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212 アーシェのすきなもの

コメントありがとうございます。

なかなか返信出来ませんが楽しく読ませていただいています。

これからもよろしくお願いします。



 ルードルフ侯爵領から帰ってきてしばらく経った後、バーティア子爵家にお客様がやって来た。


「アーシェラちゃん! お久しぶりね!」

 そう言って私を抱き上げたのは、久遠国の神社の宮司であるサヤ様だ。

 今日はバーティア子爵家で、サヤ様や秋津様をはじめ、久遠国の方々をおもてなしをすることになっていたのだ。


「お酒用の米と、もち米、臼と杵。後は養蜂箱にミキサーや灯りなどの魔道具ですね」

 サヤ様たちは朝早くからバーティア子爵領を見まわって、米だけではなく、魔道具や養蜂箱にも興味を惹かれたらしい。

 案内はローディン叔父様とリンクさんがしていたので、私とローズ母様はバーティア子爵家のディークひいおじい様のところで待っていた。


 そして午後になった頃にバーティア子爵家にサヤ様達がやってきたのだ。

 バーティア子爵家の一室において、ローディン叔父様とリンクさん、そしてディークひいおじい様が、サヤ様と秋津様、月斗さんと蔵人のカンさんとで商談のまとめをしていた。


 私はお菓子をつまみながら、ローズ母様と一緒に少し離れた席でそれを眺めていた。


「御神酒用のお米はバーティア子爵領から、主食用のお米はデイン伯爵領やクリスウィン公爵領などから購入させていただくことになりました」

 私たちが神社を訪れた後、クリスウィン公爵やマリウス侯爵、マーシャルブラン侯爵が次々と神社に参拝に訪れて、その際にお米の融通とその土地の特産物の取引をすることになったそうだ。


「カリル伯爵は捕らえられて、被害は最小限に抑えることが出来ましたし、やっとこれで酒の仕込みに取り掛かれます」

 にこりと笑って秋津様がそう言った。

 私たちが神社に行ったのは昨年の12月初旬のことだった。

 その時に不穏な企みに気づき、カリル伯爵を手先に使ったマベル侯爵やリヒャルトの計画は、結果的に失敗に終わった。

 詳しいことは教えてもらえなかったが、カリル伯爵は逮捕、貴族籍を剥奪され、現在は牢につながれている。

 カリル伯爵の家門の長であるマベル侯爵は黒幕であることが明らかとなり逮捕され、家門ごと取り潰しとなり、領地はすべて国に返還となった。


「今頃はリヒャルトも慌てているだろう。何しろ、王命で返還させられた領地にはあやつらにとって不利な証拠がいくつも残っているのだからな」

 とディークひいおじい様が笑った。

 今まで隠されていた罪がいくつも明らかとなり、リヒャルトにも逮捕命令が出されたが、逃亡しまだ捕まっていないそうだ。


 マベル侯爵は今まで相当悪いことをしてきていて、次から次へと罪状が明らかとなり、その関連で貴族たちが次々と捕まっているらしい。

 そしてその悪事の中にリヒャルトの名が何度も出て来たという。

 当然、リヒャルトの生家であるクリステーア公爵家にも多数苦情が来た。

 ―――そういえばそうだ。

 私達はリヒャルトがクリステーア公爵家の血を引いていないことを知っているけれど、公的には秘されてきた。

 リヒャルトのせいでクリステーア公爵家が責任をとることになったら、いったい公爵家はどうなってしまうんだろう。マベル侯爵のように家門ごと潰されてしまうのかも、と不安になった。

 リヒャルトの犯罪を公表するということは、クリステーア公爵家にも累を及ぼすということだと、今更ながら実感した。


 それを聞いた時、私もローズ母様も青くなったが、ディークひいおじい様やローディン叔父様、リンクさんは平然としていた。

「心配しなくてもよい。声高にクリステーア公爵を非難する者は少ない」

「これまでに民や国を護る為に、どんなにクリステーア公爵が危険な最前線に立ち続けたか、それを知らない国民はいない」

「そのとおりだ。クリステーア公爵はこんなことで落ちぶれるような方じゃない」

 そこで初めてアーネストおじい様が、戦争が始まってから他の公爵よりも長い時間を最前線ですごし、軍の指揮をしていたことを知った。

「それは今まで培ってきたクリステーア公爵の『人徳』というやつだ。それにリヒャルトの出自も、系譜から抹消されたことも公表された。それを受けてむしろクリステーア公爵を、リヒャルトの身勝手な振る舞いによる被害者だと言う貴族も多いのだよ」

 それを聞いて少し安心した。

 でも、口さがない者も絶対いるはずなのだ。

 少し落ち着いたら、アーネストおじい様とレイチェルおばあ様にお土産を持って会いに行こう。



 ―――久遠国の大使館の人々を利用した犯罪の計画、その罪を王位継承権を持つクリスフィア公爵へありもしない罪を擦り付けようとしたことで反逆罪が適用され、重罪人となったマベル侯爵とカリル伯爵に、取り調べに誓約魔法が行使された。偽りを言うことで自殺をしないように調整された為、彼らは死ぬことも出来ず、延々と続く苦しみから逃れる為に罪を自白することになったという。

 ―――自業自得だけど痛そうだ。


「久遠国の神社で馬車を暴走させた事件もリヒャルトが黒幕であったと、自白が取れたそうです」

 秋津様がそう言った。

 幾人もの貴族が捕縛され、取り調べの中で判明したとのことだ。

 実行犯である貴族はかなりの賠償金を久遠国の神社に支払うこととなった。もちろんのこと、彼らは財産を没収され、身分を剥奪され平民となった。


 芋づる式に貴族が関与した犯罪の証拠が見つかり、捜査を受け持っている機関は今ものすごく忙しいそうだ。


 以前『貴族の数が少なくなる』と聞いた通り、かなりの貴族が身分を剥奪されているらしい。


「ろーらんどおじいしゃま、いそがちい?」

「ああ。王都のデイン伯爵家別邸にもあまり戻らずに忙しく動いているそうだ」

 ローランドおじい様は、元デイン辺境伯。

 後継者であるロザリオ・デイン伯爵にその座を譲り引退したが、今でも軍部の重鎮達から一目置かれる存在だ。

 現在アンベール国側に行っているロザリオ・デイン伯爵の代わりに、今回の大規模な捜査の指揮を任されている。

 数年前まで中核にいたローランドおじい様の信頼度は高いままだったらしい。

 まあ、確かに。

 引退した後に起こった戦争で、三国一斉攻撃を受けたデイン領の戦いでは、一艘たりとも敵艦の着岸を許さなかった。

 その判断力や指揮能力の高さにより民と国を護った、その名声はまだ記憶に新しい。


 ルードルフ侯爵とローランドおじい様が証拠(ワイン)を持って王宮を訪れた際、それが捕り物の大きなきっかけになることを確信した国王陛下と三公爵とリュードベリー侯爵。

 カリル伯爵が久遠国の人々を襲おうとした大晦日の夜を、かつてから考えていた捕り物の始まりの日と決めた。

 国の威信をかけた大きな捕り物となるため、近衛をはじめ軍関係者など、信頼のおける者たちを集めて話し合いが持たれ、その場で国王陛下からローランドおじい様に全捜査の指揮権が与えられたとのことだ。

 ん? 引退したローランドおじい様に指揮権を与えたら現役の偉い人たちが反発するんじゃないのかな? って思ったら、反発どころかものすごく喜ばれたとのこと。

 アースクリス国は大陸の中で一番大きい国だ。

 辺境伯は能力が高く、国や王家に忠義心の強い者たちが担う。海辺のデイン辺境伯領の他にもウルド国側やジェンド国側、アンベール国側にも辺境伯領がそれぞれにある。

 今は戦後処理やアンベール国側に至ってはいまだ戦時中でもあるため、大規模な粛正に辺境伯たちの手を借りたくても容易ではない。しかもロザリオ・デイン伯爵は戦争でアンベール国側に行っており、作戦開始の時期にはまだ帰ってきていないだろう。辺境伯の助力を得たくても、ほとんどかなわない。

 しかも、国境の辺境伯領から王都へは遠い。容易に駆け付けることは現実的ではなく、それに大きな動きをすれば敵に感づかれてしまう。


 そんな中で、引退したが未だその能力は衰えていないローランド・デイン前辺境伯は、喉から手が出るほどに欲しい存在だったようだ。


 それにデイン辺境伯領は遠方ではあるが、王都での商売の為に海から河を遡って毎日のように行き来がある。今はホークさんがデイン辺境伯領に常駐しているので、ローランドおじい様がかつてのホークさんの仕事をしているのだ。

 ローランドおじい様ならば王都との行き来を怪しまれることがない。


 軍や近衛隊、王都警備隊などの長たちから是非にと懇願されたというから、円滑に事をすすめられているようだ。


 ローランドおじい様はロザリオ・デイン伯爵の不在の穴を塞いで、見事に捜査を指揮しているとのことだ。

 あう、ローランドおじい様かっこいい。


「新年のしょっぱなからずっと忙しいらしい。武官も文官もみんなそんな感じだ」

 不正による身分の剥奪、領地の没収。その罪状の中には横領や法の目をかいくぐった不正もある。税務官や監察官などは現地の調査に行ったりと忙しいそうだ。


 食事も時間がずれたり、腹を満たすだけで、ゆっくりととれないこともあるそうだ。

 なんてことだ。ご飯は大事なのに。

 でも、今はそんなことを言っている余裕はないらしい。

 それなら。

「あーちぇ。ろーらんどおじいしゃまにさしいれする!」

「それはローランドも喜ぶだろう。何を差し入れするのだ?」


 すぐにつまむことが出来て、腹持ちがするもの。

 それはちょうど私の目の前に皿に盛り付けてフードカバーをして置いてある。

 

「これ!」

 フードカバーを持ち上げると、出来上がったばかりの私の大好物がお皿いっぱいに乗っていた。



お読みいただきありがとうございます。

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