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223 しかくいふらいぱん

コメントありがとうございます。

なかなか返信できませんが楽しく読ませていただいています。

これからもよろしくお願いします。



「玉子焼きといえば、久遠国の四角いフライパンは使いやすかったです」

 クラン料理長の言葉にローズ母様もそうそうと同意する。

「形も巻きの層もキレイに出来るのよね」

 実は久遠国の大使館のお店に行った時に玉子焼き用のフライパンを購入して来ていた。

 長方形の小さいフライパンは玉子焼き専用。

 玉子焼き専用の調理器具は、玉子焼きで十分な実力を発揮するのだ。


 実は4歳の誕生日にプレゼントしてもらった魔道具のフライパンで一番初めに作ったのが、甘い玉子焼きだった。

 身体の年齢が3歳弱の私が大人のフライパンを使えるわけはないので、実際の調理はローズ母様やローディン叔父様たちにしてもらっていた。

 初めて最初から最後まで自分だけで作る料理。

 小さなフライパンをもらって何を作ろうか考えた時、前世で母がよく作ってくれた甘い玉子焼きを思い出した。毎日のようにお弁当に入っていた素朴な味の玉子焼き。

 それがものすごく懐かしくて、どうしても食べたくなったのだ。

 丸いフライパンでは巻きにくくてもたついてしまったけど、なんとか仕上げてローズ母様とローディン叔父様、リンクさんにご馳走した。ちょっぴり焦げてしまったのはご愛敬だ。

 初めてのおつかいならぬ、初めての手料理に。

「食べるのがもったいない」

「永久保存しておきたい」

 とローディン叔父様とリンクさんが親ばか発言をしてローズ母様に呆れられたのは懐かしい思い出だ。


 その後商会の家で玉子焼きが定番料理になったのは言うまでもない。

 ローズ母様やローディン叔父様たちはずっと丸いフライパンで玉子焼きを作っていたので、久遠国のお店で買い求めた玉子焼き専用のフライパンの使いやすさに驚いていた。


「確かにあの四角いフライパンは玉子焼きがキレイに出来ますね」

 デイン家別邸のクラン料理長とバーティア家本邸のレイド副料理長が頷いた。私が欲しがったものはもれなく購入するのが定番となっているので、デイン家にもバーティア家にも玉子焼き専用のフライパンはあるのだ。


「大晦日にアーシェラ様が作られた出汁巻き玉子がとっても美味しかったです」

 バーティア子爵家本邸のレイド副料理長にローディン叔父様が請け合う。

「ああ、あれは美味しかったよね」

 大晦日はバーティア子爵家で過ごしたので、前世の大晦日の定番料理だった出汁巻き玉子を作ったのだ。

 前世の我が家では年末のお歳暮に毎年段ボール箱入りの卵をもらっていたので、大量の卵を消費すべくいつの間にか出汁巻き玉子が年末料理の定番となったのだった。

 だから年末にバーティア子爵家で玉子焼き専用のフライパンを見た時に、出汁巻き玉子が無性に食べたくなったのだ。


「長方形のフライパンにも驚きましたが、卵料理といえばオムレツにスクランブルエッグ、目玉焼きが主流だったので、玉子焼きのように巻いた卵料理は初めてでしたね」

 買って来た玉子焼き専用のフライパンを大晦日に初めて使ったレイド副料理長は、ローズ母様が慣れた手つきで玉子焼きを巻いて行くのを目を丸くして見ていたのだ。


「久遠国では玉子焼きはよく食べられているのでしょうね。だから玉子焼き専用のフライパンがあるのでしょう」

「そうなんだろうね」

「甘い玉子焼きや塩味が効いたもの、海苔を入れて巻いたものもなかなか美味かったが、一番は出汁巻き玉子だったな」

「そうね。お出汁が入った分ちょっと巻きにくかったけど、あれが一番美味しかったわ」

 あの日茶碗蒸し用に調味したお出汁があったので、それを少量入れて出汁巻き玉子を焼き上げた。

 お出汁が入った分卵液はゆるくて巻くのが難しいのだが、ローズ母様はすぐにコツをつかんで綺麗に焼き上げていた。ローズ母様は結構器用なのだ。

 レイド副料理長はローズ母様に出汁巻き玉子の焼き方のコツを教えてもらって、『まさかお嬢様…いえローズ様に教えてもらう日が来るとは』と感動していた。

 ローズ母様は貴族育ちで全く料理が出来なかったけれど、商会の家で暮らすようになって数年経つ今は色んな料理を作れるようになっている。――ただまだ魚は捌けないが。


 大晦日に作った出汁巻き玉子は、甘みと出汁の旨味が融合して美味しいと絶賛された。

 ディークひいおじい様が出汁巻き玉子をとても気に入って、魔法道具店にくるお得意様のお茶請けに出していたらしい。

 お茶請けに出汁巻き玉子? ミスマッチでは? と思ったけど、揚げたてのドーナツ、アメリカンドッグ、フライドポテトなど、バーティア商会で手掛けるものをいつもお客様に出していたとのことだ。知らなかった。

 魔法道具店に特注品の魔道具を注文しにわざわざ来る人は、貴族だったりお店を経営している者たちが多い。

 お目当ての魔法道具の他に、お茶請けに出たフライドポテトを大量に作りたいと業務用のフライヤーを発注したり、口当たりが滑らかなジュースに感動してジューサーミキサーを購入したり、食材を細かくするフードプロセッサーを使ってみたいと購入して行くらしい。

 それに、テイクアウト店で気に入った商品を大量に購入して持ち帰る為に、高価な保存魔法のかかった箱も次々と売れているとのことだ。なるほど。おもてなしは商売に直結しているんだね。


 そして、出汁巻き玉子もテイクアウト店で販売されるようになった。

 すぐに食べられるように分厚く切って串をさしたものが好評で、ついには発注を受けて玉子焼き専用のフライパンをバーティア子爵領の鍛冶屋さんで製造するようになったのはつい最近のことだ。


「のりべんとうのたまごやきを、しおあじとあまいたまごやき、だしまきたまご。ひによってかえる」

「いいですね。フライや天ぷら、玉子焼きを変える。面白いですね」

「何種類も出来ますね」

 ローランドおじい様がお弁当を所望した時にすぐに対処できるようにクラン料理長は待機しているらしい。仕事だけど大変だ。海苔弁当は比較的楽に出来るしバリエーションも豊富なので他の料理と日替わりで対応できるだろう。



 ――さて、お弁当はこれでいいけど、今日はもうひとつ作るものがある。



お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] フライパンは使える様になるまで育てるのが大変なんだよね。
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