268 まぜてみると絶品です
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「アーシェラ様、バター柔らかくなりましたよ」
次はどうするんですか? とポルカノ料理長が聞いてきた。
あの後厨房に戻った私は、ポルカノ料理長の全体的に丸みを帯びた身体とほんわかとした雰囲気にものすごくほっとした。やっぱりさっきの話は衝撃的すぎて、思いっきり緊張していたんだなあ、しみじみと思った。
私に安心感をくれたポルカノ料理長のお腹は、天ぷらに出会った頃から着実に成長しているように見える。
揚げ物や甘いものも大好物。
リンクさんも会うたびに成長して行くポルカノ料理長のお腹に驚いていた。でもポルカノ料理長からは、「走り込みしていますから大丈夫です!」という答えが返ってきた。
デイン辺境伯領の民は、誰もが戦争の危機を体験している。特にデイン邸に勤めている者たちは、体術や剣術なども身に付け、日ごろの鍛錬も欠かさないのだという。素晴らしい。
とはいえ、近頃ぷくぷく感が否めないポルカノ料理長である。
「天ぷらを控えるか、もっと身体を動かせ」とリンクさんに言われてしょげていたなあ。
ふふふ。
ポルカノ料理長に癒されたところで、ラム酒とブランデーそれぞれに浸しておいた干しブドウを確認して見ると、お酒を含んでふっくらと戻っていた。うん、これくらいでいいよね。
「おしゃけをきって、ばたーにまじぇる」
「はい」
ポルカノ料理長やデイン邸の料理人さんたちは、私の言葉に疑問を持たずにサクサクとバターにレーズンを混ぜていく。
ラム酒漬けとブランデーに漬けたもの。そしてそれぞれのお酒のアルコールを飛ばしたものに漬けたもの。
混ぜ合わせたら、棒状に成形した後、リンクさんに冷やしてもらい、固めてもらう。
ラムレーズンバターとブランデーバージョンの出来上がりだ‼
「面白いですね」
「バターに混ぜ込むなんて新しい食べ方ですね」
ポルカノ料理長や料理人さんたちがふむふむと頷く。
そういえば、こっちの世界ではシンプルにバターはバターで食べる。何かを混ぜたものが食卓に出たのを見たことはないなあ。
「へえ、イチゴだけでなく、干しブドウもこうやってバターに入れて食べることができるんだな」
「そうね。この前アーシェがイチゴを混ぜ込んで作ったイチゴバターはとっても美味しかったわね」
「そうだね。あれは美味しかった」
出来上がったラムレーズンバターを見てリンクさんや母様たちがそう言うと、料理人さんたちが首を傾げた。
「え? イチゴをバターに入れたんですか?」
そう。新しいお店の裏手にある温室で育てたイチゴ。三棟ある温室でイチゴを育てたのだ。
デザートに新鮮なイチゴをいただくのはもちろん、イチゴジャムやイチゴジュース、イチゴ大福などにも大活躍だった。
たっぷり収穫出来たので、王都のパン屋にもイチゴジャムを置くべく、パン職人のミットさんとナイトさんがイチゴハウスに通って収穫し、ジャムづくりをしていた。
その時、ふと思い出し、イチゴジャムを使ってイチゴバターを作ったのだ。
バターに何かを混ぜ込むことはこれまでにしたことがなかった、とパン職人の二人は目を点にしていたなあ。
イチゴバターの作り方は簡単で、柔らかくしたバターにイチゴジャムを混ぜれば出来る。
真っ赤なイチゴのジャムと乳白色のバターが混ざると、綺麗なピンク色のバターの完成だ。見た目もすごく可愛いし、味ももちろん絶品だ。
パン職人二人に絶賛された結果、春の限定商品として、イチゴバターを挟んだパンが商品にラインナップされたくらいである。
そんな話をローディン叔父様たちから聞いたら、ポルカノ料理長たちがイチゴバターを作ろうとするのは当然の流れだろう。
今は春。スフィア邸でも旬のイチゴでジャムが作られていたし、ちょうど柔らかくしたバターが残っていたので、ポルカノ料理長たちがさっくりと作っていた。
「イチゴの赤と、バターが混ざって、とっても綺麗なピンク色になりましたね!」
「本当に美味しそうな色です!」
うん、イチゴバターのピンク色は、すごく美味しそうだよね。
さて、思いがけずラムレーズンバターの他にイチゴバターも出来たので、一緒に試食しよう。
トーストしたパンに、まずはイチゴバターをたっぷり塗って。
みんなでいただきます、をしてぱくり。
うん、やっぱり美味しい。ちょっと果肉が残った感じのところがまたジューシーで美味しいんだよね。
「イチゴとバターって合うんだな、うん、これは美味い」
「ああ、バターのコクとイチゴの爽やかさがいいな」
クリスティア公爵やクリスフィア公爵が試食用のパンをおかわりする。
ふふ、美味しいよね。
「「美味しいです」」
公爵二人が従業員用食堂にいるのに慄きながら、試食をする料理人さんたちがコクコクと控えめに頷く。
「ジャムもバターも単体でしか使ったことがなかったです」
「このピンク色も可愛いし、味もイチゴの爽やかな味がして美味しいです」
そうでしょう! バターの塩味とコク、フレッシュなイチゴの優しい酸味と甘みとの相乗効果でものすごく美味しいよね!
私の一番好きなフルーツバターはイチゴだけど、ジャムを変えるとリンゴバターとかブルーベリーで作ったものとか、いろいろ出来る。
そう言ったら、果物の旬の時期に作ってみるとのこと。ふふ、楽しみだ。
お次はラム酒で漬けた、レーズンバターの試食である。
イチゴバターと同様に、こんがりと焼いたパンに載せて食べる。
もちろん私の分は、アルコールを飛ばしたものを用意してもらった。
みんなで一緒にぱくり。
うん、ちょっと溶けたバターとラムレーズンの風味が美味しい。私のはアルコールを飛ばしてあるけど。アルコールを飛ばしていないラムレーズン入りはもっと芳醇な香りとコクがして美味しいだろう。
「「――う、美味い……」」
思わず、と言った感じでクリスフィア公爵と、クリスティア公爵が言った。
お酒に漬けたレーズンを使ったバターは、一口食べた瞬間、みんなが「お!」って表情をした。ふふ。ラムレーズンバターは初めて食べるとその味わいに驚くのだ。
バターの塩気とコクに、レーズンの甘みとほんの少しの酸っぱさ、さらにお酒の芳醇な味と香りが口の中で渾然一体となって、後を引く美味しさになることうけあいだ。
前世ではこれが好きで、何度も作ったものである。
「ああ、これは美味しいですね。芳醇な味と香りで贅沢なバターという感じがします」
「ラム酒を含んでふっくらしたレーズンの優しい甘さと酸っぱさがバターと合わさって絶妙な美味さだ」
ローディン叔父様とリンクさんもお好みのようで、すぐにおかわりを所望している。
「こっちのブランデーバージョンも美味しいです!」
「「面白いです」」
料理人さんたちにも好評だ。ふふふ。美味しいでしょう。
「うちの妻は強い酒やレーズンを好まないが、これは好きだろうな」
「そうなのか? 私の妻はどっちもいけるが」
と言うのはクリスティア公爵。夫婦揃ってお酒好きらしい。
ふむ。クリスフィア公爵の奥様とクリスティア公爵の奥様は嗜好が逆のようだ。
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