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275 きけんなけもの

お久しぶりです。

お待たせして申し訳ありません(;'∀')

書籍化作業+初めてのコミカライズ等で遅筆に拍車がかかってしまいました。

先月コミックアーススターでコミカライズの第一話が掲載されました。

第二話は8月22日18時配信されますよ。ご覧くださいね~(^-^)

これからもよろしくお願いします!


 山に来た。

 ここはバーティア子爵領改め、バーティア伯爵領と隣地のイヌリン伯爵領の間にあるところだ。

 その昔事業に失敗した数代前のイヌリン伯爵が借金返済のために当時のカーマイン男爵に売った山なのだけれど、この度現カーマイン男爵からの申し出によってローディン叔父様が買い取ることになったのだ。

 ちなみにカーマイン男爵はこれまでの功績により、この度陞爵して子爵となった。

 さらにカーマイン男爵家に婿入りした平民出身のドレンさんは、自らの功績により男爵位を授かった。ドレンさんはてっきり義父のカーマイン男爵が陞爵した子爵位を将来継ぐのだと思っていたらしいが、ドレンさんが菊の花の薬を作って広めたことやウルド国での活躍ぶりが評価された結果である。ローディン叔父様やリンクさんも彼の働きが正当に評価されたのだと、とても喜んでいた。

 いずれ彼は義父の跡を継いでカーマイン子爵となり、今回授かった男爵位は将来彼の子供のうちの一人に受け継がれることとなるだろう。

 そんなわけで、新たに領土を賜った彼らは、そちらの管理のために忙しくなった。そこで、これまでも少々どころでなく、手に持て余していた山をローディン叔父様に買い取ってくれないかということだった。

 その昔、もともと結晶石の鉱脈がなくなかなか買い手がつかないこの山を、知人のよしみで数代前のカーマイン男爵が購入した。

 カーマイン男爵……改め、カーマイン子爵は代々薬師(くすし)の家系である。これまでも山で採取できる薬草などをたまに取りにきていたそうだが、彼らはほとんど王都に滞在している。馬車で何日もかかる場所にある山に来るのは一苦労なのでほとんど放置状態だったそうだ。

 カーマイン子爵は、薪の材料となる枝や、自然に生えているキノコなどは近隣の地元住民に自由に取っていいと開放していたので、イヌリン伯爵領やバーティア伯爵領の住民も山に自由に出入りしていた。

 これまでも放置していた山だし、カーマイン子爵は他に薬草の採取地も確保している。

 何しろ彼らが頻繁に通うには遠すぎる。それなら今もキノコ狩りとかで馴染んでいるところへ買い取ってもらいたいと思ったのだそうだ。一番初めに打診したのは元々その山を持っていたイヌリン伯爵だったが、かの伯爵は結晶石の採れない山であることを理由に断ったらしい。

 ローディン叔父様は、領地のすぐ近くにある山がよく知らない貴族のものになったらどんな問題が起きるか分からないと危惧する面もあったし、これまでもバーティア領の住民たちも山の恩恵を受けてきていたので、それを継続したいと思ったのだ。

 そういうわけで、この山はバーティア伯爵領になった。

 ローディン叔父様はこれから領主として管理していかなくてはいけないため、みんなで視察にきたのである。


 ――この山を購入することになった時、ある問題があった。それは、

「山の奥は獣がいて危険だったから、大抵の住民はふもとで薪拾いや木の実を採っていたんだよな」

「ああ、だが例の獣はこれまでの討伐で狩りつくした。他の誰でもなくクリスティア公爵がそう言っているんだから確実だろう」

 リンクさんとローディン叔父様が地図を広げながらそう言う。

 そう、ある問題というのは、この山に数年前に棲みついてしまった外国から来た危険な獣のことだ。

 もともとこの山には危険な獣はいなかった。だが数年前、外国から珍獣を購入して飼っていた貴族のお屋敷から獣が逃げ出して山に棲みついてしまったという。

 この話を聞いた時に、この山に近い領地ってバーティア伯爵領とイヌリン伯爵領しかないよね? 逃げ出したお屋敷ってイヌリン伯爵様のお屋敷ってことじゃないの? と聞いたら、

「ああ、本来はイヌリン伯爵家が討伐するべきものだがな」

 とクリスティア公爵が呆れ顔でそう言っていた。やっぱりそうなんだ。

 先だってドレンさんと一緒に山に赴いたローディン叔父様やリンクさんが山の奥深くで狩った獣が、イヌリン小伯爵の家から逃げ出した獣と同種のものであると確認が取れた。小伯爵とは、イヌリン伯爵のご子息で、次代のイヌリン伯爵である。

 外国から購入した以上、管理責任が問われる。

 だがイヌリン小伯爵は獣が逃げ出した当初、討伐隊を出したものの、駆除しきれずにいた。そのうちに山に棲みついて繁殖し、何倍にも数が増えてしまったという。

 幸い山菜取りで犠牲となった者はいなかったらしいけど、獣に驚いて逃げる際に転んだりしてけが人がでていた。

 イヌリン小伯爵は山の奥一帯に魔導具を設置し、そこからふもとへは獣が降りてこないようにして、少しずつ数を減らす努力はしていたらしい。

 外国から購入した獣の姿はオオカミに似ていたという。外国の孤島に生息し個体数も少ないということで、珍しいもの好きの小伯爵が喜び勇んで購入を決めたという。

 その厄介な特徴も知らずに。

 彼は獣が脱走し、討伐した者からその生態を知ることになる。

 獣に噛まれれば毒に侵され、さらに獣が死ねばその死体により大地を汚染する――毒を持った獣であることを討伐した時に初めて知り、青褪めたのだそうだ。

 もともと生息していた外国の地でも、危険な獣として生息地の島から出さないようにしていたそうだが、珍しい獣であるため金に目がくらんだ密猟者が秘かに捕らえて珍獣のコレクターに高額で売りさばいていた。その買い手の一人がイヌリン小伯爵だったのだ。

 初めからすべてをつまびらかにして、魔術師や腕に覚えのある者たちが連携を取って対処すれば早々に駆逐できたはずなのだが、彼は危険な獣をアースクリス国に入れたことを咎められるだろうと、父親のイヌリン伯爵にも獣の特殊な生態をひた隠しにしていたらしい。

 父親のイヌリン伯爵がカーマイン子爵からの山の購入の打診を拒み、その結果山がバーティア伯爵家のものとなることを聞かされて驚き、これ以上隠しておくことができないと観念して、そこで自らの過ちを父親に告白し、公的に明らかにされることとなった。

 イヌリン伯爵は息子のしたことに関して、カーマイン子爵家とバーティア伯爵家に謝罪と賠償金、そして討伐費用を負担することを申し出てきた。さらにバーティア伯爵家に対し、今後その山にあるものの所有権などを一切主張しないと言ってきたという。

 ん? その山をバーティア伯爵家が購入したのだから、イヌリン伯爵は口出しできないのでは? と思ったけど、貴族の世界ではそういう常識を覆し何かと難癖をつける者もいるらしい。たとえば何か財宝みたいなのが出てきたら、埋められたであろう時期から自分の家のものだ、と主張するだとかね。

 ……なんだか面倒だけど、でもそれが現実らしい。そんなわけで、バーティア伯爵家で討伐を行い、イヌリン伯爵はその費用を出し、所有権を永久的に放棄するという誓約書を書いたそうだ。

 その後、獣の持つ厄介な生態を知った国王陛下から「獣を殲滅せよ」との指示が出たとのこと。さらにイヌリン小伯爵に危険な獣と知りながら仲介をした業者の取り潰しと、イヌリン伯爵家にも相応の罰が課されるらしい。

 そして今後外国から珍獣を購入することをイヌリン小伯爵は禁じられたそうだ。うん、当然の措置だ。飼うなら最後まで責任を持たなくてはいけないよね。


お読みいただきありがとうございます!


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