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274 アンベール国の現状 3(ガイル・メルド視点)

今回もシリアスです。(^-^;

次はアーシェの明るいお話に戻る予定です♪


 俺たちは準備を整え、満を持して王都へ侵攻を開始した。

 陸路からの侵攻は、アースクリス国側からと、アースクリス国の属国となったジェンド国側からの侵攻、さらに東南にかかる海岸線はアースクリス国のデイン辺境伯軍が侵攻し――比較的すぐに海岸線は制圧された。

 だがやはりサマールは用意周到で、さまざまな罠を仕掛けていた。

 あちこちで闇の魔導具による反撃があり、その度に慎重を期したため王都近くに陣取った時には数か月が経過していた。


 王城を陥落させ、サマールを捕らえれば終わる――だが、俺たちは予想通り、王都で足止めをされることなる。

 サマールは、王城を巨大な壁で囲い、籠城していたのだから。


 ――サマールは闇の魔術師を十数年も前から北の森に囲っていた。

 その長い年月、闇の魔術師は命の狩りを楽しみ、そして数多の命を使って闇の魔導具を作成し、相当な数をサマールに渡していたことを知っている。

 だから、決戦はサマールが万全を期して、闇の魔導具で防衛線を張ったアンベール城が舞台になるだろうと予測できていた。

 案の定、王城周辺には身に覚えのある結界が張られていた。

 ――そう、触れたら命を吸われてしまう、あの、死の結界である。

 闇の魔術師は女神様により粛清されたため、この結界は闇の魔導具によるものだ。

 予想通りではあったが、非常にやっかいなものだった。 

「まあ、闇の魔術師本人がいないだけ随分ましだが、な」

 クリスウィン公爵がこともなげに言う。

 今はあまり驚くことは少なくなったが――ウルド国において、闇の魔術師となった少年をアースクリス国のクリスフィア公爵が粛清したという話を聞いた時に驚愕したことを思い出す。

 闇の魔術師を屠ることができるのは、光魔法を有する者、もしくは光の権能を宿したモノである。クリステーア公爵が北の森にいた闇の魔術師に深手を負わせたこと、クリスフィア公爵がウルド国の闇の魔術師を粛清したこと、そしてクリスウィン公爵が「余計な手間がなくてよかったな」と言っていたことからすると、彼にも光の魔力があるということが察せられた。

 そうするとアーシュさんも? と問うたら、肯定が返ってきた。

 アースクリス国王家と四公爵は、光魔法を扱えるのだと。

 そして、その稀なる力を有している理由をも知った。


 ――世界の創造神たる女神様に課せられた役目のために、世界中を回る。

 そのために与えられた力であると。


 まさか、そんな理由があったとは思いもしなかった。


 アースクリス国は他の大陸や様々な国と太いパイプがある。

 その強い繋がりは、アンベール国や他の二国が欲しくてたまらなかったものだ。

 ――だが、アーシュさんやクリスウィン公爵と係わって、分かった。

 それは、長い長い時をかけて、彼らが各国と築いた決して『代わりのきかない』繋がりであるのだと。


 他の大陸にも光の魔力を持つ存在はいる。

 だが、その存在自体には()()があったのだ――滅びをもたらす神が蒔いた『邪神の種』を駆逐するには、光の力が必要だったのだと――初めて知った。

 他の大陸や国にも光の魔力を持つ者はいて『邪神の種』を排除する役目をしている。だが、種のままの状態で駆逐できれば良いが、そう上手く行かない時もある。

 さらに芽吹くと独自の手には負えなくなることがあり、その際に助力の要請がくるのが、アースクリス国なのだという。

 そこまで知ると、その強力な繋がりの大本が分かる。


 それゆえに――たとえ、アンベール国がアースクリス国を滅ぼしたとしても、各国との繋がりを奪うことは不可能だということも。

 そして、万が一にもアースクリス国がこの世界から姿を消した場合、『この世界そのものが滅びの道を辿ることになる』ということを知った時、俺やカリマー公爵、クロムは震えた。

 アンベール国と他の二国が企てたことが、世界で力ある国々から非難を受けていたこと――その裏側にあった、大きすぎるいくつもの真実に。


 さらには、あの北の森にいた闇の魔術師が『邪神の種』を持っていたことにも驚きを禁じ得なかった。

 邪神の種を持つ闇の魔術師、それもすでに数百人の命を手に入れていたゆえに、強大な力を得ていた。

 本来、邪神の種を宿した者がそれほどまでの命を手にすると種を芽吹かせ、大きな災厄をもたらすという。だがこのアースクリス大陸は創造神たる女神様の創りし地であるゆえに、『発芽を完全に抑えられていた』という。

 ――それだけで、女神様の絶大な御力を感じずにはいられない。

 だが、発芽を抑えられていたとはいえ、闇の魔術師の力は凶悪にして強大に育っていた。それも、光の力を持つ者たちが数人がかりで対処しなければならないほどのモノになっていたのだ。

 それゆえに、魔力封じをかけられていたとはいえ、本来ならそれを破ることのできる光の魔力を持っていたアーシュさんが、闇の魔術師に魔力を封じられてしまったことにも頷けるのだという。


 ――やつは、禁忌に触れ、女神様により粛清された。

 サマールは、長期にわたる闇の魔術師の不在に焦ったものの、結果的には死だと受け入れず、「勝手に出ていったのだ」と憤慨したらしい。 

 出ていったゆえに結界が無くなり、俺たちが北の森から脱出したのだと思っているらしい。まあ、あれだけの力を持っていた者があっさりと殺されたとはすぐには思えないだろうが。

 だが、深く考えてみろと言いたい。

 あいつが出て行ったとしても、俺たちの命をみすみす逃すはずがないということを。

 それ自体が魔術師の死を暗示しているようなものだが、サマールには魔術師の死自体がありえないことなのだ。それならそれでいい。

 闇の魔術師は死んだのだ。その魂は禁忌に触れたことにより輪廻を赦されず、消滅したのだから。


   ◇◇◇


「王城に張り巡らされている死の結界は、魔導具を使って発動している分、北の森より不安定な部分がありますね」

「王城全体を覆うほどの広範囲にわたる結界だ。維持も大変だろう」

「――じゃが、その維持のために民の命が犠牲になっておるのじゃろう……」

 アーシュさんとクリスウィン公爵の言葉に、カリマー公爵が沈痛な面持ちで呟く。

 そう――魔導具は維持のために魔力を必要とする。

 そして闇の魔導具を稼働させる原料となるものは、『命』なのだ。

 そう考えると、王城において魔導具の力を維持するためになされていることが容易に想像できる。

 サマールは王城の中にいる者を贄にしているのだ。――想像するだにおぞましい。

 人として、してはならない一線をあいつは容易に越えたのだ。

 王として、いや人間として、失格だろう。


 さらにもう一つ、王城には反射魔法の魔導具が仕掛けられていた。

 その魔導具の存在を認めると、アーシュさんとクリスウィン公爵が慌ただしく調査に乗り出した。

 何事かと思っていたが、その調査の結果を聞いて、納得した。

 アンベール王城に埋め込まれた反射魔法の魔導具は、アースクリス国の少年の犠牲のもとに作られたものであったということだ。

 二十数年前、アースクリス国で反射魔法の使い手が拉致された事件があったという。反射魔法の能力は数百年に一人現れるかどうか、と言われるほどに希少である。当時まだ魔法学院の学生だった彼はその能力を狙われて拉致監禁され、闇の魔導具で抵抗を封じられた上に能力を搾取され続けて亡くなったのだという。――そんな痛ましい事件があったとは。

 少年の未来を奪った犯人は、二十数年経って先日捕まったという。その犯人は危険な魔術や魔導具を扱う闇マーケットのある国、サディル国と繋がりがあった、セレン子爵という男だった。セレン子爵の愛人はサディル国の女魔術師であり、その女が闇マーケットに反射魔法の魔導具を持ち込んでいたらしい。

 その反射魔法の魔導具が、今アンベールの城壁に埋め込まれているのだ。


 その報告を受けて、彼らはため息をついていた。

「しかし、ここにきてサディル国ですか……」

「相変わらずあの国は、他の国をかき回すのが好きなようだな」

 アーシュさんたちが難しい顔をする。

 サディル国とは、闇マーケットのある国のことであり、彼の国が売りさばいた闇の魔導具によりあちこちの国で混乱が生じているのを、笑いながら高みの見物をしているようなはた迷惑な国だ。

 さらに、サディル国から戦闘用の魔導具をサマールは数多く手に入れているらしい。しかも、その繋がりはまだ切れていないという――サマールを落とすために、あの国との繋がりも断ち切らねばならない。

 ――これから先も、まだ問題は山積みのようだ。


お読みいただきありがとうございます!

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