260 おきにいりのセットメニュー
9月1日に「最愛の家族」2巻が発売になりました(*^-^*)
有難いことに電子書籍の日間ランキングに入っていたようでとっても嬉しいです。
これも読んでくださる皆様のおかげです。
ありがとうございます。これからもよろしくお願いします(^-^)
一安心したところで、改めて調理に取り掛かる。
固まり肉をフードプロセッサーでミンチにし、玉ねぎをじっくりと炒めて粗熱を取る。
ミンチ肉をよく練って、塩胡椒、香辛料を入れて少し粘り気が出るまで練り、粗熱をとった玉ねぎと、牛乳に浸したパン粉、溶き卵を加えてムラが無くなるまで混ぜたら、成形して焼く。
実はこれまで、肉を細かく切る作業は大変だったこともあり、ミンチ肉を使う料理はあまりなかったらしい。それに手間をかけて作ったパンをわざわざ粉にして料理の繋ぎにする料理は今までなかったのだ。
まあ確かに?
初めて硬いパンを揚げ物の衣用にすりおろした時、料理人さんたちの目が信じられないものを見るような感じだったものね。
スフィア邸の料理人たちは、初めて使うフードプロセッサーに興味津々だ。
「フードプロセッサーって便利ですね! ソーセージ作りにも使えそうです!」
と話している。そう、実は、フードプロセッサーは今やバーティア商会の人気商品の魔法道具で、常に予約が入っている状態である。それも用途はスフィア邸の料理人が言うように、正にそのソーセージ作りの為なのだ。
これまで魔法道具は、灯りを始め、空調設備や冷蔵庫にオーブンなど、比較的生活に必要だと思われるものが多かった。
前世で言う大型家電が主で、小型家電ものはほとんどなかったのだ。
だからもちろんミキサーやフードプロセッサーもなく、ミンチ肉を使うソーセージもずっとナイフで細かく切って作っていたとのこと。――あの固まり肉からひき肉を作るなんて根気のいる大変な作業だ。
ホテルやレストランを開業する際に、バーティア領の小さなソーセージ工房に継続的にソーセージの供給をお願いした時、工房主が量に難色を示したのは、手作業でミンチ肉を作る為の手間と時間がかかりすぎるからだった。
でもソーセージ工房が憂えるその問題は、ローディン叔父様が持ち込んだフードプロセッサーひとつで解決したのである。
魔道具のフードプロセッサーで、あっという間に固まり肉からミンチ肉を作ったことに感動した工房の店主が、フードプロセッサーをいたく気に入り、すぐさま何台も購入したのは記憶に新しい。
フードプロセッサーは大々的な宣伝をしていなかったのだけど、料理人のつながりであっという間に広がり、その結果、次々と注文が入るようになった。今では数か月先まで予約で埋まっている状態である。
今もスフィア領の料理人さんたちはフードプロセッサーを一人一人試してみては「便利だ!」と、感動の声を上げている。
ポルカノ料理長はローズ母様の指示で、もうひとつの調理用魔道具であるミキサーを用意して、旬のイチゴでジュースを作る。
初めてミキサーを使ったスフィア領の料理人さんたちは、ジュースの仕上がりの滑らかさにさらに感動していた。
ふむ、この分ならフードプロセッサーもミキサーも活用してくれることだろう。
さて、そうこうしているうちにハンバーグにこんがりと美味しそうな焼き目がついた。――ハンバーグの出来上がりだ!
ローズ母様がハンバーグを焼き、ローディン叔父様がハンバーグにシソと大根おろしを乗せて、ジャガイモや人参、インゲンなどの付け合わせの野菜を盛り付ける。そこにリンクさんが醤油ベースの和風ソースをハンバーグにかけてくれて、ハンバーグの完成である。
「はい、アーシェの好きなセットね」
そう言いながら、ライスの皿とスープ、そして私の大好きなイチゴジュースを用意してくれた。
「あい!」
母様がセットと言ったのは、メインのハンバーグに添える何種類もあるトッピングとソース、主食のライスかパンの選択、そして飲み物と、組み合わせが何種類もあり、何度も作っているうちに私のお気に入りのセットが決まっていたからだ。
私の好きなセットは、メインのハンバーグにトッピングはシソと大根おろし、ソースは醬油ベースの和風ソース、主食はライス一択である。
大好きなイチゴジュースもついて、完璧!
用意が出来たら、いつものように、厨房横の従業員用の食堂に移動する。
代官のメンデルさんは、私たちが従業員用の食堂で当然のように食事を取ろうとしていることに目を丸くしているが、やはりクリスフィア公爵に説明を受けて驚きつつも納得していた。
そう。これが私たちのスタンダードなのだ。慣れて欲しい。
そして、これまたいつものようにみんなで一緒に試食タイムだ。
「いただきましゅ!」
「「いただきます」」
「「私たちもいただきます!」」
私の後に、クリスフィア公爵とリンクさんたち、その後にポルカノ料理長たちがいただきますをして、まずはハンバーグだけでぱくり。
「おいちい!」
ひき肉にしたことで、やわらかい食感とうまみたっぷりの肉汁が口いっぱいに広がる。
「うん、いつもの味だ。美味い」
「目玉焼きやチーズのトッピングもいいが、やっぱり俺は大根おろしがいいな。さっぱりと食べられていい」
「ふふ、そうね」
うん。いくつかトッピングやソースを変えて食べてみたけれど、結局母様も叔父様たちも、私が好きなトッピングの大根おろしに和風ソースの組み合わせが好みだった。
一緒に暮らしていると味の好みも似てくるのかな。
「これは美味いな! ナイフを入れると肉汁があふれ出す!」
「本当ですね。これはとても美味しいです」
クリスフィア公爵に相槌を打ちつつ、メンデルさんの食のスピードが止まらない。
「あ。もう無くなってしまいました」
残念そうなメンデルさん。
「大根おろしでハンバーグもさっぱりと食べられますし、この醤油という調味料を使ったソースも絶品でしたね!」
「ああ、このソースはステーキにも合うぞ」
とメンデルさんに同意するクリスフィア公爵。以前クリスウィン公爵邸での晩餐でステーキにかけられていたこの和風ソースにはまり、レシピをもらっていったくらいだ。
実はこのハンバーグに使った和風ソースは、バーティア領のホテルやレストランで提供されているステーキにも使っている人気のソースである。
醤油や酒、みりん、砂糖、玉ねぎのすりおろしとにんにくのすりおろし、それに鶏がらスープをいれて加熱すると、どんなお肉にも、そして野菜にも合う万能ソースが出来上がるのだ。
これも商会の家で普通に作っていたので、さっきリンクさんが手際よく作っていた。
スフィア邸の料理人は、この国には馴染みの薄い調味料を躊躇なく入れていくリンクさんを見て、目が点になっていた。
「伯爵様の作ったソース、絶品です‼」
と、スフィア邸の料理人さんたちは目をキラキラと輝かせている。
「きんぴらごぼうや炊き込みご飯も美味しかったのですが、醤油はこうやってステーキソースにもなるのですね」
「醤油はいろいろなものに使える、美味しい調味料なのですね!」
この屋敷の主人であるリンクさんが料理をし、こうやって一緒に食事をしたことで、自分たちの新しい主人が気さくな人物であることを感じ取ったらしい。最初厨房に入ってきた時にピリッとした緊張感を放っていた彼らだが、どうやら今は安心感に変わっているみたいだ。
うむ、料理で距離が縮まったのなら良かったね。
お読みいただきありがとうございます!




