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270 不変のつながり

お久しぶりです!

更新が遅くなりまして申し訳ありませんでした!

今回はアーシェラの父、アーシュさん視点です。


4月1日に4巻が発売になります!

よろしくお願いします(*^-^*)



 今から半年ほど前の出来事である。

 私は王宮に意識を飛ばし、国王夫妻とクリステーア公爵である父アーネスト、クリスウィン公爵、クリスフィア公爵に会っていた。クリスティア公爵はジェンド国に出征していたため不在だ。

 

 もうすぐアースクリス国はアンベール国に侵攻する。

 その総指揮はクリスウィン公爵であること、私の側近であるセルトが来るということを告げられた。今後は合流してアンベール国を攻略することになる。

 すでにウルド国とジェンド国は降伏宣言をしているため、残ったのはアンベール国だけだ。

 アンベール国の切り札であった闇の魔術師が駆逐されたとはいえ、アンベール国王のアースクリス国への恨みは深い。

 そう簡単に落ちないだろうと想像はつく。


 一通り戦略的なことを話し合った後、父から、私が生きていることを妻のローズと、娘のアーシェラに教えたと告げられた。

 妻は私の無事を喜んでくれたという。

「だがな……。アーシェラには、ローディン殿やリンク殿と離れたくないと泣かれたのだ」

 と――父はその時のことを話しながら、項垂れた。

「そうだろうな。二人ともアーシェラちゃんから祝福(ギフト)の力を分け与えられたくらいだ。相当絆は深いぞ」

 クリスフィア公爵が深く頷く。

 最終的にはローズと一緒にクリステーア公爵家に行くと決めてくれたということだが……私もやはり、と思っていた。

 これまで何度も意識を飛ばして、商会の家での暮らしを見てきたのだ。そこでローディンやリンクがどんなに私の娘を大事にしてくれているのかを思い知った。彼らはアーシェラにとってかけがえのない家族なのだ。

 ――しかも、アーシェラから光魔法を付与されるほどに。

 光魔法は本来魂に刻まれているものだ。そして、アーシェラが二人に与えた力は、彼らの魂に刻まれた。

 それは、不変の繋がりとなるのだ。今生の生を終えても、いつかまた必ず巡り合う――そんな切れることのない糸となる。

 それを知る陛下が、だからな、と次の言葉を紡ぐ。

「そのことから考えても、クリステーア公爵家に戻った後もアーシェラから二人を離すべきではないと判断した。ゆえに転移門の設置を許可したのだ」

「そうね。女神様方からも許可はいただいたもの。必要だということよね」

「二人が新しく得る領地をクリステーア公爵領近辺にすることも決めたしな」

 そう王妃様とクリスウィン公爵が言う。

 クリステーア公爵家は国にいくつもの土地を持っているが、本邸は王都に近い領地にある。バーティア子爵領、フラウリン子爵領は遠く離れているのだ。

 新たに彼らが伯爵として治めることとなる地は、近所と言っても差し支えないところとなる。かと言って、日帰りできる距離ではないのだが。

「いつかアーシェラが女公爵として立つ時、信頼できる者が側にいる必要がある。二人なら適任であろう」

 ずっと彼らを見てきた父が、二人を認めている。

「それに、女性が我らと同じ役目を担う時、その役目を共に背負うものが側につくというからな。――よく出来ているものだな」

 クリスウィン公爵がそう呟く。――確かに。そこに女神様のご意思を感じずにはいられない。

 私たちがこの世界で負う役目は『邪神の種』を駆逐することだ。

 そのために『真実を視る』力を持つ、クリステーア公爵家の者が外交官として世界を飛び回る。そして己が手に余ると判断した時、他の公爵家の者たちが各々の役割に応じて駆り出されることとなる。

 つまり、私たちクリステーア公爵家の者は、常に最前線にいるということに他ならないのだ。

 役目とはいえ、可愛い娘が危険に晒されることは本意ではない。ならば少しでも娘を守ってくれる者が側にいて欲しいと切実に思う。

 二人なら私に否やはない。

 かの脅威に逃げ出さず、娘を守ってくれるだろうから。


   ◇◇◇


 アンベール国での戦略的な話し合いの後、私と父は、気づいたある事実をみなに告げた。

 ――それは、アーシェラが『自分は拾われっ子』だと思っていることである。

「――アーシェラがそう思っていたとは知らなかったわ……」

 王妃様は沈痛な面持ちでそう呟く。

「ええ……。――できればアーシェラにはローズを実の母だと思って育ってほしかったです」

 そう父が頷く。

 かつて私は五年近くアンベール国の北に位置する森に闇の魔術師によって封じ込められていた。

 その強力な闇の結界は、アーシェラの力で消し去られ、闇の魔術師はその時に女神様に粛清された。

 あの時に聞いたアーシェラの言葉が、ずっと私の心に引っかかっていたのだ。

 それは、私が閉じ込められていたアンベール国の北の森の処刑場に響き渡った声――

()()()()()()()()()()()()()()()()けれど、その無事を心から願うレイチェルお祖母様やローズ母様の為に』私を守ってほしいと、アーシェラははっきりと言ったのだ。

 その直後、あれほどに強固な闇の結界がアーシェラの力で消え去り、女神様の手で闇の魔術師が粛清されたこと。それがあまりに強烈すぎて、あの時は気にも留めなかったが、時間を置いてじっくりと思い出してみた時『私のお父様じゃないけれど』という言葉が、何故アーシェラから出てきたのだろう? と首を傾げた。

 後日父に意識を飛ばして会った際に、私が森でのアーシェラの言葉を教えたことで、アーシェラが自らが拾われっ子であると認識していることに父は驚愕した。

 クリステーア公爵である父は、アーシェラを守るために、ローズが産んだ子は死産だったと公表した。

 公爵家の正式な発表を疑う者はそうそういないだろう。

 その後ローズは実家に帰されて、死産した子供の代わりに捨て子を育てているという噂が社交界で瞬く間に広がった。

 さらに、叔父リヒャルトが放った暗殺者からローズとアーシェラを守るための対策で、アーシェラは日中バーティア商会のキッズコーナーで過ごしている。そのせいで訪れた者たちの好奇の目にさらされ、さらに噂は広まったらしい。父がセルトから報告を受けた内容の中には、アーシェラを見つつ「これが噂の捨て子か」と聞こえよがしに言う者が何人もいたという。

「アーシェラは日中バーティア商会の中にいるのだ。その時にかけられた心無い言葉からそう捉えたのだろうな。……かわいそうに」と項垂れた。

 アーシェラは紛れもなく私とローズの実子だ。だがローズはアーシェラが実の娘であると知らない。それだけでも申し訳なく思っているというのに、幼いアーシェラまで自分は捨て子であり、ローズは本当の母ではないと心を痛めているのだ。

 ――それは真実ではないというのに。

 それに気づいた時、今すぐすべてを明らかにして正したいという衝動にかられた。

 だが現実的に私はまだまだアンベール国を離れることはできない。

 リヒャルトが未だに暗殺者をローズとアーシェラに向けている状況を鑑みれば、事実を明かすことは時期尚早だと忠告されていた。確かに、あの蛇のように執拗な男にアーシェラの出自が知られる危険は冒せない。

 このままにしておいてはアーシェラが可哀想だと思うのに、現実的には何もできないのか。

 ――ままならない現状に苛立ちが募る。

 私たちは真実を知っているが、ローズも、そしてローディンやリンクも、『アーシェラは捨てられていた子供』と思っている。それはそうだろう。そう思うように状況を作ったのだから。

 だが、アーシェラだけは何も知らずに幸せに過ごして欲しかった。……けれどそれは叶わなかった。

 アーシェラは、幾度となくかけられた心無い言葉からそうだと思い込み、心を痛めながらも、ローズやローディンたちには言わないことを選択したのだろうと思う。


「早くアーシェラの誤解を解いてあげたいわ。そんな思いをしていたなんて……可哀想すぎるわ」

 アーシェラを乳母として育てた王妃様が声を震わせると、クリスウィン公爵が大きく頷いた。

「そうだな。そのためにはアーシュ殿がアースクリス国に戻ってくることが大前提だ。なるべく早めにアンベール国を攻略することを心がけよう」

「こちらも並行して国内の粛正を進めよう」

「そもそもアーシェラが安全のために商会のキッズコーナーにいるはめになったのは玉座簒奪を狙う者たちのせいだからな」

 そうクリスフィア公爵と父が言う。

「――だがアンベール国はウルド国やジェンド国と違って一筋縄ではいかぬだろう。あの男は何をするか分からないからな」

 アンベール国王にいわれのない恨みを向けられた結果、戦争を仕掛けられた陛下が「焦りは禁物だ」とおっしゃった。

 確かにアンベール国王は、闇の魔術師を自国に引き込み、自国民の命をも下げ渡すような常軌を逸する行動を平気でする者だ。

 これから先も何を仕掛けてくるか分からない。

「まずは着実にそして慎重にことをすすめよ。決して気を緩めるな」

「「承知しました」」

 クリスウィン公爵と共に頷くと、陛下は私を見て、ふと、いたずらっぽく笑んだ。

「アーシェラのほっぺは柔らかくて気持ちいいぞ。赤ん坊の時の方が柔らかかったが、今のも適度に弾力があってさわりごごちがいいのだ」

「「――陛下」」

 父と王妃様が呆れたように咎める。

「赤ん坊の頃、アーシェラの頬をつつきすぎて大泣きさせたのを忘れましたか?」

「かまいすぎて嫌がられたでしょう」

「この前だってお昼寝しているアーシェラを起こしましたよね? やりすぎはだめですよ」

 陛下は赤ん坊の頃のアーシェラの頬をつつくのが好きだったらしいことは聞いていた。そしてつつきすぎてアーシェラに嫌がられたらしい。

 最近は王宮に遊びにきたアーシェラが、女官長である私の母レイチェルの部屋でお昼寝している時にこっそりと現れて、アーシェラのほっぺをつついているらしい。

 ――私は触れることはできないのに。

「うらやましいです」

「そうだろう? ――だから、絶対に無事に帰って来い」

「はい。――必ず」

 必ず無事にアースクリス国に帰る。

 それにしても、アーシェラのほっぺはそんなに柔らかいのか。


 楽しみが増えたな。

 ――でも、つつきすぎて嫌われないようにしよう。




お読みいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
産まれて一歳未満の頃から記憶あるなんて、本人が言わなきゃ解らないもの。 本人の記憶だと若いメイドに抱かれてだったけど、お祖父様二人と何人で実行したのかな。
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