269 ポルカノ料理長の……
メリークリスマス(≧▽≦)//
今年最後の更新です!
皆様、良いお年を♪
「――皆様、こちらもどうぞ。ラムレーズンを混ぜたアイスクリームでございます」
ポルカノ料理長が持ってきたのは、ミルクのアイスクリームにラムレーズンを混ぜたものだ。
一度アイスクリームを少し柔らかくしてから混ぜ合わせなければならなかったため、あらかじめポルカノ料理長に作り方を伝えてお願いしていた。
「へえ、アイスクリームか」
そう言いつつ一口食べたクリスフィア公爵が、深く頷いた。
「――うん、これは美味い」
「ああ、ラム酒の香りとレーズンの甘酸っぱさが、ものすごくアイスクリームに合う。絶品だ」
アイスクリームにラムレーズンを入れると、味が格段に上がる。前世でよく食べたものだ。
個人的には抹茶アイスにラムレーズンを入れたものがよりお気に入りだったなあ。ほんのり苦みのある抹茶アイスとラムレーズンの相性は抜群だ。なかなか市販品でラムレーズン入りの抹茶アイスは無かったので、抹茶アイスを購入して自作していたものだけど。
あ。なんだか思い出したら、抹茶アイスバージョンが食べたくなってきた。
よし、久遠国大使館の秋津様や月斗さんに抹茶があるか確認してみようっと。久遠国の神社で重箱に入ったお弁当やおはぎを食べた時に緑茶が飲み物として供されたので緑茶があるのは確認済みだ。もしかしたら抹茶もあるかもしれないよね。
と私が抹茶に思いをはせていると、ラムレーズン入りのアイスをおかわりした公爵たちが満足そうに言う。
「干しブドウとラム酒は合うんだな。なるほど、これはいいことを知った」
「ラム酒といえばルクス領で作られているはずだな」
「そういえばそうですね」
クリスティア公爵の言葉に、ルクス領の新しい領主であるローディン叔父様が答える。
新しい領地であるルクス領にはサトウキビ畑がある。サトウキビからはお砂糖、そして、サトウキビの廃糖蜜や搾り汁から作られるのがラム酒なのだ。
「では、クリステーア公爵を通してラム酒を融通いたします。――これで干しブドウの流通の見通しもつきましたね」
「ああ。ワインも干しブドウも何とかなりそうだ」
「というか、干しブドウはラムレーズンにすると需要がかなり出ると思いますよ」
「そうだな。ラムレーズンバターはものすごく気に入った」
「ああ、アイスも今までにない大人のアイスという感じだったしな」
公爵二人はレシピをポルカノ料理長からもらっている。といっても、どれも作り方は簡単だけどね。
よしよし、これでワインも干しブドウもちゃんと売れそうだ。これで旧カリル領の民は次の収穫時期まで持ちこたえることができるだろう。
「ふにゃ」
――あれ? なんかふらふらする。
応接室に戻ろうと椅子を降りたら、なんか足元がふわふわした感じになって、思わずローズ母様の服をぎゅっと掴んでしまった。
「アーシェ?」
母様がどうしたの? と私の顔を覗き込んだ。
「あら? 顔が赤いわ」
ふにゅ? そうなのぅ~?
なんだか頭がふわふわするよ。くふふ~。
「熱はないわね。どうしたのかしら?」
「ふにゃあ?」
「この反応……もしかして、間違えてアルコール入りの方のアイス食べたのか?」
「そんなはずがないわ。私もアーシェと同じものを食べたもの」
「じゃあ、あれか?」
リンクさんがワゴンに置かれているティーポットの中身を見て、「あ」と言った。
「ん?」と母様とローディン叔父様も覗き込んで、
「「「ああ~……」」」とみんなでため息をついた。
「どうした?」
「大丈夫なのか?」
公爵二人が首を傾げた。
「大丈夫ですよ。身体を温める香草茶です。身体に害はございません」
「ええ、ただ子供は身体が小さい分、効きすぎてお酒に酔ったようになることがあるんです」
「アイスで身体が冷えたから、このお茶をおかわりして飲んでいたのです」
春とはいえアイスを二杯も食べたので、すっかり身体が冷えて、ざわっとしたのだ。
それで温かいお茶を入れてもらったら、それが美味しくて何度もおかわりしてしまった。
「らいじょーぶっ! きゃははははっ!」
大丈夫! と笑った私を見て、ローディン叔父様やリンクさん、母様が、
「――あー……」
「やっぱり、そうみたいだな……」
「アーシェは、お酒に酔うと笑い上戸になるのよね」
と苦笑いをした。
すると公爵二人が首を傾げ、
「「前にもこんなことがあったのか?」」
と訝しげだ。まあ、そう考えるのは当たり前だよね。
「ええ、以前私が体調を崩した時に、ローディンが身体を温める効能がある香草でスープを作ってくれたのです。――まさしくこれですわ。その時にアーシェもそのスープを飲んだのですが、効能が子供のアーシェには強すぎて、お酒に酔ったような感じになってしまったのです」
ローズ母様が説明をすると、公爵たちが「なるほど」と納得する。
そう、私が二歳の頃、性質の悪い風邪にかかり、熱を出し寝込んだことがある。
何日も熱の下がらない私の看病をしていた時、ローズ母様が初めてバーティアの血筋に受け継いだ治癒能力を開花させ――そして、私に治癒を施してくれたのだ。
そのおかげで私は回復することができたが、その後ローズ母様が無理がたたって寝込んでしまったのだ。
睡眠不足が続き、体力的に限界だった中で私に初めての治癒を施したせいである。
体調が万全ではない時に治癒能力を使うと、身体に負担がかかるということを知ったのはその時だ。
そして寝込んでしまったローズ母様のために、ローディン叔父様が香草入りのスープを用意して、そのおすそ分けをもらって飲んだら、効きすぎて酔っぱらってしまった、という経緯である。身体には害がないということだったので大丈夫だったけれど。
「あの時も、笑い転げていたんだよな」
「テーブルの脚や、柱をペシペシ叩いては笑い転げていたし」
「ふふ、そうね」
その時のことを思い出したのか、私の家族はクスクスと笑っている。
だが、ポルカノ料理長は青くなって何度も何度も頭を下げる。
「そんなことがあったとは知らず出してしまったとは! 申し訳ありません~~っ!」
「数時間もすれば効果も抜けるし、そう心配しなくてもいいと思うわ」
うん。全然気持ち悪くないから大丈夫。すごく楽しいだけだ。
「だ、大丈夫ですか? アーシェラ様……」
私の目の前に少しかがんだポルカノ料理長。
――ああ、なんだか、ポルカノ料理長のふくふくのお腹が気持ちよさそう。
手を伸ばして、ポルカノ料理長のお腹をぽんぽん。そして、ぽふっとふくよかなお腹に顔をうずめてすりすりした。ああ、思ったとおりの弾力、気持ちいい。
「ふふふ~。ぽるかのりょうりちょうのおなかは、ぽんぽこりんできもちいいにゃ~!」
「ぽ、ぽんぽこりん?」
「くっ!」
リンクさんが秒で吹き出した。隣でローディン叔父様や母様も。
「ぽんぽーん」
ぽふぽふとポルカノ料理長のお腹をタッチして「ぽんぽん」「きゃははは!」と笑い声を上げる。
ああ、楽しい~! このぽんぽんと弾むお腹が面白い~!
「……っ! がーん」
ショックを受けて固まったポルカノ料理長。
「「……ぶっ‼」」
公爵二人が吹き出し、
「「あはははははっっ!」」
次いで、料理人さんたちもこらえきれずに吹き出した。
「ぽ、ぽんぽんって……」
「確かに思ってましたけど……ふ、ふふっ」
「子供は正直ですからね……。でも、ぽ、ぽんぽこりんって……っ」
料理人さんたちがひーひーと腹を抱えて笑い転げた。
――翌日から、ポルカノ料理長が走り込みの距離を増やしたのは言うまでもない。
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