204 誰が? ってなに?
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無礼極まりないカリル伯爵が去った後、今度は私たちが祈祷をしてもらう番となった。
その前に、例のワインボトルは誰も開けることが出来ないように魔法で封印した。
大きなボトルワインは栓にリアンの木を使っていないので無害だが、誰も飲みたくないと言ったので、同様に封印しておいた。まあ、当たり前だよね。
カリル伯爵は、大きなワインボトルは神社用で、標準サイズのワインボトルは住民への贈り物だと言っていた。
もし久遠国の住民へのワインボトルを神社側で飲み、計画前に問題が表ざたとなっても、前述のとおりクリスフィア公爵たちに疵をつける目的は果たせるのだろう。
住民が飲んでも飲まなくても、久遠国の誰かがこれを飲んで問題になれば、リアンの木が領地にあるクリスフィア公爵に、捏造した証拠で罪を擦り付けることが出来るという、姑息な手段だ。
サヤ様は夫である秋津様に事の顛末を聞き、カリル伯爵や後ろにいる悪党たちに怒り、捕り物に協力してくれるとのことだった。
当のカリル伯爵は秋津様から『新年を迎える日にワインを配る』という言葉を聞いて、満足そうに帰って行った。
去っていくカリル伯爵の姿をルードルフ侯爵やローランドおじい様が剣呑な光を帯びた瞳で睨みつけながら、『その日がお前の最後の日だ』と呟いた。
私はローランドおじい様の優しい顔しか見たことがなかったので、元辺境伯としての顔を見るのは初めてだった。厳しい表情が凛々しくて、とても頼もしい。
カリル伯爵が去った後、ルードルフ侯爵はカリル伯爵の周辺やワイン工場など関連するものを監視するよう従者に指示をしていた。
そしてワインの栓に少しでも関わる者をすべて探し出して、対処するとのことだ。
そうだよね。クリスフィア公爵領にしかないリアンの木の樹皮がどうやって流出したのか、そこもおさえなくてはならないよね。
この件は速やかに国王陛下に報告され、各公爵にも情報共有される。
誰一人犠牲者を出さないし、国のトップが動くから怖がらなくていいと言われたので、やっと私も安心することができた。
そういえば、以前クリスウィン公爵邸に行った時、クリステーア公爵であるアーネストおじい様やクリスウィン公爵、リュードベリー侯爵はリヒャルト達の悪事に関するいろいろな証拠を固めていると言っていた。
とにもかくにも早く悪いことを考えるリヒャルトをやっつけてくれればいいな。
◇◇◇
―――さあ、では気を取り直して。
お供え物を祭壇にあげよう。
たくさん持ってきたので、祭壇に次々と従者さん達が並べていく。
ルードルフ侯爵家からは野菜や果物、川魚に鶏肉など。
獣肉は捧げないというのは前世と似ている。
デイン辺境伯家からは、主に海産物。そして箱に入ったお米だ。
その隣には、リンクさんが持ってきたフラウリン子爵家の蜂蜜。
そして、バーティア子爵家からは、箱に入ったお米と小豆だ。
せっかくなので、刈り取った稲穂も。
前世で稲穂を祭壇に捧げていたのを見たことがあったから刈り取った後保存魔法をほどこしておき、持ってきたのだ。
私が稲穂を抱えて歩いて行くと、サヤ様が稲穂を見て目を丸くした。
「―――え!? 稲?? まさか!!」
サヤ様の声が本殿の中に響き渡ってびっくりした。
そしてサヤ様の言葉に反応した神職さんや巫女さん達が一斉にこっちを見た。
「!! ホントウだ!」
『稲穂!!』(注:『』は久遠語)
『ってことは、この国で稲が育ったってことですか!?』
サヤ様や秋津様をはじめ、稲穂を見ようと寄って来た神職さんや巫女さんたちに一気に囲まれた。
アースクリス国の言葉と久遠国の言葉が入りまじって飛び交っている。
どっちの言葉も私は分かるのだが、皆さん興奮しすぎだよ。
「去年バーティア子爵領で初めて米を収穫したのです。今年はもち米も出来ましたよ」
そう言って、祭壇に上げた箱の蓋を開けて精米した二種類の米を見せたローディン叔父様。
お米の入った箱を見て、サヤ様や神職さんたちが目を見開いている。
「今年は、デイン辺境伯領と、マリウス侯爵領、クリスウィン公爵領とマーシャルブラン侯爵領で作付けをして、どこも豊作でした。クリスウィン公爵とマリウス侯爵、マーシャルブラン侯爵は日を改めてこちらに詣でると言っていましたよ」
そうローランドおじい様が言うと、サヤ様だけでなく、秋津様や他の神職さんたちも驚いていた。
?? なんで皆してそんなに驚いているのかな?
「え? なんで? どうして? ―――ダレが?」
『そうだよ! 誰が!?』
「だれが??」
誰がって、何のこと?
サヤ様はローディン叔父様に『誰が米を?』とかぶりつくように聞き、その勢いにローディン叔父様がのけぞりながら。
「えーと、久遠国から米の種を購入してきたのは、前バーティア子爵の私の父です。もう6年ほど前になりますが。久遠国で米の味に魅了されて種を購入してきたのはいいのですが、正しい栽培方法をロクに聞いてこず、何年も一粒も収穫出来なかったのです」
そうローディン叔父様が言うと。
「そうでしょうね」
と秋津様が言った。
―――ん? 『そうでしょうね』ってどういう意味?
「一昨年、アーシェにねだられて苗をいくつかあげたんです。そうしたら樽に一本ずつ植えて、水を張って。アーシェが育てた10本の苗のうち8本が稲になったんです。それで育て方が分かったので、昨年初めて収穫まで行けました。去年は種もみが少なく収穫量は多くありませんでしたが、今年は水田を数倍に増やしました。ちなみに他の領の種もみはうちの領から分けたんですよ」
ローディン叔父様のその言葉で、サヤ様や秋津様達のキラキラした視線が一気に私に向いた。
え? 何? この視線。
「ありがとう! アーシェラちゃん!!」
満面の笑顔のサヤ様と秋津様が私の手を取ってぶんぶんと振った。
?? 私は稲の正しい(?)栽培方法を教えただけだよ?
何でそんなに感動しているのかな?
『やっと! やっとこの国にお米が実を結んだのですね!!』
『お米!! お米がこの国に実ったなんて!!』
「う、ウッテクダサイ!!」
「これからずっとご飯が食べられるんですね!!」
「やった~~!!」
神職さんや巫女さんたちが歓喜の声を上げた。
久遠大陸から来たのは、主に神職と大使館に勤める人たち。
基本的にその国で採れたもので食事をすることとなるので、パン食が基本になる。
どうしても久遠大陸の主食であるお米が恋しくて送ってもらってはいたが、いかんせん久遠大陸は遠いので、主食となるお米は不足気味だったとのことだ。
? 大使館の敷地内で小さな畑とかやっていたって聞いてたけど、それならどうして稲作をしなかったんだろう?
水を引いた水田でなくても畑に植える陸稲という手段もあったはずだ。
水稲のノウハウを知らなかったバーティア子爵領の農民さんならともかく、久遠国の人たちは育てられたはずだよね?
―――その後、上機嫌のサヤ様や神職さん達に祈祷してもらい。
特別に巫女さん達が神楽を舞ってくれた。
うん。本当に嬉しそうだ。
さあ! 次は重箱に詰めて来たお土産のお披露目だ!!
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