261 好みは似てくるようです
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「ハンバーグも絶品です!」
そうでしょう! ミンチにしたお肉に卵や玉ねぎ、パン粉と牛乳を加えて焼いたハンバーグは、口の中でほろっと崩れてうまみたっぷりの肉汁が口いっぱいに広がるのだ。
絶対に美味しい!
商会の家でトッピングやソースをいろいろ変えて一通り食べてみたら、私の家族の定番は私の好きな大根おろしと和風ソースになったのだが、今回は他の人たちにもいろいろなトッピングを試して欲しくて、チーズをのせたり、目玉焼きを乗せたものも用意しておいた。
やっぱり「チーズが一番!」と言う人、「目玉焼きの黄身がハンバーグに絡むのが美味しい!」という人もいる。
私は大根おろしに目玉焼きをプラスする時もある。その日の気分でトッピングを選ぶのも楽しい。
そして、ソースも。
「ケチャップとソースを混ぜ合わせたソースも合いますね!」
「赤ワインベースのソースも美味しい」
そう、トッピングの他にソースも何種類か用意して食べ比べをしてもらったのだ。
「「でも、やっぱりこの醤油ベースのソースが一番です!」」
ふむ。どうやらソースの軍配は醤油ベースのものにあがったようだ。
「ステーキに合うのですね。今度やってみます!」
「醤油って馴染みのなかった調味料ですが、お肉料理にも合うのですね!」
「お魚の刺身に付ける調味料なのだと思っていました」
どうやら、ここにやってきたポルカノ料理長がスフィア邸の料理人さんたちにまず初めに仕込んだのは、海の魚の処理らしい。
確かに、リンクさんは海に面したデイン辺境伯領で生まれ育ったのだ。
彼にとって海鮮料理は故郷の味なので絶対に必要である。
エビやホタテなど比較的処理が簡単なものから、いろいろな魚の捌き方まで、デイン辺境伯領の料理人たちからがっつりと指導されたとのこと。
処理をしたら食べるのは当然で、初めての海鮮料理はお刺身を使った海鮮丼だったそうだ。
海の魚料理になじみのないスフィア領の料理人さんたちは、初めてお刺身を食す時に、これまた初めての調味料である醤油を口にしたとのことだった。
いきなり魚のお刺身とは、ハードルが高いんじゃないかと思ったけど、ポルカノ料理長曰く、
「まずは素材の味を覚えてもらうことが第一です!」とのことだ。確かにそうだけど。
――まあ、修行の方法はそれぞれだし、いいことにしよう。
さて、じゃあ次は宣言通り、揚げ物に取り掛かろう。
といっても、ベースは出来ている。
そのためにハンバーグのタネを多く作ってもらったのだ。
「これをまるめて、ころもつけてあげりゅ」
「! それは、絶対美味いやつだな!」
リンクさんの声が弾んだ。
「ハンバーグが美味しいのですから、揚げたら絶対に美味しいですよね!」
うん。貴族の屋敷に納品された上質なお肉で作ったハンバーグは、最高に美味しかった。それに衣を付けて揚げたメンチカツは絶対に美味しい。
揚げ物の美味しさを知るポルカノ料理長たちが率先して、ハンバーグのタネに衣を付けて揚げる。
しばらくすると、こんがりときつね色に揚がったメンチカツの出来上がりだ!
「めんちかちゅ、かんしぇい!」
「おお! 美味そうだな」
という、クリスフィア公爵。
「魚だけでなく、肉も揚げることができるのですね! さっきのハンバーグが今度は揚げ物に!」
メンデルさんは声を弾ませながら、メンチカツが揚がっていく様子に見入っていた。
初めて食べたハンバーグに心を鷲掴みされ、それが揚げ物になるということに興味津々のようだった。彼は昨年から出回り始めたデイン商会の冷凍加工食品である白身魚のフライやエビフライが大好物なのだという。
うん。揚げ物が好きなら、メンチカツは絶対にハマるだろう。それくらいメンチカツは美味しいのだ。
美味しそうなきつね色に揚がったメンチカツは従業員用の食堂に運ばれ、メンデルさんは皿に盛り付けられたメンチカツを目を輝かせて見ていた。
皿にはレタスとたっぷりのキャベツの千切り、トマトのくし切り、小ぶりに作ったメンチカツが二つ。それにソースがかけられた。
ハンバーグの付け合わせはじゃがいもや人参、インゲンなどの加熱した野菜だったけれど、揚げ物にすると聞いたポルカノ料理長たちが定番の生野菜の付け合わせを用意していた。
うん、揚げ物はやっぱりレタスやキャベツが合うよね!
よし、みんなに行きわたったね? では。
「いただきましゅ!」
「「いただきます」」
いつものように、いただきますをして、ぱくり。
サクッとした食感の後、口いっぱいに広がるジューシーな肉汁。お肉と玉ねぎのバランスが絶妙! やっぱり美味しい!
「おいち~い!」
「「うっまい‼」」
「「美味しい‼」」
異口同音にみんなの美味しいと言う声が重なる。うん、メンチカツは美味しいよね‼
「同じ具材なのにハンバーグとは違う! サクサクしててすっごく美味い!」
「本当だな! やっぱり揚げ物は美味い! 同じ具材でこんなに変わるとは驚きだな」
そう言いつつ即行で二つ目のメンチカツを頬張るローディン叔父様とリンクさん。
「ハンバーグと同じ具材だけど、衣を付けて揚げるとまったく別の料理になるのね。とっても美味しいわ」
そう言うローズ母様に、
「『揚げる』調理法は、食材をとても美味しくしますね!」
と、天ぷらに心を奪われたポルカノ料理長が激しく同意している。
「以前食べた牛カツや豚カツとは違うな。ミンチにしている分柔らかいしジューシーだ。これは美味い」
ふむふむ、と味わうクリスフィア公爵。
「「ハンバーグもメンチカツも美味しいですね!」」
メンデルさんや料理人さん達にも好評のようだ。
「ミンチにして焼いたハンバーグも、それに衣を付けたメンチカツも美味しい!」
「工程が多いけど、すっごく美味い!」
「うん、手間をかけた意味がわかる!」
「本当に! こんなに美味しくなるなんてな!」
料理人さんたちが異口同音に調理工程の多さを言う。
確かに、ハンバーグは素材をシンプルに焼くステーキやソテーに比べると工程が多い。さらにメンチカツは揚げるという作業が入るので、もっと手間がかかる料理なのだ。
「ハンバーグには醬油ベースのソースが合うが、揚げ物にはいつもの濃厚ソースが合うな」
「ああ、それは俺も思った」
うん、私もハンバーグ用に作った醤油ベースのソースより、揚げ物には野菜や果物に調味料やスパイスを煮詰めて作った濃厚ソースの方が合うと思う。濃厚ソースは前世のとんかつソースと同じ感じで、とろりとした濃厚な口当たりとフルーティーな甘みがある。それにしっかりとした粘りがあるので、揚げ物にかけても衣にソースが染みにくいのでサクサクとした食感も長持ちする。私が一番好んで使うソースである。
もちろん濃厚ソースよりもスパイシーなソースもあるので、みんながそれぞれに好みのソースでメンチカツを堪能した。
ちなみにハンバーグもメンチカツも料理名はそのまますんなりと受け入れられている。以前アメリカンドッグやオムライスを作った時と同じく、王宮で読んだ他の大陸の絵本――ぞうさんが出てくる絵本に載っていたものだったからだ。
ローズ母様がそのことを説明してくれるので、みんな素直に納得してくれた。良かった。詳しく説明するのは結構大変なのだ。ハンバーグの由来には諸説あるし、メンチカツに至っては「ミンチ肉」を「メンチ」と聞き間違えたものがそのまま定着してしまったものらしいしね。
話を聞いていた料理人さんたちは、「ミンチ肉のことを、メンチ。国が違うと発音が少しばかり違うのですね」と言って納得していた。うん、それでいい。
「今回は牛肉だけでハンバーグを作ったけれど、豚肉を三割ほど入れると柔らかくて食べやすいのですよ」
とローズ母様が言うと、ポルカノ料理長たちを筆頭に料理人さんたちが、ザッと一斉に動いた。もちろん、牛肉と豚肉のひき肉を合わせてハンバーグを作る為である。
料理人は作って食べて味を覚えるのが重要。
バーティア邸やデイン邸でもその様子を見て来たので、私ももう驚くことはない。
スフィア邸の料理人さんが豚肉と牛肉をフードプロセッサーでミンチにしていくのをゆったりした気持ちで眺めていた。
しばらくすると、合いびき肉のハンバーグとメンチカツが並べられた。
「あ、確かに牛肉だけより柔らかい」
「牛と豚を合せるなんて、面白いな」
二種類の肉を一つに合わせた料理は今までなかったらしい。ポルカノ料理長が「新しい発見です!」と頷きつつ堪能し、料理人さんたちもこくこくと頷いている。
豚肉には旨味成分であるイノシン酸が牛肉より多い。
ハンバーグの材料に豚肉を加えることで、牛肉の臭みを消してさらに豚肉の旨味が入る。一石二鳥なのだ。
それもあって、私は牛肉オンリーのものも好きなのだが、豚肉も入れて作ったハンバーグの方がもっと好きなのだ。こっちのほうが柔らかいし。
「牛肉だけでも美味しいが、豚肉を入れた柔らかい方がアーシェが好きだから商会の家では、こっちの方が多いかな」
「ああ、それに旨味が増した気もするし、どっちかというと俺もこっちの方が好みだな」
リンクさんのその言葉に、ローディン叔父様とローズ母様が頷いている。
「そうね。私もだわ」
ふむ、私の為に合いびき肉の方を選んでくれていると思っていたけど、そうではないようだ。一緒に暮らしていると好みは似てくるようである。
二種類の肉を合わせたハンバーグとメンチカツを堪能した料理人さんたちも「そうですね」とこくこくと頷く。
「牛肉だけのものも大変美味しかったですが、少し豚肉を混ぜ合わせると旨味と柔らかさが加わってさらに美味しくなりました!」
「フードプロセッサーを利用すると、こうやって柔らかくたべられるのですね」
「切れ端や細かくなってしまった部分とかも有効活用できていいですね」
その料理人さんたちの言葉で思い出したのか、ローディン叔父様はクリスフィア公爵の方を見て話しだした。
「――クリスフィア公爵、王都のテイクアウト店で販売する商品なのですが、このミンチ肉を使ったものを出そうと思っているのです」
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