199 神社にて 2
誤字脱字報告ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
138話あたりで、オムライスをローディン叔父様に作ってあげる話が……あれ? 載せてない?
ケシチャッテタ(;'∀') ああ……
ご指摘いただいたことで一文入れました。ご指摘ありがとうございます。
「ようこそお越しくださいました」
外で参拝した後、中に案内された私達を出迎えてくれたのは、黒髪を結い上げた藍色の瞳の女性だった。
てっきり男性の宮司さんが居ると思っていたが、トップは女性。その後ろに男性の神職らしき人たちを付き従えていた。
「サヤ様、秋津様。お久しぶりです」
サヤ様の半歩後ろにいたのはサヤ様のご夫君の秋津様。黒髪の短髪、背が高くがっしりした体格の方だった。
お二人共藍色の瞳が優しく輝いていた。
「ルードルフ侯爵様、メイリーヌ様、リーナ様、お久しぶりです。今日はたくさんの客人で久しぶりにこの神社が賑わいます」
「たくさん供物を持ってきていただいたそうで、ありがとうございます」
流暢なアースクリス国の言葉で挨拶を交わすサヤ様と秋津様。
私はサヤ様と秋津様の纏う光沢のある唐衣の装束に目が行った。
その装束は、前世の神職さん達が身に着ける装束と似ているような気がする。
料理といい、漆塗りといい、この装束……やはり、前世日本と文化がかぶっていると再認識した。
でも異世界である為か、違う所もある。誰も額あても頭に被る烏帽子もしていないし、細かいところは大分違う。
けれど。正絹で作られたであろう、唐衣の美しさや紋様、そして袴。
前世で着物を着ることは殆どなかったけれど、和のものが好きだった私は、その美しい装束に触ってみたくてうずうずした。もちろんむやみに触るわけにはいかないが。
―――そういえば、さっきのカリル伯爵は先に来ていたはずだけどここにはいない。
不思議に思っていたら、彼は一般の参拝客なので別の入り口から入っているとのこと。
ルードルフ侯爵家とは深い付き合いなので、本殿の奥に案内されたとのことだ。
この神社はクリステーア一族が詣でる他は、参拝に来る人が少ないとのこと。
それはそうだろう。
遠い遠い大陸の神様。
アースクリス国の人たちに馴染みが薄いのだから、他の領の人たちは滅多に来ないだろうね。
応接室に案内されると、ルードルフ侯爵はサヤ様とご夫君の秋津様に、アーシュさんの妻であるローズ母様、そして私を紹介し、ローズ母様の弟であるローディン・バーティア子爵、祖父であるローランド・デイン元辺境伯、従兄弟であり将来フラウリン子爵となるリンクさんを次々と紹介して行った。
次に、6年前にアンベール国で行方不明となっていたアーシュさんが無事でいることをルードルフ侯爵が告げると、サヤ様と秋津様は、驚きつつも『よかった』と心から安堵し、喜んでくれた。
アースクリス国軍がアンベール国に侵攻してしばらくすると、クリステーア公爵家の後継者であるアーシュさんの生存が、アースクリス国に知れ渡ることになった。
アンベール国の反乱軍の旗頭となったのは、現アンベール国王のまた従兄弟にあたるガイル・メルド。
元メルド侯爵にして、軍の司令官でもあった人だ。
アースクリス国への侵略構想に真っ先に反対した彼は、アンベール国王に捕縛され、投獄されていた。
その彼が幽閉先から逃れ、アンベール国王の悪政に疲弊していた者たちと共に、サルア・サマール・アンベール国王を討つべく蜂起。
『反乱軍の盟主であるガイル・メルド元侯爵と共にいたのは、同じ場所に幽閉されていた、アースクリス国の外交官であるアーシュ・クリステーアだった』
この事実の報告が、アンベール国に侵攻したクリスウィン公爵よりアースクリス国王へ正式にあげられ、つい先日、正式にクリステーア公爵家の正統な後継者であるアーシュ・クリステーアの生存がアースクリス国中に周知されたばかりだ。もう少し時間が経てば、アーシュさんが生存していたという情報がサヤ様達の耳にも自然と入っただろう。
サヤ様と秋津様はアーシュさんを小さい頃から知っているとのこと。
そのアーシュさんの妻であるローズ母様に『本当に良かったですね』と話していた。
次にサヤ様とご夫君の秋津様の視線が、自然とローズ母様の隣にいた私に向いた。
「あーちぇらでしゅ。よろちくおねがいちましゅ」
改めてご挨拶をして、ペコリと頭を下げると、目を細めて微笑んでくれた。
「初めまして。これからもよろしくね」
サヤ様と秋津様がしゃがんで挨拶を返してくれた。
サヤ様は神社の宮司。ご夫君の秋津様は久遠国の大使であり、神社の神職でもあるとのことだ。
いつものように年齢を聞かれたので。
「ごしゃいになりまちた」
といったら、リーナ様が。
「そうよね。アーシェラちゃんは数週間前に5歳の誕生日を迎えたのよね」
と言い、メイリーヌ様が『そうだったわ』と声を上げた。
そう。二十日ほど前、私は5歳の誕生日を迎えた。
でも、まだ誕生日パーティーはやっていない。
『リンクさんが戻ってきてからやりたい』という私の希望と、他の家族がまだ集まれない状況だったからだ。
今、ロザリオ・デイン伯爵は海軍を率いてアンベール国側に行っている。そして、ホークさんは領地から離れられない。
そういった事情があったので、パーティーはまだまだ先の予定。
それでも、誕生日にはいろいろとプレゼントを贈ってもらった。嬉しい。
そして、私の誕生日はローディン叔父様の誕生日でもあるので、誕生日には、商会の家でオムライスをローディン叔父様やローズ母様と作りあいっこして楽しんだ。
以前デイン辺境伯領に行った時、海鮮丼や他の料理を作っているうちに、ローディン叔父様に作ってあげるつもりだったオムライスを忘れそうになった。
なので、お夜食にと、こっそり作ってサプライズにした。
『だいすき』とトマトケチャップで書いたメッセージを見たローディン叔父様に、ぎゅうぎゅう抱きしめられ、頬ずりされたのはお約束だ。
「よし、ルードルフ侯爵家からも何か誕生日の贈り物をしよう」
ルードルフ侯爵の言葉にメイリーヌ様とリーナ様が『そうしましょう』と大きく頷いた。
「楽しみにしていてね、アーシェラちゃん」
「あい! ありがとうごじゃいましゅ!」
「では、私からも、ささやかですが、久遠国の布地で作った巾着袋をアーシェラちゃんに贈らせてもらいますわ。お帰りになるまでに用意しますわね」
サヤ様の言葉に目がキラキラと輝いた。
久遠国の布地で作った巾着袋! それは絶対アースクリス国では手に入らないものだ。
「ありがとうごじゃいましゅ!」
やった~! 前世でも和小物が好きで、ちりめん布で作った小物やがま口を集めていたのだ。嬉しい!!
「―――布地といえば……大陸の神社と、こちらの神殿では全然服装が違うのですね」
そうローズ母様が呟いた。
確かに、カレン神官長や神官たちは基本的に皆白いローブを身に着けている。
位によって装飾や生地が全く違うのだが。
久遠国の神職さん達は、色鮮やかな絹に紋様が施されたものを身に着けている。先ほど見た若い人たちは白衣に袴姿だった。
ルードルフ侯爵家の人たちは神職さん達の装束を見慣れているが、バーティア家もデイン家も初めて見る装束に目が丸くなっていた。
「普段はこちらの国の服装をしています。久遠大陸も普段着はこちらと変わりないものですが。これは神職が身に着ける装束です。いつもはもっと簡略化されたものを身に着けますが、本日は皆さまがいらっしゃるということで、正装にさせていただいたのです」
流暢にこちらの言語で話すサヤ様の正装だという装束は、白地に金糸で紋様がされている、見るからに上質なものだ。
袴も白。額飾りには青金石の宝玉。そして頭上には龍の装飾が施された金色の冠のようなものが。
上下白地の装束を纏い、瑠璃の宝玉の額飾り、そして龍の装飾が施された冠は、久遠大陸でも数少ない高位の神職の証だということだ。サヤ様、すごい。
たしかにこうやって見ていても、サヤ様は装束に負けないほど凛とした風格があり、他の神職さんとは明らかに一線を画している。
心の中で『しゃやしゃま、きれい……』と言ったはずが。
「まあ、ふふ。照れるわね」
サヤ様の声で気が付いた。
―――あれ? 声に出てた?
「そうだろう。うちの奥さんは綺麗だろう」
秋津様はサヤ様のことが大好きなようだ。
『子供は正直だ』と言って、嬉しそうに大きな手でガシガシと私の頭を撫でた。
―――あう。秋津様、力、強いです。
◇◇◇
ルードルフ侯爵家にお輿入れしたヒオ様は、アースクリス国の立ち位置でいうと、公爵令嬢だったらしい。
当時の久遠国王の妹君が神に仕える公爵家に降嫁して生まれた姫君。
久遠王家は王家の血を引くヒオ様が遠く離れたアースクリス国に嫁ぐことに難色を示したが、ルードルフ侯爵に多大な恩義があった為、ヒオ様自らが決めた結婚にしぶしぶ頷いたという。
ヒオ様って王女様のご息女だったんだね。
そう言ったら、久遠大陸では、国主のご息女のことを姫宮様とお呼びするとのこと。ふむ、どこまでも前世の日本のようだ。
ルードルフ侯爵領に神社を建てたのは、ヒオ様のお願いもあったが、その他にもいろいろと理由があったとのこと。
それは教えてもらえなかったが。
遠い異国に神社を建てるなんてそうそう出来るものじゃないよね。
セーリア神の神殿はアースクリス国に数か所存在するけれど、久遠大陸の神社はここ一か所だけのようだ。
「この神社は建立されてから百数十年経ちます。実は久遠大陸の外に神社が建てられたのは、アースクリス大陸のここだけなのですよ」
そして、ルードルフ侯爵家に生まれたヒオ様のご息女である侯爵令嬢が、久遠大陸に渡ったことも教えてもらった。
こちらの神社で神職を務めていた方と結婚し、その彼が任期を終えて久遠大陸に帰る際に付いて行ったとのこと。
サヤ様はヒオ様のご息女の子孫であり、7・8代遡るとルードルフ侯爵家の血を引いているそうだ。
ルードルフ侯爵家もサヤ様も、遡ると、ヒオ様の血を引いている。
ヒオ様のひ孫であるルードルフ侯爵家の令嬢がクリステーア公爵夫人となったので、その子孫であるアーネストおじい様も同様。
なるほど、クリステーア公爵家も久遠大陸のヒオ様の流れを汲んでいるんだね。
サヤ様はお年のころはリーナ様と同年代。と言ってもとてもお若くて、艷やかな黒髪には白髪の一本も見えない。
二十数年前に夫君と共にアースクリス国に来て、こちらで生まれた子供二人は今神職の勉強の為、久遠大陸に行っている。
いずれ神職となって、アースクリス国に戻ってくる予定とのことだ。
こっちで生まれたということは、二か国語を話せるということなんだね。
お読みいただきありがとうございます。




