255 いちご大福っ!
いつもありがとうございます。
書いていたら、イチゴ大福が無性に食べたくなりました(*^-^*)
「本当はお店で販売している春限定の牡丹餅を持ってこようと思っていたのですが、今回はアーシェの希望で大福をお持ちしました」
「そうなのか。牡丹餅も美味いよな。二十日間限定と聞いたが」
うん、牡丹の花は別名二十日草。牡丹の木に咲く花の咲きはじめから咲き終わりまでがだいたい二十日ぐらいなのだ。萩の花も同じぐらいなので、秋にも二十日間限定でおはぎとして販売する予定である。
あんこの材料である小豆は、唯一作付けされていたツリービーンズ男爵領でもマイナーで、作付け面積が少なかった作物である。それがツリービーンズ菓子店や王都のパン屋で小豆を使ったあんドーナツやあんバターサンドであんこブームに火がつき、一気に需要が増えたが、そもそも原料が少ないのだ。作付けを増やしてはいるが、まだまだ需要に供給が追い付いていないのが現状だ。
作付けを増やしても小豆が収穫できるまでは時間がかかるのだ。なので牡丹餅も小豆の在庫を考えて期間限定にしている。
「ええ。小豆も作付けを増やしてはいますが、まだ供給量が追い付かないので。大福も同様ですね、小豆もそうですが、もち米も量がないので、販売するなら期間限定でなければいけないと思っているのです」
足りないなら久遠国から輸入すればいいと思うだろうが、久遠大陸は遠い遠い大陸である。輸送費を考えたら販売価格はべらぼうに高くなるだろう。現実的ではない。時間がかかっても自国での実りを待つ方が断然いい。
もち米は去年初めて作付けしたばかりなので、これからのことを考えるとまだまだ足りないだろう。今年は作付面積を広げなければ。
――それに、稲は久遠国の神様がお認めになった土地にしか根付かない。
そのことを知ったのは昨年のことである。
女神様の菊の花が咲く場所を選ぶように、久遠国の神様が認めた場所にしか稲は実らないという。
稲はバーティア子爵領に根を下ろし、今ではデイン辺境伯領をはじめとしてクリスウィン公爵領、マーシャルブラン侯爵領、マリウス侯爵領に田んぼが作られ、豊かな実りを結んだ。
今後はリンクさんが継ぐフラウリン子爵領や他の公爵領には根を下ろすだろうと私は確信しているのだが、その他の地域に関しては根付くかどうかは不明である。
久遠国の神様の判断基準が私たちには分からないからだ。
久遠国の神社の宮司であるサヤ様と大使の秋津様は稲が根付いた領との交流を始めた。
どうやらこれまで閉ざされていた門戸が一気に開放されたようである。
百数十年前に久遠大陸からアースクリス大陸へ渡って来た久遠国の人たちは、容姿はもちろんのこと、文化や言葉、食生活の違いに驚いたという。
大使館は王都ではなく神社と共にルードルフ侯爵領にあるため、そこから出ることがあまりなかったらしい。
しかもこの十数年はリヒャルトのせいでアースクリス国から撤退することも考えさせられる事態となっていたのだから、少々閉鎖的な考えになってしまっていたのは致し方がないだろう。
けれど、昨年稲がアースクリス国に実ったことを機に、久遠国の人々の心持ちは百八十度変わったという。
前述したように、稲は久遠国の神様を象徴するものであり、それが根を下ろしたということ自体が、久遠国の神様がアースクリス国に根付くことを認めたという証なのだ。
その意思を汲み取った今では王都の大使館を開いており、バーティア子爵領やデイン辺境伯領はもちろんのこと、クリスウィン公爵領や他の領とも積極的に交流しているのだそうだ。
◇◇◇
「だいふく、くだしゃい!」
新しいお皿に大福をのせてもらって、カトラリーで大福の上部に切れ目を入れることにする。
でも柔らかい大福に上手く切り込みを入れられなくて、もたもたしていたら、リンクさんが「何してるんだ?」という表情を浮かべながら、さっくりと代わりに切り込みを入れてくれた。ありがたい。
白い大福の切り口から粒あんがのぞいたところに、イチゴをのせる。
よし! これで。
「いちごだいふく! かんしぇい~!」
ふふふ。これがやりたくて大福を持って来たのだ!
「まあ、大福にイチゴね。可愛らしいわ」
「あい!」
真っ白な大福にイチゴがとっても鮮やかで、とっても美味しそうだ!
「へえ、大福にイチゴで、イチゴ大福か」
「どれ、じゃあ俺たちの分も作るか」
こういう時、ローズ母様とローディン叔父様、そしてリンクさんはいつものように私のすることに全く疑いを持っていない。
三人で残っていた大福全部をイチゴ大福にして、クリスフィア公爵や管理人さんたちにも配っていた。
当然のように皆の前に一つずつ置かれたイチゴ大福を見た管理人さん。
「……あんこの入ったあんドーナツやあんバターパンは私も好きですが……。あんこにイチゴって……」
管理人さんたちは複雑そうな顔をしているけど、私はこれを思いついた人は天才だと思う。
私も前世で初めて食べる前は目の前の人たちと同じ表情をしていたのだ。
「以前差し入れにいただいた、あんこをまとった牡丹餅も美味しかったし、大福もすっごく美味しかったですが……これも久遠国で普及しているものなんでしょうか……」
管理人さんの言葉にローディン叔父様とリンクさんが答える。
「いや、米粉の本にはイチゴ大福は載っていなかった」
「そうだな」
米粉を作ろうとした時に、秋津様が久遠国で普及しているというレシピ本をくれた。そのレシピ本は甘味をまとめたもので、季節によって呼び名が変わる牡丹餅とお萩、ゴマやクルミ、みたらしをかけた串団子、大福に塩豆大福などが載っていた。その他に羊羹の作り方も載っていて、次は羊羹の材料となる寒天を買ってきてもらおうとワクワクしたものだ。
それにはイチゴ大福が載っていなかったが、もしかしたら載っていないだけで食べられているかもしれない。
大福にイチゴをのせるだけだもの。
――まあそれはどうでもいいことである。
だって、イチゴ大福は私の大好物。
早く食べたいのだ!
「いただきましゅっ!」
イチゴ大福が楽しみすぎて、声が弾む。
誰よりも先にパクリ。
口いっぱいに広がるイチゴの酸味とジューシーさ、餡子の甘味とのバランスが絶妙だ!
うわあぁ。
すっごく、美味しい~~!
「おいち~い! だいしゅき!」
ああ、前世の味と同じだ。小豆の美味しさにイチゴの酸味がものすごく合う!
「うわ! 本当だ。イチゴがすっごく合う!」
「なんだ、これ。すっげー美味い!」
「まあ、本当ね! あんこの甘味にイチゴの酸味のバランスが絶妙ね。さっぱりと食べられて、本当に美味しいわ!」
ローズ母様が大絶賛して、すぐにイチゴ大福をもうひとつ手に取った。
ふふ。ローズ母様もイチゴ大福に心奪われたようだ。美味しいよね!
「あ、俺も、もうひとつ」
とおかわりのイチゴ大福に手を伸ばすリンクさん。
「うん、ひとつじゃ全然足りない」
続いてローディン叔父様も。
そうでしょう! 美味しいよね!
私も、初めて食べた時はイチゴと大福の黄金タッグに感動したものだ。
その様子を見た、クリスフィア公爵や管理人さんたちが、少し遅れてイチゴ大福を口に運んだ。どうやらイチゴと大福の意外過ぎる組み合わせに一呼吸おいていたようだ。
口にしたとたん、クリスフィア公爵の紫色の瞳が驚きに見開かれた。
「――っ! ……驚いたな。普通の大福よりイチゴが入った方が美味い!」
「お、美味しいっ……!」
「本当ですね! 大福とイチゴがこんなに合うとは思わなかったです!」
管理人さんたちもこくこくと頷いている。
「この食べ方は初めてです。本当に美味しい」
「もうひとついただいてもいいでしょうか」
「わ、私もいただきたいですっ!」
たくさん持って来た大福は、イチゴ大福になって全部みんなのお腹におさまった。
「大福がイチゴでさっぱりと食べられる。このジューシーさがいいな」
しっかりとイチゴ大福を三個食べたクリスフィア公爵が満足そうに頷いた。
そうでしょう! 大福とイチゴはベストマッチなのだ。
秋になるとシャインマスカット入りを買って食べたものだけど、大福にフルーツを合わせるなら断然イチゴ。それが一番美味しいと私は思うのだ。
甘味が苦手なクリスフィア公爵だけど、干し柿の時はバターを挟んで甘じょっぱさにハマった。
今度はイチゴのジューシーさで、イチゴ大福にハマったようだ。
クリスフィア公爵は、家族にもイチゴ大福を食べさせたいと言って、ローディン叔父様が別に持ってきていた手土産用の大福にイチゴをのせていた。
うむ、炊き込みご飯の時も思ったけど、クリスフィア公爵は奥様やお子様たちをとても大事にしているのが分かる。
クリスフィア公爵には魔法学院に通っているお子さんがいるという。
このお店のある場所は、魔法学院の生徒たちがよく立ち寄る場所であり、さらに自分の家が開いていることもあって、よく来られるそうだ。
そのうちクリスフィア公爵の娘さんや息子さんに会うこともありそうだ。
お読みいただきありがとうございます!




