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245 やっぱりどっちも?



 ◇◇◇



 食事作りを終えると、夕食の時間を待たずにカレン神官長とドリーさんとライナスさんは厨房隣の食堂で早めの夕食を取った。

 ディークひいおじい様や魔術師さんたち、騎士さん達は仮眠をとったけれど、カレン神官長たちはこれまで一睡もしていないので早めに夕食を取り、休むためだ。



「にんにくのきいたから揚げが絶品ですわ~!」


 今回頑張ったカレン神官長には特別にから揚げを大皿に用意した。

 その他の料理のおかわりは二回まで、とライナスさんとドリーさんに強く言われていた。と言っても、おかわりはもちろん全て山盛りだから、結局は普通の人の5倍はある。それに試食だって『試食』の量ではなく、普通に一食分を食べていたし。

 ふわ~。相変わらず気持ちいい位の食べっぷりだ。


「本当ですね。鶏肉の中からじゅわっと美味しい汁が出てくる。何個でも行けます」

「白いご飯との相性がぴったりですわ。それにこの肉じゃがの美味しいこと。玉ねぎも甘いし、特にお出汁が沁みたじゃがいもがとってもとっても美味しいですわ」

 ドリーさんは肉じゃがが気に入ったようだ。


 私たちもカレン神官長たちと一緒に早めの夕食を取っていた。お昼寝無しでがんばった私が今寝落ちしたら夕食を食べそこねるのが確定していたからである。

 ここはお腹が空いたらどんな時間でも軽食を用意してくれる、デイン伯爵家やバーティア子爵家ではないし、ルームサービスがあるホテルでもないのだ。忙しい神官さん達に迷惑をかけないように、食べられるうちにちゃんと食べておかないとね。


 みんなでから揚げや肉じゃがを堪能した後、食後に酒粕の甘酒を味わう。

 ああ、甘酒が美味しい。

「甘くて美味しい。優しい味ですわね」

「ほっとする味だな」

 ドリーさんとライナスさんは、昨日から今日にかけての仕事を終えてやっとホッとしたようだ。強行軍で来た人たちはもちろん、ドリーさんとライナスさんはさっきまでずっと動きっぱなしだったのだ。

 本当にお疲れさまでした。


 甘酒を堪能しつつ、ドリーさんとライナスさんは明日のメニューであるすいとんの鍋を眺めながらしみじみと言った。


「すいとんは画期的でしたわね。すいとんひとつでお腹が満たされますもの」

「教会には三国からの避難者の他に、国内の寡婦や孤児もまだまだいるからね。すいとんは主食とスープが一緒になっているからいざというときはこれ一杯で賄えるのがいいな。非常時にはパンが手に入らないことがあるからな」

 ライナスさんは新人神官が書いたすいとんのレシピを手にしてふむふむと頷いていた。


「そうですね。バーティア子爵領の教会でもすいとんはよく作られているんですよ」

 そうローディン叔父様が言うと、『やっぱりそうですよね』とドリーさんたちも頷いた。

 実は最近バーティア子爵領の教会に身を寄せる人たちが増えている。


 バーティア子爵領でも、様々な理由で寡婦となった女性や孤児は少なからずいる。また、戦争で後遺症を負った人も。

 その中には小さい子どもを抱えて働けない女性もいる。

 そういう女性や障害を持つ男性たちの受け皿としてラスク工房や蜂蜜工房、レストランなどがあり、働く女性の子どもたちは日中教会で預かることにしている。

 教会は読み書きを教える学び舎の他に、保育園の役割も果たしているのだ。


 そして近頃、以前王都で会ったサラさんやサラサさんのように、家を失った人たちがバーティア子爵領に集まってきているそうだ。

 バーティア子爵領は結晶石が採れないので、農業中心でそんなに栄えているわけじゃないんだけどね?

 それでもここ数年でバーティア商会の名が広まったことで、バーティア子爵領なら受け入れてもらえるかもという希望を持って来るらしい。


 家を失って必死になってやっとたどり着いた人たちを追い返せるわけがない。

 けれど、無償でずっと受け入れ続ける余裕ははっきり言ってないのだ。


 だから、働いてもらう。

 幸い今はお味噌や醤油の工房も稼働しているし、お豆腐や油揚げの工房も順調だ。春になったら畑の作付けを増やす予定なので農作業の働き手にもなってもらうつもりだ。

 そしてホテルとレストラン、商店街の近くに新しいアパートを建てた。バーティア子爵領で働いている限り家賃は格安である。

 教会で心と体を癒やした後で、自分の出来る仕事に就き、新しい家での生活をスタートさせる。デイン辺境伯領が難民を受け入れる為にしたことと同じことをバーティア子爵領でも今やっているのだった。


 ――そして、そんなある日。教会で突然人数が増えてパンを調達できなかった時があった。その時にすいとんを教えたら、すぐに定番化したのだった。

 すいとんは主食でもあるからね。スープ皿ひとつでお腹がいっぱいになると好評でよく作られるようになった。


 そして、すいとんにもバリエーションがある。

 実は私はこっちの方が好みなのだった。

「じゃがいもとか、山芋が入ったすいとんも美味しいですわよ」 

「ああ、このすいとんより仕込みの手間はかかるけど芋の旨味と食感があって美味いよな」

 ローズ母様やリンクさんの言葉に、ローディン叔父様が同意している。

 山芋が出来た昨年の暮れ辺りに、初めて山芋入りすいとんを作ったら、山芋の食感と旨味がいいと好評だった。

 すいとんの生地にお芋が入るとお芋の味が入ってすいとんがさらに美味しくなるのだ。

 とはいえ、山芋はまだ作付けをし始めたばかりの貴重な食材なので、教会のメニューにするには難しい。

 なので教会では山芋の代わりに在庫がたくさんあるじゃがいもですいとんを作ったら、『じゃがいも入りも美味しい!』と、普通のすいとんとじゃがいも入りのすいとんが教会では定番メニューになった。


 私もじゃがいもや山芋入りのすいとんが好きだ。

 ただ、芋を茹でたり蒸かしたりした後に潰し、片栗粉を加えて成形し寝かせるので、粉だけのすいとんより多少仕込みに手間と時間がかかる。美味しいものは時間と手間がかかるもんね。


「「じゃがいも入りのすいとん。お、美味しそうですわ……」」

 カレン神官長と声が重なったのはドリーさんだ。


「これから王都に戻るので、今度レシピとお料理をお作りしてお持ちしましょうか?」

 とローズ母様が言うと。


「「「よろしくお願いします!!」」」


 あれ? 声がさらに重なった。

「出来れば早めにお願いします!」

 と言ったのはライナスさんだ。

 ライナスさんは今日のメニューですいとんが一番お好みのようだった。

 

 ――そういえば、カレン神官長のお付きのドリーさんとライナスさんも当然昨日から完徹なんだよね。

 他の人たちが休んでいる中、ドリーさんとライナスさんはみんなの為に頑張って調理をしてくれたのだ。

 近いうちに持って行くことにしよう。

 ――あ。でも。とりあえず聞いておこう。


「じゃがいもいりと、やまいもいり。どっちがいい?」


「「「どっちも食べたいです!」」」

 綺麗に大神殿所属の神官長と神官二人の声が重なった。


 ――あ。やっぱりそうだよね。


 寸胴鍋、持ち込み出来るかな?




お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
こちらでは甘酒に少しの塩とすりおろした生姜など入れたりします。 少しピリッとした甘酒になります。
岩手県では「ひっつみ」と呼ばれています。
[一言] 鶏の挽肉を混ぜたすいとん?も美味しいですよ。問題はすいとんに分類されるかどうか
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