253 いちごの最強タッグ!
お久しぶりです(*^-^*)
更新ゆっくりめになっておりますm(__)m
まだまだ続きますのでよろしくお願いします!
今日私は、王都の新しいお店の敷地にあるイチゴ温室に来ている。
王都に戻って来てから、ひと月近くが経とうとしている。
バーティア子爵領をこんなに長く離れたのは初めてで、商会の家がちょっぴり恋しい。
でも今現在、私の知らないところでいろいろなことが動いているらしく、ディークひい祖父様たちからだけでなく、クリスフィア公爵からも、私やローズ母様を確実に守る為に王都にいて欲しいとのことだったので、素直に頷いた。
遠いバーティア子爵領より、近くですぐに対応できる方がいいのは頷ける話だ。
王都にはローランドおじい様やディークひい祖父様がいるし、私の家族であるローディン叔父様とリンクさん、ローズ母様が一緒にいる。
家族のいる場所は私のいる場所なのだから、そこが商会の家でも、王都のお屋敷でも同じことだ。楽しく過ごそうと決めた。
最近はテイクアウト店の開店準備で、お店と、イチゴ温室通いをしていた。
――そして、今目の前には真っ赤なイチゴが芳醇な香りを放って、たわわに実っている。
とっても美味しそうだ。
イチゴの苗はクリスフィア公爵家の管理人さんから成長していたものを分けてもらい、すくすくと成長していた。
クリスフィア公爵が移植した時に魔力を使って苗と土壌との親和性を高めてくれたおかげもあって、青い実がついていたイチゴは、日を追うごとにひとつ、またひとつと色付いていたのだ。
そして、今日はイチゴの収穫! と楽しみにイチゴ温室にみんなで来た。
そう、今世で初めての『イチゴ狩り』だ!
熟した赤い実を採って、思う存分その場で食べる。
私にとってこれ以上はない贅沢だ。
「へたに近いところまで赤くなっているものが美味しいですよ」
「つぶつぶは黄色いものより赤くなったほうが完熟しています」
と、教えてくれるのは、温室を管理してくれている管理人さんたちである。
お店の賃借料は、温室の管理費も込みだったらしく、クリスフィア公爵家の管理人さんたちが、イチゴ温室も管理してくれていた。
農業のプロが管理してくれているのだ。安心感はこの上ない。
管理人さんのアドバイス通りに大きな真っ赤に熟したイチゴを摘み、ぱくり。
イチゴの瑞々しい果汁が口いっぱいに広がる。
イチゴの甘味とほどよい酸味。すっごく美味しい!
「おいち~い!」
「ええ! とっても美味しいわ」
私の隣でローズ母様もイチゴの美味しさに感動している。
「うん、美味いな」
ローディン叔父様とリンクさんも次々ともぎ取っては口に運んでいる。
「他の二つの温室にも別のイチゴの苗を移植しましたから、そのうち出来ますよ」
管理人さんは、別の種類のイチゴの苗をそれぞれの温室に植えてくれていた。今いる温室が一番に実がなり、次は隣の温室、その次はそのまた隣の温室と、長い期間イチゴを楽しめるようにしてくれたらしい。
嬉しい~!
次々とイチゴを頬張って堪能していると、
「おー、イチゴ、ちゃんと実っているな」
と、言いながらクリスフィア公爵が温室に入って来たので、温室の一角で休憩することになった。
もちろん、おもてなしは採れたてイチゴである。
「うん、イチゴは安定の美味さだな」
クリスフィア公爵もイチゴが好きなようである。
摘みたてのイチゴを次々と頬張っている。
「でもたまに美味そうに見えても酸っぱいやつもあるんだよな」
「ええ、そうですね。見分けるのが難しいです」
クリスフィア公爵の言葉に管理人さんが頷いていた。
そう。気温などの生育状況によって、大きくて真っ赤に熟していても味が薄かったり、酸味があるものもある。ぱっと見ただけでは分からない。
実際美味しいかも、と思って摘んだイチゴには当たり外れがあって、ちょっと酸っぱい物もあった。
だから、そういうのもあるかと思って、昨日母様と作った物がある!
イチゴに一番合うもの! と言ったら――もちろん、あれだ。
「かあしゃま! こんでんすみるく!」
それ一択だ!
「ええ、持ってきているわよ」
バスケットの中から、ローズ母様が瓶に入った乳白色のコンデンスミルクを取り出してテーブルの上に置いた。
「ん? なんだ、これ?」
「コンデンスミルク?」
ローディン叔父様とリンクさんにも、初お披露目である。
「ミルクとお砂糖を煮詰めて作った物なの。濃厚なミルクの味がして美味しいのよ。イチゴとの相性がとってもいいの」
ローズ母様はそう言いながら、コンデンスミルクを小皿に分けていく。
「はい、アーシェ。こぼさないようにね」
「あい!!」
とろりとした、乳白色のコンデンスミルクをイチゴにつけて、ぱくり。
「おいち~い!!」
ああ、やっぱり、コンデンスミルクとイチゴの組み合わせは最強だ!
ものすごく美味しい!
「うわ! このコンデンスミルク、イチゴとすっごく合う!」
「ああ、なんだこれ、すっげー美味い!」
「本当だな! これなら酸っぱいイチゴでも美味しく食べれるな」
「ええ、昨日試食した時も濃厚なミルクとイチゴとの相性が抜群だと思ったのよ」
ローディン叔父様とリンクさん、ローズ母様はもちろんのこと、
「イチゴの酸味とこの甘さのバランスが絶妙だな!」
甘味があまり得意ではないクリスフィア公爵も美味しいと太鼓判を押した。
そうでしょう! イチゴとコンデンスミルクは最強タッグなのだ!
イチゴの赤とコンデンスミルクの乳白色、色も鮮やかで、味も完璧だ。
ミルクの甘さと滑らかさ、イチゴの酸味とジューシーさが口の中で混然一体になってとっても美味しい。
「みるくちゅけると、しゅごくおいちい!」
「うん、この食べ方は本当に美味いな」
私と同じく、ローディン叔父様とリンクさんもイチゴとコンデンスミルクのおかわりが止まらない。
この食べ方ってエンドレスになるんだよね。
果物は、シンプルにそのままで味わうことが多い。
商会の家でも、他で食事をしても、フルーツは食べやすいようにカットされたものが主流である。ケーキの飾りつけ以外ではシンプルなカットフルーツがよくデザートに出てくる。
もちろんそれが一番美味しい。
貴族や裕福な豪商などの家は、色も形も大きさも完璧な美味しいイチゴが供されているので、商会の家でも美味しいイチゴをいただいてきた。
厳選されてきたイチゴは高級品に位置し、もちろん美味しく、コンデンスミルクは必要ないのだが、野菜も果物も全部が全部同じようには実らないのが現実だ。
形が悪かったり、小さかったり、酸っぱかったりするものも当然出るのが普通である。
イチゴ温室をするにあたって、そんな規格外(?)のイチゴも美味しくいただくために、コンデンスミルクを作って来た。
コンデンスミルクは昨日、今日のイチゴ狩りに向けて、元菓子職人のハリーさんとローズ母様が作ったものである。
ちなみにハリーさんはバーティア子爵家本邸のレイド副料理長と一緒に、この時期発売される、季節限定商品のぼた餅の助っ人要員として、子爵領本邸から王都別邸に来ていた。
バーティア商会の王都支店は、人口密度に比例して、圧倒的にバーティア子爵領の本店より集客状況が良い。
嬉しいことに繁盛しているが、『人選びは慎重に』がバーティア商会では重要事項に位置しているので、すぐにスタッフは増えない。とはいえ、仕事は待ってくれないので、結果的にいつもバーティア子爵領の使用人さんたちが王都のお店に来ているのだ。
特に元菓子職人だったハリーさんと王都別邸のファイランさんは、菓子職人時代は王都にいたので、地理にも明るく、人脈もある為に、『季節限定スイーツ』が出る度にお店に駆り出されるのが定番になっていた。
昨日はファイランさんがお店の当番でハリーさんがお休みだった為、ハリーさんにコンデンスミルク作りを手伝ってもらったのである。
コンデンスミルクの作り方は比較的シンプルだ。
牛乳に砂糖を入れて、時間をかけて焦がさないように三分の一くらいまで煮詰めれば出来る。
ハリーさんの隣でローズ母様もコンデンスミルク作りに挑戦していて、「まあ、意外と簡単なのね」と言っていたくらいだ。
「砂糖の分量を変えて、バターを入れるとキャラメルが出来ますよ」
と、ハリーさんはコンデンスミルクの他にキャラメルを作ってくれた。嬉しい。
この国ではキャラメルはあったけど、コンデンスミルクは普及していなかったようだ。
固形化したキャラメルはお菓子として需要があったけれど、液状のコンデンスミルクは使い道があまりなかったとか、ハリーさんが言っていた。
イチゴにかけて食べることもしていなかったみたい。
そうなんだ。美味しいのにね。
ミルクとお砂糖が濃縮されて出来上がったコンデンスミルク。
出来上がったそれを試食した時は、その美味しさと懐かしさに涙が出そうになった。
「そのままで食べても美味いな」
甘いものが好きなローディン叔父様とリンクさんは、コンデンスミルク単体でスプーンで堪能していた。
ふふふ。そうでしょう! 前世ではコンデンスミルクの美味しさに、イチゴにかけるだけでなく、スプーンでそのまま味わったりもしていたものだ。
コンデンスミルクは、管理人さんたちにも好評で、クリスフィア公爵と共にコンデンスミルクをおすそ分けすることになった。
――さて、たっぷりと摘んだイチゴ。
次はもちろん、あれを作るのだ!
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