222 ちゃいろはおいしさのあかし
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寒さが厳しい2月。
王都に滞在していて何日か経ち、明後日にはバーティア子爵領に戻ることになった。
忙しいローランドおじい様やディークひいおじい様たちへの差し入れを考え、私はデイン家別邸の食品庫を眺めながらうーんと唸っていた。
差し入れは一品でお腹が満たされるよう、あんかけご飯(中華丼)と、鶏肉と卵、シイタケやたまねぎなど具材をたっぷり使った親子丼も差し入れメニューに入れた。
親子丼の野菜は本来玉ねぎくらいだけど、栄養バランスを考えて野菜を数種類入れたり、キノコや豆腐を足してみたりした。
作りやすいことと、食べやすいこと、そして栄養がきちんととれることを重要視して丼物にしたのだ。
とろとろ卵の親子丼も好評だったらしく、あんかけご飯や肉まんなどを順繰りに差し入れしている。
そして今日は、ちょっと手間がかかったお弁当にしようと思う。
ずっと丼物ばっかりだったし、私も差し入れと同じものを食べていたので、なんだか無性に揚げ物が食べたくなったのだ。
でもかなりの量のお弁当を用意するので、簡単に出来るものにしよう。
デイン家には大量の白身魚のフライやアジフライ、エビフライなどの揚げればすぐに食べられる冷凍加工食品がストックされている。
その中から定番の白身魚のフライをチョイス。
それに冷凍庫にちくわがあった。
白身魚のフライ+ちくわ…の天ぷらといったら、『のり弁だ!』と答えが出た。
よし! のり弁にしよう! お弁当に入れる具材は全部作ったことがあるものだから、それを詰め合わせればいい。
「んーと。たらのふらい。ちくわのてんぷら。きんぴらごぼう……」
「お、揚げ物は嬉しいな」
リンクさんがお弁当のおかずに揚げ物をチョイスしたことに喜んだ。
「はい。すぐにお作りします」
とはクラン料理長の言葉。
そしてせっかくオイスターソースが目の前にあるので豚肉とピーマンのオイスターソース炒め、前世で言うチンジャオロースを作ってもらうことにした。オイスターソースで一度ポルカノ料理長のレシピで作ってもらったらとっても美味しかった。今回はそれにジャガイモを加えてもらう。本当はタケノコを入れたかったけど、こっちになかったのでジャガイモで代用するけど十分美味しい。
「あと、にたまご」
「昨日作り置きしてございます」
「かつおぶしでつくったおかか、あと、のり」
「ということはおかかおにぎりにするのですか?」
レイド副料理長が海苔とおかかと聞いて、今ではバーティア子爵家やデイン辺境伯家で定番になったおかかおにぎりかと思ったらしい。
「おにぎりもいいけど、きょうはのりべんとうにする!」
真ん中におかかが入るより、全体におかかをまぶした方が断然美味しいのだ。
「海苔弁当?」
口で説明するより、作ってみた方が早い。
すぐに調理に取り掛かった。
冷凍加工食品のタラのフライを慣れた手つきで料理人さん達が揚げていく。
その隣ではちくわの天ぷらを。
ちくわの天ぷらは天ぷらをするようになってから時折作っていたので、クラン料理長たちも手際よく調理してくれた。
ちくわを縦半分に切ってあげることで全体がサクサクして美味しくなる。ちくわ自体が加熱済みのものなので魚介や野菜のような生焼けを心配しなくていいし、なにより魚の味がして美味しい。
ちなみに私が心の中でちくわもどきと言っていた魚のすり身焼きは、久遠国でローランドおじい様がさつま揚げの隣にちくわが並んでいたのを見て来たことで、商品名を久遠国と同じく『ちくわ』とした。久遠国の料理であるおでんの主要な具材なので呼び方も一緒にしたかったらしい。なるほど。
しばらくするとおかずができあがったので、お弁当箱に詰めることにする。
お弁当箱にご飯を敷き詰めて、かつお節をめんつゆで調味しておかかにしたものを乗せその上に海苔を置く。それをもう一段重ねた後、白身魚のフライとちくわの天ぷら、きんぴらごぼうをのせ、その隣に豚肉とピーマン、じゃがいものオイスターソース炒めを少しだけのせた。
本当はオイスターソースが出来たので豚肉とピーマンの細切り炒め、いわゆるチンジャオロースを作って丼で差し入れにしたいと一度思ったのだけど、オイスターソースはまだ試作段階で量が少なかったので丼にするのは諦めた。
それにオイスターソースはここ数日作り続けている肉まんの調味料でもあるので、オイスターソースが無くなったら肉まんにハマったローランドおじい様たちが可哀そうだ。なので付け合わせのおかずに少量だけ使わせてもらうことにした。
海苔弁当は揚げ物がメインで野菜が少ない。きんぴらごぼうだけでは野菜が足りないのでピーマンとじゃがいものオイスターソース炒めを入れたかったのだ。
玉子焼きもつけたかったけど焼くのと巻くのにちょっと手間がかかるので、作り置きの味付け卵を半分に切って彩にした。
もうひとつ彩にミニトマトと、定番の菊の花とキュウリの酢の物を小さな器に入れてお弁当に添えれば、私の大好物の海苔弁の完成だ。
「のりべんとう、かんせ~い!」
「まあ。ひとつのお弁当にいろいろ入っているのね。とっても美味しそう」
「丼物とは違うけど、ご飯の上におかずを乗せるとは面白いね」
「ビジュアルが今までにないな」
あ。確かに。海苔弁当は大好きだけど、ビジュアルは全体的に茶色なのだ。
「ちゃいろすぎた?」
出来上がったお弁当を前に首を傾げた私に。
「「――茶色は美味しいのです!!」」
と料理人さん達が声を揃えた。
う、うん。そうだよね。みんなで声を揃えたからびっくりしたよ。
「あんかけご飯も全体的に茶色だったではありませんか。でも美味しかったです!」
「海苔もおにぎりに巻くと巻かないとでは全然美味しさが違います! それに旨味の塊のかつお節がごはんにかかっているのですよ。美味しくないわけがありません!」
「この魚のフライも、ちくわの天ぷらも美味しいのを知ってます」
「それにきんぴらごぼうや、この味付け卵のこっくりした美味さも……。たとえ全体が茶色くてもそれは美味しさの証です」
と皆が力説した。
うん、茶色は美味しいよね。
どうやら料理人さん達は茶色に抵抗感はすっかり無くなったようだ。よかったよかった。
さて。出来上がったので、当然試食も兼ねての早めの昼食となった。
『いただきます』をして皆で一緒にパクリ。
ああ、やっぱりこの海苔とおかかのコラボは、とっても美味しい。
「これいいな。フライに天ぷら、どっちも食べれるのがいい」
揚げ物好きなリンクさんは、フライにソースをたっぷりかけて幸せそうに食べている。
「このちくわの天ぷらいつ食べても美味しいわ」
ローズ母様は揚げてサクサクしたちくわの天ぷらが好きなのでとっても嬉しそうだ。
「そうだね。それにおかかが入ったこの下のご飯もすごく美味い。海苔があるからなのかご飯が美味い」
ローディン叔父様はご飯の方に興味津々だ。
「そうですね! 海苔とおかかのご飯はどこを食べても美味しいのがいいですね!」
「きんぴらごぼうも煮卵も、どれも好物なのでそれが一つになっていて嬉しいです」
「そうだよな。わかる!」
「この豚肉とピーマン、じゃがいものオイスターソース炒めも美味しいですね」
「おかずもおかかおにぎりもそれぞれ単品でも美味しいのに、それがこうやって一つになったこのお弁当は最高です!」
その言葉に料理人さん達が激しく同意していた。
ふふふ。おいしいでしょう。海苔弁当は私の好きなお弁当なのだ。
フライを白身魚のフライからアジフライや他のフライものに変えてもいいし、天ぷらを変えてもいい。
たまに魚のフライを焼き魚に変えてもいい。前世では鮭やサバが乗っていたことも多かったし。
煮卵は玉子焼きに変えてもいい。
おかずを変えると何通りも出来る。
そう言うと、いろいろ試してみるとクラン料理長がこくこくと頷いていた。
お読みいただきありがとうございます。




