197 ルードルフ侯爵のくせ
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かぼちゃの煮物はほっくりと甘じょっぱいところが美味しい、そして金時豆の甘煮も今までと違うスイーツだと喜ばれた。
特に金時豆の甘煮はリーナ様が目を輝かせていて、ローズ母様が『簡単にできますわ』と言ったら、今度は自分が作ってみるのだとリオ料理長に宣言していた。
どうやらやる気スイッチが入ったみたい。料理人さん達は腰が引けていたけど。
「バーティア子爵様やデイン様も手際が良くて驚きました」
リオ料理長や料理人さんも感動しきりだ。
「バーティアの祖父の方針で、商会の家で領民と同じ暮らしをしてきたので。料理は必要に迫られて覚えたのですが、今では楽しみの一つになりました」
「確かに。俺もジェンド国から帰ってきたその日に厨房に立ったからな」
「フライドポテトとアメリカンドッグをひたすら揚げていたわよね」
フライドポテト、というワードに、料理人さん達が食いついた。
「フライドポテト! あれは後引く美味しさですよね!!」
「アメリカンドッグも揚げたてサクサクが美味しいです!!」
「揚げ物って、美味しいですよね! 私はアジフライにタルタルソースをたっぷり付けて食べるのが好きです!」
あれ? 料理人さん達、さっきまでの遠慮はどこに行ったのかな?
どうやら好物の名前が出て遠慮がはじけ飛んでしまったようだ。
そういえば。
「るーどるふこうしゃくしゃまが、しゅきだっていったから、ふらいどぽてととあめりかんどっぐ、いっぱいもってきた」
重箱に入ったお土産ばかりに気を取られていたけれど、別の保存魔法をかけた箱にもお土産としてフライドポテトとアメリカンドッグをたっぷりと入れて来ていたのだ。
「―――本当か!!?」
突然、大きな声が食堂に響いてびっくりした。
見ると、従業員用の食堂の入り口に金髪を後ろに撫でつけたおじ様が立っていた。
「まあ、アーレン! なんて大きな声を出すの。驚いたわ」
「そうよ、アーレン。アーシェラちゃんがびっくりして固まっちゃったじゃないの」
大きな声のおじ様はこの家の主、アーレン・ルードルフ侯爵様だった。
「あ、ああ、すまない。驚かせようとこっそり来たのだが、フライドポテトという言葉で逆にこっちも驚いたよ」
ルードルフ侯爵様の瞳はリーナ様と同じ青緑色。顔立ちもどことなくアーネストおじい様に似ているような気がする。
そういえばルードルフ侯爵様はアーネストおじい様の従弟なのだった。
裁判官という職業柄のせいか、知的な感じの方だ。
でも、本当にフライドポテトが好物なんだろう。
フライドポテトに目をキラキラさせたおじ様は、厳格な裁判官様に見えない。
大きな声でこっちも驚いたよ。
でも、まずはご挨拶しよう。
「おはちゅにおめにかかりましゅ。あーちぇらでしゅ」
椅子から降りてご挨拶すると、ルードルフ侯爵がすっと膝をついて私と視線を合わせ、にこりと笑った。
「はじめまして。私はアーレン・ルードルフ。クリステーア一族の家門のひとつを任されている。ようこそ我が家へ。小さなレディ」
そう言ってルードルフ侯爵が頭を下げた。
レディ扱いされたのは初めてで目が丸くなった。
そんな私を見て微笑みながら。
「レディ。驚かせてすまなかったね。私はフライドポテトが好きでね。よくうちの者に王都の店に買いに行かせていたのだよ」
「ええ。何度も何度も、買いに行かされました」
後ろで二人の従者がうんうんと頷いている。
「家でも作らせているのだが、どこか違うのだ」
「そうですねぇ。同じフライドポテトなのに少し違うんです」
「それは私たちも思いました。ここで作ったものと、旦那様がお土産で買ってきてくださったものとは、ホクホク感とじゃがいもの甘味が違ったのです」
リオ料理長が言うと、料理人さん達も頷いた。
うん。たぶん、それは。
「じゃがいもにょ、ひんちゅがちがう」
さっきお煮しめを作る時に見たじゃがいもはするっと細長のじゃがいも。煮崩れしないタイプでしっとりとした食感のものだった。
お店で使っていたのはごつごつしたタイプのじゃがいもでほっくりとした食感で煮ると少し溶ける感じの種類。
「ああ。じゃがいも。バーティア領のは形がごつごつしたものでちょっと煮崩れるんです。ここで煮しめに使ったのは煮崩れしないので、たぶん品種の違いでしょうね」
「あのするっとしたタイプは細く切ってカリカリに揚げると美味しいんですよ。デイン領も同じタイプだったんで分かります」
ローディン叔父様とリンクさんが私の言葉に補足をしてくれた。
そう、デイン領のじゃがいもも、ルードルフ侯爵家でつかったじゃがいもと同じような形で、同じような出来事があったのだ。
「カリカリのフライドポテトも美味しいが、あの味が欲しくて種芋をバーティアから融通してもらってデイン領でも育てたのですよ」
「では、その品種のじゃがいもを育てるといいのだな!」
ローランドおじい様の言葉に、ルードルフ侯爵が満面の笑顔になった。
そのままルードルフ侯爵は従業員用の食堂で、大好きなフライドポテトとアメリカンドッグを堪能した。
もちろん、じゃがいもを細く切って揚げたカリカリのフライドポテトを料理人さん達が用意して、お土産のフライドポテトとの違いを楽しんだ。
「ふむ。カリカリのフライドポテトも旨いな。よし、その日の気分で作り分けてもらおう」
ルードルフ侯爵はローディン叔父様にバーティア領のじゃがいもと来年作付けする種芋を分けてもらう約束をしたのでご満悦だ。
重箱に入ったお弁当も大絶賛してもらえた。
お土産のおはぎも心に刺さったらしい。
「花の咲く時期によって、名前が変わるとは面白いな!」
秋の花である萩の花が咲く時期にはおはぎ、春の牡丹の花が咲く時期にはぼたもちと名を変えると聞いて、ルードルフ侯爵家の皆さんだけでなく、料理人さん達も興味津々だ。
ルードルフ侯爵は、『甘いおはぎを食べた後、しょっぱいカリカリのフライドポテトが合う!』と交互に食べ続けている。
―――確かに。甘いしょっぱいは無限ループになるよね。
前世でも甘いお団子やチョコレートを食べた後、しょっぱいお菓子やおつまみを探したものね。
小豆の在庫のこともあるので、おはぎを春と秋に期間限定でお店で出すことを教えたら、『並んででも買う!』と意気込んでいた。
近くに控えていた従者さんたちが。
『―――並ぶのは私達ですが』
と、苦笑していた。
季節の限定品は行列必至なのだ。
おはぎは個数限定で一部予約販売、後は店頭販売の予定だ。
ローズ母様がとってもお世話になった方たちなので、ローディン叔父様が『販売する時期に、ルードルフ侯爵家の王都別邸におはぎを贈ります』と伝えると、ものすごく喜んでいた。
「―――それでも、たぶん私たちは並ぶと思います」
と従者さん達がぽつりと言った。
『旦那様は、ハマると毎日同じものを食べるから』と小さく言ったのが聞こえた。
なるほど。ルードルフ侯爵様はそういう食の癖がある人なんだね。
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