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216 おべんとうをつくろう

更新に間が開いてしまいました。(;'∀')

次回は早めに更新する予定です。




「? ろーらんどおじいしゃま、いない?」

 朝食の席で首を傾げた私の問いにリンクさんが答えた。

「ああ、朝早くに王宮に行ったらしい」

 昨日の夕方、王都のデイン家別邸に着いた。

 ローディン叔父様とリンクさんは定期的に王都のお店の様子を見に来るのが習慣となっているので、いつもそれについてきているのだ。


 新しい年が明けて、ひと月経った。

 大晦日の夜から貴族の粛正が始まり、かなりの不正が暴かれて未だ関係各所はバタバタしているようだ。

 ローランドおじい様も昨夜私のベッドに顔を見に来ていて、私が朝起きた時にはもう出かけてしまっていたらしい。

 まだ忙しいことがわかる。

「まだ暫くの間はこれが続くだろうと言っていたな」

「行政官の友人もため息をついていたよ。次から次へと貴族の不正の証拠があがってきて対応に天手古舞してるって」

「魔法省もいろいろ大変らしいな。バーティアのじいさまも呼ばれたんだろう?」

「ああ、人手不足らしくて、うちで雇った魔術師たちも交替でそっちに対応してる」

「でぃーくひいおじいしゃまもいそがちい?」

「ここ数日魔法省に泊まっていると聞いているよ。手が離せない案件があるらしい」

 そうなんだ。会いたかったけど仕方がない。


「今日は王宮に行くんだろう?」

「ええ。午後にね。おはぎを持って行く約束をしているの」

 以前一度オーソドックスな粒あん、きなことごまの三種類のおはぎをおみやげに持って行ったら、お代わりが止まらなかった王妃様。

 特にあんこのおはぎが好物でおみやげのリクエストが来たのだ。


 今回のおはぎはバーティア子爵家で作ってもらって来た。あんこ好きのレイド副料理長と元菓子職人のハリーさんの渾身の作だ。

 そして、実はレイド副料理長とハリーさんは今デイン家別邸に一緒に来ていた。

 春は牡丹餅(ぼたもち)、秋はお萩(おはぎ)と銘打って王都のお店で期間限定販売をするので、デイン家別邸の料理人さん達に商品となるおはぎの作り方をレクチャーしに来ているのだ。

 誰が作っても同じ味になるようにするのは販売者として必要なことだ。

 

 王都のお店には専属の料理人を雇用しているが、新しい商品や期間限定商品が出ると手が回らなくなることが多い。なのでバーティア子爵家やデイン家別邸の料理人さん達がお手伝いに来てくれるのがパターン化してきている。


 厨房には試作品のおはぎがたっぷりあるはずだ。

 んーと、それなら。

「ろーらんどおじいしゃまと、でぃーくひいおじいしゃまに、おはぎさしいれしたい!」

「! ああ、それは喜ぶだろう」

「いいの?」

「私は魔法省の人物とも面識があるから魔法省の中に入れる。おじい様に直接渡せるよ」

「ああ、それなら俺は軍部の方に行こう。辺境伯家の俺なら入れてもらえるしな」

 そうなんだ。

 今はどこもかしこもピリピリしていて魔法省も軍部も厳戒態勢で中に入ることは容易ではない。

 だけど、ローディン叔父様とリンクさんはそんな所にも顔パスで入れるらしい。簡単に言っているけど、それはすごいことだ。


 ローランドおじい様もディークひいおじい様もおはぎが好きなので喜んでもらえるはずだ。

 それに料理人さん達が何度も練習しているので、かなりの個数もある。

「多めに持って行って、周りの職員たちにも宣伝してこよう」

「あ、俺もそれ考えてた」

 考えることは皆同じようだ。


 朝食を終えて厨房に行き、おはぎを用意してもらうように指示をした。


 すると、クラン料理長が。

「今朝、大旦那様の指示で炊き込みご飯をおにぎりにしてお渡しました」

 と言った。

 ローランドおじい様は、かなりの数のおにぎりを用意させていたようだ。自分の分だけではなく他の人の分も用意したのだろう。

「出先で食べ損ねる人もいるらしいので、心配ですね」

 ローランドおじい様はデイン家別邸にたまに帰ってきては手軽に食べられる食事を持って仕事に戻る、そんなことをしているらしい。

「しょくどう、ない?」

 軍部にしろ魔法省にしろ食堂はあるはずだ。

 それに指示をすればいつでも作るように料理人がスタンバイしているはずなのに。

「ああ、今はちょっとそれも微妙らしい」

「そう、捜査を妨害しようと食事に毒が混入されたりしているからな」

 貴族が次々と捜査対象になり、捕縛されて行く。

 ある貴族が時間稼ぎを目的として食中毒騒ぎを起こしたこともあり、その後食堂の食事作りも監視付き、鑑定付きでものすごく厳しい状況にあるそうだ。

 だがその安全なはずの食事も、別室に運ばれている間に何か仕掛けられることもある。それも実際にあった話だという。

 だから時間を決めて『食堂で作った物は食堂だけでとる』ことに決めたらしい。


 そうすると、時間がずれると食事をとれない人が必然的に出てくる。

 上に立つ人ほどその傾向がある。とすれば、ローランドおじい様もディークひいおじい様も食事が満足にとれていない可能性があるということだ。


 なんということだ。

 連日サンドイッチやおにぎりだけでは栄養が偏るだろうに。


「あーちぇ、ろーらんどおじいしゃまと、でぃーくひいおじいしゃまにおべんとうちゅくる!」

「それは、大旦那様もお喜びになられるでしょう」

「あと、まほうちゅかいのひとたちのぶんも!」

 ディークひいおじい様と一緒にバーティア商会に在籍している魔術師さんたちも捜査に駆り出されている。その人たちの分も必要だろう。

 それにローランドおじい様は自分の分だけではなく他の人の分も作らせていたというし、となると、周りの人の分も作って持って行った方がいいだろう。

 そう言うと、クラン料理長はこころよく請け負ってくれた。


 お出かけする時間まであまり時間が無いので、手早く作れるものにしよう。個数も多くなったことだし。


 野菜とお肉とご飯を一緒に取れて早く食べられるもの。


 よし、あれにしよう。

 保存魔法をかけた箱に入れたらふやけないし。

 おはぎの練習も兼ねてご飯はたくさん炊いていたけど、追加でご飯を炊いてもらうことにした。

 一品でお腹いっぱいにしてもらうのだ。ご飯は多い方がいい。


「んーと、ぶたにく、はくしゃい、にんじん、しいたけ。あと、えびありゅ?」

「はい、えびといかは常に常備してございますよ」

 クラン料理長が下処理済みのエビとイカを出してきた。よし、じゃあイカも使わせてもらおう。

 豚肉は疲労回復効果もあるし、エビとイカは食べ応えもあるし何より美味しい。

 

「アーシェ、何を作るの?」

「あんかけごはん!」

「あんって、たしかタラの甘酢あんで一度食べたやつかな」

「片栗粉でとろみをつけたやつだな」

 餡掛けご飯、いわゆる中華丼は前世の家族が好きな料理だった。

 冷蔵庫に余っている食材を使ってよく作ったものだった。

 あ、そういえば。中華丼といえば外せない食材が。

「ちっちゃい、たまごありゅ?」

 大きい鶏の卵が主流だが、それより小さい卵をデイン商会の王都支店で売っているのを見たことがあった。卵は完全栄養食なのであれば入れたかったのだ。

「ええ、ございますよ。鶏は若いうちは小さい卵をいくつも産むのです」

 へえ、そうなんだ。こっちの世界の鶏は若いうちは小さい卵を一日に何個も産み、成熟していくと大きい卵を一日に一個産むようになっていくとのことだ。面白い。

「ああ、そうだな。だがその小さい卵は残念ながら『小さい』ことであまり売れない。どうしても大きい方を買いたがるしな」

 

 そうなんだ。小さい卵は小さい種類の鳥が産んだのかと思ったら違ったみたい。

 見せてもらった小さな卵は大きな卵と同じで殻が真っ白。うずらの卵と同じくらいの大きさで、普通の卵の6分の1程度しかない。

 小さい分値段も格安だけど買って行く人はあまりいないらしい。

 まあ、たしかに。目玉焼きにするにしろ、オムレツにするにしろ大きい方が使い勝手がいいよね。

 鶏を飼っている農家さんの多くは、小さい卵を自家消費に回して大きい卵だけを売っているらしい。

 でも若鶏の方が比率的に高くなることもたまにあり、自家消費しても賄いきれない分が店頭に並ぶこともあるらしい。

 今回は、お酒のつまみ用に燻製を作る予定があって仕入れていたんだって。うん、それも美味しいよね。


 でも、ちっちゃい卵にはもっと美味しい食べ方があるんだよ。




お読みいただきありがとうございます。

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