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208 結びの子

コメントありがとうございます。

なかなか返信できませんが楽しく読ませていただいています。

これからもよろしくお願いいたします。



 リーナ様が言うには、貴族の子女は誘拐された後、身に着けていたものすべてを取り上げられることが多いとのこと。

 貴族の子は身を守る魔道具を本人も知らずに身につけていることが多い。それは親が子を守る為に施したものだ。

 ペンダント、アンクレット、ヘアアクセサリー、靴、そして時には服に縫い付けられたボタンや宝石も魔道具だったりする。

 それらすべてを取り上げられたら、攫われた子の居場所を特定することが困難となる。

 そして守りの魔法も、敵側に強い力を持つ魔法使いがいれば破られてしまう可能性もあるという。


 けれど久遠国のこの御守りの力は身体に溶け込み形を持たない。

 更にこの国の魔法使いには久遠国の宝玉の力を感じることは出来ない。

 そして宝玉が発動するということは、持ち主が危険に巻き込まれているということと同義だ。


「すぐに居場所を特定してくれるし、とっても便利よ」

 そう言うってことはリーナ様は経験済みっていうこと?

「私の息子たちも宝玉を賜っているし、効果は保証するよ」

 え? ルードルフ侯爵の子ども達も?


 そういえば、王妃様も幼い頃攫われたことがあるのだ。

 ルードルフ侯爵は裁判官ゆえに、裁かれた者たちの逆恨みを買いやすい。

 その矛先は家族に向かうことも多々あるそうで、これまでにも実際に宝玉の力で何度も助けられてきたのだそうだ。

 目をくらませたり、居場所の通報機能があるのはすごいと思う。しかもこの国の魔法使いに感知出来ないというのはすごく役に立つだろう。


 ルードルフ侯爵家やクリステーア公爵家は久遠国に縁が深いため、宝玉を分け与えられることが多々あるということだ。

 もらっている人が幾人もいると聞いたらなんとなく気持ちが楽になったけど、なんだろうこの誘拐率の高さは。不穏すぎる。


「アーシェラちゃんはまだまだ幼い。まだ基礎の魔法も使えないのではないですか?」

 確かに。私はまだまだ何も出来ないただの幼児だ。


「確かにそうですね。アーシェラを守る手段はいくらあってもいい。秋津殿、サヤ殿、ありがとうございます」

 ローランドおじい様が頭を下げると、サヤ様がとんでもないと首を振った。


「いいえ、私達にも『結びの子』を守る義務がございますゆえ、当然のことですわ」

 ん?

「むしゅびのこ?」

 首を傾げたら、サヤ様がにっこりと笑った。


「アーシェラちゃんが久遠国とアースクリス国を本当の意味で縁を結んでくれたおかげでお米が食べられるようになったの」

「あーちぇがむしゅんだ?」

「ええ。久遠国のお米は、他の国で実を結ばないの。だから、前バーティア子爵様が久遠国で正しい栽培方法を教えてもらって来ていたとしても、駄目。久遠国出身の私たちがここで米を栽培しなかったのも『決して実を結ばない』ことが分かっていたからだったの」

「どうちて?」

「久遠国の米は『実を結ぶ場所を選ぶ』の」

 ん? 場所を選ぶって、同じような条件がある植物があった。―――もしかして?


「しょれって、めがみしゃまのきくのはなとおにゃじ?」

「ええ、私達もキクの花のことを聞いた時にお米と同じだと思ったわ。キクの花はアースクリス国の女神様がいらっしゃらない大陸には根付かないでしょう。それは久遠大陸のお米も同じなのよ」

 菊の花がアースクリスの女神様の花であることと同じで、お米も久遠国の神様を象徴するものだとサヤ様に教えてもらった。


「ルードルフ侯爵やデイン殿達からアーシェラちゃんがアースクリスの女神様の神子であることを教えてもらったよ。それで私たちも理解し納得した。―――女神様の神子であるアーシェラちゃんが『アースクリス国の土』に『久遠国の苗を植えた』から、『実を結んだ』のだと」

 ?? そうなの?


緋桜(ひおう)様がこちらに嫁いで百数十年―――やっと本当の意味で両国が結ばれました」

「ひおう、しゃま?」

「ええ。緋桜(ひおう)様はルードルフ侯爵家に嫁いだ久遠国のお姫様。ひおうの『う』がこちらの発音上で消えて『ヒオ様』と呼ばれるようになったの」

 久遠語で(あか)い桜と書いて、緋桜(ひおう)。なるほど。

緋桜(ひおう)様は久遠国の神様に仕える神子様だったの」

「みこしゃま!」

 緋桜(ひおう)様が神様に仕える家の姫とは聞いていたけど、神子様だったとは。


 久遠国の高位貴族である緋桜(ひおう)様と、アースクリス国のルードルフ侯爵は恋愛結婚だったそうだ。

 今から百数十年前、久遠国で国の根幹を揺るがすほどの事件が起きた。

 久遠王家や緋桜(ひおう)様達はそれをおさめようとしたが、一歩及ばずに苦境に立たされたという。

 そこに力を貸したのがアースクリス国から外交官として訪れていたルードルフ侯爵だったそうだ。


 彼は久遠国の誰もが気づくことの出来なかった事柄を見抜き、久遠王家や緋桜(ひおう)様と共に戦い、久遠国の憂いを払ったとのこと。

 戦いの中でルードルフ侯爵と緋桜様が惹かれあい、緋桜様は祖国を離れ、アースクリス国のルードルフ侯爵の元に嫁ぐことを決めたのだそうだ。


 緋桜様って神子様だったんだ。

「そう。アーシェラちゃんと同じ神子様だったの。久遠王家の血を引き、さらに神子様である緋桜様の血を受け継ぐ方たちを守る為に、アースクリス国に神社と大使館が建てられたのよ」


 でも、久遠国の神様の御心が宿るというお米はなかなか実らなかった。

 久遠国の神様は神子である緋桜様がこちらに嫁ぐことを認めたそうだが、神様の米はずっとアースクリス国で実を結ばなかったそうだ。

 アースクリスの女神様の菊の花が別の大陸に持ち出され、勝手に移植されても消えてしまう。それは女神様が『認めた場所』でしか咲かないからだ。―――それと同じで久遠国の神様に実を結ぶ地としてすぐには認められなかったということだろう。


 すぐには無理だが、長い長い時間をかけ―――この地で米が結ぶにふさわしいと久遠国の神様に認められる時が来る。―――その時にはアースクリス国で生を受けた者が、久遠国の米を『結ぶ』のだと伝えられていたそうだ。


 結果から鑑みると、アースクリスの女神様方の加護を持つ私が久遠国の神様との『結び役』になったということらしい。


「神子であった緋桜様もアーシェラちゃんと同じで、オパールのような魂の輝きを持ち、これまでの生の記憶を持っていたそうよ。その魂の持ち主の心からの思いは神様に届く。―――神子であるアーシェラちゃんが『育って欲しい』と願ったからその思いが久遠国の神様に届いて稲が実を結んだ。―――そういうことなのよ」


 ―――なるほど。

 でもどうして私だったのかな? 女神様の加護を持った人はこれまでにもいるよね?

 そう言ったら、緋桜様が嫁いで来てから、アースクリス国で女神様の加護を持つ人が生まれたのは王妃様と私だけだということを聞いた。


 あれ? そうなの?

 いつの時代にも女神様の加護を持つ人がいると思ってたけど、違ったようだ。


 そして、秋津様やサヤ様に『どうやって育てたのか聞いてもいい?』と聞かれて、樽に一本ずつ植えて、商会の庭で育てたことを話した。

 毎日毎日『おおきくなあれ』って話しかけていたことも。

 雑草を抜きながら。虫を取りながら。陽の当たり具合を考えながら。

 日々成長して行く苗を見ながら話しかけていた。


 でも、残念ながら二つの苗が駄目になってしまった。


「ああ、でもあの二つの樽の苗はアーシェが植えたのじゃなくて、商会の従業員のスタンが植えたものでした」

「ええ。二つだけ樽が大きかったからアーシェの手が届かなくて、手伝っていたスタンがアーシェの代わりに土にさしたんです。途中まで元気だったのに突然枯れたから驚いたんですよ」

 思い出しながらそう言ったリンクさんとローディン叔父様にサヤ様が大きく頷いて言った。


「二つの苗が枯れた。―――それは、この地に初めて実を結ぶ米は『アーシェラちゃんが手ずから植えたもの』に限られたからなのですわ」

 そこに久遠国の神様のご意思があったのだと宮司であるサヤ様がきっぱりと言った。

 秋津様も深く頷いていた。

「その事実を通してみても分かります。アーシェラちゃんはアースクリス国に久遠国の神様の御心を宿した米を結んだ『結びの子』です」


「そうだったんですね。アーシェは女神様の加護をもらっている子ですから理解できます」

「まさか米の実りの裏側にそんな意味があったとはな」

 ローディン叔父様とリンクさんがあまりに疑いもなく受け入れていたからびっくりした。


 目を丸くしていたら。

「ん? 教会でアーシェの周りで女神様の花が回ったのも見たし、魂の彩も見たし、その事実からしたら何もおかしいことはないだろう?」

「『女神様は必然を与える』っていうからね。アーシェが久遠国の米を植えたことも、それで実が結んだことも『必然』だったんだよ」

 とリンクさんとローディン叔父様がさも当然かのように言った。


 

「これからはこのアースクリス大陸でも、米は栽培できるでしょう。―――ですが場所は限られるでしょうね」

 にこやかに微笑みながら秋津様が言った。

「そうなのですか?」

「ええ、もちろん。久遠国の神様の御心を宿した米は、―――カリル伯爵のような者のいる土地には根を下ろしません」

「―――確かに、そうですね」

 そうか。アースクリス国の女神様の花である菊の花が咲く場所を選ぶように、久遠国の神様の米も実を結ぶ場所を選ぶのだ。


「今年米が収穫出来た、デイン辺境伯領をはじめとするクリスウィン公爵領、マリウス侯爵領、マーシャルブラン侯爵領の領主は信頼できる人ということです。米が実った領であれば、私たちも安心して交流が出来そうです」

 そう言って秋津様が大きく頷いた。

 久遠国の大使館はルードルフ侯爵領にある。王都にあれば他の貴族との交流も多々あったかもしれないが、ルードルフ侯爵領に大使館を置いたこと、そして言語の壁もあった為に他の貴族との交流があまりなかったことは否めない。


「王都の館を使う時が来たんじゃないか? 秋津殿」

「ああ、これからは各地との交易の幅も広げられそうだしな」

 王都の行政区域には他国の大使館がある。

 ほとんどの大使館は王都に集中しているが、久遠国の大使館は神社もあった為ルードルフ侯爵領に置かれていた。でも、王都にも建物は用意されていて、現在は使用されていないためアースクリス国王預かりとなっている状態とのことだ。


「まずは、あやつらの企みを潰してからだな」

「ああ、今下手に王都の館を使い始めたら、あちらも標的になるだろうからな」

 カリル伯爵をはじめとする悪党たちを懲らしめた後、王都の館を使うことにするみたいだ。


「アーシェラちゃん、王都の大使館にも遊びにおいで」

「あい! いきましゅ!」

「久遠国のお菓子を揃えておくわね」

「おかし! しゅき!!」

 やった! 久遠国のお菓子はこっちにはないものばかりなのだ。

 こちらでよくあるクッキーやケーキも大好きだけど、ローランドおじい様が久遠国からの買ってきてくれたおかきやおせんべい、金平糖や昔懐かしい飴は私の心を鷲掴みにしたのだ。


 王都に遊びに行く楽しみが増えた!!




お読みいただきありがとうございます。

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