217 いっこじゃたりない!
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ボウル一つ分の小っちゃい卵を沸騰したお湯から茹でて冷水で冷やした後、みんなで殻を剥く。
小さな卵は殻が薄くて剥きやすい。色が違うだけでうずらの卵の殻を剥いた時と同じ感覚だ。
これで具はスタンバイオッケーだ。
食べやすいサイズに切った豚肉に、切り目を入れたイカ、野菜などの具材をフライパンで炒め、お酒や出汁を入れて煮込み、醤油などで調味。
小っちゃなゆで卵を投入した後、水溶き片栗粉でとろみをつけて、あんかけの出来上がりだ。
おお、彩りにきぬさやを入れたら色鮮やかになった。
「片栗粉でとろみがつくのはタラの甘酢あんかけで知りましたが、こんな風にも使えるのですね。具材が見えるのが不思議です」
クラン料理長がうっすらと具材の色と形が見えるあんかけをかき混ぜながら不思議そうに言う。
確かに小麦粉を使って作るシチューは透明度が低い。鍋底に具が沈むと何が入っているか分からなくなる。
「どうしても私達料理人は使い慣れた小麦粉を使いがちですよね」
クラン料理長の隣で同じくあんかけを作っていたバーティア子爵家のレイド副料理長が頷いた。
「菓子にはコーンスターチをよく使いますが、片栗粉の使い方はよくわからないんですよね」
元菓子職人のハリーさんがそうですねと相槌を打っている。
私はどちらかといえば片栗粉の方をよく使ったけどね。
さて、あんかけが出来たので試食だ。
丼を用意してもらってごはんをよそい、具材たっぷりのあんかけをかけたら出来上がりだ。
「美味しそうですね!」
「野菜に肉に魚介に卵、これひとつでいろいろな栄養がとれていいですね!」
うん。それを狙って作ったんだよ。
よし、全員に丼とスプーンが渡ったね? では。
「いただきましゅ!」
「「「いただきます!」」」
あんかけは熱々なので、ふうふうしてパクリ。
「あちゅい。でもおいち~い!」
「あ、すっごい美味い!」
「熱々で美味いな。それにいろんな具がたっぷりで美味い」
ローディン叔父様とリンクさんがすごい勢いで食べ進めていく。
うんうん。とろみがついてるから食べやすいよね。
「出汁と具材の旨味が片栗粉で作ったあんでうまくまとまってますね」
「あんがご飯に絡んでものすごく美味しいです!」
料理人さん達にも好評だ。
「のど越しがよくて食べやすいわ。それにこの小さい卵がとっても美味しい」
ローズ母様がそう言うと、料理人さん達がこくこくと頭を縦に振った。
「本当に! この小さい卵美味しいです!」
「他の具材ももちろん美味しいですが、卵の黄身にとろみが絡むとものすごく美味しいです!」
「こんな食べ方があったんですね。卵の燻製よりこっちの方が好きです」
「うんうん。そうだよね」
そう、中華丼にうずらの卵は絶対になくてはならない食材だ。
あんと卵が絡むとものすごく美味しい。
旨味たっぷりのあんが絡んだご飯と卵を一緒に食べ、口の中で渾然一体となったその美味しさに幸せを感じたものだ。
前世では家族も中華丼が好きで結構な頻度で作り、うずらの卵は業務用の缶詰を開けてたくさん入れるのが定番だった。
それくらいうずらの卵は中華丼に絶対必要な食材なのだ。
だからレトルト食品やスーパーで買った出来合いの中華丼にうずらの卵が1個しか入ってないのはものすごく不満だった。1個じゃ全然物足りない! と声を大にしてよく言ったものだ。
なので、今回は小さい卵を3個ずつよそうことにした。
それが前世の我が家での一皿に入れる卵の分量だった。前世の家族は中華丼が好物で皆お代わりするので食べる皿分×卵3個となったものだ。
そして今回も卵を3個ずつ入れたのは良かったようだ。
みんな最後の一口は卵でしめて、満足そうにしていた。
「はうっ。美味しかったです」
「これは大旦那様も喜んでくださいますね」
試食後、料理人さん達がたくさんのお弁当箱を用意し始めた。
ローランドおじい様が頻繁に捜査員たちに差し入れを持って行くので、あらかじめお弁当箱をたくさん用意していたらしい。
よかった。ローランドおじい様たちだけでなく、ディークひいおじい様たちにも渡すのだ。
それに今日は王妃様に会いに行くので、その分も必要となる。入れ物がないのはシャレにならない。
いつもローランドおじい様は十人分くらい用意させているらしいので、ディークひいおじい様のところにも同じくらい、そして王妃様やレイチェルおばあ様の分とプラスアルファ分を用意することになった。
かなりの量になったね。
そうなったら当然今ある分のあんかけでは足りない。料理人さん達があんかけを追加で作り始めた。
そしたら、料理人さん達が小さな卵がたくさん入った大きな箱ごと持って来た。
卵を茹でるなら、今日作る予定の燻製卵の卵もついでに全部茹でてしまおうということらしい。
どっさりの卵を見たら、もう一つの大好物が食べたくなった。
「ゆでたたまご、しゅこしくだしゃい!」
「もちろんでございますよ。どうぞ、いくらでも」
そう言ってくれたので。
「かあしゃま! おじしゃま! りんくおじしゃま! あーちぇ、たまごのふらいちゅくりたい!」
料理人さん達は大量のお弁当作りで忙しいので、ローズ母様たちにお願いする。
「まあ、卵でフライ?」
「さっきのあんかけに入った卵も美味かったから、それも旨そうだな」
「揚げ物は美味いからな。いいぞ」
前世私はうずらの卵フライが大好物だった。お総菜コーナーで見かけるともれなく買ったものだった。
殻を剥いた小さなゆで卵をもらい、タッパーに小麦粉とゆで卵を入れて振る。そうすると簡単に粉が付くのだ。
串に小さなゆで卵を四つ刺し、小麦粉と卵、水を混ぜて作ったバッター液にくぐらせ、パン粉を付けて揚げる。
茹で卵はすでに火が通っているので、衣がきれいなきつね色になったら完成だ。
串打ちは私とローズ母様、衣付けはローディン叔父様、揚げ役はリンクさんと流れ作業でやっていたら、お弁当の作業を終えた料理人さん達が同じようにやり始めた。
「揚げ物は外れがないですからね!」
業務用のフライヤーを準備していることから、どうやらこの卵フライもお弁当に入れたいらしい。
さすが調理のプロ達。一度卵フライの工程を見せたら、すごい速さで下準備を終えて大量の卵フライが出来上がった。
「のうこうそーす、ちゅけてたべりゅ!」
醤油もいいけど、私はとんかつソースで食べるのが大好きだった。
みんなで『いただきます』をしてパクリ。
想像したとおり、卵フライは絶品! ソースとの相性も抜群だ。
「おいち~い! だいしゅき!!」
「「うっわ! 美味い!!」」
「まあ! 美味しいわ」
ローディン叔父様とリンクさん、ローズ母様も感嘆の言葉が出た。
ふふ、美味しいよね。
「「「美味しいです!!」」」
「小さい卵は今まで敬遠していましたが、あんかけごはんに入れると美味しいし、この卵フライは絶品ですね!」
「本当に美味しい。燻製卵は後回しにして、今日は全部卵フライにします!!」
「「「賛成です!!」」」
料理人さん達は割り当ての二本を食べきって、まだ残っていたゆで卵をフライにし始めた。
「これからは小さい卵も仕入れて販売することにしよう」
「ああ、卵を出荷する農家も小さい卵を売ることが出来れば収入が安定するから喜ぶだろうな。まずはフライにして販売しよう」
「いいな。卵フライをテイクアウト店に出したら確実に売れるはずだ」
ローディン叔父様とリンクさんが卵フライを次々とおかわりしながらお店で販売する話を進めている。
今まで需要がなかった為に、小さい卵はほとんど収入にならなかった農家さん。
それが収入になるならとても助かるだろう。
それにそれを加工して売る。そっちの方が生卵を販売するよりも利益が出るのだ。
「ええと、お弁当は軍部用に10個、魔法省用に10個。王宮へのお土産は、5個くらいでいいですか?」
そうクラン料理長が聞いてきたら、ローズ母様が。
「王宮用にも10個用意してちょうだい」
と言った。ローズ母様の脳裏には絶対王妃様が浮かんでいるはずだ。
そうだね。王妃様なら残さず綺麗にたいらげてくれるだろう。
でもあんなに食べても全然体形が変わらないって、すごいよね。
魔力が強い人は太らないと聞いたけど、以前どれだけ食べられるか検証をしてみた時、あれだけのたらこスパゲッティを食べても王妃様の胃の辺りが全然出ていなかったのは不思議だった。
食べた分膨らむと思ってたけど。
いったいどこに消えたんだろう?
お読みいただきありがとうございます。




