263 テイクアウト店の新メニュー
長らくお待たせしました!
3巻の校正作業の終わりが見えてきたので、更新しました。
二つのことを一度にできない私です(^_^;)
3巻は12月1日発売です!
よろしくお願いいたします(^-^)
「うっま! このあんかけご飯、ものすっごく美味いです!」
「私は海苔弁当が好きだわ! 魚のフライもちくわの天ぷらものっていて、それに卵料理やいろんなものが一つになっているなんて、なんてお得なの!」
おう、シェルさん。お得って、貴族令嬢があまり言わない言葉だよね。
「うんうん、そうだよな!」
「お仕事をさせていただけるうえに、美味しい賄いもいただけて、とっても嬉しいですわ!」
シェルさんは男子のダイムくんと同じ量を食べきり、満足しきりである。
お店のスタッフはバーティア子爵本邸のトマス料理長が厳選している。次々と新規店舗ができて対応しきれるのか心配なところだったが、どうやらいろんな繋がりからスタッフを雇い入れているようである。
それにクリスフィア公爵所有の敷地であることから、クリスフィア公爵推薦のスタッフも雇い入れることになった。
うん、私の護衛機関の長であるクリスフィア公爵が推薦する人であれば信用できるよね。
お店のオープンは改装工事が終わり次第であるが、ダイムくんとシェルさんには仕事を覚えてもらう必要があるということで、研修にきてもらっているのである。もちろん研修期間中も給金は出る。
「この、イチゴ大福が絶品すぎます!」
「本当だよな!」
二人はデザートのイチゴ大福が大のお気に入りだ。
「イチゴ大福ってイチゴがある時期だけなんですよね。お店のオープンの頃にはもうイチゴは終わりになりそうですね……」
「まあ、仕方がないな。だが、来週隣の店でフェアをやるそうだから、出店でイチゴ大福を出す予定だよ」
同じ敷地内にあるクリスフィア公爵のお店では、春である今は冬服の一斉処分セールをするのである。テイクアウト店のオープンはまだ先なのだが、その日だけは宣伝の為に出店をやることになっていた。
「ええ、オープン前のいい宣伝になりますよ」
にこやかに元菓子職人のハリーさんとファイランさんが言う。
彼らはお店の宣伝用のイチゴ大福を作る為に、原材料のイチゴハウスがすぐ近くにあるここに日参して作業をしてくれているのである。
最近作り始めたイチゴ大福は、王妃様から熱烈なオファーを受けて、かなりの頻度で王宮に持って行っている。
「イチゴ大福は絶対に『大ヒット』します!」
と、元菓子職人であるハリーさんとファイランさんの太鼓判を受けたイチゴ大福。
でも、小豆ともち米の現在の在庫量を考えた結果、販売ラインに乗せるのは来年から、と決まった。
それまでは貴族の皆さんへの特別な手土産に限定している。
そして、今回は特別にお店の宣伝を兼ねて、イチゴ大福を販売する運びとなった。
魔法学院の提携店であるクリスフィア公爵のお店は、学生たちが学院で必要となるものをあつらえる場所である。
学生の教科書や鞄、制服に靴などは基本的に学院持ちであり、個人負担はない。
それに高位貴族はこの店を利用せず、制服をオーダーメイドして誂えるのが常らしい。ということから考えると、この店を利用するのは、平民出身の学生やシェルさんのようなお家に経済的な余裕のない貴族の子女ばかりなのだ。
クリスフィア公爵のお店には、無償のものとは別に、一般の店と同じような服や雑貨、食料品などが売られている。
魔法学院での食事は無料ではあるが、決まった時間にのみの提供である。食べ盛りの学生たちは、結晶石に魔力充填をするバイト代でお菓子や、私服を購入したりしているという。
なるほど。お店に主に少年や少女向けの服や雑貨が置いてあった意味が分かった。どれも学生証を持っていれば、一般のお店で購入するよりも負担が少なく購入できるシステムになっているのだ。
その取り組みを見ていて、バーティア商会としてもこの場所でテイクアウト店を開き魔法学院の生徒を雇うだけではなく、生徒たちにも喜んでもらえる何かを売り出したいと思っていた。
お店は近隣の住民や騎士さんたちが利用してくれるだろうけれど、生徒たちが立ち寄ってくれないのは、なんだか淋しいもの。
そう考えていた時にジャガイモ収穫の知らせがあり、規格外品が山ほど積みあがっているのを見て、「コロッケにする!」と思いついた。
コロッケなら、原材料であるジャガイモは安価だし、生徒たちが気兼ねなく手に取れる価格帯のものが出来る!
その日の夜、バーティア家の王都別邸にたくさんのジャガイモを持ち込んでコロッケを作った結果、大好評だった。
コロッケは材料費も抑えられ、かつ学生たちの懐を傷めない。しかも、エビフライやアジフライと同じく、加工して冷凍保存もできるのだ。
ちょっとした軽食として売り出せると、すぐにテイクアウト店の新規メニューに加えることが決まったのだった。
◇◇◇
「なるほどな」
コロッケの出来た経緯に、クリスフィア公爵が頷いた。
「材料は比較的どこでも手に入ります。まずは作ってみますね」
そう言ってローディン叔父様とリンクさんがポルカノ料理長たちに指示をする。
まずは塩ゆでしたジャガイモでマッシュポテトを作り、それに玉ねぎとフードプロセッサーにかけたお肉を炒めたものを合せる。
塩や胡椒、そしてお砂糖を入れて混ぜ合わせると、コロッケのたねの出来上がりである。
――そう、これは肉入りのコロッケである。
「で、これを冷やして成形する、と」
そう言いながらリンクさんが魔法で冷やし、料理人さんたちがコロッケだねを楕円形に成形していく。
衣を付けて揚げる、と手順を伝えておいたので、ポルカノ料理長たちはバッター液にコロッケのタネをくぐらせ、パン粉を付けて揚げるという作業を流れるようにしていく。この辺りはすでに暗黙の了解の域だ。
コロッケのタネは火を通しているので、外の衣がきつね色になれば完成である。
「これはまた、美味しそうですね」
「ソースをかけて食べても美味いが、タネにしっかりと味付けをしておいたからそのままでも美味いぞ」
「揚げたてをどうぞ召し上がってください」
ローディン叔父様が、揚げたてのコロッケを一番初めにクリスフィア公爵に渡すと、嬉しそうに熱々にかぶりついた。
「美味い!」
クリスフィア公爵は熱いものが平気らしく、揚げたてコロッケをあっという間に食べきり、二つ目を所望した。
「フライドポテトとはまた違う美味しさだな!」
「炒めた玉ねぎの甘さが加わっていますし、さらに肉の旨味も入っています」
「うん、美味いな」
二つ目を食べ終わり、満足そうなクリスフィア公爵。
「メイン食材のジャガイモは安価なので、価格は抑えられます。また、バーティア領よりも王都に近いルクス領を拝領しましたので、そちらでジャガイモを生産できればこの品種のジャガイモを安定供給できるようになります」
そう。今は王都近くの農場で委託生産をしてもらっているが、数年後にはルクス領からの供給が可能になる見通しだ。
リンクさんの所領であるスフィア領のお隣が、ローディン叔父様の新しい領地のルクス領だ。スフィア領と同じ川に領地が一部面している為、船着き場がある。つまり、船で王都に行けるようになるのだ。
陸路しか流通手段を持たなかったバーティア領と比べると、かなり利便性が良い。
今はまだ諸事情でルクス領に足を踏み入れることはできないけれど、早く問題が片付いて、ルクス領に行ってみたいものである。
「「このコロッケ、サクサクしてて美味しいです!」」
「味付けをしっかりするとソースが要りませんね。軽食にピッタリです!」
ポルカノ料理長やスフィア邸の料理人さんたちにも大好評だ。
「魚のフライや豚カツとかに比べると手間はかかるがな」
「でも、美味しいです!」
「美味しいものは手間暇がかかるものですからね」
と皆の反応は上々だ。
その様子を見て、ローディン叔父様がクリスフィア公爵に言う。
「規格外のものを無駄なく消費できる上に、生徒たちが気兼ねなく手に取れる価格にすることができます」
「ああ、いいな」
「肉入りの他に、ニンジンやコーンを入れた野菜コロッケも美味しいですし、カボチャをコロッケにしたものも美味しいのですよ」
「「いいですね! やってみます‼」」
ローディン叔父様の言葉に反応して立ち上がるポルカノ料理長たちとスフィア邸の料理人さんたち。
すぐに手分けをして、野菜入りコロッケとカボチャコロッケを作り上げた。
「野菜入りも美味しい!」
「カボチャコロッケは、甘くて、菓子みたいで美味い!」
うん、どれも美味しいよね。
「なるほど、カボチャもコロッケになるんだな。軽食としてちょうどいい」
「ええ、基本はジャガイモコロッケで。いろいろ変わり種もありますので、おいおい出していこうと思います」
そう、変わり種も様々あるのだ。カボチャの他にサツマイモでも出来るし、今はバーティア商会が経営する豆腐工房もあるので、おからを入れたおからコロッケもできる。おから入りのものはジャガイモだけのものよりずっしりと重量感があり満腹感も得られる。おからの腹持ち感は、すでにテイクアウト店のダイムくんやシェルさんで証明済みである。腹ペコの学生たちにぴったりなのだ。
「今度の出店でコロッケとイチゴ大福をお披露目します」
「イチゴ大福か! うちの子供たちに教えておこう。大好物だからな!」
絶対に並んで買うだろう! と笑みを浮かべるクリスフィア公爵。
――どうやら、近いうちにクリスフィア公爵のお子さんたちに会えそうである。
お読みいただきありがとうございます。




