241 まちがえない
誤字脱字報告ありがとうございます。
本当に助かっています。
これからもよろしくお願いします。
さて、これで夕食作りは完了。次は明日の朝食プラスお昼のお弁当作りに移行する。
さっきお弁当を『出来れば温かい状態にしておきたい』と話していた時、カレン神官長が調理には参加できないけれど、保存魔法をかける役割を立候補してくれたのだ。
保存魔法は数日程度なら出来立てをキープ出来る便利な魔法だ。
とは言っても、高度な魔法なので扱える人がなかなかいないのが現状。そんな貴重な魔法を『調理を手伝えないからその代わりに』とカレン神官長が自ら申し出てくれたのだ。
『私もいただくものですし、冷めたお弁当を再び温めるより、最初から出来立てをキープしたほうが断然いいですよね!』と。
美味しいものを美味しいうちに食べる。それは出来立てが一番!
そう言って高度な保存魔法の大盤振る舞いを約束してくれた。
その考えは正解だけど、それを実践出来る魔術師は稀なのだ。
まあでもそれが出来るカレン神官長がいるのだ。それならこのままの勢いで一気に朝食とお弁当を仕込んでしまおうという事になったのだ。
となるとスピードアップが求められるので、金髪や銀髪の新人神官さんはお米を研いだり、炒めたりする役に。黒髪、茶髪の新人神官さん達にはひたすら野菜などの食材を切る役目を担ってもらった。
普段は同じ作業を一緒にすることを信条にしているらしいが、今は時間との闘い。ナイフの扱いに慣れている平民出身の神官さん達にはひたすら大量の野菜を切ってもらい、貴族出身の神官さん達には米とぎに炊飯、炒め役などそれぞれに得意な分野で働いてもらう。つまり適材適所で時間短縮をするのだ。
貴族出身の神官さんの危なっかしい手元の心配をする必要が無くなったことで、明らかに全体的な動きの速さが上がってきたような気がする。
ふむ。よいことだ。
「予備の鍋もってきたぞ」
リンクさんとローディン叔父様が神官さんと共に大きな鍋を抱えて厨房に戻って来た。
明日の朝昼分の準備をすることになったので、さすがに鍋が足りなくなって、食品庫奥の倉庫から予備の大きな鍋を運び込んできたのだ。
厨房に併設している食堂のテーブルの上には、夕食用に作った肉じゃがやお味噌汁、白ご飯に酒粕の甘酒入りの大鍋が並んでいる。もちろん鶏のから揚げも。
肉じゃがとご飯、甘酒に関してはおかわりを見込んで大鍋二つずつ用意したので、これから作る料理の為のお鍋が不足になったのだ。
この神殿は有事の際の避難所でもあるので、保存食に寝具はもちろん、食器や鍋もそれに合わせて不足にならないように用意されているとのことだ。なるほど。
「明日の朝食は、あんかけご飯にするんだったな。よしあんかけは俺とローディンが担当しよう」
「まあ! あんかけご飯! 私、大好物ですわ! でもここにはエビも小さい卵もありませんけど」
おや、カレン神官長はいかやエビを入れた海鮮バージョンしか食べたことがなかったんだ。
あんかけご飯はお出汁のきいたあんが美味しいので海鮮が無くても野菜とお肉でも十分美味しいのだ。
「ここは内陸部ですから海のものがないのは仕方ないですね。でも、野菜とキノコ、豚肉だけで作っても美味しいのですよ」
と、ローディン叔父様がいろんなバージョンがあるのだと話した。
そう。王都ではあんかけご飯のリクエストが何度もあったので、日によって具材を少しずつ変えていた。お肉を鶏肉にしたり野菜の種類を変えたりして。
「小さい卵も大きい卵のゆで卵をスライスして乗せればそれで代用できますわ」
すでにあんかけご飯用に卵を茹でて殻むきをしながらローズ母様がカレン神官長に話すと、納得したようにカレン神官長は『まあそうでしたのね』と頷いた。
さすがローズ母様、準備がいいです。
そう。あんかけご飯用に小さい卵が欲しくても市場に出回っていなかったので、入手出来なかった時はその方法で代用していた。
それでもやっぱり『あんかけご飯には小さい卵の方がいい』と皆口々に言っていた。
それは私も同感だ。やっぱりどこか違うもんね。
あんかけは豚肉に椎茸、白菜やニンジンなどの野菜類をたっぷりといれた。ローディン叔父様やリンクさんは王都別邸で何度も作っていたので慣れたものだ。その二人の指示で新人神官さん達が調理方法を教わってあんかけを作って行く。
カレン神官長お付きの女性神官のドリーさんも作り方を覚えたいと言って加わり、ふたつの大鍋を使ってあんかけご飯を作り上げた。
そしてスライスしたゆで卵をトッピングして完成だ。
「ふわあ! 炊き立てのご飯にこのあんかけが絡まってすっごく美味しいです!」
「片栗粉ってこんな使い方も出来るのですね!」
うむ。ここでも片栗粉はあまり使われてこなかったようだ。
「お米も美味しいです。噛むと甘味が出てくるのですね」
「本当に。今まで焦げたり水っぽかったりしたのばっかりで、ちゃんと炊けるとこんなに美味しいんですね」
そう言って感動しているのは、ローズ母様に炊き方のコツを教えてもらっていた新人神官さんたちだ。
彼らはまずはあんかけのかかっていない白ご飯を噛みしめてその美味しさにうんうんと頷いていた。
「パンと同様にご飯も噛むと甘くて美味しいです。パンの仕込みには発酵時間がかかるので、時間が無い時はお米がいいのですね」
そう言ってあんかけがかかった部分を食して、美味しいと絶賛していた。
彼らはこれからお米を食べて活用してくれるだろう。
ふと時間を確認すると夕方になっていた。
仮眠を取っているディークひいおじい様たちが夕食の席に着くまであと二時間ちょっと。
後は朝食用にもう一品とお弁当だ。
それも50人分~~
でもあれ? なんだか楽しくなってきたぞ。
前世では決められた時間の中で何品作れるか、という番組を好んで見ていた。
私はプロの料理人ではないけれど、頭の中で段取りを考えながら楽しんで料理をした懐かしい記憶がある。
一人じゃ絶対的に時間が足りないけど、ここには人手があるのだ。大丈夫だ。
さあ、頑張ってやり切ろう!
では、あんかけが出来たので、朝食用にもう一品。
さっきパン作りを途中で止めたので、計量された小麦粉がボウルに入ったまま放置されていた。
それを見た時すぐにすいとんを作ろうと思いついた。
ディークひいおじい様率いる魔法省の人たちや、警備隊、カレン神官長たちは、明日の朝早く夜が明けたと同時に出立する。そして王都に帰りつくのは夜半になる。行きも帰りも強行軍なのだ。
雪まつりが催されるほどの厳冬期。
寒さを和らげる防寒具や魔道具があるとは聞いているが、馬で駆け抜けるというだけでものすごく疲れるだろう。
現に犯人の確保と移送が完了し、強固な結界に護られたこの神殿で、やっとひとごこちついた騎士や魔術師さん達。
彼らは今休憩所で爆睡しているらしい。みんな完徹して任務を遂行していたんだもんね。お疲れ様です。
ディークひいおじい様もさすがに疲れたらしく、私達と別れた後、夕食まで別室で休むと言っていた。本当に疲れたんだろうなあ。
明日も強行軍になるので、それならば朝ごはんをしっかり食べて英気を養ってもらおうと、ボリューム満点のメニューにした。
ご飯たっぷり、豚肉や野菜たっぷりのあんかけご飯。
そして、これまたたっぷりの野菜に鶏肉、歯ごたえのあるすいとん。炭水化物が被るけど、夜が明けたら出発して昼ごはんまで時間が空くと聞いていたので、とにかくお腹いっぱい食べて行って欲しいと思ったのだ。
さてそのすいとん作りだが、ボウルに残っていた小麦粉に片栗粉と塩を投入し、ぬるま湯を少しずつ加えて練った後、生地を寝かせておく。
生地を休ませておく間に、出し汁に大根と人参、ゴボウ、椎茸、鶏肉とどんどんと入れていき、お酒、めんつゆで味を調える。
その後、寝かせておいた生地を水につけて少しずつ伸ばして鍋に投入して行く。
水につけなくてもすいとんは出来るけど、生地に水を少しつけてから伸ばすと、薄く伸びて滑らかな食感のすいとんが出来る。
こっちの方が一部分ワンタンのように薄い食感の部分が出来て、好きだったのだ。
「まあ、アーシェラ様、生地を伸ばすのがお上手ですわ」
「あい。のばすのすき」
不器用さんなカレン神官長の代わりに手伝ってくれているドリーさんが褒めてくれた。
ドリーさんは長い銀髪や背格好がローズ母様に似ていて、後ろ姿だけではぱっと見ローズ母様に見間違ってしまうと思うくらい似ている。年の頃も同じくらいだし。
調理をするにあたってローディン叔父様たちは軽装に着替えて愛用のエプロンをし、ローズ母様は旅装から神殿の厨房用の制服を借りて着替えた。ローブから着替えたドリーさんも同じ厨房用の制服だ。
ドリーさんもローズ母様も調理の為に髪を結い上げ、厨房用の制服に着替えている為、新人神官さん達は後ろ姿では見分けがつかないらしい。時折間違えては慌てていた。面白い。
そういう私は間違えない自信がある。えっへん。
何故かって?
こどもが大好きなお母さんを間違えるわけはないよね?
お読みいただきありがとうございます。




