218 王宮にて
久しぶりの更新です。m(__)m
次回は明日更新予定です。
「まあ! このあんかけご飯、とっても美味しいわ!」
「ええ本当ですわね。この小さい卵の美味しいこと」
午後になって王宮に訪れた私とローズ母様。
お土産のあんかけご飯は、王妃様のお茶請けになった。
王妃様は相変わらずいつでもいくらでも食べられるらしい。
にこにこと笑いながら3杯目の中華丼を頬張っている。すごい。
「この卵フライも旨いな。串に刺さっているとは面白い」
アーネストおじい様は卵フライがお気に入りらしく、すでに4本目だ。
「本当ですね。この小さい卵は若い鶏が産むんでしたか。クリスウィン公爵領でも小さい卵を農家から買い取ることにしよう」
そう言うのはリュードベリー侯爵だ。王妃様と同じく中華丼を3杯食べ、食べ終わった卵フライの串が皿の上に数え切れない程乗っている。リュードベリー侯爵の言葉に王妃様がうんうんと頷いている。相当気に入ったらしい。
「大きな卵は一口で食べられないから、このサイズがちょうどいいわよね。美味しいわ~~」
リュードベリー侯爵と王妃様が並んでものすごいスピードでお代わりして行く。相変わらず見ていて気持ちのいい食べっぷりだ。
リュードベリー侯爵は王妃様のお兄様。現在アンベール国に赴いているクリスウィン公爵の仕事を代わりにこなしている。
クリスウィン公爵は主に内政が担当なので、リュードベリー侯爵は殆ど毎日王宮に来ているそうだ。
卵フライを存分に堪能し、口直し用に添えた菊の花ときゅうりの酢の物までしっかりたいらげると、満足そうに微笑んだ。
「久しぶりにアーシェラのお料理が食べられてうれしいわ。あんかけごはんも卵フライもとっても美味しかったわ〜」
「このおはぎも美味しいな」
すでにデザートに手を付けているリュードベリー侯爵。
リュードベリー侯爵は初めて食べるおはぎに興味津々だ。
「あんドーナツやあんバターサンドは交互に隔日販売らしいが、これも限定販売なのか?」
おや、リュードベリー侯爵、よく知ってるね。
あんこの原料である小豆はこれまでツリービーンズ男爵領でしか栽培されていなかった。
あんドーナツ、あんバターサンドは人気が高くて小豆の供給量が追い付かず、苦肉の策としてあんドーナツとあんバターサンドは毎日交互に数量限定で販売していた。
お隣のツリービーンズ菓子店でも、あん入りのどら焼きとあんドーナツを交互に販売していたのだ。
ツリービーンズ男爵領で昨年作付けを倍に増やし、バーティア子爵領でも作付けをし始めたので供給量も増えた。
「小豆の供給量が増えましたので今後は毎日出すそうですわ。ですが、お萩や牡丹餅はその花が咲く時期限定で販売します。そうしないと小豆がまた不足するので」
「春は牡丹の咲く時期に、秋は萩の花が咲くあたりというわけか」
久遠大陸でもその時期に作られるのだとローズ母様が説明すると、なるほど、と納得していた。
「旦那様、小豆をクリステーア公爵領でも育てませんこと?」
「そうだな。アーシェラが戻ってきた時にすぐに使えるように小豆を作付けさせよう」
レイチェルおばあ様にアーネストおじい様がそう答えた。
私とローズ母様は、戦争が終わってすべてが落ち着いたら、クリステーア公爵家に行くことになっている。
それと同時にクリステーア公爵領でもお米の栽培もすることに決まった。ローディン叔父様とリンクさんが指導の為にクリステーア公爵領を頻繁に訪れることになるのだ。
田んぼ作りに、養蜂、農作物の保存法など、『マニュアルを渡して終わりにするのではなく、クリステーア公爵領に来て直接指導して欲しいのだ』とアーネストおじい様はローディン叔父様とリンクさんに言っていた。
クリステーア公爵領に行ったらローディン叔父様やリンクさんと離れて暮らすことになる私に、会える機会を増やしてくれているんだな、と感じた。私のことを考えてくれている。それがすごく嬉しい。
ありがとう。アーネストおじい様、レイチェルおばあ様。
「おじいしゃま! おしごとでおなかすいたときに、どうじょ!!」
そう言って用意してきた干し芋と芋かりんとうの入ったお芋セットを手渡した。
ディークひいおじい様やローランドおじい様と同じように、アーネストおじい様も忙しいと聞いていたのでお芋セットを用意してきたのだ。
もちろん、王妃様やレイチェルおばあ様、リュードベリー侯爵にも行きわたるようにたくさん持って来た。
何日か前にローランドおじい様に差し入れした後、『美味しかった。また作って欲しい』と伝言をもらったのでまた新たに干し芋を仕込んだのだ。
「「まあ! 干し芋と芋かりんとうね!!」」
王妃様とレイチェルおばあ様が声を揃えた。
ん? このセットは今日初めて王妃様に持ってきたはずだけど?
「数日前にローランド・デイン殿がアーシェラが作ったものだと持ってきてくれたのよ!」
捜査の進捗状況の報告をしに王妃様のところにきたローランドおじい様からおすそ分けされていたらしい。そうなんだ、納得。
「これは嬉しいな。レイチェルから前に少しもらったがとても美味しかった。ありがとう、アーシェラ」
「私も先日デイン殿のところに行った時にいただいたよ。干し芋は夜食にちょうどよかった」
おや、夜食に食べたってことは、そんな遅くまでリュードベリー侯爵もローランドおじい様も働いていたということだ。
箱に入ったセットは後でのお楽しみ用で、それとは別にデザートとして丸干しの干し芋と芋かりんとうが新たに配膳されると、王妃様とレイチェルおばあ様の目が輝いた。
うむ。やはり女性はサツマイモに目がないらしい。
幸せそうに頬張っていた。
「ああやっぱりこの干し芋はいいな。小腹が空いたときに気軽につまめる」
アーネストおじい様は干し芋を食べながら、箱に入った干し芋と芋かりんとうのセットを嬉しそうに眺めている。
「芋かりんとうは止まらない美味しさね」
レイチェルおばあ様は芋かりんとうがお気に入りのようだ。
「クリスウィン公爵領でも供出で小ぶりのサツマイモが大量に残ったと報告を受けていた。スイートポテトも美味いが、この干し芋もいいものだな。うちの子たちも絶対好きな味だ。アーシェラちゃんのようにアルとアレンにも風魔法で作らせよう」
私が覚えたての風魔法で乾かしたことを聞いたリュードベリー侯爵がにこやかに笑って言った。
「実益が絡むとコントロールも上達するだろう。アレンは力は強いがどうも細かい作業が苦手らしくて」
アルは魔法を習い始めた頃から風魔法のコントロールが上手いらしいが、アレンは時折突風を巻き起こして物を吹き飛ばしてしまうらしい。
「あら、いいかもしれないわね。アレンは自分の分の干し芋を作る。吹き飛ばしたら食べられなくなっちゃうものね、好きな物の為ならアレンも真剣になるでしょう。ふふふ」
どうやら干し芋作りはアレンの訓練メニューになったようだ。目先の目標があれば努力して上達するってことだね。
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