作するようになったのだ。
ローズ母様はこれまでアルコール度数の高いお酒が苦手だったのだけど、果汁の美味しさと氷砂糖の甘さが溶けこんだフルーツ酒は好きだと、少量なら飲めるようになった。
そんなことがあったので、ホットワインにジュースを入れた時も「ブランデーにフルーツが合うんだから、ワインにも合うんだな」と自然と納得していたものだ。
それにローディン叔父様の新しい領地であるルクス領ではラム酒を作っているので、今後はラム酒バージョンも増えそうである。
「たぶんこのサルナシでも出来ると思います」
うん、二人の想像通り、サルナシ酒は前世でもフルーツ酒のなかでも特に美味しいと言われていたものだ。
それも完熟前の硬い実を使うのがベストなのである。
「果肉は甘味が濃厚で微かな酸味もある。美味いフルーツ酒になりそうだ」
「久遠国の酒と合わせてみるのも面白いかもな」
以前、久遠国大使館の秋津様からバーティア領産の米を使ったお酒が贈られてきた。お酒の中には焼酎も何種類かあって、その中には久遠国から取り寄せたという、焼酎で作った梅酒もあったのだ。琥珀色で輝きも美しく、甘くて美味しい梅酒はローズ母様やマリアおば様のお気に入りとなったので、久遠国からの輸入リストに追加された。
その流れで久遠国大使館で作られるお酒と、そこで作られている焼酎も購入する運びとなったのだ。
この国に梅の木はもともとなかったので、久遠国大使館の敷地内にあるという梅の苗木をローディン叔父様やリンクさんの領地に分けてもらうことになっている。桜の木も植樹する予定になっているので、ものすごく楽しみだ。
「で、そのフルーツ酒とはだいたいどのくらいでできるのだ?」と興味深げにクリスティア公爵が聞いてくる。
この国でお酒といえばワインが主流である。
そしてワインは仕込みから熟成まで数か月以上かかるのだ。お酒好きのクリスティア公爵もそのことは分かっているのだろう。
「そうですね。一月くらいでしょうか。ものによってはもう少し熟成した方が旨味が出ますね」
「イチゴ酒はそんなにかからなかったな、だいたい十日くらいか」
リンクさんのその言葉に「早いものなら十日で飲めるのだな!」とクリスティア公爵が目を輝かせた。
もともとワイナリーを持つほどのお酒好きである。飲んだことのないお酒に興味が爆上がりなのだろう。ものすごく楽しそうに「どんなフルーツが合うのか」と聞いている。
そして、クリスティア公爵は森の動物たちがくれたベリーを集めてホクホクしていた。今の流れからいくと、あれでフルーツ酒を作ってみようと思っているのだろう。
その後、よほどフルーツ酒が楽しみだったのか、調査や修繕などの作業を率先してサポートしたクリスティア公爵。魔力が豊富な彼は魔術師数人分の作業を自ら一手に引き受けてサクサクと作業を進めていた。早く帰りたいという気持ちが行動に出ていて思わず笑ってしまったよ。
そのおかげで、予定の時間より数時間早く帰路につくことができた。帰りの馬車の中で鼻歌を歌っていたくらいだから相当楽しみなんだろうなあ。その姿を見てローディン叔父様やリンクさんは驚いていたけど。
クリスティア公爵って、本当にお酒が好きなんだね。
思いがけず、予定より早く拠点にしていた別荘に帰ることができた。
――そして私たちの予想通り、クリスティア公爵主導のもと、休む間もなくフルーツ酒作りに突入したのだった。
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