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240 いまは、まだ。

明けましておめでとうございます(◕ᴗ◕✿)

今年もよろしくお願いします。


書籍化作業が進んでいます。

詳細等が決まりましたら活動報告でご報告させていただきます。



 ふわりとお酒の香りがするこれは、おこめで作ったお酒の絞りかす――酒粕だ。

 王都を離れる日の朝、月斗さんが訪れて久遠国の大使館で仕込んだ米のお酒を持ってきてくれたのだ。

 前もって酒粕も欲しいとお願いしていたので、箱いっぱいに酒粕も持ってきてくれた。

「ん? この白いのって酒の匂いがする」

「これ、おしゃけをしぼった、さけかす!」

「そういえば、月斗さんも酒の副産物って言ってたな」

 今年初めてバーティア産のお米を使って仕込んだお酒。そしてこれはその酒を搾ったあとにでた酒粕である。

 前世で酒粕は新しいお酒が出来る冬の時期の風物詩であり、私の大好物だった。

「これってどうやって食べるのかしら?」


「アルコールも残ってるだろう?」

「かねつすると、のこったおしゃけがきえるの!」

 前世の記憶では酒粕のアルコール分はたしか8%ほど。加熱するとだいぶ落ちる。


 月斗さんが酒粕に付けてくれたレシピには、ディップや白和えなど酒精を楽しむものの他に、味噌汁や鍋に入れるもの、そして甘酒が載っていた。

 そして『酒粕を加熱すると酒精が無くなります。妊婦やお子様も安心して召し上がれます』と記載されていたのは有難い。

 前世では加熱しても微量の酒精は残るが、こっちでは加熱すると完全に酒精が消えるということなのだ。

 加熱調理するなら仕事モード中の騎士さんや魔術師さん達にも安心して食してもらうことが出来るし、私も堂々と食べれる。

 どっちかというと、私が食べれることが一番嬉しい。


 さっそく熱めのお湯に酒粕をちぎって入れ、ふやかしてペーストを作っておく。

 その間にお味噌汁を作る。今日はシンプルに大根と大根の葉を使ったお味噌汁だ。

「あ。お味噌汁って美味しいのですね」

「本当だ。美味しい」

 厨房の神官さん達は初のお味噌汁のようだ。

「なんだか内側から温まってきます」

 うん、味噌汁って身体を温めるんだよ。


「ここにさけかすをすこしだけいれる」

「へえ。そうなんだ」

 酒粕のペーストを入れる。分量は普通のお鍋に大きなスプーンで一・二杯程度でいい。今回は大鍋なのでそれに合わせて酒粕を入れ、再び火を入れたら完成だ。

 加熱したら酒精は飛び、味噌汁に酒粕のコクと旨味が加わって美味しくなる。


「あ。味噌汁にコクが加わって美味い」

「ああ、それにいつもの味噌汁より身体が温まる。いいなこれ」

「本当だわ。まるでキクの花の飴を食べた時みたいね。あったまるわ」

 ローディン叔父様とリンクさん、ローズ母様がいつもの味噌汁との違いに驚いた。

 うんうん。酒粕は栄養豊富で美味しい食品なのだ。グルタミン酸やアスパラギン酸とかの旨味成分があるから料理にコクや旨味も足すことができるし、栄養も豊富で身体にもいい。

 なにしろ、バーティア領産のお米で出来たお酒の副産物なのだ。

 絶対に美味しいはず! と酒造りの前からものすごく期待していたのだ。


 そしてそれは思った通りだった。

 あつあつのお味噌汁をふうふうしてこくり。

 ああ、お味噌汁にコクと甘味が追加されて、すっごく美味しい。


「さけかすいりのおみそしる、おいちい」

「本当よね。ほんの少し酒粕を入れただけなのにこんなにお味噌汁が美味しくなるなんて驚いたわ」

 ローズ母様は酒粕入りのお味噌汁がすごく気に入ったようだ。

 珍しくおかわりをしていたから、相当気に入ったのがわかった。


 よし、それなら。


「さけかすをおゆにといて、おさとういれるとおいちいのみものになる」

 酒粕料理の中で、私が一番好きな酒粕の甘酒だ。

「まあ。それはとても美味しそうだわ」

 と言って、酒粕が気に入ったローズ母様が自ら甘酒作りを買って出てくれた。


 ここの厨房にはミキサーがないので、お湯でふやかしておいた酒粕をさらにザルを使って滑らかに濾し、お砂糖を適量入れて沸騰させる。

 月斗さんからもらったレシピ通りに数分沸騰させると、お酒の成分は揮発。

 ――昔懐かしい酒粕の甘酒のできあがりだ。

 ふわりと湯気にとけこんだお酒と砂糖の甘い香りが鼻腔をくすぐる。


 その香りがとってもとっても懐かしい。


 この酒粕の甘酒は前世の冬に無くてはならないものだった。

 住んでいた地域に酒蔵があったこともあり酒粕は身近なものだった。

 冬になると親戚から酒粕をいつももらっていたものだ。


 前世では地域の商店街で冬季の催し、そして初詣で甘酒をふるまっていたことがあったなあ。


 ――酒粕の甘酒は物心がついた幼い頃から飲んでいた、身体に温かく心に懐かしい飲み物だ。



「まあ! 美味しそうな香りですわ! では、ちょっと失礼して」

 と、急にカレン神官長が懐から魔道具らしきものを取り出した。

「私、酒精(アルコール)を飲むとちょっと困ったことになるので、これでチェックするのですわ」

「こまったこと?」

「そういえば、商会の家やバーティア家での晩餐でも酒精は飲んでなかったですね」

「お料理に入る程度の量なら問題無いのですが」

「ぐあいわるくなる?」

「いいえ。そんなことではないのですわ。――ただちょっと」

 カレン神官長はそれ以上聞かれたくないらしく、言葉を濁した。


 困ったことってなんだろう?

 酒癖のことかな?

 泣き上戸とか、暴れるとか?

 私は前世酔うとわけもなく楽しくなる性質だったなあ。


 カレン神官長は、生まれつき強い魔力を持っていて、女神様の水晶を胸に抱いている。

 ――それに関することなのかな?


 もし何かカレン神官長の弱みに繋がることなら深く聞かない方がいいよね。

 


 ◇◇◇



「ふああ~~! 温まります~~!!」


 無事魔道具により甘酒に酒精が残っていないことが確認されたことで、カレン神官長は嬉々として甘酒を堪能していた。

 舌の火傷を心配したけど、カレン神官長は熱い物が平気らしい。美味しい美味しいと言って、熱々の甘酒をすごいスピードで飲んでいた。

 

 おかわりをきっちりと2杯もらってほっこりしていた。


「ええ。それに甘くて美味しいですわね。味醂も甘くて美味しいけれどそのまま飲むには酒精がきつくて。こっちの方が飲みやすくて私は好きだわ」

 ローズ母様はアルコールは甘いものを好むので、甘酒はお好みのようだ。

 カレン神官長のおかげで酒精が残っていないことが証明されたので、私も安心して飲むことが出来る。


 温かい甘酒をふうふうしてコクリと飲んだ。

「おいちい!」

 ああ、すごく懐かしい。酒精が残ってないけど、ほわん、と体の奥から温まる。

 酒粕には血管を広げ血行を良くする効果がある。加熱したことで酒精が抜けたけどその効能は残ったようだ。頭にじんわり汗をかいてきた。すごい。


 それはローディン叔父様とリンクさんも感じたようだ。

「これはいいな。芯から温まる」

「夕食の時に一緒に出そう。任務中にアルコールは飲めないだろうしな」

 みんな明日馬で王都まで強行軍で帰るのだ。それに王都に戻るまで何があるかわからないのでお酒は出さないらしい。

「ああそうだな。カレン神官長が酒精が無いことを確認してくれたから安心して飲めるしな」

 カレン神官長のおかげで皆に酒粕の甘酒が振舞われることに決まった。


「バーティア領産の米から酒が出来て、酒粕がこうやって出来るんだな。面白い」

 甘酒をゆっくりと堪能しながら、ローディン叔父様がしみじみと言うと、リンクさんがそうだな、と同意した。

「ああ。主食として食べるだけでなく、酒になるし、酒粕も旨いってわかった。フラウリン子爵領にも早く田んぼを作らないとな」


 フラウリン子爵領は近い将来リンクさんが受け継ぐ場所だ。


 久遠国の稲は、久遠国の神様の御心を宿している。

 ゆえに稲は根をおろす場所を選ぶということを秋津様やサヤ様に教えてもらった。

 私が大好きなリンクさんが領主として守る土地ならば、根を下ろしてくれるだろうと思っている。


 フラウリン子爵領は南端のデイン辺境伯領にほど近い内陸部に位置する場所にある。

 バーティア子爵領、そしてローズ母様の嫁ぎ先であるクリステーア公爵家からははっきり言って遠く、気軽に行き来出来る距離ではない。


 王妃様はクリステーア公爵家に転移門を作ってくれると言ってくれたけれど、商会で一緒に住んでいる今とは全く違う生活になる。

 小さな家でローズ母様とローディン叔父様、そしてリンクさんとの4人で過ごす、私にとってかけがえのない幸せな空間。いずれそれを手放すことになる。


 最善を選んだと思ってはいても、離れるのはやっぱりつらい、な。


 ――ふと、そう遠くないうちにくるだろう未来のことが頭をよぎり、ちょっぴり悲しくなったのは内緒だ。


「あーちぇもおてつだいする!」

 思いを振り切るように言うと、リンクさんが大きな手で私の頭をなでた。

「ああ、もちろんだ。みんな一緒にフラウリン領に行こうな」

「あい!」


 今はまだこれからの楽しいことを考えよう!



お読みいただきありがとうございます!

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[一言] 明けましておめでとうございます。
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